支那朝鮮基督教徒の大会不参加
支那並びに朝鮮の基督教界が今度の日曜学校万国大会に代表員を出す出さぬの問題は未だに決定しないらしい。
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打つ棄つて置けば来ない事が明かなので、是非来るやうにと之まで内外の先輩を態々彼地に派遣して勧誘に努め
たのである0それでも結局来ない事になるらしいが、よし来たとしても快く自発的に来たのでなし、又人数も非
常に少いだらうから、我々日本人としては、矢張り大いに考ふべき一間遺たるを失はない。併し何れにしても大
会不参加と云ふ事は、支那朝鮮の基督教の為めにも遺憾千万な出来事と言はなければならない。
彼等は何故東京に来る事を厭ふのか0言ふ迄もなく、日本官憲の従来の侵略的武断的能差並びに之に対する日
本国民全体の無反省を憎むからであらう0併し如何に之を憎めばとて、基督教徒が国境を超越して其真理と愛と
の
を野べんとするのに、之れまでを厭がるのは余りに偏狭に失しないか。成程支那朝鮮の人にとつて当面の何より
の苦痛、若しくは憤慨、従つて又当面の第一の問題は日本よりの圧迫を如何しょうと云ふ事にある。従つて日本
に対する反感に異常の昂奮を見て居るのも、之を諒としない訳には行かないが、併し少くとも基督教徒丈けは、
も少し真理と愛との輝きに眠が明いてゐる筈である0日本に反感を有つは止むを得ないとして、若し之が真に東
洋の平和に書あるものなら、彼等は何故に胸襟を披いて日本の基督教徒と之を談ずるの能産を採り得ないか。
日本にも基督教徒の数は沢山ある。隣邦の同教徒と同じ真理と愛とに動いてゐるものが沢山ある。日本人なる
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が故に基督教徒だからとて安心が出来ないと云ふ風に疑ふのは明白に基督教的精神ではない0而して今我が日本
の基督教徒は主人公となつて彼等を鄭重に迎へんとするのに、彼等が面を背けて之に応ぜ〔ざ〕らんとするのは、
一時の憤激に昂奮し】時の利害に眼が暗んで、真に基督教的精神から遠ざかつたものと言はれても仕方がないで
はないか。
現に日本の基督教徒の中には、日本在来の彼等に対する政策を以て不当なりと認むるものが少くない0否な多
数は其武断的軍事的色彩に極度の反感を示して居る0従つて又或場合には支那朝鮮の人々の言ひ分を尤もとし、
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中には之に共鳴し、彼等と力を協して呪ふべき悪主義を東洋の全局面から排し去らんことを考へて居るものもあ
る。尤も此種の人々に対して一部の人は、之も実は官憲と同腹で畢尭我々を寵絡せんとするの手段に過ぎまいと
ひ
邪推するものもあるやうだが、基督教徒丈けは、其処まで拗ね←れて考へまい0虫今日一般民間には非常に排日
熱が盛んだから、之に庄倒されて心ならずも参会を見合せると云ふものもあらう0之も事情は諒とするが、併し
基督教徒としては甚だ臆病な態度と云はざるを得ない0真に基督教的情熱に燃ゆるものは、之れ位の庄追に怖れ
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て大事を取り逃がす筈はない。
尤も支那朝鮮の代表者の渡日を躊躇せしめたに就いては我々にも貫がないではない0;には従来日本の基督
教徒が、彼等の所謂日本の対外的罪悪を責むるに甚だ冷淡であつた事である0尤も我々日本の方から云はすれば、
基督教徒が概して時務に迂闊であつた事、並びに政府の秘密政策の結果として、驚くべき程外交事情に無智であ
った事を挙げて一部分の責を弁じて置かなければならない0斯くして日本の基督教徒は、自分の考から割り出し
て外から非難の声を聴いた時、まさかそんな事はあるまいと云うて弁護する0そして彼等の非難を事実に基かざ
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る悪意の後藤と見倣し、彼等は又我々の態度を以て、知つて居る癖に余りに白々しい弁明だと怒る。滋に多少阻
隔の原因があり、従つて基督教徒でも、日本人は駄目だとする考を起さしむるに至つた。故に我々は基督教徒と
して隣邦の友人と胸襟を被いて虚心に物事を談じょうと〔する〕ならば、もう一昏突き込んで日本の対外的行動の
真事実を知らなければならない0今までのやうな憐れむべき無智の状態より脱しない以上、我々は十分なる信頼
を彼等に要求することは無理である。
次ぎに今度の会合に際しての政府の態度として伝へらるゝ所も又著しく彼等の不参加の決心を囲むるに与つて
カがあつた0それは支那朝鮮より来れ代表者に対する差別的待遇の事である。支那や朝鮮の代表者は必ず共不平
を米国人なぞに訴へて日本の不利益を計るに相違ない、故に彼等を厳重に取締つて出来る丈け米人と接近するの
機会を少くしようと云ふのである0政府が果してこんな馬鹿な方針を取る積りであるかどうかは分らないが、兎
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に角かう云ふ噂が伝つた0斯ういふ噂の伝つたに就いては、嚢頃の米国議員団一行の来到に際しての政府の取締
方が大いに累をなして居ることは疑を容れない○あの時如何に政府が朝鮮人と米人の接近を妨ぐるに苦心したか。
此無用の苦、心は米人鮮人双方に疑惑と不快の念を深からしむるの外何の得る所があつたらうか。要するにこんな
失態が累をなして今度も不愉快な思をするに相違ない、そんなら初めから行かない方がいゝと云ふので、やつと
行かうかと考へたものまでが、急に又不参加に走つたと云ふ説もある。よし之が一片の噂に基いた誤解であつた
にしろ、政府が今度の会合に対して名実共に、もつと寛容な能差を取るでなければ彼等の疑を今更らどうする事
も出来ないやうに思ふ。
第三に我国の日曜学校大会関係者が、政府並びに之と同類と認められて居る官紳の直接間接の援助に余りに寄
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り絶つて居ることも亦一つ考へねばならぬ問題であると思ふ。
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斯く考へて見れば支那朝鮮の代表者が快く参加しないのも無理がないやうに思ふが、併し我々は斯う云つたノ
時の感情には代へ難い大きな意味があると思ふから、それ丈け此大会の不参加を彼等の為めにも非常に遺憾に思
ふのである。
今や軍国主義、武断的専制主義は、東洋の大地には到る所に横行して居る0隣邦の友人は之れあるが為めに我
々を憎むけれども、彼等の中にも又之れあるは疑もない事実である0然らば我々進歩思想を取るものに取つては
軍国主義、武断的専制主義は共同の害悪ではないか。而して我々は現に日本を道徳的な基礎の上ぶ平和の発展を
遂げしめんが為めに、此害悪と大いに悪戦苦闘して居るのである0此際隣邦の友人は即ち我々の悪戦苦闘に於て
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真に頼み甲斐ある味方であるべき〔な〕のに、彼等が故らに我々と協力を拒むのは丁之れ真に真理と愛とに徹底し
て居るもの、之れが為めに粉身するの勇気に富むものゝ安んずる所であらうか○我々は固より彼等の基督教的精
神の欠乏を責むるのではない。固より日本人と比較して其深浅を説くのではない0彼等の立場は万々之を諒とす
るが、只単純に基督教的精神の見地から観て、我輩は支那朝鮮の教友の為めに其態度を遺憾とするものである0
〔『中央公論』一九二〇年一〇月〕