近く開かるべき軍縮大会議
新開の報ずる所に依れば、ジユネーヴの国際聯盟本部では先月はじめ軍備縮小国際会議開催の準備のため特別
わた
委員会を設け、其の報告に基いて理事会は本年中〔に〕この大会諌を召集する段取りになら与と。広汎の範囲に亘
り更に大に軍備を縮小するの必要ありとの意見は、先頃来英仏諸国の当局者の間にもより〈唱へられて居たか
も
ら、如何なる形で開かれるにしろ、本年の軍縮会議は可なり大きな意味を有つものと観なければならない。従来
の同種の会議に比し更に一段の深き注意を要するは勿論である。
議
会
大
縮
軍
き
べ
る
ヽ
カ
開
く
近
lのなが
此時に当りこの重大なる軍縮問題に関し民間の輿論を観察批判するは強ち無用の業でもあるまい。軍縮問題に
関しては従来二つの極端なる観察が行はれて居た。一つは軍縮と開いて直に戦争の絶滅を連想し、抽象的な博愛
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
人道の絶対的支配に由る世界平和が直ぐにも来るかに夢想する感傷的平和論であり、他は徹頭徹尾人類の争闘本
そうが いわゆる
能を信じ、物質文明の進歩は益主各国相互の爪牙を研ぐに競はしめ、所謂軍儲提唱の如きも実は出来上つた国が
こうがい ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
之からと云ふ新進国の鼻先をへし折る策に過ぎぬと憤慨する盲目的排外論である。斯うした二つの思想が第一回
軍縮会議以来我国の上下に流れて居ることは読者諸君の既に熟知せらるゝ所であらう。
更に面白いのは、感傷的平和論者は少しでも己れの説に反対する者があると、之を以て直に頑迷なる壊夷思想
いたず み な
家となし、少くとも徒らに抑圧侵略を喜ぶ所謂人道の公敵と見倣すに反し、盲目的排外論者は少しでも自分の立
(Uノ
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2
場に文句を云ふ者があると、是亦一も二もなく相手方を日して国家の存立を無視し外国の陰険なる宣伝に毒せら
ののし
れたものだなど、罵る。即ち甲に非ずんば乙、乙に非ずんば甲と速断して、中間思想の存在を認めない。斯う云
こ あすか
ふ頭では今日の軍縮問題は解けない。世界列強と提携して這の重大なる問題の解決に与らんには、先づ頭の改造
から取り掛るの必要がある。
。
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2
術のまん中に公園がある。美しい花もあれば甘さうな果実もある。仕事のひま〈に此処に遊んで市民がどれ
だけ清爽の神気を快復するか分らない。そこで感傷的人道主義者は絶対的開放論を主張する。ところが近所には
わびただ
いたづら小僧が多い。監視の日をぬすんでは花をむしり枝を折り果物を取る。移しく手数と金が掛り殆んど姶末
わ しようよう
に了へぬ。そこで頑迷なる排外主義者は絶対的閉鎖論を主張する。併し公園はもと〈市民の造遥の為に設けら
まか
れたものだ。さりとて無制限に開放していたづら小僧の揉備に委しても構はぬといふわけにも行かない。いたづ
ら者は遺憾なことだが何時の世にもある。之に荒さる、のが塘に障るとて折角の公園を封ずるのも智慧のない話
だ。と云ふ所から「現在の状況」を基礎として「如何の方法」で「如何なる程度」に公園を開放すべきやが、実
に常識ある市公民の問題となる。公共問題の実際上の取扱は、斯くして常に感傷的開放主義と排外的閉鎖主義と
の中間に位する第三の立場を取るものである。
しばしば
近頃世界列国の政治家に依つて蜃主問題とせらるゝ軍備縮小の如きも、正にこの第三の立場から取扱はるべき
しか みだ
ものであり又現に爾く取扱はれても居るのである。感傷的平和論者のやうに漫りに謳歌もてはいけない。同時に
まず
また頑迷なる排外主義〔者〕のやうに無暗に猫疑の眼を光らすのも拙い。何処の国の政治家だつて直に全部軍備を
撒せよとは云はない。併し漸を以て歩武を進め結局軍備を無用とするやうな時代を作りたいといふ熱情に燃えて
たいじ
居ることは極めて明白だ。具体的の細目の問題になれば、各国対時の今日、自国の利害の上から忍ぶ可らざる所
ふ ばう
を頑強に主張することはある。さりとて之を一概に世界平和に誠意なきものと断じ去るは誕妄である。我が日本
として当今の形勢を土台としどれ丈の縮小を忍び得るやは、技術の問題として暫く当局者の研究を信頼しやう。
た
只之に対する根本的態度を何れに樹つべきやの丁占…に至ては、深く〈省量せられんことを希望せざるを得ない。
議
会
大
縮
寛丁
き
べ
る
ヽ
カ
閲
ノ\
近
終りに吾人は此際わざ〈斯んなことを書き立てた趣旨を三戸しておきたい。従来の例に徴するに、我国当局
むか
者は会議開催の招待には何時も快く応じて居る。其の癖民間に対つては斯かる催に由て達せんとする大国の魂胆
の憎むべきを宣伝してやまなかつた。民間に反抗の輿論を起らしめて之を会議・の樹引に利用するは、一見得策の
しかのみならす
如くにして実は楓打て古い戦術だ。加之斯くして民心の正当穏健なる開発を妨ぐること実に忍ぶ可らざるもの
がある。願くは今度の会合に於てだけは、;には日本の地歩を守ると同時に世界平和の進歩に貢献し1又一つ
にはこの重大問題に対する民心の理解を正しく誘導することに努め、以て内外両面に於てうるはしき効果を挙げ
たいものである。
〔『中央公論』一九二六年一月「巻頭言」〕