新日露協約の真価
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日露の接近は欧洲の戦争以来掩ふべからざる事実となつた0両国が何等かの形に於て其親近の事実を表はすべ
きことは、久しく世上の問題であつた。現に我中央公論も去年の十月、此問題に関して諸家の意見を徹したこと
いわゆる
がある。斯く久しく世上の問題となつて居つた両国親近の関係は、本年七月三日に至り、所謂「日露協約」の締
結によつて、いよ〈具体的の形式を採り、其正文は八日午後外務省から公表せむれた0
日露協約
日本帝国政府及露西亜帝国政府ハ、極東二於ケル恒久ノ平和ヲ維持セムカ為協力スルコトニ決シ、左ノ如
ク約定セリ。
第一条
日本国ハ露西亜国二対抗スル何等政治上ノ協定、又ハ聯合ノ当事国トナラサルヘシ0
露西亜国ハ日本国二対抗スル何等政事上ノ協定、又ハ聯合ノ当事国トナラサルヘシ0
第二条
両締約国ノ一方二依り承認セラレタル他ノ一方ノ極東二於ケル領土権又ハ特殊利益力侵追セラルルニ至リ
タルトキハ、日本国及露西亜国ハ其ノ権利及利益ノ擁護防衛ノ為、相互ノ支持又ハ協力ヲ目的トシテ執ルヘ
1うう
キ措置二付協議スヘシ。
右証拠トシテ下名ハ各其政府ヨリ正当ノ委任ヲ受ケ本協約二署名調印ス。
大正五年七月三日即露暦千九百十六年六月二十日
ベトログラード
彼得具羅土二於テ本書ヲ作ル
本 野一郎
サゾーノフ
之によつて見れば、此協約の骨子となるものは、次の二大綱目である。
第一、日露両国は其極東に於て有する相互の領土権又は特殊利益を互に擁護防衛する事。尤も細かく言へば、
之には次の四つの条件がある〇一つは其擁護防衛せらるべき権利利益は、極東に埠て存在するものでなければな
らぬ事である0従つて欧羅巴露西亜に於ける、若くは極東以外の露領亜細亜地方に於けるものは、本協約の間違
とするところではない〇二には擁護防衛せらるべき権利利益は、日露両国の相互に承認せるものでなければなら
ぬ事である0たゞ如何なる権利利益を以て、「承認せられたるもの」と認むべさやは、自ら扁の別開港である。
三には擁護防衛義務の発生は、権利利益の侵追せられたる場合に限る事である〇四には擁護防衛の方法は相互の
支持又は協力を目的として、協議1適当の措置をとるといふことである0故に必ずしも常に直に兵力的援助をす
るといふ訳ではない0之れ自ら本協約が同盟条約と異るところである。 あいて
第二、日露両国は互に相敵対する政治的協定又は聯合を作らざる事0敵対的協定又は聯合の対手方が、極東に
在ると否とは閏ふところではない0故に例へば、日本は如何なる国とも、露西亜に対抗する意味の約束を結ぶこ
とは出来ない0英国が東洋にあると、西洋にあるとを間はないのである0もと此協約の目的は極東に於ける恒久
1う4
新日露協約の真価
の平和を錐挿するに在るといふのであるけれども、第一条は一般的に敵対的聯合の禁止を宣明して居るから、仮
令欧羅巴に於ける蕗西亜の勢力に対抗する意味の聯合と錐も、日本は之に加入することは出来ないのである〇
二
今度の此の協約に拘らず、一般に日露の和親を現実にし又は輩固にすべき「協約」の締結が、今日の場合彼我
さき
両国にとつて頗る時宜に適し又必要でもあることは言ふ迄もない○日露両国は、嚢に一九〇七年七月冊日及び一
九一〇年七月四日を以て、己に二回の協約を取結んだ。和親の実は己に之を以て明白に挙つて居るのではあるけ
れども、更に今度第三の協約を締結したといふことは、決して屋上屋を架する類のものではない0先づ露西亜の
側より之を観るに、第一露西亜が独逸と最後まで戦はんとするの決心ある以上、〔彼は到底日本を無視することが
さかん
出来ない。世人或は露西亜の有力なる階級の間には独逸と単独講和をなさんとするの風潮旺なりと説くものあり、
之によつて往々露西亜には独逸と最後まで戦ふの決心がないだらうなどと推定するものがあるが、之は断じて誤
りである。なぜならば、成る程上流社会の一部には親独的傾向も一種大なる潜勢力を持つて居ないではないが、
併し一般多数人民の間には専ら排独的敵憬心が旺盛を極めて居る。戦争の進行と共に段々下層階級の勢力の張つ
て来る露西亜に於て、此村独逸敵憬心といふものを無視することは殆んど不可能である0況んや有力なる階級が
全部親独的傾向を有すといふ能はざるに於てをや。故に予は露西亜には必ず最後まで独逸と戦はんとするの決心
ぁるに相違ないと断ずるのである。露独両国の速き将来を推断して、同盟を以て両者の必妖州的運命なりと論ずる
の説には、予も亦一応の道理ありと認めざるにあらざるも、近さ将来に於て、少くとも今次の戦争の結末を問題
とする時期に於て、露独の可能的接近を説くのは、事余りに早計である0兎に角予は露西亜に最後まで独逸と戦
1うう
ふの決心ありと観る。而して此決心ある以上は、彼は到底日本の好意を無視することは出来ない筈である。なぜ
なれば、日本は露西亜の態度次第で、其有力なる味方となり、又は最も恐るべき敵Lもなる地位にあるからであ
る。次に更に之に閑聯して考ふべきは、今日国運を賭して戦つて居る露西亜にとつては、少くとも日本から後ろ
を覗はれざるの必要があり、更に出来得べくんば、日本より各般の助力を得るの必要がある。之れ現に今日日露
両国の実現して居るところの関係であるが、此関係が今度の第三の協約によつて、更に紙上の約束として明白に
されたといふことは、露西亜にとつて決して無意義な事ではない。
独り露西亜にとつて許りでなく、日本にとつても亦同様のことが言へる。そは日本も今次の欧洲大乱に参加し
た以上、戦争の目的を十分に達せしむるを共利益とし、而して其為めには露国の軍容をして堅実ならしめ、露国
の民心をして安心せしむることが必要であるからである。今度の協約の内容たる事柄は、紙に書かなくとも、己
に両国の間に実現されて居つたと言へばさうも言へるけれども、之を紙の上に書き表はすと否とは、露国民心を
安んぜしむる上に、非常な効果があることと思ふ。其上此協約は他方に於て極東に於ける日本の特別の地位を確
定するといふ効力をも有するものである。元来極東に於ける帝国発展の前途を安らかにする為めには、日露の隔
ひら
意なa了解といふことが甚だ必要である0而して従来は、兎角両国の間は隔意なき了解を披き合ふといふ程まで
に、十分に接近して居つたとは云ひ難い。為めに時に依つて双方遺憾に感じた点も多少あつたが、そは今度の協
約の結果として取り去られた。少くとも取り去られるの端緒を開いた。更にもう一つ考ふべきことは、今日我国
もた
の露西亜と結ぶの結果は、一部の人の杷憂する露独の接近を絶対に妨ぐるの効果を粛らすことである。従来露独
の接近は、露の極東に於ける跳梁を来たし、常に我国を苦しめる原因となつて居つた。東洋の平和と露独の接近
とは、動もすれば両立しない関係に在つた。従つて今度の協約が、露独の接近を絶対に妨げ、少くとも日本の意
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新日露協約の真価
に反して轟の独に接近するを妨ぐることを得るならば、日露協約の締結は、確かに帝国外交の立場から見ても、
近来の成功と言つてよろしい。
三
然し今度の協約が果してどれ丈けの功果を実際に蘭らすかは、更らに精密に其内容に立ち入つて研究しなけれ
ば解らない。此事を吟味するに際して、我々の第一着に注意しなければならぬ点は、此協約で協定した事柄は、
之を「確定の効力を有するもの」と「未確定の効力を有するもの」との、二種類に分たねばならぬといふことで
ぁる。第一の確定の効力を有する事柄といふのは、日露両国が互に反対聯合に加はらざることと、イザといふ場
合には互に支持協力するといふことの二点である。此事は協約で明確に決められて居る0条約文面の解釈によつ
て、伸縮するの余地がない。之れ予が之を称して、確定の効力ある事柄といふ所以である0今此確定の効力ある
事柄について、此協約の蘭らすところ如何を見るに、今度の約束は即ち日露両国提携して互に極東問題の解決に
対する主人公たるの地位を確保し、第三者の干渉に対しては條然たる能産を執るといふ決心を示すものであつて、
従つて又自ら第三者をして極東問題に対する日露両国の特殊地位を確認せしめんと擬するものである○日露両国
が極東に於て特殊の地位を有することの争ふべからざる以上、此事実を確定ならしむるを目的とするところの本
協約は、固より我国に重大なる利益を提供するものと言つて差支はない0第二に未確定の効力を有する事柄と言
ふのは、両国が相互に其特殊利益井イ権利を保護すべしといふこと、及び其保護の方法については協議の上適当
な措置を取るべしといふこと之れである。即ち本協約は他の一面に於て、相互の権利利益を互に擁護防衛すると
言うて居る。けれども其保護せらるべき権利々益の種類及び範囲如何については何等言及して居ない0又協助の
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為め執るべき措置につきては篤と協議するというて居るけれども、果して如何なる方法が協議の結果として執ら
るべきかは、全然協約の関知するところではない0是れ予が之を杯して未確定の効力を有する事柄といひし所以
である0凡そ日露両国にとつて最も肝腎な問題は、両国のどれ丈けの権利々益が保護せらるゝか、又如何なる方
あらかじ
法によつて協助の実が挙げらるゝかである0此事は元より予め明確に極められない事柄でもあらう。兎に角条約
の上では明かに極められて居ない0故に将来に於て、条約文面の解釈1伸縮自在如何様にもなる所のものである。
解釈の仕様によつては、之が非常に活用せらるこ」ともあれば、又全く空文に終らしめらる、場合もないではな
い○故に此の所謂未確定の効力を有する事柄について、本協約が果してどれ丈けの利益を我々に持ち来たすやは、
約束の文面丈けで断定することは出来ない○日露両国の利害関係が極東に於て極めて錯綜して居る丈け、此点は
将来大に注目を要することゝ思ふ。
右述ぶるが如く、新日露協約は確に最近に於ける日露親和の微衷であり、又益々両国の接近を深からしむる動
因ともなるものには相違ない○けれども之が運用の如何によつては協約に依つて達せんと欲したる目的を十分に
貫くことも出来れば、又然らざる結果を見ることにもなる0従つて今度の協約が事実如何なる効果を日露両国の
将来の関係の上に生ずるかは、予め今より之を推測することは出来ない0ツマリ今度の協約は両国和親の形式を
定めたものである0其内容は今後両国の臣民井に当局の努力に依つて充実して行かなければならぬ。尤も従来と
ても和親の実が多少でもあつたからこそ今度の協約も出来たのではあるが、併しこの和親の実は今後猶大に開拓
するの余地はある0此開拓を怠つて居つては、折角協約で何や彼や取り極めても、両国で事実上大した意味を之
に附せぬことゝなる0この点に関して吾人の幸に思ふことは此協約に附随して更に各種の別約1東清鉄道扁
の譲与、松花江航行の自由、満蒙租借地に於ける相互の居住移転の自由、ハ〜ピン其他の露国側重要都市に放け
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新日露協約の真価
る日本郵便局設置の認許等に関して − が両国政府の間に取り結ばれたといふ説である。果して此風説が異なら
ば我々は之によつて早くも露西亜が如何に誠意を以て本協約の趣旨を観て居るかを推測することが出来るのであ
る。従つて我々は今日已に夫の所謂「未確定の効力を有する事柄」についても、他日問題が起つた場合に露西亜
は必ずや寛大なる解釈をとるであらうと想像することが出来る。果して然らば此協約は、日露の親善を全うし兼
ねて日本の利益を増進する上に於て、先づ大体に於て遺憾なきに近いといつても差支はあるまい。
終りに日露協約の成立に対する二三外国の態度を考へて見よう。
日露協約の公表と共に、敵国側が直に之に水をさし殊に之を以て日英両国離間の道具となさんと試みたことは
怪むに足らない。英仏等の聯合諸国は之に反して何れも歓迎の辞を述べた。之も亦当然なことである。併しなが
ら本協約が専ら日露両国の極東に於ける特殊利権の確保を目的とする丈け、東洋に大なる利害関係を有する英国
と−ヘノし
などが初め大に猫疑の眼を以て締約の交渉を倫祝したことは、亦己むを得ない。帝国外務省が発表せしめたと見
るべき都下の各新聞紙所載に係る協約締結顛末の報告の中には、「不幸にして交渉事情外聞に漏洩し、行悩を生
しんちよく
じたるも、露国皇帝の聖断とサゾノフ氏の尽力とにより、交渉僅かに進捗するを得たり云々」とある。之れ丈け
では固より何処と指して言ふことは出来ないけれども、吾人をして三流忽ち英国辺の故障を意味するのではある
まいかと思はしむる。日露協約の如きが、固より英仏に無相談で結ばるべきでないことは、論を待たない。けれ
ども余程話の進行する迄は厳重なる秘密の中に交渉を取運んだやうであるから、途中外部に漏洩して為めに第三
あなが
国の故障を招いだといふことも、強ち根拠なき想像でもあるまい。
1う9
一体英国に限らず概して支那に重大なる政事上又は経済上の利害関係を有する国が日露協約の締結を快しとし
ないのは当然の事である。英国は勿論であるが、米国の如きでも、彼等は皆極東1殊に支那
を以て列国共
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同の競争地域となし、独り日露両国に対してのみ其特殊地位を認めてやらねばならぬ義理はないと考へて居る。
少くとも彼等は両国の特殊地位を認むることを欲しない。或は勢の迫る所幾分之を認めざるを得ざる事情に立ち
至つても、其特殊地位なるものは出来る丈け之を制限して解釈せんと欲して居る。然るに本協約は、日露両国が
自ら堂々と極東に於ける其特殊の地位を宣明する者であり、且漠然宣明した特殊地位なるものを他の第三国をし
て亦承認せしめんとするものであるから、他の第三国の内心之を喜ばないのは当然である。無論外交的辞令の上
に於ては、或は日英同盟と相伴つて東洋の平和を確保するものだとか、或は日英同盟の目的とする所を猶一層強
く裏書するものだとか贅沢な言葉を飾り立て、居るけれども、事実を如実に見るを職とする我々の耳には、此等
さすが
の辞令は却つて偽善者の声の如くに響くのである。流石に亜米利加は此点について無遠慮なる言論を弄んで居る
やうだ。英と米とは此間道に就ては其所見を異にして居る筈はないと思ふのである。
英米両国が日露両国と対等の地歩に於て亦極東に特殊の地位を有すと自信して居るならば其妄謬なることは無
論であるが彼等の言ひ分が仮りに消極的に日露両国の特殊地位そのものを否認せんとするに在りとするも、そは
甚だ無理である。我々が極東に於ける特殊地位を主張するのは、英が印度洋に於て、米が中南米大陸に於て特殊
地位を主張すると同じ意味に於て正当である○利害の打算上彼等が強て之を認めざらんとするのは穏当でない。
少くとも公平でない。従来我々は余りに自己の特殊地位の擁護開拓を等閑に附した。今頃急に騒ぎ出して図らず
他国の故障を招くのであるが、併し正当の立場を主張するのだから何も遠慮する必要はない。どんなに嫌がられ
ても、事情の許す限り、カの及ぶ限り、どん〈進んで構はない。たゞ正当の範囲を踏みはづさなければよい。
新日露協約の真価
孤立の日本は、従来余りに此の点については、第三国に遠慮し過ぎて居つた。対支外交の不振の原因はノつには
たしか
憶にこゝにある。今や我等は露国に提携することになつて、滋に大に内心に強みを感ずることゝなつた。今後は
大に活躍して事実の上に、英米をして其妄を悟らしめ吾人の立場を承認せしむべきである。
然し又一方から考へれば、日露両国は共に理論上極東に於て特殊の地位を有せしに拘らず、前述の如く従来其
実をあらはす為めの努力が甚だ足らなかつた。彼等は余りに放地に過ぎた。否、久しく無為に終つた。さればこ
そ、どん〈英米の侵略を受けたのである。従つて我々は又一面に於て多年奮闘の功を積んだ英米に対して余り
大さな顔の出来ぬ義理もある。滋に於て我々は英米等をして心から吾人の特殊地位を確認せしめんと欲せば、今
後大に活動努力して理論上に於て有する我々の特殊地位を事実の上に適確に把持することを心懸けねばならぬ。
なわ
或意味に於ては我々の特殊地位なるものは仇未だ十分出来上つ七形能首得て居ないともいへるのである。ソコで
真に我々が極東に於て確実なる特殊の地位を占めんとせば、今日以後我々大に之を開拓せなけれぼならぬといふ
訳になる。従来の如く、政治家も実業家も、無為故地の状態に甘んずるのでは、我等の所謂特殊地位は、遂に永
遠に空文に終らざるを得ないであらう。
協約の公表に対して支那が例により著しく神経を悩ましたことも亦怪しむに足らぬところである。日露の接近
は、支那にとつて常に一大警報である。隣邦の二強を争はしむることによつて始めて自国の安全を嵐ち得べしと
するのは、支那在来の政策であつた。偶々両国相接近するの報に接すれば、彼等は忽ち隣強提携の手は必ずや浦
蒙割取の暴挙となりて現はる、だらうと迷信する。斯くて彼等は従来日露の協約に畏怖の念を抱き、其説の行は
ふうせいかくれい おのの
る、毎に所謂風声鶴嗅の慄きを感じて唇つた。本年一月露国一大公殿下の来朝当時既に支那の民心は疑心暗鬼を
措いて少らず動揺したのであつた。殊に今度は、表向き発表になつた協約の外に、日本の特殊地位を独り満蒙の
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みに限らず支那全体に亘つて之を認め、而かも其全体に亘つての日本の自由行動を露国が承認するといふ意味の
密約が結ばれたといふ風説があつたので、更に甚く神経を悩ましたやうである。斯かる風説を流布するに至らし
めたるは確に当局の妄失能ぞある○厳重に之を責めなければならない0さらでも神経過敏なる支那の民心を之
によつて更に大に激動せしめたことは、日支の親善をどれ丈け妨げたか解らない。幸にして目下の支那は南北妥
や かま
協の混乱の最中であるが故に、案外に此事が矢釜しい間琴とはならないけれども、平時であつたならば、或は再
ど
びボイコットなどの口実となつたかも解らない0然しこんな風説が無かつたとしても、何の道、日露接近の報が
到底支那をして不安を感ぜしめずして了らざることは、今日のところ残念ながら止むを得ない。又実の所公平に
いへば、日本の極東に於ける活躍に対して支那に安心して居れといふのは無理である。それでも強て支那に心を
安じて貰ふ必要ありといふならば、第一に我々は我々の活躍をして常に合理的且道義的ならしむることを怠らず、
第二に我々は更に退いて日支両国民の根本的親善関係を開拓するを心懸けなければならぬ。而して日支両国民の
根本的翌ロは、両国民が近来の如く専ら政治関係の方面に於てのみ交渉するのでは到底期せられない。政治的に
は此両国は大体に於て利害の壷不壷相半ばする間柄にある0故に此両国は更に表と歩を進めて、高尚なる
精神的方面に於て交渉提携するの途を拓かなければならぬ0之等の点に就ては予輩に別に一個の意見あるけれど
も問題外なれば今は述べぬ0只東洋全体の平和の為めに活用さるべき筈の日露協約の締結が、不幸にして支那か
ら余り快く思はれないのを遺憾とする旨を述べて滋に此塙を結ぶ事とする。
〔『中央公論』一九一六年八月〕
162
米国の対東洋政策