日本的思惟の諸問題  藤沢親雄著 人文書院

   序言

 本書に収めてある諸論文は今迄諸雑誌に発表したものである。其の内容は多様多彩であるが日本的思惟を以て貫かれてゐる点に於て統一的な全体性を構成してゐる。今や我国の思想界は急角度の転廻を余儀なくされてゐる。自由主義的な或はマルクス主義的な構想は恐ろしい勢で払拭されつゝある。加速度的に日本本来の思惟が国民生活の本質と態様とを純化し始めた。改組後の大政翼賛会は此の思想的動向に拍車をかけ之を一つの強烈なる国民政治運動として組織化するであらう。日本的思惟は中外に施して惇らざるものであり、新世紀の人類普遍原理である。理想と現実、幽界と顕界とは一つに結ばれねばならぬ。かくて近代西欧の尨大なる偽思想建築は間もなく地響を立てゝ崩壊するであらう。新しい日本的世界が創造せられねばならぬ。今日の急務は此の時代の要請を満足せしむるインテリゲンチアな[ママ]養成することである。大学法経学部の根本的刷新は焦眉の念となつた。経済界と財界とに依然として横行する英米的思惟は断乎一掃されねばならぬ。日本は大義を八紘に顕揚して坤輿を一字たらしむるの天業に本格的に邁進しなければならぬ。もし本書がいささかなりとも此の皇国の大使命に寄与し得るならば望外の事である。

   昭和十六年五月十九日
                                      著者誌す

目次

日本民族科学の樹立
日本本来の国家観念としての「くに」
皇運扶翼の政治原理
日本精神の現代的意義
政治の貧困性と政道の復興
現代文化と技術
文化統制の根本原理 --祭祀の世界的意義--
亜細亜民族と亜細亜文化
國體と農本新体制
西欧国家組織と国際政治の将来 ---シユーマン教授の国際政治論を読みて---
日本精神とナチス精神
ナチスの農本主義と我が國體
ナチスの民族世界観と農業
イタリアの新しい国際理念
伊太利の立場と日本
三国同盟と外交新体制
独伊枢軸の道義性

目 次 終