大和物語
亭子の帝、いまはおりゐさせたまいなむとするころ、弘徽殿の壁に、伊勢の御の書きつけける。
わかるれどあひも惜しまぬももしきを見ざらむことのなにか悲しき
とありければ、帝、御覧じて、そのかたはらに書きつけさせたまうける。
身ひとつにあらぬばかりをおしなべてゆきめぐりてもなどか見ざらむ
となむありける。
帝、おりゐたまひて、またの年の秋、御ぐしおろしたまひて、ところどころ山ぶみしたまひて行ひたまひけり。