忠 誠 奉 公 の 道
                       文   部   省

 今次事変の発生以来、飽くことなき支那側の不信不法は、隠忍に隠忍を重ねたる我が帝国をして遂に当初の方針を放擲せしめ、断乎膺懲の厳然たる決意を固めしめるに至り、事態は頓(とみ)に重大化を来たした。此の時局に対処する為、去る九月三日第七十二回帝国議会は臨時に召集せられたのであるが、開院式に当つては畏くも時局に対する優渥なる勅語を賜はつた。吾等臣民たるもの斉しく此の勅語を拝し奉り時局の重大性を痛感すると共に、我が光輝ある三千年来伝統の精神を発揚し、皇運扶翼の臣節を完うし、速かに宸襟を安んじ奉らねばならぬのである。
 今次の事変は其の由つて来るところ甚だ深く、関聯するところ亦大であり、事態の推移に就ては速かに予断すべからざるものがある。勿論、其の推移の如何に拘らず、国民は挙国一致、尽忠報国の至誠を致し、以て難局の打開に向つて、勇往邁進するの覚悟がなければならぬ。
 今次の事変が勃発するや、挙国一致の気運は期ぜずし一挙に起り、国民の決意は固く、一意時艱の克服に当らんとする心構へが全国に澎湃として醸成されたことは、洵に御稜威の然らしむるところで感激に堪へない次第である。
 支那各地に出動せる忠勇なる皇軍将兵が堂々正義の陣を進め、粉骨砕身、あらゆる辛苦を克服しつゝ昼夜兼行陸に、海に、空に、一死報国皇軍の威力を遺憾なく発揮しつゝあることは、国民全体に深き感奮と無限の感謝の念を湧き立たせてゐる。一方国民銃後の至誠は日に増し昂まり、或は恤兵に、或は国防献金に、又出征将兵への歓送に、千人針に、出征者の家族扶助に現れ、到る処に感激のシーン、涙のにじむエピソードが溢れ、一旦緩急あれば義勇公に奉ずる国民伝統の精神は遺憾なく発揮せられつゝある。
 我国は古来幾度か難局に遭遇したのであるが、其の都度、国民は一致協力してこれに当り、御稜威の下に尽忠報国の誠を竭し、以て今日の隆昌を来たした。即ち遠くは元寇の役と言ひ、近くは日清、日露の役と言ひ、満州事変と言ひ如何なる艱難をも克服し来つたことは国史の示すところである。蓋し艱難は伸び行くものに課せられた試煉であり、試金石である。克くこれを打開し得るものは実に国民の一致団結と堅忍持久の強き精神力とにある。
  我々国民には忠勇なる祖先の血が流れ、心には祖先の伝統の精神が宿つてゐる。偉大なる業績を歴史に印せる我等の祖先の精神に依つて我々は育(はぐく)まれ来つたが、今や此の日本精神を発揮して如何なる難局をも克服すべき時期に際会したのである。
  今や文字通り非常時局に直面し茲に国民精神総動員を実施せんとするのであるが、我々国民は先づ第一に、尊厳にして万邦無比なる我が国体の本義を益々闡明し、日本精神を発揚しなければならない。我々は此の時局に処して忠君愛国、尽忠報国の精神を振起して、これを国民日常の仕事の上に、又日常の生活の上に反映し実践して、以て非常時局に対応し得る国民生活の根幹を培うべき秋である。即ち敬神崇祖、和衷協同、義勇奉公の誠を以て、挙国一致、これを単なる一時的の興奮に止まらしむることなく、此の時局が永続すればする程、国民は益々確固たる信念と決意とを堅持して進まねばならぬ。
 次に日本精神の昂揚に依つて国民志気の振作を図らねばならぬ。これには社会の風潮を一新して質実剛健、進取の風を馴致し、一段と国民生活を真摯ならしめ、苟くも軽佻浮薄、萎靡退嬰の風あらしめてはならぬのであつて、我々は今後相次いで起るべき幾多の難局を断乎として克服し、打開するの気力と共に実力を充実しなければならない。これが為には我々は勤倹力行、生活を一段と緊張せしめ、享楽的頽廃的気風の排除に努め、小我を捨てゝ大我に就くの精神の体現を図らなければならぬ。
 以上の様にして日本精神を発揚し、社会風潮を一新すると共に、銃後の後援を更に強化持続し、又進んで非常時経済政策へ協力を為し、同時に資源の愛護に努めると云ふのが、此の度の国民精神総動員の主なる目標である。
 要するに、我々は現下時局の重大性を十分に認識し、これに対処する決意を固め、男女老若の別なく団体たると個人たるとを問はず、官民すべて協力、夫々の分に応じて最も適切なる実行方法を樹(た)て、本国民精神総動員を真に挙国的な、而も持久力ある大国民運動たらしめ、以て日本国民たるの本分を完して、報效の誠を竭さねばならぬのである。