国家の無情
身は儼然たる学士、名声夙に儕輩に布(し)く。一旦命を被るや暖飽の逸を捨て、団欒の楽を抛ち、薄資自ら給して遠く異域に游ぶ。国家の為に尽せりと謂ふべし。旅愁幾年、憂積んで其の人遂に狂す、命や惨憺たらずとせむや。然るに国家恤まず、却て狂癲の人に命ずるに帰国を以てす、無情も茲に於て極まれりと謂ふべし。
敢て問ふ、海外留学生諸君よ、諸君は是の如くにして、安じて万里の外に越在することを得る乎。
(三十四年十月)