異人種同盟

 日英同盟を説くものあり、日仏同盟を言ふものあり。然れども国民よ、異人種の同盟の永続し難きことは、歴史上の事実なることを認めよ。
 愛蘭土は何故に自治を求むるか。ルーマニア、ブルガリアは何故に土耳古に叛きたるか。波蘭の分割は、滅亡にあらず帰順なりと説ける史家の言には、慥に深奥なる道理を含む。ウンガルンは何故に独立せしむとしたるか。コッスートは敗死せりと雖も、十一ヶ国の国語を談ずる民人を以て組織せられたる軍隊は、正に墺地利の死相を現はせりとせらる。当に亡ぶべき希臘は亡びずして、当に盛なるべき土耳古の力の到る処に牽制せらるゝは何故ぞ。無害なる猶太人と、支那人と、日本人とが到る処に迫害せらるゝは何故ぞ。更に所謂るパン・スラヰニスムスの世界的大運動を見よ。
 是の十九世紀の一大潮流は、所謂る人種国民的の名によりて称せらる。アルサス、ローレインの現状如何を知る者は、根本的異人種同盟に向つて幾何の望みを繋ぎ得べきか。

(31年3月)