大スラヴ主義
試みに大スラヴ主義の偉大なる運動に注目せよ。北はアドリア海より、東は太平洋の黒龍江口に至り、西はポーランドより南は波斯の国境に至る迄、幾多の土地風土民族を包括して、茲に至強至盛なる人種的感情の磅せる所、所謂る大スラヴ主義の領域に非ずや。殆ど一億万の生霊は是の不思議なる本能に駆られて尨大なる一団体となり、今や方(まさ)に世界歴史の舞台に投じて、万邦環視の中に其の大々的国民運動を開始せり。是れ果して何の現象ぞや。
是れ偉大なる国民勢力は同人種の結合に存することを訓ふるものに非ずして何ぞや。英仏西諸国の膨脹史を見よ、彼等は好むで異人族と同盟す、而れども同盟の必要去れば則ち翻つて是を亡ぼせり。全く外交関係より離れたる異人種は、其の意味するところ単に二個の仇敵に過ぎず。人類に先天的罪悪なるものあらば、是の一事慥かに人類の罪悪なり。
来(らい)以て往(わう)を推すことを得べくむば、日英もしくは日仏同盟の意義も亦おのづから火を睹るが如きものあらむなり。
(三十一年三月)
磅 … ”まじりあう”の意