独逸の偽善
世は偽善の世となれり。堂々たる欧州中原の大帝国が、世界列邦環視の中に、公々然として偽善を行ふ世となれり。
二人の宣教師の殺されたるが為に、暴力を以て膠州湾を占領したる独逸が、清国政府に要求したる条件の中に、殺されたる宣教師の為に記念教会を建設すべきの一項あり。嗚呼、是の如き没道義の行為を示して、人道の仮面を被らざるべからざる乎。昔者、亜剌比亜人は叫べり、『貢か剣か将たコーランか』と。今や独逸の要むる所は貢と剣とにあり。コーランは其の仮面のみ、口実のみ。其の横暴、亜剌比亜人に比して寧ろ如何ぞや。嗚呼、基督教の痛哭すべき時は来りぬ。ヘンリー四世をしてアルプス山を越えしめし教は、今や国家の罪悪を掩蔽する仮面となり畢りぬ。是れ豈真正の基督教徒が、耶蘇と人道と神とによりて、其の血証死を以て反抗すべき時ならずや。
(31年2月)