第二七三号(昭一六・一二・三一)
   戦ひ抜かう大東亜戦
   大東亜戦下・新春を迎ふ
   言論、出版、集会、結社等臨時取締法について  内 務 省
   香港攻略戦          大本営陸軍報道部
   ウェーキ島の占領        大本営海軍報道部
   ラジオと電波管制
   英米罪悪史(二)
   産業再編成問答         商 工 省
   写真週報 十二月卅一日号 目次
   大東亜戦争日誌
   通 風 塔

 

言論、出版、集会、結社等臨時取締法について

                        内   務   省


  去る第七十八回臨時帝国議会合の協賛を経て、言論、出版、集会、結社等臨時取締法が制定され十二月二十一日から実施された。
  本法は今次の大東亜戦争期間中にだけ適用する臨時法あって、制定の趣旨は、をの第一条に「本法ハ戦時二際シ言論、出版、集会、結社等ノ取締ヲ適正ナラシメ以テ安寧秩序ヲ保持スルヨトヲ目的トス」と示されてあり、また同法案が、帝国議会を通過した日に発表された東條内務大臣談によつて更に明らかにされてゐる。即ち「帝国は今や大東亜戦争の真唯中にあつて、国家の総力を挙げてこの聖戦目的完遂に邁進しつゝある。戦時下にあつては国民の総てが一体となつて、同じ目的に向つて秩序ある行動を取ることが戦争目的遂行の不可欠要件である。…本法は戦時下にあつて人心を動揺せしめて社会の不安を誘発し、或ひは殊さらに国策に反対し、国論の不統一を招来する等、戦争遂行上に障碍を及ぽすが如きものに対しては、最も峻厳なる取締を加へんとするものである。しかしながら、純良なる政治、思想の国民運動や言論文書等の活動を抑圧することは本法の目的とするところではない」のである。
 本法中には結社、集会、多衆運動、出版、造言飛語等に関する取締規定が設けられ、従来、届出制であつたものを許可制に改め、又は罰則を重くしてゐるが、その重要な点を簡単に紹介しよう。


結社


 政治に関する結社又は思想に関する結社をそしきしようとするときは、発起人は地方長官を経て内務大臣の許可を受けなければならない。これに関する既存の結社も、本法施行の日である十二月二十一日から三十日以内に許可申請をしなければならない。
 政治に関する結社とは、国家等の政務に関することを目的として組織された結社で、いはゆる政党のことである。思想に関する結社とは、一定の思想的主張を実現することを目的とする結社、すなはち、政治・経済・社会の機構制度の改革に関する思想を実現しようとすることを月的とする結社で、いはゆる思想団体のことである。単なる研究団体、修養団体、或ひは国民精神昂揚を目的とする精神団体のやうなものはこれに該当しない。因みに大政翼賛会は政治結社でも思想結社でもない。
  この許可をなすに当つては、戦中の遂行上に有害なものは許可しないが、害のないものは許すのであつて、いはゆる一国一党といふやうなものを企圖してゐるわけではない。なほ結社の本部が許可になつても、その支部については別に許可を受けなければならない。


集会


  政事または思想に関し、公衆を会同する集会を開かうとするときは、発起人は所管警察署長の許可を受けなければならない。但し、予じめ集る人の顔触が分つてゐる特定人の集会或ひは議員候補者銓衡会及び選挙運動のための集会のやうなものは、許可を受けなくても、開会六時間前までに届出ればよいことになつてゐろ。こゝで集会といふのは、二十人以上位の集りをいふのであり、また政事或ひは思想に関することを講談、論議または協議するための集りであつて、親睦会を開いた席上などで、談がたまたま政事、思想のことに触れたときなどは該当しない。従つて二十人以下位の集りをするときは、許可も届出も要しないし、また政事または思想に関する集会でなければ、二十人以上集つても何等の手続も要らない。また差支ない集会に対する許可手続のやうなものは、従米の届出の場合と余り変らない程度に簡便に許可する方針である。
 屋外で公衆を会同し、または多衆運動をするときは、政事または思想に関しない場合でも、管轄警察署長の許可を受けなければならないが、祭葬、講社、学生、生徒の体育運動、その他慣例の許すところのものは除外される。但し除外されたものも、屋外行進等は別に交通取締規則によつて取締を受ける場合がある。


出版


 新聞紙法による出版物である新聞や雑誌類を新規に発行しようとする者は、地方長官を経て内務大臣の許可を受けなければならない。すでに発行してゐるものは、許可を受けたものと看做されるから、更めて許可を受ける必要はない。併し、既刊のものでも、その題號や発行所等を変更しよようとするときは、許可を受けなければならない。
  悪質な出版物を発行する者に対し、内務大臣が一定の期間を定めて発行停止を命じ得ることになつた。従来は発売頒布禁止処分によつて取締つてゐたが、大部分のものはこの禁止処分前に頒布されてしまひ、取締上に遺憾な場合が多かつたので、必要なときは発行停止が出来ることになつたのである。当該題號の出版物だけではなく、同一人または同一社が発行する他の出版物の発行も停止できるが、特に悪質で治安確保上必要なときに限るのであるから、無闇に行ふものではない。


言論


  時局に関し造言飛語をなした者や、人心を惑乱すべき事項を流布した者、つまりデマを飛ばした者は厳罰に処せられることになつた。
  「時局」とは、国家の直面する内外の情勢をいふのであり、政治、外交、財政、金融、経済、社会、治安等の重要な情勢を総称するもので、重要でない事柄はこゝにいふ時局には該当しない。
 造言飛語とは、虚構の事實を捏造し、或ひは根拠のない風説、若くは実在の事実を誇張する行為で、事実無根また根拠の薄弱な事柄を言語、文書等で言ひふらすことである。(軍事に関する造言飛語の罪に付ては別に陸軍刑法中に規定がある)
 人心を惑乱すベ事項とは、世人をして中正の判断を矢はしめるやうな事項であつて、たとへそれが真実の事実であつても、新聞記事の差止事項などはこれに該当することがある。またかゝる事項を人心を惑乱する目的でなく、軽率にしやべつた場合でも罪になるのである。(人心惑乱する目的を似て虚偽の事実を流布する罪に付ては別に刑法中に規定がある)
 この流言飛語等の取締規定強化によつて、今後国民は時局に関し、一切の話が出来なくなるやうに思ふ人があるかも知れないが、戦争の遂行上、有害でない場合は、これを取締るわけではないのであつて、お互に挙国一致、大東亜戦争完遂のため御奉公する心構へが出来てゐる以上、この罰に触れるやうな人は余りないと信ずる。
          ×       ×
 要するに、本法の目的は大東亜戦争の遂行上有害なものを断乎取締ることにあつて、その運用には慎重を期し、徒に民心を暗くし、善良なる国民を萎縮させるやうなことのないやう、関係当局では特に留意する方針である。純良な政治、思想の国民運動、言論、文書等の活動などは、政府としては寧ろこれを助長し、活発旺盛な国民意識の昂揚を図らうとするものである。

  〔参考〕  不穏言論ノ処罰規定

刑法第百五條ノ二
  人心ヲ惑乱スルオトヲ目的トシテ虚偽ノ事実ヲ流布シタル者ハ五年以下ノ懲役若クハ禁錮又ハ五千圓以下ノ罰金に処ス
  銀行預金ノ取付其他経済上ノ混乱ヲ誘発スルコトヲ目的トシテ虚偽ノ事実ヲ流布シタル者ハ七年以下ノ懲役若クハ禁錮又ハ五千圓以下ノ罰金に処ス

刑法第百五條ノ三
  戦時、天災其他ノ事変ニ際シ人心ノ惑乱又ハ経済上ノ混乱ヲ誘発スヘキ虚偽ノ事実ヲ流布シタル者ハ三年以下ノ懲役若クハ禁錮又ハ三千圓以下ノ罰金ニ処ス

陸軍刑法第九十九條
  戦時又ハ事変ニ際シ軍事ニ関シ造言飛語ヲ爲シタル者ハ三年以下ノ禁錮ニ処ス

海軍刑法第百條
  戦時又ハ事変ニ際シ軍事ニ関シ造言飛語ヲ為シタル者ハ三年以下ノ禁錮ニ処ス

国防保安法第九條
  外国卜通謀シ又ハ外国ニ利益ヲ与フル目的ヲ以テ治安ヲ害スベキ事項ヲ流布シタル者ハ無期又ハ一年以上ノ懲役ニ処ス

取引所法第三十二條ノ四
  取引所ニ於ケル相場ノ変動ヲ図ル目的ヲ以テ虚偽ノ風説ヲ流布シ偽計ヲ用ヒ又ハ暴行若ハ脅迫ヲ為シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ五千圓以下ノ罰金ニ処ス

警察犯処罰令第二條
  左ノ各號ノ一点ニ該当スル者ハ三十日未満ノ拘留又ハニ十圓未満ノ科料ニ処ス

第十六號
  人ヲ誑惑セシムベキ流言浮説又ハ虚報ヲ為シタル者

言論出版集会結社等臨時取締法第十七條
  時局ニ関シシ造言飛語ヲ為シタル者ハニ年以下ノ懲役若ハ禁錮又ハニ千圓以下ノ罰金ニ処ス

同法第十八條
  時局二関シ人心ヲ惑乱スベキ事項ヲ流布シタル者ハ一年以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ千圓以下ノ罰金ニ処ス