大逆無道録

 曾て此文を草して人に示す、読む者の十中の九は我を以て、大逆無道の国賊と罵れり、罵る者非耶、罵らるゝ者非耶、世間識者あらん、仮に題して大逆無道録と云ふ。
 我同胞中、国家の為めに其父を失へる者あり、其夫を失へる者あり、其子を失へる者あり、而して国家の為めに、其労働し生産せる富の大部を失ひて、兄弟妻子離散し、壮者は去て他国に往き、老者は往々溝に転ずる者あり、彼等は国家の為めに其生命と財産を捧げたり、彼等は国家の為めに其幸福と安寧とを取去らる、国家てふ者は果して愛す可き乎。
 所謂「愛国者」は曰く、国家は多数人民の団結也、少数人が多数人の為めに其利益と幸福を犠牲とするは、仁義の行也、名誉の行也と、然れども見よ、今の国家は果して多数人民の国家也てふ実ある乎、少数なる藩閥党人の国家に非ざる耶、少数なる陸海将校の国家に非ざる耶、少数なる政党首領の国家に非ざる耶、少数なる富家の国家に非ざる耶、少くとも五円以上の納税資格ある人の国家に非ざる耶、義務に於ては、生命財産安寧幸福を犠牲とするの義務に於ては、四千五百万人は国民たるの義務を尽せるならん、而も国民たるの権利に於ては、是れ少数人の専占する所に非ざる耶、多数の義務を以て少数の権利に奉献する、是れ仁義の行なる乎、是れ名著の行なる乎。
 大寺少将の死は名誉の死なりき、服部中佐の死は名誉の死なりき、然れども彼をして当時一兵卒として死せしめよ、何の名誉ある乎、テルモピレー険に波斯の大軍を逐返せしレオニダスと其三百人の名誉は不朽也、然れどもペロポンネシアン戦争の三十年間希臘人民の死する者幾万人ぞ、彼等の骨と血は烟散霧消して、齎す所は三百人の名誉のみ、軍陣の名誉は死の名誉に非ずして、官職位階の名誉也、官職なく位階なくんば、何の名誉ある乎、昔人云へり一将功成万骨枯、一将は洵に名誉也、万骨は人の其姓名を問ふ者もなく、記する者もなし、惨なる哉。
 多数の労働を以て少数を養はしむるの国家、多数の犠牲を以て少数の名誉と富貴に供するの国家、是れ果して愛する可き者なる乎、愛せざる可らざる乎、所謂国民の愛国心は貴重すべきの者なる乎、我れ疑ひ有り。

        二

 借問す、愛国心とは何物ぞ、今の所謂「愛国者」や「国家主義者」が奨説する所の愛国心とは何物ぞ。
 孩児の井に墜ちんとするを見ば何人も走つて之を救ふに躊躇せざるは、孟軻氏我を欺かず、愛国の心が、即ち真に孩児を救ふ底のシムパシー惻隠の念、慈善の心と一般ならば、美なる哉愛国心や、醇乎として一点の私なき也。
 然れども思へ、人の孩児の急を救はんとするや、其我の子たると他の子たるとを問はざる也、真個高潔なる惻隠の心と慈善の念は、決して自家との遠近親疎を問ほざる也世界、万邦の義人は皆なツランスワールの為めに、其勝利と復活を祈り、フイリツピソ革命軍の為めに、其成功と独立を祈るに非ずや、其敵国たる英人すらも猶且つ然り、其敵国たる米人すらも猶且つ然り、今の愛国者や国家主義者は、ツラソスワールの為めに祈るの英人を以て、愛国の心なしと罵らん、フイリツピソの為めに祈るの米人を以て、愛国の心なしと罵らん、彼等或ひは愛国の心なかるべし、然れども高潔なる同情、惻隠慈善の心は確に之れ有り、然らば即ち所謂愛国心は、彼孩児を救ふ底の人心と致せざるに似たり。
 然り我は所謂愛国心か醇乎たる同情惻隠の心に非ざるを悲しむ、何となれば愛国心の愛する所は、自家の国土に限れば也、自家の国人に限れば也、他国を愛せずして唯だ自国を愛する者は、他人を愛せずして唯だ自家一身を愛する者也、公也と言ふことを得んや、私ならずと言ふことを得んや。
 同じく慈善の名あり、而も曰く百円以上は新聞紙に広告すべし、二百円以上は大字を以て貼すべしと、慈善の心は金銭の多少と比例することを得る乎、否な金銀の多少を以て測度し得るは、慈善の心にあらずして、慈善家てふ名誉のみ、虚誉のみ、虚誇のみ、此手段を以て三陸海嘯の被害者に恵与せる者は、被害者に対する同情に非ずして、自家の名誉と利益に対する慾望のみ、此手段を以て国家の為めに尽すものは、真に国家を愛するの心に非ずして、亦自家の名誉若くは利益に対する慾望のみ、慈善同情の広告は、他人に対する競争心也、愛国心の広告は、他国に対する好戦の心に非ずや、虚誉に非ずや、虚栄に非ずや。


        三

 愛国心は即ち故郷を愛するの心と聊か相似たり、故郷を愛するの心は貴ぶべし、然れども亦甚だ悪むべき者有り。
 誰か垂髻の時、竹馬に鞭(むちう)つの時、真に故郷、其山其水の愛すべきを解する乎、彼等の懐土望郷の念を生ずるは実に異郷他国なる者有るを解するの以後にあらずや、東西飄蓬心幾たびか蹉圧政して、

持た人情の冷酷なるを覚るの時、人は少年青春の愉快を想起して嘗知の故国を慕ふこと切也、風土
甚だ身に適せず、食昧甚だロに適せず、知己の志を談ずるなく、父母妻子の憂を慰するなくして、
人は故園を思ふこと切也、彼等ほ故郷の愛すべく尊ぶべきが薦めに思念するに非ずして、唯其他郷
の忌むべく嫌ふべきが薦めなる也、故郷に封する酵乎たる同情側陰に非ずして、他郷に対する悼藤
也、失意逆境の人多く皆な然り、彼等他郷を檜意するの念なくんば、未だ育て故郷を思慕せざる也・
 彼等ほ日く、得意順境の人も亦故郷を思慕するに非ずやと、然り泡に之れ有り、得意の人の故郷
を思慕するの心事は更に卑しむべき有り、彼等は即ち郷里に向つて其得意を示さんと欲するのみ、
郷里に封する同情側隈に非ずして、一身の虚柴也、虚誇也、競争心也、富貴にして故郷に遺らずん
は錦を衣て夜行くが如しの一語は彼等胸底の秘密を造破して輯照するが如きを見ずや.
 日く、大挙を我地方に置かん、白く桟道を我地方に敷かん、是れ浄ほ可也、甚しきは即ち日く、
紘務委員を我州より出さん、杏な我麻より出さんと、彼等は一身の利桑、若くは虚柴を外忙して、
     大逆無道鞋
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眞に其郷里に対する同情慈態の念に困て然る有る乎、有致の人や高潔の士や、之に射して果し三
宅侮蔑の念なきことを得る乎、彼の為す所は愛郷心也、愛郷心ほ愛国心の素也として歎稲すること
を得る乎.
著し所謂愛国心が望郷の念と其因由動枚空にするものなりとせは、彼庚帯の季ひは愛国者の好
標本なる哉、彼鱗蟄の宰ひほ愛国者の好璽耕なる哉、天下の可燐意なる哉.
於是乎思ふ、岩谷松平が国是の親玉と空言るを笑ふこと勿れ、彼が東宮大婚の記念美術館に千
風の寄附を約して、其紛を腐まぎることを笑ふこと勿れ、天↑の所謂愛国者及所謂愛国心ほ、松平
に於て只五十歩盲歩の差のみ.
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古人云ふ同病相憐れむと、是れ妊個の同情側撃といふ可くんば、愛国心も亦同情側穏を含阜ざる
に非ず、我は愛国心を以て鹿柴なり虚誇なりと云ふと維も、而も一郭の同類相依るの念即ち心慧学
者の所謂コソシヤスネス、オプ、カイソドなる著あるを借ず.
若し軟陥なる人生、野獣に近き人生は、一線同仁なること能はず、博愛なる1しと能はず、台東愛
恰の南念ほ常に糾鈍の如く相継ひ、鎖環の如く相遮る也、彼の禽獣を見よ、彼等は同類相食めり、
而して一朝未だ相知らざる著に逢へは忽ち耶N健恐悦L、…耽催恐悦は即ち恰建となり、恰恋ほ即ち咄
埠となり、攻撃となり、同如凝を為して其公共の故に杭申す、彼等の敵に富るや、榊勅相互の現睦
結合の状掬す可き和り、彼等ほ懲に所W…密閉心ある耶非耶、古代の人数が琉野の生前川兄之と沌から
んや、彼等は自然と靴へり、舛種族と削へり、彼等ほ朗珊剛健閉心有る也、然かとも知らざる可らす、
彼符の柳拙や親睦や同梢や、唯だ井敵を同じくせるか窮めなることを、唯だ兆敵人に対する怖悠の
反励なることを、病を同1くして而後始めて相憐の心あるものなるこし」を.
            フ▲†ルーシスナ・ノクト
 如此くんは愛閑心ほ尤巾動物的天性也、是れ中削を好むの心血、和して是れ杯迦拭増の排する所、
文明の理州心目的の柵容れざる所に非ずや¢
 但だ如何せん、世非人出は倫ほ此動物的天性の浣申場抑に十九牡紀をも断逢せんとはする也、批
合が適者生存の法則に徒つて漸く進化し黎達し、而して其増域亦岨つて順大†るや、輿梯族、舛部
落の餅捌減じ、公共の敵人波して、披等は一旦鰭意の目的を失へり、而して恰恵の目的既に失ふ、
貌愛結合の目的亦失はる、於是乎箇人間の宰醐起り朋京間の軋轢起る、彼等が一国、一札合、一部
落を変するの心ほ、襲じて唯だ一身一家を愛するの心となれり、怪しむなき也、彼等の所謂奄甲山
     大逆如州泣鎚
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…禅‘
                              ′一▼ルインスチンクー
は固と利己心と同一なれは也、同じく是れ其仇敵競中春を竹悠する敷物約天性に出れば也.
鴨呼緑川の文明よ、〓此には激烈なる自由競申の、人心をして益無情冷酷ならしむるあり、一面
にほレH川南なる博愛の理想滴として地を掃ふ、前途渦とに孝心す可らずや、而して妓息なる政治滋、
功名を好むの‥H除家、寄利を超ふの資本家ほ之を見て乃ち絶叫して日く、四窟の外を見よ大敵は迫
れり、成民は兆個人間の印閲を止めて国家の為めに璧口せさる可らずと、彼等ほ督に所謂園氏の変
関心即ち動物的天性を喚起して、個人問の檜惑を外敵に幽向せしめんとする也、和して之に赦せざ
るあれは凄めて日く、非督国老也国賊也と、彼等の所詮を名けて愛国主宰右くは帝国主義と云ふ、
今の日本のハイカラ誅の所論の如き共唾除を嘗むるのみ−
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自家愛す可し、他人悼む可し、同郷人変す可し、他郷人悼む可し、紳闘や中華や史す可し、仲人
                            ′さ「ルイ)ノ寸ノク1
や夷秋や悼む可し、愛す可き者の為めに憎む可きを討つ、是れ動物的天也忙して所謂愛印心と名け
らる、叶是れ憐れむ可き迷信に非ずや、迷信ほ徳義に非ず、智慧に非ず、希勝羅馬以来艶千年m、
此迷信の文明を伐械し進歩を阻確せること実れ幾何ぞや.
 「貰蔽あることなし、唯だ同家あるのみ」とは、台羅朽∴り詩人が誇接点芙せる侍也、眞に之れ有
りとせほ是れ窯振を利柑するの神なかりしが痛めの人、閑寂あるに非ずして敵国凱人ありしが席め
のみ、敵盟故人僻む可してふ迷信ありしが場めのみ。
 裁は見る、廿…時維馬の貧撃ネる多数の埋夫が、少数のb人と共に、或は古人に徒て、祈謂園壌の
薦めに頓に赴けることを、而して北は見る、彼等が故人と椚ふや勇猛幣進矢石を冒して身を顧みず、
井忠義汽に感ずるに堪へたることを、而して更に哉は見る、彼等が辛ひに耶柁ち身を全くして締る
や、彼等は徒瑠の問に色へる代務の薦めに、直ちに奴隷の域に締らしめらるゝことを、見よ戦役の
問、竹山者の川瀬は八臣廟奴隷の別耗濯舶する所となるも、質者の川ほ荒磯磨相に委するの已むなき
に非ずや.而して代務は生ず、而して貰れて奴隷となる、果して何の答ぞや.
 彼等は雑馬の桝渦敵国故人を僻悠せり、然れども敵人が彼笹に向つて馬す所の悪事ありとせば、
是れ決して兆伺他たる富者が彼等に向つて縞す以上には出ざる吋し、彼等は敵人の爵めに奴隷と馬
きる可し、病も彼等ほ同胞の薦めに奴隷と汚さるゝに非ずや、而も思ふて此に及ばざる也。
 富者の鞄ふや信条々多きを加へ、奴愕臣従益々多きを加ふるの問に、貧者は日く、国家の馬めに
取へりと、其奴隷の境に沈みて而と猶ほ辿去の虚柴を出想して、甘心し満足し誇揚する者何等の痴
     大逆無道壕
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愚ぞや、ぶ維馬の壕閑心なる著は智に如此くなりき.
古希腺に於ける、所謂へロットなる収隷を見よ、黎あれは兵あり、事なければ即ち依然として奴
隷也、戎ほ彼等の強健度に過ぎ、彼等の人口檜娼の度に過ぐるや、常に共立の爵めに華なくして殺
雪ふき、而も彼等は兆主の摘めに辞ふや、忠義背に無比なりき、弟敢皆に無比なりき、曾て一た
びも父を倒まにして其自由を和んと欲するなかりき、
 彼頂の壕同心てふ迷信の同きは、筋に腐敗せる紳水を飲むの天理教徒に過ぐる者ある也、而して
其箭も亦に過ぐる著ある也.

        六
 確固主題は迷信也、迷信に非ざれほ好戦の心也、貯敬の心に非ざれば雲‖胎盤の成合也、誓岬也、
市らざれほ即ち串湖政治家が自家の利益と名窄を通するの手段也利器也。
 之を以て料り希膿羅鳥の慧ダと濁す−…勿れ、愛園主義の近代に流行し利用せらる1ことは、上
古中々よりも更に匹しきを見ずや。
 屯閃は近代に於て、鋏めて自由の閉と捕す、極めて博愛の閉と耶す、棲めて中和の圃と印す、而
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して其所謂愛国心なる者を見よ.
 英国人が愛国心の大に数揚せし最近の事例は、彼等が沸園との取学富時に如くは莫し、此故事や
一千七百九十三年大革命の際に初めて、爾後多少の断頴ありしと難も、廷て一千∧百十五年那勃参
の覆捜に至つて、大段落を成す、彼等は其時の近きと共に、其思想も亦今日の思想と相距る遠から
ず、彼等の所謂愛国主義も、今日の愛国主義と其流行の事情と方法に於て、決して異なる析なき也.
 俳園との戦争、唯だ此一語此一事あるのみ、其原因の如何を問ふこと勿れ、其結果の如何を譲す
ること勿れ、是が利害を言ふこと勿れ、是が是非を言ふこと勿れ、言へば必ず非愛国者を以て責め
られん、改革の精神や、抗学の心や、批評の念や一時全く休止して、否な休止せしめられて、而し
て国内の貰学は殆ど滑減に庶せり、彼コルリツヂ其人の如きすら、教学の初年之を非謙仰せしにも拘
らず、途に戦争が盛民をして一致結合せしめたるの功果を、紳に謝するに至れり、而して硬フオツ
タスの一輩が、其平和と自由の主義を支持する漁らず、譲合の大勢回す可らざるを知て場に列する
なかりしが如きは、即ち之れ有りと錐も、而も議場は一の溝蔽的討論を見ざるに至れり、鴫呼革国
一致、鹿馬詩人の所謂「唯だ国家の薦め耳」、我日本の政治家策士が喜んでロにする析の盤由〓致、
盛なる哉.
     大逆無混線
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然れども思へ、此時英国民を奉げて、其脹中何の慧篭る乎、何の徳義有る乎、何の「国家」有
る乎、何の同情有る乎。
彼れ英国民を挙げて、狂せる英国民を奉げて有る所の者は、唯だ併鴎に封する檜悪耳、唯だ革命
に対する檜悪耳、唯だ郡勃霧に射する櫓惑耳に非ずや、筍くも一毒草命的精神若くは沸人の慧還
開柳するの思想有らんか、彼等ほ膏に之を殊忌するのみに非らずして、競ふて之を侮辱せるに非ず
や、曹に之を侮辱するのみに非らず群起して之を攻撃し、之が虞罰に全力を注げるに非ずや、是に
於てか知る、愛菌主義の最高潮ほ内治に於ける罪悪の最高潮を意味することを、彼等愛国狂は即ち
取牢の問大に蜃越せる愛留心が、戦後に於て果して何の状を現するかを見んと要す.

        七

 想起す、故森m思軒氏が一文を草して、黄海の亜濃は重に非ずと挽くや、天下皆な彼を薫るに国
賊を以てしたりき、久米図式氏が紳潰ほ祭天の古俗也と論ずるや、其教捜の職を兎ぜられたりき、
西国寺侯が所謂世界主義に依準せんとするや、其文相の地位を殆くしたりき、内村寧一元が勅語の
踵拝を盤むや、其枚長の職を兎ぜられたりき・尾崎行雄氏か共和竺享をロにするや、其大臣の職
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を兎ぜら九たりき、彼等皆大不敬を以て罵られき、非愛国者を以て罪せられき、是れ我大日本帝国
国民の愛園心の蜃現也】
 閻民の愛国心は、一旦其好む所に件ふや、人のロを籍する也、人の肘を製する也、人の思想をす
らも束縛する也、人の信仰にすらも干渉する也、歴史の論評をも禁じ得る也、理学の講究をも妨げ
得る也、絶ての科窄も坪破することを得る也、文明は之を祉辱とす、而も愛国心は之を柴審とし功
ク¶とする山.
                                                、
 怪しむなき也、日本の愛国心の沓現如此くなるや、彼文明、中称、自由の宗たる英国すらも、其
「拳固一致」して備閉と戦ふや、自由を唱ふる者、改革を請願する者、普通選畢を主唱する者、皆
                 ヽ
な叛逆を以て問はれし忙非ずや、園賊を以て責られしに非ずや.
 而して更に戟後に於ける英国を見よ、俳園に封する憎悪の狂熱梢や冷かなると共に、軍費の支出
は停止せり、大陸諸国か現役中其工業界の擾乱せるが為めに特に英国に仰ぎたるの需用ほ停止せり、
茶園の工業及び農業は忽焉として一大不景気に陥れり、次で来る者ほ下居大多敷人民の窮乏なりき
飢餓なりき、此時に於て彼れ富豪資本家は果して一郎の愛国心猶は存せし乎、彼等は果して一片の
蕪怨同情の倉掛ほ存せし乎、彼等は共同胞の窮乏飢餓して溝肇に持ずるを見ること、宛も仇敵の如
     大逆無道辞
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くなりし完ずや、彼等が下層の真宗苧るは、票に沸翼命及び郡勃翁を雷に勝りしに
あらずや.
彼べ−クルローの事に至つては、切歯に堪たり、彼等は郡勃希の軍吾オートルロ1に覆へして、
未だ久しきを讐るに、議院改革を要求して、べ−ト〜フイー〜ドに集合せる多敷の勢働者を悪
し虐殺せるに非ずや、時人ウォヱルローの戟に比して、冷語して・ヘートルロ呈呼童、是れ也、
ウォートルローに撃姦れるの愛署は、今や毒してべ−ト〜ローに其同胞を虐苧、愛慧
てふ者は席に其同胞を写るの心なる耶、所謂表せる愛慧、誓せる愛慧は征撃たび了れ
ば、要因民に於て何の利益をか輿ふるや、蓋鉢は直ちに同胞の血毒めん与.
 コルリツヂは警の薦めに国民の一致を紳に彗り、然れども此に至て表なる差して何析に
菅や、檜琴心は貰を生むのみ、敵園を雷の心は雲に笑を悼むの心のみ、ウォートルP
−の心は直ちにべ−トルローの心のみ、虚偽たる哉愛国心の結合や.

    ∧
 妬く英誓去て、眼姦逸に表せ上、彗ス了ク公は芝愛国紳の権化也、濁薫慧芝
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愛閥仲垂迩の詣場也、愛園宗の革琴か如何に嬢然約然たるかを知らんと欲せは、一たび此荘場に詣
せざる可ら‖ず.
 我日本の貴族軍人学者を始めとして、凡そ世界萬園の食間主義者、帝閑主義者が福富渇仰して措
かざる濁逸の愛国心は、古代希騰や尾馬や及び近代英国の密閉心に比して如何、果して迷信ならざ
る乎、虚誇虚栄ならざる乎。
 故ピスマーク公は是に歴代の人蒙也、彼の未だ起たざるに濡てや、紛然として分立せる北部日耳
鼻の講園は、同一言語の国民は必ず結合す可しと馬せる帝国主義者の眼光より之を見ば、晋に憫む
に堪たる者なりき、而して偉く是等諸園を打て一九とせるビスマーク公の大業は、其光輝を千載に
               ヽ
放てり、然れども知らざる可らず、帝圃主義者が諸周を結合統一するの目的は、之に依て晋際に講
閻の中和的利益を箕ふに非ずして、唯だ其兵力の必要より生じ来れる者なるを.
 彼の早く自由平等の理義を阻囁して、沸園革命の壮漑を羨望せるの人士に在ては、其鱗敏の学
ひを止めて協同中和の福利を受け、且〔唯だ外敵侵完を防梁するが薦めに、日耳鼻の結合統一を企
望する有りしや明らか也、是れ甚だ可也、然れども晋際の歴史は決して此種の企望の馬めにせぎり
しを奈付せん。
     大逆無正録
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若し日耳鼻統宗屠に北部日耳鼻藷鼠の利益の馬めにすと言はゞ、彼等何ぞ更に猫逸語を話する
の襖太利と結合するを放てせざりしや、而も之を為さゞる所以の著は他なし、ピス了ク公表の
慧蒜決してプラザーフードの隆情実意に在らぎれは也、中和の頑利に在らざれば也、唯だ普魯傍
白身の権勢と欒光に在りたれは也.
夫れ徹頭徽尾好戦の心を満足するの手段として、結合提兢を求むるは、是れ人の常性也、甲の朋
友たるほ乙の仇敵たるか故也、彼を愛するは此を悼むが薦め也、彼が外国てふ念慮を努するは、兆
安寧を欲するか為めに非ずして、其覇構を誇務せんと欲して也、俊才ビスマーク公は砲く這個の人
情に映通せり、彼は脊に此動物的天性を利用して其手兢を揮ひ来れる也、換言すれば、彼は国民の
盤同心を塙掃せんが薦めに敵国と戟へる也.
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彼九日耳鼻の統妄、獣力のアポストル、践血政策の帆師は、如此く忙して、其希望せる愛璽ポ
を建立せんが薦めに、且つ自家に反対する語意の理義許論を歴代せんが薦めに、如揃の歌学を焔超
せる也.
 徒は其深謀通計の第一着手として恵まに最勒の隣邦と敬へり、而して之に涛つや被れの国人中、
迷信、虚螢、獣カを愛するの徒は競ふて彼の賃輿と馬れり、走れせに新濁革帯圃の結合、及び新濁
過食閉主義の頚捏たりし也.
 第二に彼ほ他の隣邦に向つて挑戦せり、此昧邦や耐の隣邦よりも強かりき、然れども彼は官に敵
の傭へ完からざるに乗ぜし也、而して所謂愛盟丁心と所謂結合の枯紳は、油然として此新戦場より隆
興せり、而して其運動ほ一にビスマーク公白身の園なる普魯西と及び普魯西閻王の膨脹の馬めに、
巧みに利用され、妙に指揮せられたる也.
 彼は決して純平たる正義の意味に於て、北日耳鼻の結合を企つる者に非ず、彼は決して普魯西て
ふ一物を、結合の中に鋒化し凄減することを許さゞる也、彼の許す研は唯だ普魯西を盟壬と馬すの
                カーt ル
統一のみ、唯だ普魯西国王をして濁準帝の柴光を冠せしむるの統一のみ、誰か言ふ、北日耳鼻統一
は周民的運動也と、彼等間民が虎持と迷信の結果なる督園心は、全く一人の功名の薦めに利用され
たる膚に非ずや。
 ビスマークの理相仙や背に中古時代の理相サたるを免れず、而して破か其の陳腐野堕の計毒にして、
権く成功するを得たる所以の者は、多数人が道徳的に心理的に猶ほ中古時代の境域を祝せざるが馬
     大逆細川逆g
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めのみ、然かり彼等の道徳は中古の道徳也、彼等の心性は中古の心性也、唯だ彼等自ら欺き人を欺
かんが蔑めに、近世料聾の外皮を以て掩蔽せるのみ。
彼や無用の師を起す二回、能く舵功せり、而して第三回の師を起さんが患めに、琴々として銃を
賽ひ耽三して義を待てり、壊は到れり、彼は再び他の隣邦の傭の完からざるに乗ぜり、鴫呼普
沸簡雪此戟や危道の最も危なる者、此兵や兇器の尤も兇なる者、而も彼れに在ては大成功.
普悌慧丁は背に彼をして、普魯西の↑に菩口蓑諸国を結合せしめたり、同盟許圃をし三替に
普魯西国王輝逸皇帝を拳誓しめ昔、普魯西国王の馬め也、ビスマークの眼中唯だ之れ有るのみ、
同盟同氏の編利は曾て之れ無き也.
故に我は断ず、濁逸の結合は、正義なる好意同情に由るに非ざる也、敵国に封する憎悪の心の頗
揚されしに山るのみ取勝の虚栄に醇へるに由るのみ、是れ大人君子の輿する所たる乎.
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濁逸醒民は、背に魔の山を臨へ血の流を捗ること、驚鳥の如く野獣の如く、以て軍備的及び政治
的統姦合てふ彼岸に逢せり、濁逸各国の薦めに非ずして、唯が普魯西国王の患めに、唯だビスマ
ーク公の馬めに、名脊ある彼岸なる故.
 而して彼等国民の多数ほ自ら持て以為らく、我猫逸威民が天の滝蛋を享くる、世界各国執か能く
企及する著有らんやと、世界各国の人民の多数も亦蕉歎して日く、俸なる哉園を為す者宜しく如此
くなる可き也、日本の大勤位侯爵も亦樋書して日く、希くは我も亦東洋のビスマーク公たらんと、
従来英国の立憲政治が世界に有せる光螢は、忽焉として去て普魯西軍隊の創備に移れり.
 園氏が園成国光の虚栄に酔ふは、檜ほ箇人のブランデーに酔ふが如し、彼れ既に酔ふ、眼昧み耳
熟して気捷らに揚る、屍山を放て其惨なるを見ざる也、血河を捗りて其醜なるを知らざる也、昂然
として得意なるを怪しまぎれ.
 国民が武力優れて教師に長ぜりとの名筆は、柔術家の免許皆侍を得たると何の異なる所ある乎、
カ七の横綱を張ると何の異なる析ある乎.
 柔術家や力士や敵手を覆すのみ、敵手なくして何の利金ある平何の名著ある乎、猫逸国民の誇り
は唯だ敢裔を艇するのみ、戦争なくして何の利金ある平何の名著ある平、柔術家と力士かプラソデ
ーに酔て、共技能と力量を誇らば、人は更に彼等の撃破、才智、徳行を信ずべき乎、園民が戦争の
虞紫に酔て其名審功績を誇らは、他の国民は更に彼等の政治超済、教育に於ける文明的頑利を輿ふ
     大逆無道錠
31

るを信ずべき乎、濁逸の理寧は薫すべし、雲の文筆は妄すべし、而も枕は濁逸の所謂芸心
を賛美せじ。
ビスマーク公の補佐せる皇帝や、ピスマーク公彼自身や皆な既に鹿史の人となれり、然れども銭
血の主義は尚ほ皇帝の頭↓に宿九り、愛票プラソヂ1は倫ほ豊帝姦しめたり、豊帝の教
学を好み、歴制を好み、虚名を好むや、芝那勃竺世に過く更に芝郡勤彗直に過く窯
たる大貫は今に於て、倫ほ、血を以て騰へる誓統一三名の↑に、此年少茹家の雲に豊
年使に甘んじつ1ある也、而して所謂愛慧は何ほ甚だ墟也、然れども是れ釜に歪の現象なら・ん
哉.
見よ、愛慧の笠は既に篭に彗り、マクべスの暴虐讐るの時に、森林の撃て普来れ
るが如く、警べき強敵は霊土を警来れるに非ずや、豊敢や迷信的に非ず、理論的也、中古
的に非ず近世的也、征熱的に非ず、組織的也、而し嘉島や彼愛票及び愛票の雪る薫を
轟く破壊するに在り、之を名けて牡曾主義と云ふ.
 舌代の撃野的にし三つ狂顕的なる愛寧王義が再び近代文明の墓なる道義理琴を歴伏し去るこ
と、酒ほビス了ク公富時の如くなるを得るやは、二十世紀姦て決すべし、而も猫逸の革骨董
32


          rl l
の隠然として勃興し、愛園主義に向つて敦烈なる抵抗を薦すを見ば、如何に戦勝の虚発と敵国の恰
悪とより煽揚したる食園心が、一宅園民相互の同情博愛に表する所なきを知る可らずやゥ
     ヒロソ七ツク                        丁、ノフーPノしツク
呼嗟棲めて理蟹的なる園民をして、各種の政治的理想中、極めて非理嬰的なる事態を演ぜしめた
るはビスマーク公の大罪也、ビスマーク公著し放つせば、狩り礪逸のみならず、碍逸を宗とせる敵
洲列国の理学、文撃、美術、道徳は如何に進歩し、如何の高命なる可かりしぞ、昂んぞ猫々相食む
財狼の態を存せんや.


       十一

 日本の皇帝は、環逸q年少皇帝と異なり、教学を好まずして、平和を重んじ玉ふ、歴制を好まず
して、自由を重んし玉ふ、一国の薦めに野蟄なる虚柴を菩はずして、世界の薦めに文明の頑利を希
ひ玉ふ、決して今の折謂愛囲主義者、帝国主義者に在らせられざるに似たり、焦れども我日本人民
は、所謂愛国者ならざる者、蓼々として農星也。
 我は断じて古今東西の愛国主義、唯だ故人を檜悪し討伐するの時に於てのみ蜃湯する所の愛国心
を賛美すること能はざるが故に、亦た日本人民の愛国心を排せざる能はず.
     大逆無題簸
33

故後藤伯は、雪一たび日本人民の愛慧の煽誓慧て、国家の「危差亡」の秋なることを
呼翌り、天下愛国の土豪として之に誓、草の凰に竿か如くなりき、而して伯は廟廊に曳触
せり、大同貰に消え妄夢と表也、富時日本人民の愛国心三者は、蓑愛拍心に非ざりし耶、
非耶.
否な後藤伯姦するに非ぎる也、藩閥政府を憎めば也、彼等の愛国の心ほ情意の心也、同舟凰に
逢へば呉越も兄弟たり、此呉越や豊に賛歌を値ひする者ある乎。
日本人の愛慧ほ、征清の役に至り差額越蓑を棲むる、警官去らざりき、等か満人を
侮菅嫉祝し檜苧る言の形容すべきなし、白髪の歪竜一二尺の嬰孜量る蔓警清霊位
の生箸殺し放して後ち甘心せんとするの概ありき、慧にして想ひ見よ、寧ろ狂に彗ずや、寧
ろ群羊を解るの猛虎に類せずや、然り野獣に観せずや。
彼等は果して日本の票及ひ票全髄の幸彗希ふの心あつて然りし辛、我国家及び国民に苧
る眞個相燐同情の念あつて然りし乎、唯だ故人を苧の多きを快とせしのみ、敵の警奪ひ、敵の
地を割くの多きを快とせしのみ、我獣力の卓越せるを世界に誇らんと欲せしのみ、豊上の師を出
し玉ひしは淘と芸人の雲剰紆是れ警戒簑れ警んが雲なりしならん、泡に世界中和の爵
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め人道の薦め正義の薦めなりしならん而も如何せん之が馬め煽起せられたる愛園心の本質は、情意
也、侮蔑也、虚誇也、日清戦争の功果を以て、如何に国民全般の有形無形の頑利を増進せしむ可き
乎に至りては、一竜も想ひ及ばざりし研に非ずや.
一面に於て五百金千金を地兵部に厳ぜるの富豪は、一面に於て兵士に販るに砂裸を混ずるの箱詰
を以てす一面に於て死を期すと璃するの軍人は、一面に於て商人の賄賂を収むること算なし、之を
名けて愛国心といふ、怪しむ勿き也、敵人を殺し敵人の地と財を奪ふを快とするの心は直ちに共同
胞の尊属を等ふの心なれば也、野獣的殺伐の天性が其熱狂を棲むるの時、多くの罪悪の行はるゝは
必至の勢ひなれば也、我れ故に日く、所謂愛園心は決して人道と相容れざる者也、決して側障同情
と相容れぎる者也、是れ堂に我皇上の大御心ならんや.

       十二

 日本の軍人は皆尊王忠義の備に富めり、皆な愛国の心に富めり、然れども彼等の尊王忠義の情と、
愛国の心が、融合文明の進歩、国民頑利の檜加に於て、果して幾何の貢献する所あるやは問題也・
園匪の乱、太治より天洋に至る道路線香忙して我軍甚だ和む、一兵卒泣て日く、我呈上の薦めに ぉ
     大逆無邁費

非ずんは、此讐違へんよりは寧ろ死する芸かずと、開く者涙を警ゞる差し、驚亦之か
薦めに泣く。
可憐の莞、我は役か皇↓の薦めと云ふて、正義の薦め人道の薦め同胞国民の苧二軍言責
めざる可し、彼や年生彼の妄の唯だ呈上に挿ぐ可きこと姦訓せられて、其他を知らぎる也、天
下呈上の天下也と教訓せられ完他宗ら羞也、スパ〜タの新は自由有るを知らず、鮮利あ
るを知らず、幸驚を知らず、豊の爵めに窺讐れ鞭誉れ而して戦に赴毒す、敬に柁革ん
ば即ち其主に殻警る、自ら誇て以驚く慧の慧也と、我は史を慧で常に彼等の慧に泣け
り、今比心を以て亦我兵士の為めに泣く.
然れども今はスパルタの時代に非ず、我皇↓は自由と中和と人誉重んじ玉ふ、貴に共臣千をし
てへロットたらしむるを希ひ玉はんや、我は信ず、翼士が皇↓の馬めと言ふょりは、寧ろ進んで
人道正義の雲と吉はしめは、是れ皇1の荒し玉ふ所なるを是れ、焉聖忠義の目的に合する
者なることをレ
 父貫弟を救はんが慧に、或は盗を苧者有り、或は娼婦となる者有り、身を殆くし名を汚し、
建て其父母兄弟家門を累するに至る、中古以前忙は之を藁せり、十九世紀時代芸ては、唯だ共
36
心新を哀しみ、其愚を憫れむも、而も決して其非行を恕せさる也、忠義の心や苧し、呈上の薦めや
善し、而も正義と人山寧こは裁か知る所に非ずと言ほゞ、是れ野史的迷信的忠義也、何ぞ彼娠嬬的盗
械的孝子と異ならん。
 我は哀しむ、我軍人の忠義の情と愛国の念が、未だ甚だ文明高歯の即想と合せざる有るを、浄ほ
甚だ中古以前の思想を晩する能はざる有るを.
 我軍人、皇上の薦め国家の薦めと云ふに至つて、其熱情主に彼一丘ハ宰に盛らんや、而も彼等は同
他人類の薦めてふ同情ほ、絶て之れ無きに収たり、北清の役に於ける新給L者冷遇の仙事に見よ、
是れ梨有力なる例紆也。


       十lニ

 我渾人が従軍記者を遺するや、共冷酷を極めたりき、記者の食なきを省みさりき、記者の宿する
に家なきを省みさりき、記者の病めるを省みさりき、其生命の危険なるを省みざりき、日く挙れ我
関する所に非ザと、而して之を嘲果し之を叱斥する、恰も奴傍の如くなりき、恰も敵人の如くなり
き。

     大逆無道鐘
37

軍人は国家の薦めに敬ふと云ふ、従軍記者も亦我国家の一人に非ずや、同胞同氏の一人に非ずや、
而も之を愛護するの念なき何ぞ如此きや、彼等の所謂国家とは、唯だ皇上のみ、唯だ軍人あるのみ、
其他を知らざれば也.
我四千萬衆ほ簡を引て改革の安危如何を知らんと委し、足を琴て、我軍の勝敗如何を開かんと望
む、従軍の記者が、矢石を胃し死生の途に出入する者、豊に唯だ其新聞紙邪教の加倍するにのみ在
らんや、彼等は青に我四千萬国民の渇想の情を満足せしめんが薦めに非ずや、而も我軍人は之を以
て無用となせり、彼等が四千萬国民に封する一郎の同情なきを知る可からずや.
封建時代の武士は、園家を以て武士の国家也とせり、政治を以て武士の政治とせり、泉南工人民
は之に輿かるの樺利なく、又義務なしとせり、今の軍人も亦国家を以て、呈上及び軍人の国家也と
せり、彼等は国家を愛すと云ふと錐も、其眼中にほ革て軍人以外の国民なき也、故に知る、愛国心
の蜃揚は、敵人に封する博悪を加ふることを得るも、決して同胞に封する愛情を加ふる薯に非ざる
を.
 国民の膏血を絞りて、軍備を嬢張し、生産的資本を散じて不生産的に清廉せしめ、物慣の舵昂を
敦成して、輸入の超過を来さしむ、彼等軍人は日く是れ国家の薦め也と、然れども是れ同胞国民に

何の利する有る平、愛鼠心蚤揚の結果は租母しき哉.
 彼等多く敢人を殺し、多くの敵人の地と財とを割取せり、而して日く是れ園家の馬め也と、然れ
ども是れ同胞国民に何の利する析ある平、政府の歳計は之が薦めに二億三倍せり、四千萬閑民の富
と幸福は幾何を加へ得たる平、愛閻心蜃揚の結果は頼母しき哉.
 国民の専祭事編は、軍艦、銃砲、勅軍の故に在らずして、同氏道徳の程度に在り、人が園民全髄
杜合全墟を愛念すること空身を愛念するが如くならずして、唯だ動物的天性、獣カの誇揚に之れ
努むるが如くんば、其園民道徳の程度は帥ち野獣の程度のみ、唯だ相喰むのみ、何の一致ぞ何の結
合ぞ。
 今や我園、軍艦、銃砲及び彼赫灼燦爛たる動葦の敷は、園民財蛮の容積と反比例に塘如しっゝあ
るを見ずや、賀すべき乎清た弔すべき乎.


       十四

 野獣は常に其犠牲を求て噌嘩す、野獣的天性を脱する能はざる彼等愛国者も、亦其好戦心を鶴亀
せしめんが薦めに、常に犠牲を求めて休まず、彼等常に外患を防禦せんと欲す、外患の防禦すべき
     大逆無道鐘
39

なくんば、則ち常に敵翌征翌んと欲す、敵国の征学べきなくんば、翼同胞姦苧.
著し工あり、曽我氏復仇の事に著して之毒ばんと欲し、慧に要の警れんことを希へ
りと、愛国心の壮なる之に似たる有り.
蓋し愛慧の流行は彗ストの流行の如し、前世紀の末年健筆命の大清潔法は敵州の天地を掃
除して、一たび澄渡に辞し、爾後英竺十二年の翼法改革や、俳園苧∧年の革命や、伊太利の
統責皆な此時疫を防苧る所以完ざるなしと錐、而かも其間、那勃竿メチルニヒや、ビ
ス了クの、交々此病菌姦布する有りしが為汽更に今日の霊宗して、苛くも世界の張誓
構する者、皆其流行地たらざるはなし。
愛国的ペストは、特り功名に薫るの軍人や、血雲胃瞼警、纂なるオツポーチ三ハトの
之に繁るのみならずして、学力あり智撃のる文士、詩人、署と鉦も少しく慧偶の慧なる
者は、亦た皆な之に確りて慧州還殆ど慧り表園のキツブリソグ君、ヘソレー君の響歪と
 なす。
 彼等は野獣的好慧の其内所妄むるを見毒羊し岩く、震の光霊、国民的纂の喚起也、
偉人の勤業也、誰か七シ〜ロ1りの我英国に生る1を誇らざる、慧キツチエネルの功演を崇はぎ
40
る、一は我帝国の馬に数千萬哩の版問を鳩くせり、一はカーツームの悶堵を雪ぎ蟹野猪狩の俗に代
ふるに文明中和を以てせりと、鳴呼是れ彼等愛国者、帝国主義著の大理想にして、世界常園の仰望
を欽羨する所也。
 喬園主義者が果して盗人を討伐し放滅して文明平和の治を布くに在りとせば帝閏の由て立つ所以
の活力生命は、具持増する、唯だ蟹人の存在の期間のえ、恕夫の生計ほ、唯だ兆附近の山野に鳥獣
の蛮走するの問のみ。
 南阿全く平定するに至らは、ローヅは更に何の塵にか他の南阿を求めんとするか、スータソ眈に
征服せはキツチエネルは更に何の虞にか他のスdタソを求めんとするか、若し討伐し洩滅すべきの
蟹人なきに至らば彼等ほ同旗の光発を`ふ也、国民的〓H崩仙はけ‥減せん也、偉人の勤業ほ求む可らぎ
る也、果敢なき著は帝園主義の前途也、滑ては結ぶ、泡沫と異ならずや。
 唯だ大言壮語を以て、国民好戦の心を煽起する、キノブリソグ君、ヘソレI君の思相他の、我は其
甚だ見戯に徹するを見る、眞個融合文明の進歩と一帖利を希ふ者、決して如此くなる可らざる也。
d、ノ
41
大逆撫遊録

      十五
我は以上詮き来れる所に依て、所謂・ハトリオチズム、帥ち愛国主義若くは愛寧心の何物たるかを、
略ぽ解するを得たりと信ず、彼は野獣的天性也、迷信也、狂熱也、虚誇也、好戦の心也、背に如此
き也.
言ふこと勿れ、是れ人間自然の性情忙して、之れ有る途に已むを得ざる也と、思へ自然より蜃生
し来れる弊葦を矯むること、是れ正に人類進歩の目的に非ずや.
 水は停滞して動かざる久しきを経れば腐敗す、是れ白熱也、之を流動せしめ疏通せしめて以て其
腐敗を防ぐは、即ち自然に件ふとなして杏む可き乎、人の老裳して疾病に罷るは自然也、之に築を
投ずるは、自然に件ふとなして責む可き乎.
 禽獣や魚介や草木や、其生る1や自然に委す、其死するや自然に要す、共進化し若くは退化する、
亦た自ら之を為すに非ずして唯だ自然に委するのみ、人の自然に隠ふを以て能事畢ると為さば、直
ちに禽獣、魚介、草木のみ、人たるに在らんや.
 人は自ら誉て自然の璧やを矯正するが薦めに、進歩有る也、尤も多く自然の慾情を制度するの人
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民は、是れ尤も多く道徳の進歩せる人民也、天然物に向つて尤も多くの人工を如へたるの人民は、
足れ物質の尤も多く進歩せるの人民也.文明の蒔利を享けんと欲する者は、管に自然に盲従せざら
んことを要す.
                                       トルース
 故に知れ、迷信を去て智誠に就き、狂熱を去て理義に就き、虚誇を去て眞菅に就き、好戦の心を
去て博愛の心に就く、是れ人類進歩の大道なることを、而して能く如此く忙して、初めて高尚の同
氏たるを得べきことを。
 故に知れ、彼の野獣的天性を逸脱すること能はずして、今の所謂愛国心に串使せらるゝ者は、其
品性の汚下栖劣なる、決して文明国民を以て構す可らざる者なることを。
 故に知れ、政治を以て愛国心の犠牲となし、教育を以て愛国心の犠牲となし、商工業を以て愛国
心の蟻牲と鶉さんと努むるの愛園者は、是れ文明の賊也、進歩の敵也、世界人類の罪人たることを、
彼等は十九世紀中東に於て、lたび奴隷の域より脱出せる多数の人類を、謬妄なる愛園心の名の下
に、再び奴隷の威に沈論せしむるのみならず、更に野獣の境に・までも臓臍せんとする者なることを.
 故に我は漸ず、文明人民の正義人壇は決して愛国心の抜盾を許す可らず、必ずや之を苅険し轟さ
ぎる可らず.

     大逆無道蝕
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;ノ′ \

                              lり ク リ一′ ム
 而も如何せん、此卑しむべき愛国心ほ、今や香して軍備主義となり、帝国主義となつて、全世界
に流行す、我は以下、更に.軍備主義の如何に世界の文明を淑威し人類の辛l帽を阻害するかを陳祝す
る研なきを得ず。
             (「千代田毎夕」、明治三十三牢十一月二十四日〜十二円十五臼、亦無三撃人)
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刀尋段段録
                lワタ リ メ ▲
 此文、大逆無道鏡の稀を績ぎ、軍備主義を破して段々と為さんと欲す慄頓を更るは論鮎の一歩を
進むるに起るの好事、而して刀尋段段は普門晶の「念彼観音カ、刀尋段段壌」の句に取る也.
 好戦的愛国心、虚誇的愛国心の流行は凝て軍備の嬢張となれり、而して軍備按張の流行愈盛んな
る前古比なく、殆ど其極に達せり.
 今や列国が軍備の鳥めに喝轟する所の精力や、滑廃する所の財富や、勝て計量す可らず、夫れ軍
備を以て果して尋常の外患苦くば内乱を防禁するの具となすに止まらん乎、何そ必しも如此く夫れ
甚しきを要せんや、彼等が有形的に無形的に一国を奉げて軍備凍張の犠牲と窺し毒して、而も猶ほ
省みぎらんとする、其原由と目的は、防禦以外に在らざる可らず、保護以外に在らざる可らず。
 然り軍備旗張を促進するの田由は別に在る有り、他なし一種の狂熱のみ、一種の虚柴虚誇の心の
み、但だ武人の好事にして多く噂略を弄するが薦めにするも亦之れ有り、武器糧食其他の軍需を供
     刀尋段段毎叩
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