富家兼併の■筈


物質的開化の進歩に伴ふて貧富の懸隔愈ミ甚だしく富豪兼併の弊ハ到る
所に其勢力を遣うせんとす必ずや久しからずして牡曾主義の我圃内に勃
 興するに至らんか優勝劣敗弱肉強食ハ天地自然の理勢にして杜曾主義の
                                     そ
到底世に容る1能はざるハ敢て怪むに足らずと維も既に人類が国家を組
 し上ノヽ
織し杜曾を形成する以上ハ英国家若くハ政令生存の為め多少天然の理法
 を矯め以て人類生存の造を講ぜざるぺからず是に於てか奉西諸国に在て
  つと
 ハ夙に其方法を講究して怠らずと錐も未だ其良法を餞見する能はず年々
 歳々富豪の践底に苦み杜曾主義の魚めに動揺を発かれざるなり個人主義
 を基礎として之に由て秩序的に饅達し来りたる黍西諸国に於てすら之が
 為に煩悶する頗る甚だしきものあり況んや我国の如き根本より英数達を
 異にし特に挽近欧風の進入に由り我圃在来の秩序を破壊し夫の忌むぺき
 拝金思想の磯達ハ更に此弊害を急激ならしむるの傾向あるや余輩の痛歎
 忙堪へざる所なりとす
  カ
 大の錬毒事件騒動の如き畢責するに富豪と細民との衝突にして所謂牡曾
 主義の萌芽と稀するを得ぺし然れども貧富の衝突ハ到る所に存在せざる
 ハなく章にして未だ公然爆饅せざるのみ今にして汲め備ふる所なくんバ
             はつさく
 此の如き騒動の接踵して態作せざらんと欲するも亦得ぺからざるなり若
                          き
 し夫れ富豪共著にして其利益の幾分を割き以て細民をして各其虞を得せ
 しむるの念慮あらしめ.ハ両者の閉園滑の一関係を持績し以で殖産興業の利
 を挙げて国家を益するハ蓋し難きにあらざるなり然れども彼等が自家の
 営利に急なる往々細民を苦めて顧みず甚だしきハ自家の事業の虜めに他
 人の生計を奪ひ昔て之を償ふことを為さず此の如くにして細民の怨を買
 ひ騒擾を惹起せざらしめんと欲するも得ぺけんや厳ふに富豪の兼併を矯
 正し牡曾主義の餞生を防止するハ唯国家的思想と徳義の観念とあるのみ
               いとま      はい
 然れども私利の外他を願るに追あらざる富豪の輩若くハ無智蒙昧の細民
 に封して此等の思想を鼓吹するも殆んど英資益を渦%能はざるぺしと雉
 も之を放棄して願る所なくんバ両者共に不利益を蒙り延て国家の資力を
 減殺するに至らん是余輩が国家の為め之を言はざらんと欲するも得ぺか
                                  めぐ
 らざるなり細民の徒ハ暫く措て論ぜず富豪の徒にして少しく細民を他ん
 で共に利益を分つの観念あらバ濁り自家目前の危険を兎る1を得るのみ
 ならず粂て永遠の利益を享受するを得ぺく国家も亦由て以て英資力を増
 加することを得ぺし之に反し伶今日の陪態を改むる能はずんバ自家の困
 厄を招く宣膏に錬毒事件の比に止まらんや特に内地雑居の期既に近きに
               .ぎん止りき
 あれバ横敏なる外人が我の雰隙に乗じ有利なる事業ハ悉く之を我邦人の
                                こゝ
 手より奪ふの危険なきを期すぺからず想て此に至れバ富豪兼併の音ハ濁
 り社曾ま義の磯生のみに止らざるなり立案心に堪ゆぺけんや
 此弊菩ハ膏に賞美祀曾に於てのみ然るにあらず政治政令に於ても亦然り
                          ひたすら
 政治を以て自ら任ずる者も多くハ国家的観念なく只管私利に汲々として
 徳義節操ハ固より救世済民の何物たるを知らず政令の上流に立ち国家の
 重きを為す者眈に此の如し其他ハ推して知るぺきのみ今にして警醒する
            あか〕ツ ッ ト
 所なくんバ国家ハ悉く赤毛布達を以て充満するに至らん岩音に錬毒事件
 のみならんや筍くも済民の志を抱く者此際大に注意する所なくん.ハあら
  ざるなhソ
                  (明治三十年四月八日「東京朝日新開」)