文明的鎖国
み な
鎖国主義なるものハ未開の図にのみ行はる1が如くに看傲さる1とハ錐
も退いて考一考せバ窄も一国の体面を保ち英国民たるもの1相互の関係
けいていか・き せめ
上所謂兄弟臆に閲げども外其侮を禦ぐの決心ある場合に於てハ文明園と
構するところに於ても英資行せられつ1あるを見るなり本間題に関して
意見を遮るに先ヰて余輩ハ所謂文明なる文字の深意如何に就き一言せざ
▲一〃
るを得ざるなり大の自ら構して文明と為し他を顧みて未開若くハ野撃と
乾稗するものも彼等自身の唱道する徳義なるものを標準として之を律せ
・あひかな
バ果して能く英名資相副ひ得るや香や是益し一の疑問たるを免れざるな
り彼等の本尊とする聖書の所謂汝の敵を愛せょとの一語ハ果して箕行せ
られつ〜あるや香や余輩を以て之を見るに汝の敵ハ姑く置き甚しきに至
りてハ父子兄弟の間に於てすら猶且相季ふの資例の歴々徹すぺきものあ
るなhソ
ぐわと
余輩曾て之を聞く清園に於てハ絶勝なる風景に乏し故に山水の董圏を弄
して以て好奇心を満足せしむるの具となすの習慣あるならんと其官香ハ
余輩の仔細に研究せし所にあらずと錐も少くも其れ或ハ然らんとの同意
を表せざるを得ざるなり此筆法を以て之を推すときハ夫の耶蘇敦の濃厚
なる造味ハ益し己を得ざるに出でたるならん若し此濃厚なる道味を以て
調和するにあらざれバ文明なる文字ハ機械的の旛設の外、人の人たる所
以の造に於て殆ど彼等が夢にだも見る能はざる所ならん赦然るに大の耶
蘇致すら自家の問に於て自然衝突を来し漸次に其勢力を滑磨しっゝある
ハ争ふ可らざるの事茸なりとす此趨勢にて進行したらんにハ彼等の自構
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にんめん
せる文明なるものハ果して如何に奨遷すぺきや極端に之を許すれバ人面
獣心なるものこそ文明の本色なれと稀するまで堕落する.に至らんも亦未
だ知るぺからざるなり故に余輩ハ所謂文明なるものハ単に磯城的の施設
に止まるものと鰐挿せんと欲するなり
ヽ
然らバ則ち残るところハ果して如何所謂優勝劣敗弱肉強食ハ官然の道理
として運命に放任するの外なき歎之を遠くしてハ大の米国に於る清国人
やゝ
の排斥及び動もすれバ本邦人に向つても亦同一の挙動に出でんとするが
如き之を近くしてハ我日本品排斥の如きハ果して如何なる許を下すぺき
赦畢責ずるに自国の利益を保護し自国の障害を防禦せんとするハ彼等の
熱心に力を用ふる所にあらずや其他欧洲諸強国の挙動の如きに至りてハ
曹に退守的の防禦に止まらずして進取的にして而かも退守的鎖国の地位
ひ ゝ
を得んと欲するもの此々皆然らざるなし故に余輩ハ仮に所謂文明なる文
字を用ひて鎖国的精神の決して未開園のみに行はる1にあらざるを澄明
せんと欲するなり夫の耶蘇教の樽愛主義なるもの1皮相に拘泥して其裏
面の観察に眼光を透徹すること能はぎるものを除くの外ハ何人も己に了
解する所あらん たも士
其れ此の如く自国に書ありと認むるに於てハ博愛主義なるものも忽ちに
自愛主義に攣化するの資例眼前に歴々とし余輩の構する如く文明的鎖囲
の本色を現はしつ1あるに拘らず我濁り世界主義を唱道する遂に迂潤の
嘲を免れざるなり彼れの賓情己に此の如し我も亦之に應ずるの決心なか
る可らざるなり文明的鎖国なる文字ハ頗る奇異なるが如くに聞ゆぺけれ
ども今日世界の賓況に皮肉的の観察を下さバ余輩の言の不官にあらざる
を教見すぺきなり
(明治二十九年五月二十七日「東京朝日新開」)