士気の存する所


 現今我邦に於て世上一般に政令が腐敗せる茎気を以て満たさる、ことを
喋々するハ新聞紙に絶えず掲出せらるゝところの現象を見て知るぺきな
 り余輩ハ斯る不群の事賓が現存して不潔なる文字を用ひざるを得ざるを
歎ぜずんバあらざるなり然れども又た丁万に於てハ此等の事質を以て政
令の問題と為し之に制裁を加へんとするもの1存在せる間ハ一国の元気
 を維持する上に於て猶一績の望なしと為さゞるなり而して又之れのみに
 満足すること能はざるものなきにあらず何となれバ人の失徳非行を挙げ
 て之を攻撃するものも亦往々おめて之れに傲ふが如き場合甚だ少からざ
 れバなり香な或場合に於てハ人の失徳非桁を攻撃して却て自家の醜を蔽
          わたくし
 はんとし或ハ自家の私を為さんとするの輩すらなきにあらざるなり其れ
 此の如く所謂政令的の制裁なるものも其標準の頼むに足らざるものあり
               い か ん
 とせバ其れ終に国家の元気を如何せん
 今其れ風俗の鵡敗賄賂の盛に行はるゝが如き何れも我国に於て最も甚し
                              か
 きものあるの説を為すものあれども余輩を以て之を見るに犬の文明富強
 に誇るところの外国に於てハ更に甚しきものあるなり英一例を畢ぐれバ
                      いきぎよ
 欧洲に於ける警察吏の行為の如き箕に言ふを琴フせざるものすら無きに
 非ざるなり制規を犯して逢警罪に鱗る〜が如き場合に於ても僅に些少の
 金鏡を行使して強之を免る〜を得るのみならず却て床護を受くることハ
                       ひ【そか 女 l−へ
 慶ば余輩の耳目に上りしものなり余輩ハ私に以為らく政令の風紀を保持
 するの職に服するもの此の如し其他ハ類推すぺきのみと然れども此の如
 き現象の現存せるに係はらず囲家の元気なるものハ凛として侵すべ払g
 ざるものあるハ甚だ怪しむべきが如しと艶も所謂中等以上の融合を組職
 するところの眞戌なる囲民の元気の甚だ盛なるものありて前に逸るが如
 き小鞋の行亀へ未だ之れを席蝕するに足らぎるに因る腎鑑鬼儲Jj澤・
 余輩の叉h開くところに依れバ外国人の我邦に渡来するもの1第一に注目
                                    おほむ
 するハ我警察の厳格なるにあるなり蓋し我邦の警察官たるものハ率ね士
 族にして夫の封建時代の杢気に養成せられ其職務を守るの習慣頗る厳格
 なりし結果ならん維新以後に於て警察の創設ありしより此の如く封建の
                 つくりいだ
 飴風を引頼ぎ終に一種の峯気を作出して以て今日あるを致したるならん
故に中にハ士族以外より警察官となるものもありと錐も自然此一種の杢
気中に融化せらる1に相違なき也之を要するに兵士ハ勿論警察官たるも
 のハ従前の士族風を持績するに於て其職務の然らざるを得ざらしむるも
 のありと云ふも可ならん故に一歩を進めて之を論ずれバ夫の封建時代の
 士族根性ハ故に存して他の祀合に於てハ却て士気の衰退せる形跡ありと
 云ふも可ならん此鮎より之を考ふるときハ若し我邦の警官たるものにし
 て大の前に述ぺたる文明諸国の響更に於て見るが如き行為ありとせバ余
     ゆ ゝ しき
 輩ハ責に由々敷大事なりと云はんのみ
 恒産あるものハ恒心ありと聞けども大の政商なる新熟字を見るの時代と
 なりてハ恒産あるものと錐も強ち恒心ありとのロジックを應用しがたき
 場合なきにあらざるなり此の如き時勢に際して恒産なきものをして恒心
 あらしめんと欲するも宣其れ得ぺけんや恒産あるものをして恒心を養は
 しむるハ別問題にして余輩ハ此事に就ても屡ば陳べたることあれバ故に
 質せず唯だ今日士気の存するところに就き感ありて此言を為すのみ
                (明治二十六年九月∧日「東京朝日新開」)