美術論落穂集

                   しはく
 道人ハ塊頃中より美術のことに付屡々陳述せし虞ありしが爾来美術の論
 ハ各新開上にも散見する虞少からずして中にハ道人と説を同うするもの
                 しか九ノ
 あり又著るしく反封せるものあり而して其然る所以のものハ此論の複雑
 にして且我国に取りて極めて必要なる問題たるを知るぺきなり果して然


                            たr      の ふ
 らバ再三再四之れを論究するも敢て不一可なかるぺく曹に不可なき而己な
 らず我国の前途につき軟くぺからざるの▲要事たるや菱し疑ひなかるぺし
             せつゥム はこぴ
 況んや遠からず美術孝枝設立の運に合するをや道人の希質する虜ハ脅に
 美術学校の設立に止まらずして命漸次に歩を進めて我一国全体の美術品保
 存及管理の為め新組織の興らんこと此れ也願ふに此事たる質に我国の命
 肱を繋ぎ我国の濁立を表出する魔の精神にして苛も我国民たるものハ一
     ゆるが          しかり
 日も之を忽せにすぺからざる虞也然と錐も近眼者流に在ツてハ深く意を
 此点に注がずして所謂風潮なるものに溺惑し只単に己れを誤るに止まら
 ずして併せて人を誤まるの場合もなきにしもあらず若し是れ等の人物を
 して其勢力を祀合一般に及ぼすことあらしめバ目前の事ハ兎もあれ前途
 容易ならざるの困難を惹き起すに至るや蓋し疑なかるぺし是故に苛も此
 点につき自ら悟る虞あるの人物に於てハ只己れを守るに止まらずして廣
 く此主義を普及せしめ以て社台全体の華南を企囲すぺきハ苛も国民たる
 もの1義務なりと謂はざるを得ず
 このごろ
 頃日某新聞の掲ぐる虞に依れバ西洋の美術を主張するもの1中に於て随
                         そもそ にツはん
 分備見を有するものあるやに見受けらる1なり抑も日本の美術を主張す
          あなが         ことご
 るもの1説なりとて強ちに西洋流のものハ悉とく績斥せよとのことにハ
          た と ひ
 あらざるなり香な慣令之れを漬斥せんと欲するも決して為し得ぺからざ
                                 †で
 ること〜道人ハ信ずるものなり試みに美術の沿革に付て之れを見るも業
 に眈に支那の為めに欒換せられたるの点なきにあらずや勿論支那と日本
 とハ其他のことに於ても親密の関係ある国柄にて其趣きを同うする虞あ
 るハ敢て怪むに足らざるなり故に西洋の風潮の為めに攣化せらる1ハ自
 ら支那の為めに攣化せられたるとハ其趣きを異にする虞あるぺしと錐も
 要するに一旦交通を開きたる以上ハ双方の人民に於エ相互交換する虞あ
                  こ1においてか     カ
 るぺきハ道理上必至の勢ひならん於是乎道人ハ益々大の所謂自主心な
                     この
 るもの1必要を感ずるものにして斯心の存すると存せざるとに由て議論
 の以て南す可く以て北すべき方向を決し得ぺきなり論者も己に云へる如
 く我日本にハ固有の気候地勢人種等有りて何事に限らず之れに准じて一

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             わけあひ
種特別の性質を固有する詳合なれバ日本人にして西洋の美術を修めたら
                                         ご
 んにハ日本風の西洋美術とでも云ふぺき一種特別のもの起らんとハ御
 もツと           わ だうし
尤も千常にして猶ほ古来に和唐紙あると一般ならん然と錐も道人の希望
                           0 0
する虞ハ斯の如き仕方にあらずして所謂油化を要するの必要にあるなり
其滑化すると消化せざるとに依りて自主心の存すると存せざるとを見る
                          せツかく
 に足るなり某論者の如きハ滑化機に狂ひある故にや折角西洋風のものを
                            かも げいご
 呑み食ひすれども兎角滑化し難き形跡ありて遂に迷夢を醸し噴語を吐く
     きた
 の結果を来せるもの1如し道人ハ固より胃病専門の腎者にハあらざれど
 も試に重曹を呈上せんと欲するものなり
                 (明治二十一年二月二十四日「讃膏新開」)