秋夜倦讃誌
27
蕗は槽桐に滴りて秋夜長しと云へる時節となり、閑窓讃書に甚た通して
燈火最も親しむへし、陪巷の窮士は爾かく燈火の下に衰魚と交るも、夫
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
の薪達の君子等は何事を以て此の好時間を滑するか。堵階高き虞に酒池
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
肉林の豪を誇るもの、董簾密なる中に浅酌低唱の興を食るもの、或は贅
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
影欽光相ひ環坐して春ならさるに筏を闘はすもの1如き、是れ皆な吾輩
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
の考量以外に在り。若し夫れ車馬朝より退きて深院に静坐し文書を閲す
0 0 0 ▲U O
るの像に贅を挫りて政府の前途を思ふ者、又は政友と合して次の議曾に
0 0 0 0 0
於ける計量を談し別れ締りて濁り薫汲の後圏を慮る者、此秋夜の長きに
勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺
嘗りては必す時間を利用する所あるへきなり。『秋の夜の長くなるこそ
勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 ℃ ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺
愛てたけれ讃む巷〈の数を轟くして』は是れ
今上の御製に\して聖徳の辱さも文字の外に充溢す、吾輩塵途に営々する
ものは三百六旬唯た夜に入りて閑あるのみ、復何ぞ土曜日曜の暇あらん
や、夜の長きは時の多きに非すと維とも太陽の昇る遅きは賓に天の賜と
いふへし、此の賜に頼て無用の書を讃むは人生の一快事、讃むことを倦
めは則ち感する所を録す、錬する所多くは無用の文字と雄とも、天下固
0 0 0 0
ょり無用の用ありとすれは麦に記する亦無用にはあらじ。
政治を演劇に此するは近来の慣言なり、内閣及ひ譲合は是れ宛然たる舞
茎にして大臣議員の顆は皆な舞茎を踏むの優人なり、主義と構するは以
て外題に官つへく而して政策薫議などいふは是れ筋書なり、演劇は元と
筋書を根原とす故に作者は最も貧し、然りと雄とも政治的演劇は偉人た
る者又た作者を乗ぬ、此を以て批評者が筋書を許するには直に専ら優人
を封手と為さ1るへからす。一夕偶ミユーゴー翁の遺集を讃むに、『マ
リイ、チユドール』といへる僻事の巻首に自ら序したる言あり、其の略
勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ● ● ● ● ● 勺 勺 ● ● ● ● ●
に日く、筋書の法に二つの要訣あり、日く大なること、日く眞なること、
勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺
大は以て群衆を動すへく、眞は以て各人を感せしむ。
勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺
筋書を作るの目的は、技奉の上に諸種の思想を綜配するの外、先つコ
勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ● ● ● ● ● 勺 勺 勺 勺 勺 ∇ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ● ● ● ● ●
ルネイユの如く大なることを求め若くはモリエールの如く眞なること
勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺
を求むるに在り、猶ほ完備を言はゞ、天才ならでは登り得ぬ最高の頂
帥少かい斯いが併が郁ががhいが針がヤ軒が中がかかiかが中が軒
勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 ∇ 勺 勺 ∇ 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺
あることセキスピヤーの如きに達し得ば至れり表せりと謂ふへし。
勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ ℃ 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺
天才はセキスピヤーに賦興せられぬ、其の作は常に大と眞との品格を
勺 勺 ℃ 勺 ∇ ∇ ℃ 勺 勺 ∇ ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺
統一するを以て優る、大と眞とは殆んど相ひ反するもの、少なくとも
L勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 ℃ ℃ 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 ∇ 勺
二者全く相ひ分かるもの、眞なきものは小と為り、大なきもの偽と鳥
勺
る○ …=・
勺 勺 ℃ ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 ∇ ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺
大と眞と此二語は一切を包含す、眞なることは善を含み大なることは
勺 ℃ 勺 ℃
‥芙を含む。
勺 勺 勺 ∇ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ∇ 勺 勺 勺 勺 ∇ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺
余れ宣に敢て此目的を達したりと信せんや、香な此の目的を達し得へ
勺 勺 ∇ ∇ 勺 ∇ 勺 ℃ ℃ ∇ ∇ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ ∇ ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺
しとも信せす、然りと錐とも余の作が今日に至るまで此目的の外に求
勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 ℃ ℃ ∇ ℃ 勺 勺 ℃ 勺 勺 ℃ 勺 勺 ℃ 勺
なかりしを公けに讃したるは世人も認めなんか。===
大なること及ひ眞なることはユーゴーに従へは是れ即ち美と善とを指す
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
なり、大且美なるは老幼男女をして共に賞嘆せしむへく、眞且善なるは
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
智愚邪正をして各ミ感動せしむへし、不充分なれとも先つ之を日本の史
跡に徹して政事家の行為に覿ん。
勺 勺 勺 勺 勺 ℃
織田信長が戦国兵乱の際に在りて皇室を尊みたるは眞且善に近し、豊臣
勺 ℃
秀吉が群雄割操の時に於て朝鮮を討ちたるは大且実に似たり、信長を諭
する者は人各ミ見を異にし、秀吉を許する者は其の偉固を構する殆んど
勺 勺 勺 ℃
衆口同音なり、徳川家康の如きに至ては天下を一統して永く君民を安ん
じぬる、其の政績は大にして且つ眞なるに庶幾しと謂ふへし。
信長はモリヱールなり、秀吉はコルネイユなり、而して家康は其れセキ
スピヤーならんか、今日の政界はセキスピヤー固より言ふへからす、香
なユーゴーの如くに大且新を目的とする者亦た固より望むへからす、去
りとてモリヱールもコルネイユも期すへきにはあらす、去りとて室想に
0 0 0 0 0 0 0 0
だに自ら擬する者すら之を求めて容易に得へからす、今日の政界に役者
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 ● 0 0 0 0 0 ● 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
作者を以て自任する者は大をも期せす眞をも期せす、香な大をも知らさ
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
るか如く眞をも知らさるが如し、ユーゴーの説に従て演劇を解せは今日
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
の政治的演劇は殆と演劇にあらすといふも可なり、演劇にあらすとせは
是れ政界の形あるも其の箕を失ふものなり、外題あれども筋書なし、舞
茎あれとも優人なし。
政治の世界に於て保守といひ進歩といふものあり、英国の政共に観れは
ヽ ヽ ヽ ヽ
保守主義は大を主とするもの、進歩主義は眞を主とするもの、二者の息
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
想は調和して英国の政界は面白き演劇を成しぬ、サルスバリ侯は猶ほコ
ルネイユの如く大を求め得たり、而してグラドストーン氏は能く眞を求
めてモリエールたらんとす、グヰクトリア陛下は二者を操縦して英国の
政治的演劇をセキスピヤーたらしめんとするものか。
大隈伯は眞を主とするか、板垣伯は大を主とするか、伊藤伯は善を壬と
するか、井上伯は美を主とするか、吾輩は其の果して然るやを知らさる
勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ∇ ℃
なり、伊井の内閣は大且美を求むるに傾きて、隈板の民業は眞且善を求
むるに努むか、是亦た吾輩の知らさる所、苛も双方の政事家にして一個
なりとも斯る主眼を有するあらは、、日本の政界も亦た未頼母しきなり、
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
吾輩思ふに此等の廃人乗作者は共演劇に一定の主眼を有するにあらす、
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
唯た外題を吹鵜し又は舞茎を建築するに止まるのみ、看板を書く者は顕
勺 ∇ 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺
ょり大と眞とを解すへきにあらす、造兵を立る者も亦た宣に善と美との
思想あらんや、外題は知れ舞茎は成る、而して擾人及ひ筋書は有らさる
△ △ △ △
なり、宜へなるかな、日本の政界が常に茶番狂言のごときこと。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
至人は古事を識り、至言は百端に通す、ユーゴーは文季界の至人なり、
0 0 0 0 0 0 0
其の言掛往々にして政界の亀鑑と為すに足るものあり、蓋し其の楕紳は
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
人間世界に塞かり其の耳目は過去現在未来に徴し、畢曾政煮若くは園艮
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
にも拘々すること為らす、心は天地の大道に沸ひ而後ち以て一国一真一
合一人の事を断するは、思ふにユーゴーの筆なるへきか、序文の未に日
ノ\、
勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 ℃ ℃ ℃ ℃ 勺 ℃ ℃
公衆の為に事を廃するを得るは其れ唯た濁坐の際に在らんのみ、余は
℃ 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 ℃ ∇ ℃ ∇ 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 ℃ 勺 ℃ ∇ ℃ 勺 勺 勺 ∇ 勺 ℃
常に文学諸曾に遠かりて考案を立て著述を成し及ひ精神を保つへし、
勺 勺 勺 勺 勺 ℃ ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 ∇ ℃ ∇ 勺 ℃ ℃ ℃ 勺 ℃ 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺
何となれは余は寧合よりも大なる者を知る、政薫是れなり、政某より
勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ ℃ ℃
も大なる者を知る、国民是れなり、国民よりも甚た大なる者を知る、
勺 勺 ∇ 勺 勺 勺
人造是れなり。
0 0 0 0 0 0
ユーゴーは人道を本として詩文に従事す、故に其の著作は大にして且つ
0 0 0
眞なるを得たり、唯た其れ大にして且つ眞なり、是を以て其の記する所
0 0 0 0
の千状常態は一貫整然粂として秩序あり、唯其れ然り是を以て能く人を
感動せしむ。今の政界に在る所の優人的作者は曾て此の高遠の精神なく、
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
看板を書き造兵を立つるを以て能事畢れりと為す、是を以て其の一たひ
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
舞茎に登るや噂笑其の度を失ひ喜怒其の法に達ひ、唯た人をして奇異厭
嫌の感を起さしむるに過きす、是れ宣に以て演劇と為すに足らんや。
△ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △
偶然に動く者は偶然の功を悼む、忌悍なく言へは王政維新の業も恐らく
は偶然の功に辟せしならん、立憲政膿も亦た恐らくは偶然の動に出てし
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
ならん、議曾解散も撰畢干渉も皆な恐らくは偶然ならんのみ、而して其
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
後を承けて現はれたる元勅顔見世は濁り偶然にあらさるか、偶然にあら
すとせは其れ何をか目的とするものぞ、一事一物に理由を附合するは何
人も能くせん、抑も今の政治的演劇は何を主として仕組まれ居るか、此
の鮎の疑問は何人も解し得じ。
吾輩讃みて『マリイ、チユドール』の一駒に至る、此の著は世人の知る
如く英国古代のマリイ女皇を主人とするもの、常時内廷の治まらすして
嬰臣樺を悉にせし状態を描出する一節あり、シモンルナルの口を借て ▼
勺 勺 ℃ ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ∇ ℃ 勺
算蕗盤なしのメノコ政事、官てにはならぬあすか川、昨日の淵は今日
勺 ℃ ∇ ∇ 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 ℃ ℃ ∇ ℃ ∇
の瀬と、換へて申さば博突同棟、天下の大事を翫ふ、一六勝負は正気
勺 ∇ ℃ 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ∇ 勺 勺 ∇ 勺 勺 勺
の沙汰か、賭某にはあらぬ、カルタで御坐る、=…・
と言へるか如き、一讃して今世の偶然政治をも想起せしむるに足れり、
1c
△ △ △ △
偶然政治にも種類あり、婿秦政治は盤上の劃線を脆する能はすして多少
∨ △ △ △ △ △
仙 其の成行を想像せしむるも、カルタ政治に至りては覿る者唯た其の運命
の事不幸を知るより外あらす、普しは法律なし一たひ誤れは直にカルタ
△ △ △ △
政治と為りしなり、之に反して婿秦政治は則ち今の偶然政治に属す。
賭菓政治は猶ほ偶然政治たるを免れす、犬の一汲の徒が御雇教師の説に
△ △ △ △
基きて法治主義といふを唱ふ、法治主義は只管ら法律の文面を顧みて行
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
ふの政治主義、縦令へ其の結果より大弊害出つるも、元と法律の命する
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △
所に依て行ひたるものなれは、利書損益は人民の負澹のみ、官局者は責
△ △ △ △ △ △ △ △
に任すへき筈なし、之を法治主義の概要と為す、法律は唯た事の大網を
定む、解繹取捨は貰に施行者の心に是れ依る、昨日は克、今日は猛、是
れ政事家の自由の範囲に属するなり、今ま克狂の差より生する結果に付
△ △ △ △
きて貴任なしとせは、偶然政治即ち婿秦政治の行はる1怪むに足らす。
法治国なり、何事も法律に依らん、一に日く法律、二に日く法律、三に
日く法律、、四五六皆な法律と日ふ、然りと維とも、法律の出つるは順序
を逐ひて出つるにあらす、大の刑法民法其他行政諸法は時の政事家が其
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
の便宜に従つて偶然に出したるもの1み、御屋敷師の脱稿にも前後なき
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ 1 ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
を得す、御用寧者の反詳に遅速なきを得す、唯た成るに従ひて随時に出
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
つ、事物の順序は問題にあらさるなり、故に法律の根原とも云ふへき帝
国憲法は諸法律に殿して最後に出てたり。
吾輩は今の政事家に此すれは所謂る風流領事に甚た迂なるものなり、大
の「カルタ」の遊の如き固より知る所にあらす、書く之を弄する人に開
勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ ℃ 勺 ℃ 勺 ℃ 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 ℃
けは、数十の牌其の記娩に自ら順序ありと錐とも、之を出たすには敢て
勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 ℃ 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺
本末の順序を逐ふへきにあらで、唯た運命に任せて之を取捨するに過き
勺 勺
すと、所謂るカルタ政治なるものも亦た此の顆なるか、始より一定の成
案あるにあらで唯た封手の顔色を見て随時に虞するのみ、虞分既に偶然
に出つ、其の結果の意想外に出る固より其の所なり、意想外の結果に驚
勺 勺 勺
きて一嬰革狼狽又た燕成算の虞分を爵すか、偶然又偶然、以為らく臨機應
∇ ∇ 勺 ∇ ∇ ℃ ∇ ℃ ∇ 勺
攣は政事家の技量なりと政治のカルタ主義たるは此に漉す。
法律は正を主とするもの、而して政治は和を主とするものなり、正あり
て和なきは是れ国家に虚形ありて賓勢なきなり、膿ありて用なきなり、
ユーゴー翁は其の著作の一なる『カートルワントレーズ』に於て善く此
の鮎を言はしめたり、
勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺
シムールダン、『今は準備の時なり、此の準備よりして確定の事は生じ
勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 ℃ ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺
なん、確定の事とは権利義務の平行なり、・=…商事の上に一直線、郎
勺 勺 勺
ち法律…=・三勺勺三三勺三三勺勺 勺三三勺勺ミ勺
ゴーワン、『萬事の釣正は萬事の調和に如かす、秤錘を用ゐんょりは寧
勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺
ろ琴挙を取らん、…=
釣正は秩序を保つに必要なるか如きも、調和にして存せすんは未た以て
△ △ △ △
進歩に資すへからす、今の政治も亦た秤錘政治のみ、ム而かも其の秤錘は
正しからさるなり、秤錘既に正しからす、其の定むる所の権利義務亦た
恐らくは夫のシムールダンの法治主義にすら及ふ能はじ、況んやゴーワ
ンの調和響應をや。
△ △ △ △ △ △ △ △
伊藤伯は法治主義の政事家なり、幾千條の法文は伯の監督の下に著述せ
られぬ、然れとも伯の諸法律は其の個々の間に矛盾ありとまで世に許せ
られぬ、況んや其の園俗民情との抵燭あるをや、伯亦た此の鮎に見る所
ありてか、更に力を修正に致さんとの傾あり、法典問題の如き正に講究
の際に在りといふ。然りと錐とも法治とは唯た法律を造り出すの謂にあ
らす、法律に依りて大政を遅らすの謂なり、此の大政運用こそは調和を
圭とすへき所なれ、調和とほ政界の動力をして能く一致の調子に出てし
むるを謂ふ。 、、、、:,:,,
近事に付て之を言はんか、伯は地方官に向て『上官の命なりとて事の官
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 、、、、、、、、、、、、
香を問はすに唯々奉行するは一廉の着任を有する知事の為すへき所に非
ヽ 勺 勺 勺 勺 勺
す』と訓示せしこと世に障れなし、此の訓示は嚢時の地方官虞分と相ひ
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
應して頗る調和の法を得たり、然るに其の割斥したる知事をば直に貴族
0 0 0 0 0 0 △ △
院議員に任すといふに至ては、忽ちにして調和の造に達ふが如し、伯の
▲ ▲ △ ▲ ▲ A △ ▲ △ △ ▲ △ △ △ △ ム △ △ △ ム △ △ △ △ △ △ △
牲律は何れの條にも曾て之を禁する文面なかるへしと錐とも、眈に知事
の親任に非る者は如何にして貴族院議員に適任なるか是れ今日識者牡曾
の疑問に属す。
℃ ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃
汝は王廷の埼壁に置れて僅に汝の名著に係る危険を免れぬ、汝は吾が
勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 ℃ ℃ ∇ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 ℃
王より輿へられたる階に立ちて其の新に柴暑を以て飾られたる衣冠に
勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺
誇りぬ、王は汝の為に財産と幸礪とを損じぬ、而して此の幸摘財産は
勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺 勺 ℃ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 ℃ 勺
宅も汝の力に頼りしにあらす、汝宜しく汝の貴族たる所以を世間に示
勺 勺 ∇ 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺 勺
すへし、若し汝は正嘗の光を身に纏はんと欲せは、……
此の一節はボワローの諷刺を抄辞せしもの、一讃する者は今世の貴族其
他柴構を有する人に付き頗る適切なるを想ふへし、倍なり位なり、勅な
り官なり、凡そ条蓉の族章は国民的褒賞の異なり、此の族睾を附せらる
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
ゝ者あるに嘗り、世人は其の何の理由に因て附せられたる乎を疑ふ、世
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
人の疑惑は直に其の不嘗を確むる最上の讃人なりと謂ふへし。
● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
吾輩は今の政略に大なることを望ます、唯た願くは彼れ其の眞なること
を勉めよ、眞なることを欲せは大なることも自ら其の中に存せんのみ、
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
名賓の正からさる、賞罰の明かならさる、是れ皆な眞といふことに反す
るものならさるは莫し、賭秦政治も秤錘政治も又た小刀政治も剃刀政治
も絶て一源より来る。
(明治二十五年十月三T四、六日「日本」)