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りうせう けいふく ヽ
からすして囲家の隆昌臣民の慶縮も亦た期す可らす。是の故に吾輩は皇
ヽ きんせつ ヽ ヽ ヽ ヽ ばうせう
室を以て近接に衆民社合の上に置き成るへく其の閏に横はる妨障を滅せ
ぜんはい
んことを望む然れとも吾輩は貴族の全廃を主張するものにあらすして只
へlノじゆん
有名無音の貴族を滅せんことを欲するに過きす社曾の標準にして国民的
ゆ九ノどよノしや
勢力の誘導者たる貴族は吾輩常に其の存立を保護せんと欲す。
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
(第二) 強固なる国家の内に於て各人の能力を饅達し各地の自治を撰張
ヽ ヽ ヽ せいたい
する事を勉めざるへからず世或は偏頗主義を取り其の政膿の専制と立憲
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ あつよく ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ けいぷ
とに論なく常に各人の権利を歴抑し地方の自治を軽侮し各人又は地方を
して国家の器械と為らしめんことを欲するの弊あり吾輩は斯る器械的園
ヽ ヽ ヽ ヽ
家を望ますして機関的組織の国家を期望す故に各人及各地を国家の支膿
み な けいぢ九ノ
たるへき有機的分子と見傲し其権利及自治を敬重して固有の能力を蜃育
せしめんことを欲するのみ蓋し園家の隆昌を謀るに於て己む可らさるの
えうぎ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ べつじ上
要義なれはなり。若夫れ単に各人の権利のみを取りて囲家の存立を蔑如
する者に至りては宣に吾輩の輿みする所ならんや吾輩は只近世紀の最進
けいれき ヽ ヽ ヽ ヽ
歩せる政理に考へ日本国民の経歴せる史蹟に基き国家と各人との調整を
謀るに於て深く意を致さんのみ。
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
(第三) 内閣をして上、天皇に封し下、臣民全般に封し其の責任を負は
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
しめ常に輿論を蒋容し七進退するの慣習を養はしめさるへからす立憲制
せいりつ
の軋閣は 天皇と人民とを以て成立する所の国民に属す故に吾輩は内閣
めいじつ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
をして名賓共に国民的たらしめんと欲す此の要義を貫かんには内閣をし
かんせつ せきにん
て上は天皇に封し下は間接に人民に封し上下に封して責任を負はしめさ
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
る可らす。然らすんは内閣なる者は天皇の大横を憤りて人民に臨み濫り
い ふく ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ たい止りん
に威礪を弄するに非されは則ち人民の輿望を利用して天皇の大権を侮り
せんえつ ぶんばうぐわかい
以て僧越の所為あるに至らん而して国民の統一之か為に分崩瓦解するの
患を生すへし。況んや其の名、責任を負ふと云ふも其の貰、失政ありて
hソ えき
伶ほ観然位地を保つを得るの弊あるに於てをや其の国民の利益を害する
せ・きにん そんざい
更に甚しき者あり是の故に吾輩は内閣の責任を上下に対して存在せしめ
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
国民の輿論に従ひ天皇の大樺を敬し国民的内閣たるの賓を章けんことを
せつはう
切望するものなり。
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
(第四) 帝囲議曾をして富入費族の集合たらしめさる事を勉めさるぺか
らず帝国義合の一院は民選議院なり其の名を以てすれは国民的たるを失
くわいごよノ
はすと雄も其の賓を以てすれば官民の合合たるの嫌なき乎財産を以て参
せいげん ていど
政権を制限するは吾輩の敢て異議する所にあらずと維も其の制限の程度
ひんぶ かくぜ入ノ
に至りては吾輩の尤も意を留めざるへからざる所なり。貧富の隔情は今
ふんそ九ノ
世紀欧洲の大問題にして其の樋は素封牡曾と労働杜曾との紛争をして常
に止むることなからしむ蓋し今世紀は正に貧富問題の時期と云ふぺし書
けうこ ひんぶ
輩は圃民統一の強固を謀らんか為め貧富の問をして猶ほ貴賎の間の如く
しん、ぎん くわんけい ぷんはい
成るへく親近の関係を保たしめんことを期し従て参政権の分配を一層拾
へんけい ム はい
からしめんと欲するなり権力の偏傾は政令腐敗の源にして国民勢力の衰
替常に多くハ是より来るものなり察せさるへからさるなり。
えうし せつめい
以上は内治に係る文明政道の要旨を研か説明したる者に過きす更に之を
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
筒音すれは吾輩は内治に付き常に国民統一を主として国家と各人とを調
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
和せしめ皇室と平民とを近接せしめ官権と民権とを改行せしめ及ひ官費
ヽ ヽ ヽ ヽ
者と貧賎者とを協同せしめんことを勉む要は本来に於て国民に廃する者
ハ常に囲民の手に在らしめんのみ若し夫れ施政の細目に係る事項即ち教
育、租税、法律、兵制及ひ地方制度の如きは更らに詳論を費さ1る可ら
えょノぎ さいだん
すと維とも必す此要義を以て裁断するに外ならす。
一国民は必す一国民たる所以の本領を備ふ苛も此の本領を失ふときは復
せいだぇノ めいはく
た一因民たるを得へからす欧洲今世紀の政道ハ賓に明白なる図民的色容
とノ1せい
を有せり蓋し一国の政治にして其の国民たるの特性を忘却するときは膏
げんそく はんはい しやうがい
に国政孝上の原則に反背するのみならす国民の刊施を傷害して賓際上国
政たる所以の本旨を失ふに至らん故に政治上の意見を抱く者は先つ愛国
の念を有して而る後に始めて輿に政道を語るへし若夫れ世界政治的を以
′ヽわいけい も は人ノ
て今日に行ふ可しと為し又は専ら先進国の文北を慕ひ其の外形に摸放し
え九ノぎ
て以て改進の要義と信する者は是れ唯た文化あるを知りて自国あるを忘
めいそ九ノろんしや
るの冥想論者なり吾輩の周より輿みする所にあらす。一個人の各々其の
とくせい
特性を簡ふるか如く一団民も亦た各々其の特性を有す両して圃民が各々
とくせい ほ ぢ はつ上う ぶんめいしんば てん
其の特性を保持磯揚することは是れ印ち世界の文明進歩に向ひて其の天
ム にんむ
斌の任務を透すものなり。故に諸国民が各々其の特性を重するは膏に現
hソ そ1フぜスノ
資上の利益のみならす又た理想上の目的に合するものと謂ふへし吾輩の
ヽ ヽ ヽ ヽ
主として国民特立を期するは賓に此れか窺なり国民の特立を謀るにハ如
何して可なるや日く外交政略を国民的たらしむるのみ文物制度を国民的
たらしむるのみ国民に属する権利を其の国民の手に在らしむるのみ故に
.え■ノye
吾輩は外故に係る要義を認むること左の敷項の如し。
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
(第一) 外交政略は日本国民の利益名著を主眼とし其の鯵力を博愛旨義
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ぇいよ
に致すことを勉むぺし吾輩ハ外故に付きて只た日本国民の利益柴暑を主
せいり こ1フ
眼とし此の鮎に於ては一歩をも譲ることを欲せす是即ち外政上の正理公
だう せいりやく
造にして他に宅も腐るに足るものなし蓋し小国の大国に封する政略は只
こ▲ノめい
た正道を以てするの外なしと信すれはなり。著大れ一己の功名を博せん
し ゝん ち こよノ き さノヽ
との私心を抱く者は知巧を遅らして奇策を立つることありと錐とも是れ
ぐわいはう
邁々以て囲を誤るに過きす貧小園を以て富大囲と交り強ひて外貌を粧ひ
し上うさん せいど くわんしん
て其の賞賛を博し又不貿の費用を拗ち無用の制度を設け以て其の歓心を
買ひ自ら外交政略の奇謀を得たりと為す此の如き者は決して其の功を奏
て▲ノしよ▲フ
せさるのみならす却て外人の嘲笑を招き井せて自国の利益柴者を損する
こと其れ幾何ぞや。故に吾輩は外国に封し唯た正道を以て之に應せんこ
かくにん
とを期し敢て奇策を其の間に行ふの非を確認するものなり吾輩は唯た日
り えきえい上 ヽ ヽ
本国民の利益柴者を見て其の他を知らす然れとも此の旨義は決して博愛
ヽ ヽ ひ り
主義の敵にはあらさるなり外因を以て直に敵国と為すの非理なるは吾輩
り え・ぎたいめん
固より之を識るか故に日本の利益饅面を傷けさる限りは勉めて博愛の事
業に協力せんことを欲す。
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
(第二)●日本国民固有の文物を保護餞育して以て世界の公益に資するこ
いを勉めさるへからす凡そ一国民固有の気質、風俗、習慣、品行より以
ヽ ヽ ヽ ヽ ええノそ
て言語文章技肇に至るまて是れ皆な其の園民特立の要素ならさるは英し
かくぜつ
千飴年の間数千里の外に各々相ひ隔絶して宅も東風の通せさる所の国民
し こうふうしう こ いう ぢやゥれう
に就き其の嗜好風習の標準を取り来りて妄に自国固有の事物を丈量し其
べつじ上 よ
の相ひ適合せさるを見て直に之を蔑如する者は是れ日本国民の特立を冴
き ほ ぢ はつやう
致する者にして吾輩深く疾む所のものなり吾輩は国民の特性を保持磯揚
ぷんめい けうりエく
して日本の特立を明かにし井せて世界の文明に協力せんことを期す。然
れとも頑冥なる保守主義を取るものにあらす外国文物の我れに通する著
さいよ▲ノ ゆ九ノ上
は固より之を採用するに猶簸せすと維も之を探凋するは即ち以て我が国
はついく ぐわいぷつはいじエ
民特性の蜃育に資せんが薦めのみ故に我か国民主義裾外物排除の主義に
こんくわ
あらずして寧ろ外物を採用して之を日本国民の特性に混化するの主義な
hソ0
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
(第三) 公正手段を以て国権の回復を謀り穏和手段を以て其の横張を計
ヽ ヽ ヽ
るぺし條約を改正して国権を回復するは国民主義の固より期する所なり
しゆだん ヽ ヽ
然れども之を回復するの手段に至りてハ吾輩ハ唯た正道を以てすること
しゆて▲ノ
を主張す故に吾輩は大の娩曲手段を取らすして公正手段を以てせんこと
けつしん
を欲するなり。然れとも公正手段とは必すしも戦争を開くの決心のみに
しんぎ せいり こくみんぜんたい エ はう
あらず唯た信義を以て之に接し正理を以て之に官り囲民全饅の輿望を以
こふノだAノ
て現條約の改正を世界の公道に訴へんとするの謂なり若し不官の理由を
しんぎ
以て之を聴かざるの国民あらば是れ無道の国民にして信義相交るぺきも
せんそう けつしん
のに非らず時宜によりては戦争を開くの横あることを決心せざるぺから
ず吾輩は菅に国権を回復するのみを期するにあらず又之を蹟張すること
くわくてう
を期せざるぺからず而して之を損張するの手段は常に穏和の策を以てす
くわいふく きうむ
るに在りと僧す蓋し目下抑制せらる1所の国権を回復するは一方の急務
せんれう ほうき
なれとも官さに占領し得へきの国権を拗棄するは一方に於て亦た固より
失計たるを免れさればなり。
え▲ノし かん止りん ヽ ヽ ヽ ヽ
以上外政に係る要旨を簡言すれは吾輩は外故に付き国民特立を主として
ヽ ヽ ヽ ヽ てうわ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
愛国と博愛と調和せしめ園性磯育と外物採用とを改行せしめ国権撲張と
ヽ ヽ ヽ ヽ
平和交際とを両立せしめんことを勉むるに外ならす。
ヽ ヽ ヽ ヽ
吾輩は国民の内に統一して外に特立せんことを切望するものなり故に如
とうは せいてき
何なる某汲と錐も此の二原則に達はさるものならは皆な吾輩の政敵には
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あらす如何なる薫汲と維も此の二原則に合はさるものならば皆な吾輩の
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
政友にハあらす。吾輩は日本国民の利益名著を目的として統一と特立と
え▲ノぎ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
を園政の要義と為すものなり一薫渡一藩閥、一種族の利益を目的として
しゆぎ こうれう
主義綱領を定むる所の者は其の大饅に於て既に吾輩と相合ふこと能はさ
じゆりつ そうぎ た と
るなり。薫汲の樹立を目的とし国政の争議を方法とするものは縦令ひ欧
るいれい
米語囲に其の類例あるも之を今日の日本に移植することは吾輩の甚た好
まさる所なり。吾輩熟ら世上の薫汲なる者を見るに其の所謂る主義綱領
たいてい はんもくさいぎ
は大抵相ひ同からさるハなし而して互に反目猫疑、此の小島地の上に於
て紛争を事とするは其の内情己むへからさるものあるへしと維も抑々日
“し 〉たい ヽ ヽ ヽ ヽ
本国民の統一に向つては寧ろ晋ありて益なきの事態にあらすや国民の統
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
一既に全からす国民の特立其れ能く達するを得ん。然りと維も人間に私
hソ
心の絶つへからさる以上は薫汲亦た終に滅すへからす吾輩ハ強て此の理
そう 上くせい
想を以て禁漁の樹立を抑制せんと企つるものにあらざるなり只た世上の
ほん」でlノ は▲ノざう
政事に奔走する者は其の内心の包蔵如何に拘らす日本国民の内外に於け
ヽ ヽ ヽ ヽ せうげき
る現状を顧みて国民の統一及特立に深く意を用ゐ其の埼閲の極をして終
くわいはい
に日本壊敗の原因たらしめざらんことを欲するのみ。
ヽ ヽ ていど
夫れ自由を以て薫名と為す者は吾輩其の個人自由を主張するの程度如何
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
を知らす然れども若し其の自由にして国家の強固を忘れざる以上は吾輩
ヽ ヽ
の敢て非議せざる所なり。改進を以て英名と為す者は吾輩其の国事改進
針主張するの程度如何を知らず然れども若し其の改進にして国民の特性
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
ヽ ヽ
を忘れざる以上は吾輩の敢て非議せざる所なり。保守を以て英名と為す
者は吾輩其の所謂る保守の如何を審にせす然れども若し其の保守にして
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
国民の態育を忘れざる以上は亦た吾輩の敢て非議する所にあらざるなり。
ゐ ふく
要するに吾輩は一其汲の勢力を張りて濁り威滴を囲内に捜にせんと欲す
だ かつ ふくない
る者を意むこと殆んど蛇蝿よりも甚し国民の腹内に又た小国民を組織せ
こ▲ノ
んと欲するものは吾輩日本臣民たるもの共に之を国家の島として之を攻
げき
撃せざるへからす。之と同時に其の英名の如何を問はす其の黒義の如何
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
を一間ハす吾輩と共に日本国民の統一及特立に重力せんと欲するものは吾
えきゆ1ソ けうり上く しんせい
輩之を益友として互に協力せんことを勉むべし。吾輩の眞正なる目的は
りつけんせいたい けんせい
立憲政体の設立にあらす又た政薫内閣の建成にもあらす是れ只た其の方
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ きやうこ
法たるに過きす吾輩の目的は国民の統一及特立を輩囲にして以て世界の
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
文明を計ることにカを致さんと欲するに在り故に日本国政の要義を問ふ
はうはふ こ九ノ
者あらば吾輩は此目的を達するに足るへきの方法を講すぺきと答ふるに
外ならす。
(明治二十二年十一月三十日−十二月一、三日「日本」)