42

所謂る社会主義
                  
      《例へは繊道に関して》


近年我が国にも社会主義てふものを説くこと漸く盛なるを致し、新聞紙
に雑誌に、又は著書に講話に、若しくは団体の運動に、社会主義を鼓吹
する者到処に起るを見る。社会主義なるものは理論として已に大に発達
し、之を説く者亦た往時に比すれば巧なるに至れりと雖ども、而かも其
の事業に適用するは、単に労役社会即ち貧民社会の救済といふに過きず
して、区域未だ広きに及ばざるが如し。近く数年の実例に求むれば、夫
の日本鉄道会社の労役者が罷工同盟を企てたるが如き、世人目して社会
主義者の煽動に出づるものと為したりき。此の事ありしより以来、各鉄
道会社は勿論、他の工業諸会社に在りても大に警戒し、政府亦た職工条
例なんどいふものを起草して牙が救済を策せんと擬するに似たり。社会
 主義は僅かに眞理の一部を保有するものなりと雖ども、邁用の如何に因
                         
 りては弊害亦た之あるや疑ふぺからず。されど、該主義は諸合札役員若
             
 しくは政府官局者の想像するが如きものに非ずして、通用その官を得る
     
 ときは却つて時弊に剖切なるものたり。
 例へば繊造合杜に関して之を見んか、斯る合紅は事実上「国道」を領有
 して、荷物及び旗客に通過料を課し、之に由りて利益を占むるものなれ
                                       
 ば、政令公衆は此の鮎に付いて相官の要求を提起するの横理あり。目下
                                  
 一二の新聞紙は日本繊造合敵の機関車注文に関して、其の手績の不普を
                               
 攻撃しつゝあるも、此の如き問題は唯だ曾敵役貝の不都合又は曾敵株主


                               
 の不利益若しくは注文入札者の不満足に関する事、融合公衆には直接の
                               
 痛棒あるにあらず、従つて融合主義の眼中は何の反映をも輿ふる無きは
                          
 勿論、曾社は之に由りて其社内の情弊を一掃せば即ち可なり。若し夫れ
 融合主義より見れば、日本鉄道曾社の如き最大合祀に関しては、諭すぺ
 きもの一にして足らざるなり。合社の魚めに辛なるは、我国の社会主義
 を説く著その着眼未だ廣きに亙らずして畢に労役者の待遇を云々するに
 過ぎざること是れのみ。若し社会主義をして今一歩を実践界に進ましむ
 るあらんか、凡そ繊道曾杜たる者は今日までの如き多くの利益を配嘗す
                
 る能はざるに至らん。日本銭道曾杜が其の資本高六千萬園以上の定額を
        
 年一割一分にまで運用し得ることは殆ど一千哩に近き長大餓道を領有す
 が即断がい舶節桝か沖ヤパ緋紆瀞卵卵鮮僻桝鮮少いや酔桝弊聯卵野郎
    
 あらずや。
 該曾社は本と牛官学民を以て起り又た牛官牛民を以て成れるは、世人の
 拾く知る所にして、その政府の厚き保護は今猶ほ准績し、株主に一割以
 上を配嘗しながら一方に少からぬ補給を受くるが如き、亦た既得の権利
 として世人必ずしも非難せざるなり。社会主義は此の鮎に付いて沈歎す
 るを妨げずと雖ども、而かも事資上今日殆ど公共の道路として存ずる所
                                    
 の鉄道に関しては其の設備の完全を要求せざる可らず。下等切符を持つ
                              
 者を荷物扱にするが如き、勢力なき者の荷物を跡廻はしにするが如き、
                               
 複線を設けずして短距離に長時間の停車を為すが如き、停車場を設けな
                               
 がら其れに通ずる道路を修繕せざるが如き、市街の域造を高架にせさる
                              
 が如き、通衝の踏切を狭くして往来を妨るが如き、共の他各般の設備に
                              
 完全を求むるは勿論、運賃乗車賃の低下をも要求するは、社会主義の態
            
 達に伴ふ自然の結果ならん。所謂る社会主義は公共の事物を成るぺく公
 共的ならしむるに在り。若し公共的性質の事物を私立合社に特許する場
 合には該曾杜をして不官の利益を墾断せしめざる是れ社会主義の一要旨
 たり。私設銭道法に於ては工事及設備の不完全其の他運輸交通上公共の
 不便利を監督する規定あるも、這は皆な峯文に均しくして、監督者たる

 鋳造局は自家の鋳造をすら完備せしむる能はず、震ぞ他の鋳造を監督す
                                  
 るに追あらんや。今の社会主義をいふ者は、唯だ労役者の味方を以て自
                        
 任するのみ、是れ鋳造請合杜の馬めに僚倖といふぺし。
 欧洲大陸の鉄道は其の利益最も薄く、銭道株は確資なると同時に薄利を
 常とするものなりといふにあらずや。然るに島国に在て他に陸上の連絡
 なき我が銭道は却つて最も利益ある、是れ其の設備の不完全を許され、
                                          
 其の経費の少き割合に収利の多きを得るが故なりとす。一面より言へば
                                
 社会主義の思想未だ態達せずして、斯る公共的事物に邁用するを知らざ
                                
 るに由るものと云ふぺきのみ。公衆の智見漸く進みて鉄道合祀に完備を
                                
 要求すること多きに至らば、繊道株主は一剖以上の配嘗を受くる能はざ
                    
 るに至らん、嘗事者たる者反省せざる可らず。合敢の職工又は他の労役
 者が、祀骨董義をいふ者に教唆せられて罷エ同盟を作すが如き、若しく
 は機関車の注文に関して新聞紙に批難せらるゝが如き、斯る打撃のみに
 遭ふ間は、銭造曾祀の役員亦た猶ほ高枕するを得。若し乗れ社会主義の
 思想にして一層餞達するに至らんか、凡そ銭造曾牡は今日迄の如く太平
 楽を謳ふ能はざらん。
                    (明治三十六年二月十八日「日本」)