第三 自治論派

前期に於て帝政論派と称するものは実に二個の分子を包含せり、其の一
種なる独逸帝政崇拝主義の論者は此の期に至りて全く欧化主義を賛成し
たり、世に称する自治論派と云ふは即ち是なり。自治論派は何の理想も
なきものゝ如し、唯た西洋と対等の交際を為さんには日本を西洋の風に
陶化せざるべからす、西洋の風に陶化せん為には先つ人々が自ら其の財
産を殖して生活の程度を高めざるへからず、人間万事金の世の中道徳
節操の如き権利名著の如き皆な金ありて始めて之を言ふへし
金なきも
のは共に国政を議すぺからず
金を貴くするには奢侈を奨励せざるへか
らす
、以上は自治論派の大旨なるが如し。此の点に於て大の経済論派又
は改進論派と稍々其の傾きを同くし、自由論派、大同論派、又は国民論
派とは氷炭相容れざるの関係あり此の点に於ては殆んど第一期の国富論
派を再述するものにして西洋崇拝の一事は経済論派の一部たる基督論派
に賛揚せられ、金銭崇拝の一事は経済論派其の物に賛揚せられたるが如
し、自治論派は政論と云はんよりは寧ろ一種の経済論と云ふへし。