近時政論考序

モンテスキユー曰く、予の校を去るや数巻の法書を手にせり、而して
啻た其精神を尋繹せりと、ボルドー議会の会長たるとき、曰く、予は
議場に於て身に適するの地位なきを知る、議題は予之を詳悉するを難
んせす、而も議事規則に至ては毫も会得する所あらず、予は会長とし
て之に注意せざるに非ざれども所謂伎倆なる者の極めて陋愚なるを悟
り、而して猶ほ揚々として座を占むるに堪へざるなりと、乃ち職を辞
して純ら政理の究察に従事せり、嗟乎是れ先生の一世の知識を開拓し
て余ありし所以なるか、ヴヲルテル称揚して言へらく、人類の偉業を
失ふや久し、モ君出てゝ之を回復し之を恢張せりと、陸羯南の人と為
り、真に先生に彷彿たる者あり、峭深の文を以て事情を穿ち是非を明
にするは韓非に似て、而して爾く惨ならず、若し不孝にして萎
る莫くは、必す東洋の巨人たらん、曾て近時政論考の著あり、余の意
想を啓発すること鮮少ならざりき、多謝、
   明治二十四年五月           三宅雄二郎識