何をか改正條約賓施の準備といふや


今や條約改正の事業は大に進捗し、験す所は僅に彿嗅の二囲となり、二
囲も亦略ミ我提議に一致したりといへば、其の調印批准及交換を経て中
外に布告せらる〜の日も亦遠きに非ざる可し、即ち此改正條約の章雄せ
らる1の期も亦一両年を出でざる可し、茸施の期や斯くの如く其れ近づ
きたれば、国家は勿論杜含も亦務め茸施後の準備なかる可からず、昨今
官民一分の間に條約改正資施の準備なる饗を聞く、太だ喜ぶ可し、唯だ
其準備や如何なる意味を含み、如何なる事業を為しっ1あるか、是れ吾
人の講究して国民の一顧を促がさんと欲する所なり。
今ま鼓に一外人の我国に来る者ありとせん、英人や我国の事情に通せず、
 我国の言語を知らず、我偶ゝ之と海草に乗合はんか、英人の相知と不知
 とに干せず、之に一牛の席を譲り、又一地に到らんとして其地を知らざ
 れば之に騨亭を指示し、食時来りて食を耕するに因むを見れば之に紳富
 を周旋し、此間暴漢ありて他を目して毛唐人と為し凌辱を加へんとする
 者あらば之を制止し、英人の困苦を救ひ其人の安全を得せしめんと欲す
るは、是れ名著あe邦人一般の志ならん、異日改正條約の賓施に合はゞ、
 是等の遠客は相踵ぎて我国に来朝す可し、是時に至りて邦人一般の皆斯
 くの如くならんことを心掛けしむるもの、亦一の準備に非ざる無けん、
 然れども同く外人と海草に乗合はゞ封間の遊客に封するが如く、之が為
 に腰を折り首を地にし、其前に旬旬して譜諺嬉笑し、以て他の歓心を承
 く可しとする者あらば則ち如何、又其外人は無恥の暴漢にして同乗の邦
 人に無祀を加へ傍若無人に振舞ふあるも、邦人たる者は甘んして其の無
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 稽を受け他の為す所に任す可しとする者あらば則ち如何、是れ名著ある
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 園民の資格を郷ちて人格なき奴隷の境遇に白から投する者に非ざる無し、
 而して今の改正條約賓施の準備をロにする者の往々此人格なき奴隷の境
 遇を以て自から擬せんとする果して何の心ぞや。
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 抑ミ諸侯を懐け達人を柔ぐるものは王者の造なり、彼れ外人が十九世紀
                  ヒチーマニチ▲−
 に於ける文明の特質と構造する人 道の崇伶亦此は外ならず、我国の
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 外交は古来此懐柔の造に出づ、窄も一たぴ我帝国の歴史を播きたる者は
 支那に朝鮮に其他の各国に常に斯道を以て相交りたるを暁知す可し、即
 ち日本人種なる者は数千載の上よりして衷心より人道を理解し之を崇筒
 するの国民たることも亦諒然たらん、其の三十餞年前に於て一時捷夷論
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 の勃覆したりしが如き、是れ外因の侵掠に封する準止心の挙動のみ、計
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 衝心の揮捷のみ、濁立心の饅動と自衛心の揮擢とは偶‡此日本人種の高
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 等にして筆固なる国家を構成するの素質を薪彰せしものにして、宅も人
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 道を崇尚せる国民の償直を左右するものに非ず、則ち英明讃は昔時各国
 の来りて国交を求むるの必らずしも侵掠の意に非ざるを知了すれば、蒋
 然として撲夷論を棄て西欧東米と皆を把りて相交り、共闘だ微嫌をだに

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芥帝せざるに於て亦之を見る可きに非ずや。
故に我国民が改正條約章雄後の準備即ち内地雑居後の準備として今日よ
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り改め用意す可きは、我固有なる懐柔の造即ち人道の廣伺を一層将来に
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蜃捧するに在るのみ、語を易えて之を言へば名著ある日本国民の精神を
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一層清爽に饅揺するに在るのみ、故に條約賓施後来任の外人にして我国
利を危害せず我国風を壊乱せざる限りは、能ふだけ之に保護を加へ、乗
れをして生命財産及営業の安全を得せしむ可し、彼の卑々たる小丈夫の
亜米利加入や濠太刺利正人等が他を色人現し斥撰これ力め、偏陰狭窄に
我利我慾なるが如くなる可からず、轡掛か卦」掛か肘ケ舟打かか0
但だ其準備の細目に入りて之を言へば、各国各ミ風習の異なるあり、我
圃古来主として一種族を以て囲を建て、醇撲俗を為し筒音風を為せば、
往々制度の備はらざるものあり、之が為に雑居の外人より泣きて各囲と
交渉を生するの虞あるものあらば、之が制度を改定するの必要もあらん、
或は風俗習慣の上に太だ鹿野なるもの遺存し、之が為に我圃の名著を毀
傷するの虞あるものあらば、之を今日に矯正するの必要もあらん、所謂
細目の準備にして此範域を脱せざるものならしめなば吾人亦同意に躇躇
せじ、然れども今の所謂準備なるものを見るに、本末を忘失し主客を願
倒し、千か二千か一萬か二萬の来任外人の為に四千験苗なる国民の名著
及利害を犠牲にし、日く斯くの如くせば以て露人の歓心を得ぺし、日く
斯くの如くせば以て米人の同情を惹くに・足らん、日く此法律は国人に利
あれども来任外人の喜ぶ所とならじ宜く之を改むべし、日く此樺利は外
人に享有せしむ可からざるものなれども之を許さば英俳の構賛を受けん、
其の甚しきに至りては外人の囚徒には邦人より優等なる待遇を以てせん
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とし、人の之を難語するに曾へば、「外人とてもマトロスぐらゐは日本
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人と同等の食物を輿へても善かる可し」といふに至る、是れ則ち外人を
親なば腰を折り首を地にし、其前に旬旬して譜諺嬉笑し、以て他の歓心
を受け、彼れ如何に傍若無人に振舞ふあるも、甘んして其無線を受け他
 の虜す所に任す可しと敦ふる者に異ならず。

 夫れ君主は一団の至専にして其身は神聖不可犯とする所なり、而るも囲
 に大欒ありて軽重論の起るあれば則ち是時に嘗りて祀稜を重しとし君を
 軽しと為すとこそ聞けれ、近くは三世睾破倫が濁遽の軍門に降るや、ガ
 ンべツタは命ほ敗除の悌圃に捷卜「降れる者は舎破倫なり、降らざる者
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 は俳図なり」と揚言し、依然濁革に抗せしを見ずや、図を立つるの債茸
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 に此に在り、名著も亦賓に此に在り、然るに今や是時に官り外人を重し
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 とし国民を経と為す、千か一萬かを重しとし四千飴萬を軽しと為す、斯
 くの如き目的を以て施設作為する事業を改正條約の準備といふ、是れ名
 著ある園民の資格を郷ちて人格なき奴隷の境遇に自ら投する者に非ずし
 て何ぞや、吾人之に封し呆然として復た言ふ所を知らず、呼準備か準備
 か、轟ぞ其本に反らざる。
                       (明治三十年十月八日「日本」)