神宮御親拝の儀を拝承し奉りて 大政翼賛会副総裁 安藤紀三郎
畏くも 天皇陛下におかせられましては、この度特に神宮に御参拝
遊ばされ、御躬ら皇祖 天照大御神の大御前に、御告文を奏したま
ひ、御親拝の儀を行はせられましたる趣を拝聞いたしまして、草莽の
微臣国民皆様方と共々に、唯々恐懼感激のいたりに堪へざる次第でご
ざいます。
取り分け今回の如く、征戦の真中において 陛下御躬ら神宮に行幸
あらせられ皇祖 大御神の大御前に、御親拝遊ばされると申す御事は
神宮御鎮座以来、未だ曾て御先例のあらせられぬ、御事と承り、さら
にまた、この度 大御神の大御前に、御告文を奏し給ひましたる聖旨
は、曩に米英に対して戦を宣し給ひましててよりここに一年、この間に
おきまして、皇軍の収めましたる赫々の戦果は、これ偏に大御神の御
神徳によるものと思召されて、畏くも神恩報謝の 大御心をいたさせ
たまひ且つはまた、時局の前途愈々重大にして、正に挙国一体、愈々
国家の総力を挙げて、戦ひに向はねばならぬの秋 陛下御躬ら、身
を以て万民を率ゐさせ給はんとする尊き聖慮より、なほこの上に、皇
祖御神霊の御加護を仰がせ給ふ畏き叡慮に出でたるものと洩れ承はり
まして、真に畏れ多く畏き極みと、存じ奉る次第でございます。
申すも畏れ多い御事ながら、肇國の昔 神武天皇が御東征の御砌、賊
兄磯城の大軍と、御激戦の最中に戦場に近い大和の丹生川上の地で、
特に天神地祇を斎き祀らせたまひ、只管 皇祖天照大御神の御神助を
祈らせられましたる、御古事を偲びまゐらせ、それにも優る、この度
のこの曠古の一大聖戦、真に皇國の安危存亡に関する外患に、日夜
大御心を砕かせたまふ御聖慮の程を仰ぎ拝察し奉り、退いて私共一億
の民草が、この一年の間において、大詔を奉戴いたし、国家の要請に
答へて、様々に行ひ来りましたる職分の奉行、或は職域御奉公の業績
を、静に振り返り見まする時、そこにはなほ、辱けなくも大御親と仰ぎ
奉る 上陛下に対し奉り、赤子として、将又忠誠の臣として、表裏な
く至誠を傾け尽し、宸襟を安んじ奉る道におきまして、未だそのいた
らざるところ多く、未だその尽されざるところ多きを恐懼し奉らざる
を得ないのであります。
惟ふに御歴代 天皇におかせられましては、われわれ臣民を悉く赤
子として臠はせたまひ、義は君臣にして情は父子なりと、深き仁慈を
垂れさせ給うたのであります。さらに今次宣戦の大詔におきまして
は、私共民草をば、悉く忠誠勇武の衆庶と仰せられて、辱けなくも限
りなき御信頼を下し給うたのであります。
もし今日、国家の総戦力の増強結集を阻害し、或は渋滞せしむるが
如き、いはゆる国家の内憂たるべき禍根が、なほ存在するといたしま
すれば、苟も皇恩の厚きを知り、大義の重きを弁へ、血あり涙ある日
本人たる以上、今日、この全く御先例のない、神宮御親拝の盛儀を拝
承いたし、聖慮の程を畏み奉る時、誰か涙を垂れて 陛下の御前にひ
れ伏し、過去の非を改め、譬へ官民その分を異にし、ところを別にす
るとも、死なば諸共の覚悟を極めて、互に同心協力、せめては国内の
ことだけなりとも、宸襟を悩まし奉るが如き、不孝の赤子、不忠の臣
たる譏を受けざることを希はぬは無いであらうと存ずる次第でありま
す。私共一身一家の私事について見ましても、吉凶の大事があります
ごとに、肉親の親子兄弟夫婦朋友は申すも更なり親戚故旧、隣人相寄
り相謀り相戒め、その間に流露する麗はしい義理人情によりまして、
苦の中にもなほ感謝の楽を味ひ、悲みの裡にもなほ同情の情を喜び、
楽の中にもまた深く、戒むるところあつて、明るく生き甲斐のある人
生の一面を、支へてゐるのであります。かやうに一身一家の私事にお
いてすら、義理人情の絆によつて、人は生きて往くのであります。況
んや一身一家の基である国家においては、皇室の御仁慈と、万民の忠
誠心の、強い結合があつてこそ、皇國の悠遠なる隆昌を期し得るので
あります。
しかも、我が国は今日、国家の危急存亡に関する戦ひを戦ひつつあ
るのでありまして、実に前者未曾有なる国家の吉凶禍福を分つ重大な
る岐路に立つてゐるのであります。しからばこの秋、私共国民は、親
子夫婦兄弟隣人の間柄に於きましても、単に夫の為の妻、妻の為の夫
といふやうな、一身一家の範囲に限られたる関係ではなく、実に他面
に於て 天皇の至上命令を奉じ、醜の御楯として、戦ひの務めに服す
る夫であり、妻であり、親子兄弟であり、また隣組の人々でもあること
に、深く思ひを馳すべきであります、従つてまた官界といはず民間と
いはず、等しく共に、戦ひに勝つ為に、国家の要請する職務を分担し
て 陛下に仕へ奉るものであることを、篤と省察いたさねばならぬと
存じます。
ここにいたつて初めて、億兆一心、国家の凡ゆる力が戦力増強とな
り、また国民の戦争生活は不自由の中にも、笑つてこれを克服し突破
し得る必勝不敗且つ明朗なる堅実性を招来すると信ずるのでありま
す。畏れ多くも 陛下御親しく、聖駕を伊勢に進め給ふといふ拝承す
るだに、誠に重大緊迫の戦局を思はしめる外患に、直面いたしてをり
まする今日、国外に於きましても、過去多年に亙つて、英国の搾取に
より既にその魂の半ばをも、奪ひ去られたる印度民衆すら、遙かに
御稜威を仰ぎ、皇軍の勇武に感奮蹶起して、印度人の印度を絶叫い
たし、その仇敵英国に対して、徒手空拳、なほ且つ悲惨なる、抵抗の
戦力を発揮しつつあるのであります。
肇國以来幾万世、悠遠なる神恩に育くまれ広大なる皇恩に浴しまし
て、一君万民、祖孫一体の神国日本に生れ、七生報国の日本魂に生き
る私共皇御民が今にして皇御軍の赫々たる戦果を汚すことなく、億兆
一心祖先の遺風を顕彰発揮せずして、また何れの秋をか待つべきであ
りませうか。
私は宣戦の大詔を拝読いたしまして「皇祖皇宗ノ神霊上ニ在リ」と
宣はせたまへる一節にいたるごとに、皇位の絶対神聖と、悠厳なる我
が國體の淵源に、直感的無限の感動を禁じ難く、胸打ちふるふを覚ゆ
る次第であります。この度畏くも神宮御親拝の聖旨の程を洩れ承りま
して、益々その感動を深く骨身に刻むの思ひを抱きますると共に、今
さらの如く時局の容易ならざるを自覚いたし、「億兆一心国家ノ総力ヲ
挙ケテ聖戦ノ目的ヲ達成スルニ遺算ナカラムコトヲ期セヨ」と、仰せ
出されましたる、大詔の御聖旨に答へ奉るべく、恐懼反省して益々官
民各位の御協力を仰ぎ、以て大政翼賛臣道実践の国民運動が、さらに
正しくさらに強く、さらに敏活に、拡充展開せられ、よつて以て 大
御心に対へ奉らんことを、深く心に念じ、また国民各位に希うて已ま
ざる次第であります。
(十二月十四日放送)