大東亜共栄圏の確立と国民の覚悟 大東亜大臣 青木一男
顧みれば昨年十二月八日 畏くも米英に対する宣戦の大詔を拝し、
一億国民等しく聖旨を奉戴し、国家の総力を挙げて聖戦に臨みまして
以来、ここに早くも一年を閲するにいたつたのであります。その間
御稜威の下陸海軍将士の善謀勇戦によつて、既に世界歴史にその例を
見ざる大戦果を挙げ、広大なる大東亜の地域海域に亙り米英蘭諸国の
昔年の東亜侵略の拠点を悉く覆滅いたし、殊に世界の宝庫と称せらる
る南方地域を我が手に収め、今や戦略的にも経済的にも必勝不敗の基
礎を確立し得ましたることは誠に感激に堪へないところであります。
抑々東亜の安定を確保し、進んで世界の平和と繁栄とに寄与せんと
することは、帝國が多年不動の国是とせるところであります。而して
東亜の興隆を図り共栄の楽を偕にせんとすることは、独り帝國の希望
たるに止まらず、東亜に於ける各国及び各住民の多年念願して止まな
かつたところであります。然るに米英は由来口に世界の平和と自由を
唱へながら、その行ふところは専ら世界制覇の野望達成と自国利益の
擁護にあり、未だ曾て人類の共存共栄に想ひをいたしたことがないの
であります。殊に他民族に対しては常に劣等民族として取扱ひ、就中
東亜の諸民族に対しましては多年に亙り圧制と搾取の限りを尽し、よ
つて以て彼らの富強をいたす手段に供し来つたことは歴史の明かに示
すところであります。
第一次欧州大戦以来帝國の国運隆々たるをみて、米英両国はこれを
以て世界制覇の途上に於ける最大の障害なりとなし、列国共同の
圧力を以てこれを抑へんとしたのがワシントン条約であります。その
後に於ても彼等は事ごとに帝國の発展を阻止せんとする政策に終始し
来つたのであつて、今次大東亜戦争の拠つて来るところも極めて遠く
且つ深刻なるものあることを銘記せねばならぬのであります。
支那事変についてもその直接の動機は蒋政権の排日侮日に存したの
であるけれども、蒋政権をかかる方向に誘致したる原動力は、米英の
策謀に外ならぬのであつて、彼等が東洋制覇の野望を実現するが為に
は、日支の合作は是非ともこれを阻止せねばならぬ関係にあつたので
ある。事変発生後帝國はあらゆる努力を払ひその速かなる解決を図ら
んとした。然るに米英はこれに対し、陰に陽に執拗なる妨害と牽制を
加へ来りし為に、帝國との国際関係は頓に険悪と相成つた次第である。
しかも帝國は太平洋の平和維持の為め、昨春以来十箇月の長きに亙り
忍び難きを忍び、日米関係の平和的打開に努めてまゐつたのであつた
が、彼は毫も反省するところ無く、却つて経済的に軍事的にあらゆる
圧迫を加へ来り、その赴くところ遂に帝國の存立をも危殆ならしむる
如き事態となつたので、帝國は遂に自存自衛の為め敢然起つてこれを
干戈を交へるにいたつたことは御承知の通りである。即ち大東亜戦争
は実に帝國の興廃を賭しての戦であることは申すまでもありません。
併しながら単に帝國の運命のみに係る戦争ではなく、米英の東亜侵略
に対する東亜全民族の自己防衛の戦であり、更に進んで東亜民族の手
による大東亜建設の一大聖戦なりと申すべきであります。
抑々大東亜の建設は我が肇國の精神たる八紘為宇の理想に淵源する
のでありまして、その企図するところは各国各民族をしてその分に応
じ、各々そのところを得しめ、道義に基く新秩序を建設し、世界の恒
久平和に寄与せんとするに存するのであります。従つて東亜全民族の
将来は、今やかかつて今次大戦の帰趨とこれに伴ふ大東亜建設の成否
に存すること極めて明瞭であります。
日満華三国は大東亜戦争に先だち既に二年前に於て共同宣言を天下
に宣明し、相互にその本然の特質を尊重し、東亜に於て道義に基く新
秩序を建設せんとする共同の理想の下に、緊密なる提携協力[ ]遂ぐべ
きことを誓ひ、爾来着々その成果を挙げてまゐつたのであります。満
洲国に於ては建国以来漸く十年にして既に産業、経済その他各般の分
野に於て目覚しき発展を遂げ来つたのである。殊に大東亜戦争勃発以
来は一徳一心の大義に則り、国力を挙げて帝國の戦争遂行に協力を与
へられてをるのであります。また中華民国国民政府に於ては、一昨年
還都以来あらゆる困難を克服し、中国更正生の為に健闘しつつあるので
あるが、大東亜戦争の勃発を見るや帝國と同甘共苦確固不抜の精神を
以て難局に処するの決意を閘明し、帝國の戦争完遂のため、その後方
任務を分担しつつあるのであります。このことは三国が現下の極めて
重大なる国際情勢に対処し、共同宣言の精神を発揚し、愈々不動の決
意を以て進みつつあることを実証するものであります。更にタイ国も
また日タイ同盟の精神に基き軍事上、政治上、経済上、帝國と益々緊
密に提携し、共同の運命打開の為め邁進しつつあるのでありまして、
私はこれ等諸国の真摯なる努力に対し深甚の敬意と謝意を表する次第
であります。かくの如く東亜の各国が相携へて大東亜戦争の完遂と、
大東亜建設の為に戦ひつつあることは、東洋史上未だその例を見ざる
一大偉観でありまして、その意義重大なりといはねばなりません。
併しながら戦争も建設も正にこれからであり、今次戦争の相貌は第
二年目に入らんとする今日に於て、愈々その深刻性を増しつつあるの
であつて、この戦争に勝ち抜き所期の目的を達成するが為には、先づ
以て内一億国民の奮励努力に俟つこと固よりである。それと同時に共
栄圏内各友邦の一段の協力に俟たねはならぬものまた益々多きを信ず
るものである。今や重慶は連続五年の敗戦にも拘らず専ら米英の庇陰
を恃みて、容易に我に屈せざるものと見ねばならぬ。従つて帝國は武
力を以て飽くまでもこれが壊滅を期すると共に、既定の方針に従ひ益
益国民政府を援助してその政治力の強化を図り、これと相提携して支
那問題の処理を促進することは、戦争の全局より見て益々緊要を加へ
来れるものと考ふる次第であります。また他方に於ては、米英は緒戦
に於ける惨憺たる敗北にも屈せず過去久しきに亙り世界に号令し来つ
た国民の自負心に訴へ、執拗なる反撃を企図してゐるのであります。
特に米国は帝國の実力を見直すと共にこれに激励せられて愈々本腰
となつて、帝国と雌雄を決せんとする態度を明かにしてまゐつてゐる
のであります。即ち今や米国の政治家は一切の政争を止め、資本家は
重税に甘んじ、労務社また自発的に協力を示し、全国民を挙げて戦意
の昂揚と帝國に対する戦備の充実に狂奔しつつあるのであります。
就中米国はその有する豊富なる資源と厖大なる生産力を動員し、艦
船飛行機その他の兵器の数の力によつて飽くまでも我を屈服せんと企
図してをるのであります。固より我には忠勇無比なる皇軍が厳して
ゐます。国防の安固はこれによつて期し得ることもちろんであります
けれども、同時一寸の油断もあつてはならぬと存じます。彼の反撃
に応じ我また十分備ふるところなければなりませぬ。今回の戦争は只
今申上げた如く国運を賭しての戦争であります。中途半端の妥協や平
和はあり得ないのでありまして、文字通り喰ふか喰はれるかの戦争で
あります。我々は光輝ある皇国三千年の歴史を涜さぬ為め、如何なる
困難にも耐へてこの大戦に勝ち抜かねばならねことは論を俟たぬとこ
ろでありますが、これが為には先づ以て一億国民の団結を益々強化
することが何よりも大切であると考へます。戦争の完遂に有害なる一
切の思想や感情や言動は総てこれを一掃し、国民の一人残らずが祖先
より受け継いでゐる愛国の情熱を今こそ振ひ起すべさ秋であると思ひ
ます。この愛国心を以て農民は野に、労務者は工場鉱山に、事業家は
事業の経営に、その他全国民何れもその職場に於て奉公の誠をいたさ
ねばならね秋であると信じます。殊に前線に於て身命を君國に捧げて
戦つてゐる勇敢なる将兵の為に、必要なる兵器や軍需品の供拾を確保
することは、この戦争に勝つための必須の条件であり、従つてこれが
補給の源泉たる生産の増強は銃後国民の最大の任務であること申すま
でもありません。即ち銃後もまた戦場なりとの覚悟を似て国家総力の
発揮に力むべきであります。この生産増強の問題につきましては、大
東亜地域内の産業開発は実に重大なる責務を分担してゐるのでありま
す。例へば満洲支那に於ける鉄、石炭、支那に於ける棉花、塩、南方地
域に於ける石油、ゴム、錫の如きその顕著なる実例でありまして、こ
れ等の資源開発は帝國の戦力増強と大東亜の総合経済力充実に貢献す
るところ真に偉大なるものがあるのであります。併しながらこれ等の
産業もその開発の過程に於ては、資材、資金、技術、運輸等凡ゆる部
門に於て帝國の物動計画上の負担となるのでありまして、一面戦争、
一面建設の容易ならざることは申すまでもありません。併し現在に於
て如何に困難を冒しましても、この長期戦に勝ち抜き国力の飛躍的増
進を図りまするが為には、どうしても大東亜地域に於ける産業開発に
最大の努力を払ふ必要ありと考ふる次第であります。従つて大東亜省
といたしましても、大東亜の建設計画の実施に当りましては、先以て
経済建設に重点をおいてまゐり度いと考へてをります。而して私はこ
の大東亜建設の大業を達成する為め、只今国内について申上げまし
た、この団結と協力一致の精神を是非共大東亜地域内の全国民及び住
民に及ぼさねばならぬものと考へてをります。この戦争に勝利を得ず
しては大東亜地域に於て、国家の存立なく各民族の自由も繁栄も存せ
ざるのであります。即ち東亜の全国家及び民族は、今や共同の運命を
この一戦にかけてをるのであります。この運命共同感こそ大東亜民族
大同団結の基礎でなくてはなりませぬ.併しながらこの団結を鞏固に
し、その協力一致を如実具現する為には、単に国家と国家の間の意
志の合致だけでは十分なりと申し難いのでありまして、これと併せて
各国民住民の間に個人生活を通して真の親善融和の関係を成立せしむ
ることが極めて必要であります。これは単に理論ではなく私の最近ま
での在外勤務中の体験より得たる一の信念であります。この点につき
ましては、特に我々日本国民は他の国民民族に接するに当り、常に大
国民の襟度を持し、自然に他の尊敬と信頼とをかち得るよう心掛けね
ばならないのであります。この民族融和の上に建設されたる大東亜は
それこそ磐石の基礎に立つものでありまして、如何なる強敵と雖もこ
れを打ち破ることは出来ないのであります。
今や大戦第二年を迎ふるに当りまして、私は昨年十二月八日大詔渙
発の日の感激を新にすると共に、愈々時局の重大性を痛感し、全国民
の皆さんと共に聖戦の目的に向つて邁進せむことを深く期する次
第であります。 (十二月六日放送)