今次開戦と世界の動き  情報局第三部長 堀公一

 去る八日畏くも米英両国に対する宣戦の大詔が渙発せられました。
過去八ケ月に亙つて続けられた交渉も、英米の飽くなき利己的世界制
覇の野望の前に水泡に帰し、今や遂に米英と干戈相見ゆるに至りまし
た。
 外務省より発表された日米交渉経過によつてお判りになるやうに、
帝国は忍び雑きを忍び、暴慢なる米国の態度にも拘らず、なほ最後迄
避け得ざるものを避けんとする誠意を棄てず、太平洋の平和守護のた
めに努力したのであります。この事実は帝国今次の征戦が、帝国の権
威と生存権を確保する為め、已むに已まれざる要求に基くものである
ことを證するに足りませう。この平和的努力が阻まれた以上、我等一
億国民は蹶然起つて国難突破に邁進するのみであります。帝国この度
の戦ひは、いふ迄もなく帝国不動の国策たる支那事変の完遂と、東亜
共栄圏の確立を期することにありまして、飽くまでも米英の利己的帝
国主義を撃滅し、清浄なる大東亜の天地に揺ぎなき平和の礎を築かん
とするにあるのであります。
 新聞の報ずるところに依ると、我国の精神を理解しない中南米諸国、
英米の傀儡に過ぎな蘭印、英国自治領たる濠洲、「カナダ」「ニュー
ジーランド」、「ロンドン」に亡命中の「ドゴール」政権、「エジプト」、
亡命白耳義政府、亡命ギリシヤ政府、亡命和蘭政府等は、日本の対米
英宣戦布告に対して、対日宣戦を布告または対日断交を行つたやうで
あります。
 当面の敵は大詔渙発の当時、東条首相の放送されました通り、物資賓
の豊富を誇り、これに依つて世界の制覇を目指してゐる米英でありま
す。この敵を粉砕し東亜不動の新秩序を建設する為めには、当然長期
戦たることを予想せねばなりません。今後各国の動きは戦争の長期化
と共に、いろいろに変化することと思ひますが、今次開戦直後の世界
の動きを概略述べて御参考に供したいと存じます。
 我が精鋭部隊が堂々と表口から奇襲を試み、「ハワイ」「マレー」「シン
ガポール」に対し一斉に果敢なる爆撃を敢行したことは、全く米国や
英国の度肝を抜いたらしく、只今のところ流石の悪宣伝をやるだけの
余裕をすら失つてゐる様子であります。ロ−ズベルト大統領は八日午
後上下両院の合同緊急会議を召集して、日米開戦に関する報告を行ひ
まして「ハワイと日本との距離から判断しても、この政撃が幾日も前
から予め計画されたものであることは明白である。日本政府は合衆国
を欺した」といふふうな泣き宮を竝べ、いかにも日本に責任があるや
うなことをいつてをりますが、今回の事件はローズベルトが不必要に
東亜のことに干渉したために起つたことであります。世界の警察権を
一手に握つてゐるわけでもない米国、否ローズベルトが、「モンロー」
主義の範囲外に在る東亜の事柄に干渉し、深入りすること自体が、身
勝手な話なのであつて、それは米国自身にとつて何等利益のないこと
だけではなく、東亜の諸民族にとつては、洵に迷惑至極のことであり
ます。
 去る八日外務省から交渉経過の発表をみましたとほり、米国は原則
論を固執して日本に強要し、蒋政権の合法性を主張し、皇軍の中南支
及び仏印よりの撤退を条件とし、独伊との同盟関係の清算を要求した
のであります。如何に米国の態度が暴慢無礼なものであつたかは、何
人も容易に看取することが出来るのでありませう。隠忍にも限度があ
る。日本は遂に米英に対する宣戦を布告したのであります。
 東亜攪乱の張本人として、米国と同罪に処断せらるべき英国も亦、
米国と締盟して日本に対し宣戦を富国致しました。
 惟ふに帝国が目的とするところは、久しきに亙つて亜細亜を荼毒し
たる「アングロサクソン」の利己的制覇を掃蕩し絶滅して、肇國の大
理想による新しき亜細亜の秩序を、建設せんとするに在るのでありま
す。顧みれば支那事変の初期の段楷に於いては、日本は現地解決、事
変不拡大の方針を執つてゐたのであります。ところが上海陥ち、南京
陥ち、漢口陥ち広東が陥落するやうになると米英等、「アングロサクソ
ン」諸国の蒋政権援助が次第に露骨となり、事変の性質は漸くその趣
きを異にするものとなつたのであります。日本としては誤れる支那の
指導者に対して情の鞭を加へ、支那の民衆を正しい方向に進ましめる
と共に、背後にあつて彼等を抗日に向はしめ、抗日政権に援助を措し
まざる諸勢力に対しても、厳粛なる猛省を促すべき決意と態度とを示
さざるを得ないことになつたのであわます。
 米国と致しましては、この際中立国、殊に一九四〇年七月の「ハヴ
アナ」会議以来、弗外交の虜となつてゐる中南米諸国や、物資援助で
釣られてゐる蘇聯に積極的に働きかけて、これを反日陣営に引入れる
ことに努力すると思はれます。新聞の報道によると中南米諸国の大部
分は、既に我国に対し宣戦布告乃至国交断絶を行つてをります。本来
我国と何等敵対関係に立つ理由のない「ニカラグア」「コスタリカ」「キ
ユーバ」「コロンビア」「グアテマラ」「サルヴアドル」「ホンジユラス」
「ハイチ」「ドミニカ」「パナマ」「メキシコ」等が、対日宣戦を布告した
り、対日国交を断絶したりして、米国と共同戦線を張る理由は、全く
米国の牽制に逢ひ、これに追従するより外なき立場に置れて居るため
だと考へられます。
 何故米国の鼻息を窺ふかといふと、結局前期「ハヴアナ」会議に於
いて成立した四つの宣言と二十一の決議により、彼等が弗と買収と宣
伝によつて米国との繋り、殊に経済的の繋りが強化された結果にほか
なりません。
 現在なほ「アルゼンチン」「ブラジル」「チリー」の三箇国は、中立状
態にあるやうであり、「アルゼンチン」の副大統領は通信記者に対し「ア
ルゼンチン」は厳正中立を守る旨洩したとのことでありますが、この
三国とて何時迄中立政策を維持し得るか疑問であります。
 米国は更に蘇聯を使嗾して、対日攻勢をとらせるやう、努力するか
も知れません。独蘇戦局は戦線の寒気酷しき等、数日前より一時休止
状態になてゐるとの報道がありますが、蘇聯としては今米国の口車に
乗つて極東に新しい紛争を持つことが、果して得策か如何かを考へる
でせう。況や日蘇両国の間には中立条約も結ばれてゐることですから、
当分の間は現状維持で進むだらうと思ひます。
 蘇聯に於きましては国際情勢に対応し、先頃開戦当時一旦欧州戦線
に大移動を行つて手薄となつた極東軍を再び強化し、独蘇戦況と日米
交渉の推移を懸念し、極東殊に浦塩一帯にかけて或ひは機雷を敷設し、
或ひは空襲に備へて燈火管制を実施するなど、一時は非常なる緊張振
りを示したのでありました。
 併しその後我が方の正義的態度に信頼を置いてか、冷静をとり戻し
た状態に入りました。極く最近の傾向としては、先月の中旬頃迄は言
論機関である各紙上に日支事変の戦況欄を特設し、毎日重慶側より入
手した戦況を報じてをりましたところ、その後急にかげをひそめてし
まひ、その他日本に関する態度が非常に慎重な傾向を示してまゐりま
した。
 次ぎに帝国と米英との戦争勃発に対する、盟邦独逸及び伊太利の動
きについて大体御紹介しませう。
 先づ独逸は、日米開戦の第一報入電と共に、外務省、宣伝省その他
全官庁が早速緊張した活動に入りましたが、八日午後に至り、独逸外
務省は「シュミット」情報部長をして、外人記者一同に対し、
  「世界に戦乱の拡大した責任は、全く「ロ−ズヴェルト」大統領及
 びその戦争挑発政策に在り、独逸始め欧州同盟国は東條首相の声明
 を絶大の尊敬と同感とを以て読んだ」
との声明を発表せしめ、早くも日本に対する絶対的支持の態度を明か
にしました。また伊太利も、同じく八日「ロッコ」情報部長をして
  「日本は、米英両国の暴圧に対し公正な平和達成のための戦争を開
 始したが、「イタリア」国民は、最高理想に依つて結ばれた兄弟愛を
 日本に対して感じ、今や完全に日本国民に対する同感と友情とに満
 ちてゐる」
といふ意味の声明を発表させたのであります。のみならずこの声明
後、日本、独逸、伊太利を始め、「フインランド」「ハンガリー」等の盟
邦友邦の記者達だけが居残つて、日本万歳と一斉に高唱し、涙ぐまし
いほどの感激的な場面を呈したとさへ伝へられてをります。一方、独
伊の一般市民は、我が方の米英宣戦に引続いて、前古未曾有の重大且
つ果敢な電撃戦が鮮かに成功し、「ハワイ」に於ける米国太平洋艦隊主
力の覆滅その他の目覚しい快捷の報が続々入電するにつれて、一斉に
沸き立つたのであります。
 帝国と米英との戦争に共感し、日本と運命を共にすべき旨を声明せ
る国はもう二つあります。満洲国と江主席の中華民国であります。
満州国皇帝陛下には畏くも八日午後十一時時局に関する詔書を煥発あ
らせられ、日本の対米英開戦につき、日本と運命を共にすべく固く決
意を表明せられました。
 江主席は八日国民政府中央政治委員会に於いて日英米開戦に言及
し、国民政府は日華基本条約竝びに日満華共同宣言の精神に基いて、
飽く迄日本と艱苦を共にすることを閘明し、協力を約しました。
 重慶は日米の交渉に於いて日本は「アメリカ」の恫喝に屈するとい
ふ前提の下に、凡ての立案計画をしてゐたことは疑ひもない事実であ
ります。従つて今回日本が隠忍を破つて決然「断」の一字に出たこと
は、全く重慶を驚かせるに足り、殊に我が精鋭海軍が遠く三千浬の波
濤を蹴つて「アメリカ太平洋艦隊の基地「ハワイ」を急襲し、世界戦
史に例を見ない輝く大戦果を、然も電撃的に開戦一日にして収め得た
といふに至つては、只々心胆を寒からしめ、重慶を唖然たらしめたの
せあります。
 重慶では外交部長郭泰祺が
  「重慶政府は日本及び独逸に対し宣戦を布告するに決定した」
と米人記者町につたとあります。
 また重慶政府は於いては連日重要会談を続けてをりますが、如何に
狼狽してゐるかその姿が眼に映じてくる思ひが致します。
 更に八日には蒋介石が「ガウス」米大使、「カー」英大使、「バヌーチ
キン」蘇聯大使と会見それぞれ「ルーズヴェルト」、「チャーチル」、
「スターリン」首相に宛てて親書を手交し
  「重慶は飽迄反枢軸国家群の一体として抗戦を継続する」
との表明をなしたとも報ぜられてをりますが、もとより我に於いては
「引かれ者の小唄」としてこれまた笑止といふべきであります。
 いづれにせよ今回の開戦により従来よりの米英の援助が経済的にも
将又軍事的にも需給困難となること火を睹るより明かなことであり、、
一方国内的にも国共紛争も再燃して手をやいてゐるほか、経済力の敗
退に依り、治下の国民生活は脅威に曝されてゐる現状に於いては今後
没落の一途を辿るのみであります。
 次に今次の対英米戦争の軍事工作に当り我国に対し特に興味ある態
度を採つて居る国が二つあります。それは泰と仏印であります。泰国
政府と日本との間には日本軍の泰国内通過に対する泰国側の便宜供与
に関し八日午後零時半交渉成立し、帝国陸海軍は八日午後泰国に向つ
て友好的進駐を開始しました。
 この協定に於いて泰国は東亜に於ける緊急事態に処するために、日
本軍の泰領通過を容認すると共に、通過のために必要な凡ゆる便宜を
供与し、且つ日泰両軍の間に発生の可能性ある衝突を回避すべき措置
を速かに講ずることを約しました。
 日米の危機が切迫すると共に、米英両国は凡ゆる角度から泰国圧迫
乃至誘感を積極化し、殊に「マレー」「ビルマ」国境方面の英国兵力は
刻々に増加され結局泰は「イラン」、「イラク」の二の舞を演ずるので
はないかと危まれてゐたのですが、英国軍は俄然八日早暁「マレー」
国境を突破し侵入を開始しましたので、我が国は南太平洋平和維持と
泰国の独立権維持について泰国政府と交渉を開始し、泰国の独立を救
ふため英軍の撃退、掃蕩に着手せんとしましたところ、流石賢明なる
「ピブン」首相は、最後の瞬聞に決然として帝国の申入れを快諾し、
危機を脱したのであります。この協定の成立こそは、帝国陸海軍の泰
国に対する友好進駐と共に、この際泰国の極めて自然な協力として大
いに欣ぶべきものであります。
 我が精鋭部隊はこの協定に基き、八日夕刻平和裡に歩武堂々澄火管
制下の「バンコック」に無血進駐したのであります。皇軍の堂々たる
泰国平和進駐こそは、正に東亜共栄圏内各国一致協力の大原則を世界
に力強く実証するものであります。
 仏印も亦友好的な態度を示しました。八日開戦と同時に我方は当然
の処置として「ドクー」提督に対し日仏印共同防衛の実質的強化に関
する申入れを提出、「ドクー」総督は直ちにこれを受諾致しました。今
日以後毎夜六時より南仏印全般に亙り澄火管制の実施方を自発的に申
出てて来たことも、仏印側の協力的態度の一つの現れとみることが出
来ます。こんなふうですから、目下のところ仏印に於いては我駐屯軍
の適切なる措置により、各地とも事態は頗る平穏であります。
 蘭印が米英と共同作戦に出たことは容易に理解し得るところであり
まして、日本に対して宣戦の布告をしたことは勿論、NBOの放送に
[ ]りますと、蘭印空軍は近く英軍の指揮下に編入され、抗戦する手筈
[ ]決めてゐるさうであります。
 「シンガポール」、「フイリッピン」、「ハワイ」等いはゆる対日包囲陣
の要衝が開戦一日にして大破され、「シンガポール」軍港内の英艦二隻
は葬られ、英艦隊の基地香港の影亦薄く、米艦隊は殆んど半身不随の
現状では、蘭印は強がりをいつてをつても、事実は戦々兢々として戦
備の強化に狂奔し、上陸作戦に適すると思はれる地点には海中に無数
の有刺鉄線を張りめぐらせたり、河川には凡て妨材を備へつけて敵飛
行機の着水妨碍を企図する等、正気の沙汰ではないと報ぜてられをり
ます。[ママ]
 諸君! 来るべき時は愈々来たのであります。我等一億国民のひた
すら来るあるを待つてゐた意義深き時が来たのであります。帝国陸海
軍の精鋭は直ちに出動し、或ひは「マレー」に或ひは「マニラ」に或
ひは「グヮム」に或ひは「ハワイ」に、緒戦に於いて早くも西太平洋
の敵基地に一大痛撃を与へ、赫々たる戦果をあげました。
 皇國は天壌無窮絶対不敗の神国であります。悠久二千六百年の永き
歴史に於いて一度たりとも戦ひに敗れたことはありません。勝利は常
に御稜威の下にあります。
 然し乍ら古諺に言ふ如く勝つて猶更兜の緒をしめねばなりません。
米英勢力を東亜より、南洋より、太平洋より駆逐し、東亜不動の新秩
序を建設せんがためには、当然長期戦となることを予想せねばならぬ
ことは冒頭に申し上げた通りでありまして、鉄石の決意と、不動の信
念と、絶大なる建設的努力を要する所以であります。
 国際情勢の変転は極めて複雑微妙ではありますが、如何なる事態に
立到らうとも、また戦ひが如何に長引くやうなことがあつたも[ママ]、凡ゆ
る障碍を排除し、凡ゆる困難を克服し、必勝の信念を以て勇躍邁進し
やうではありませんか。(十二月十日放送)