全国民に告ぐ  総参謀長陸軍中将 小林浅三郎

 全国民諸君
 建国以来世界永遠の平和を冀ふ八紘一宇の聖業を阻み、帝国の存立
を危うし、大東亜を完全に掠奪せんとする、憎むべき米、英の包囲陣
を粉砕し、大東亜の新秩序を建設し、東亜民族の開放を成就せんとす
る我が国は、遂に敢然としてこれらと開戦するに決し、宣戦の御詔勅
が渙発せられ、ここに防空実施を下令せらるるに至つたのであります。
 我が国が開戦するの止むなきに至つた経緯、我が国今後の進むべき
方策、我が一億の覚悟等に就いては、既に東條総理大臣より明示せら
れた通りでありまして、ここに再言するの必要を認めないのでありま
すが、私は、国土防衛の重責を担ふ防衛総司令官の幕僚長として、こ
の前古未曾有の重大時局に方り、今次開戦の目的を完遂するため必要
欠くべからざる、国土防衛の完璧を期せんがため、一言国民諸君に要
望致したいと存ずるのであります。
 全国民諸君
 今や、我が国は安危の関頭に立つたのであります。この戦争に戦ひ
抜くこと能はずんば、光輝ある三千年の歴史は一片の哀史として世界
歴史の一頁に残るに過ぎません。我々はこの聖戦に飽くまで戦ひ抜き、
最後の勝利を獲得しなくてはなりません。これがためには前途に横は
る幾多の難関を突破克服して有終の美を収めねばなりません。
 その成否は一に一億の国民一人一人の決意と実行如何とに存するの
であります。
 諸君
 護国の英霊にぬかづくとき、身命を擲つてあらゆる国難を突破し、
今日の帝国の隆盛を齎した我々の祖先、親、子、兄弟、夫等が、今だ
時は来たぞ、我等の業をついで起てと絶叫する声が、我々の身を打ち
胸に迫るのを覚えるのであります。
 忠誠勇武の我が戦友は、今、決死の意気凄まじく、堂々波濤を蹴つ
て、米英包囲陣の粉砕に正義の突撃進軍を敢行しつゝあります。
 我が国が永きに亙り、隠忍自重、忍び難きを忍び、堪へ難きに堪へ
たる堪忍袋の緒を切つて、傲慢無礼の敵国に対し、一億一丸火の玉の
総進撃をするの日は、遂に今来たのであります。世界に誇る大和魂の
真価を彼等に明示する、待ちに待つたる快心の日は、遂に来たので
あります。血湧き肉躍るを覚ゆる者、一億国民悉く然りと存ずるので
あります。
 然し乍ら諸君
 この聖戦を完遂するには、微動だもせざる国土防衛の完璧を期し、
外征軍をして意を安んじて一意その任務に邁進せしむると共に、国内
戦争遂行の能力を確保することが、最も大切なのであります。
 全国民諸君
 私は畏れ多くも稜威の下、神明の加護により、忠誠なる国民の強
靱なる団結と、精鋭なる国内防衛諸舞台の奮闘とは、克く国士防衛の
大任を果し、怒濤の如く進撃する皇軍前線の将兵と呼応し、必ず今次
聖戦の目的を完遂いたすものとの確乎たる信念を有するのでありま
す。然れども、我が国がこの聖戦目的を完遂するまでは、長期に亙り、
幾多の国難を突破しなければなりませぬ。
 今までの事変と異り、敵機は我々の頭上に襲ひ来り、空襲の惨害が
目前に展開することも覚悟しなければなりません。或ひは今にも敗戦
するが如き流言蜚語を撒布し、国内崩壊を図る魔手も動くでありませ
う。或ひは国内重要施設資源を破壊し、聖戦遂行を妨害せんとする謀
略活動も起るかと思ひます。恐らく彼等はありとあらゆる手段を弄し
我が国民の戦争遂行の決意を挫折せしめんことを企図するであらう
と、覚悟しなければなりません。

 然し、現在戦争の渦中に在る列国国民は、かかる惨事を克服し、国
難に堪へ、挙国一致血みどろの戦を継続したるものは栄え、これに堪
へ得ざるものは滅亡して居るのであわます。
 光輝ある三千年の歴史と、赫々たる発展の伝統とを有する我が国民
は克く長期の国難に堪へ、挙国一体、祖先の遺業を継ぎ、大東亜新秩
序の建設を完遂し得るものと確信いたします。
 一億の戦友諸君
 お互に平素準備し、訓練したるは、実に今日の役に立てんがためで
ありました。
 国運を賭して戦ふべき今日、諸君は沈着、冷静、豪胆に、如何なる
爆撃も、如何なる宣伝も、如何なる謀略も、挙国一致悉くこれを撃砕
し、あらゆる困苦欠乏も悉く征服し一億一心鉄石の団結を以て長期の
覚悟を堅持し、過去一世紀に亙り我等の父祖をあなどり辱しめ来つた
彼等に、恐るべき一億の底力を明示し、以て聖恩に報い奉らんことを
誓ひたいと存じます。
 私はここに我が国未曾有の一億総進軍の初頭にあたり、国土防衛の
戦士たる全国民諸君に、各々職場を守り、心を協せ、必ずやりとげる
との、固を固き決意を要望したいと存じます。

 この乾坤一擲の大事にあたり、苟くも光輝ある国土防衛の戦士たる
名誉を放棄して難を避けんとし、或ひは己れ一個人の利益のために、
他を顧みず、国家の存立と団結とに害ある言動を為す者に対しては、
そのことの如何を問はず断乎として鉄槌を下すべきであると確信いた
します。願はくば我が国民には、処分を受け汚名を後世に残すが如き
者の一人もなからんことを私は切に切に望む次第であります。
 全国民諸君
 要するに、一億国民が鉄石の団結を保持し、あらゆる国難を進んで
突破せんとする「挙国一体の総進軍」、「挙国一体の総進軍」こそ、国
土防衛の完璧を期し、今次聖戦目的完遂の眼目なりと信ずる次第であ
ります。
                  (十二月八日放送)