東亜共栄圏の確立
東亜解放と世界平和へ貢献
「支那事変を完遂し大東亜共栄圏
を確立して世界平和に寄与するは
帝国不動の国是なり」
これは御承知のやうに、東條内
閣が成立しました際の、政府の声
明でありまして、大東亜共栄圏を
確立するといふことは、帝国の確
乎不動の国是であります。
それではこの大東亜共栄圏の確
立といふことはどういふことを意
味し、どういふことを内容とする
ものでありませうか。これは今日
ではもうハツキリしてゐることゝ
存じますが、しかし外国ではまだ
まだこれを諒解してゐないやうで
あります。
×
日独伊三国同盟が結ばれた際の
御詔書に仰せられてをりますとこ
ろの「万邦ヲシテ各々其ノ所ヲ得
シメ」るといふ肇國の精神に基づ
きまして、世界におけるよろづの
国々をしてその所を得しめよろづ
の国々の共存共栄をはかり、各々
の民族をして、その本性を発揮さ
せようといふことは、我が国の根
本の方針でありまして、これを先
づ、東亜の天地に行はうとするの
が、大東亜共栄圏の確立に外なり
ません。即ち東亜を東亜人の東亜
とし、東亜の共存共栄を通じて、
東亜は世界の東亜としての役割を
果さうとするものであります。
ところが御承知のやうに今日の
東亜は、殆んど大部分が欧米諸国
の勢力の下にあり、政治上も経済
上も、欧米列強の支配の下に虐げ
られてゐるのであります。これで
は東亜の東亜、東亜民族の東亜と
いふことは到底望まれないのであ
ります。
そこで、この大東亜共栄圏の確
立につきまして、必要なことは東
亜の解放といふことでありまして
東亜を永久に植民地としておかう
といふ勢力を払ひのけることは,
真に東亜人の東亜をうち樹てるた
めに、どうしても已むを得ないと
とろであります。
併しこのことは東亜の中で一国
が他の国を、一民族が他の民族を
力で支配し、これを併合したり、
又植民地とするものではありませ
ん。我が国が今大東亜共栄圏の確
立といふことを唱へ、これに全力
を傾けてゐますのは、東亜民族の
先達として我が国は、東亜民族の
開放と独立をはかり、各人その所
を得しめて、東亜の各民族の本領
を発揮しようとするに外ならない
のであります。経済の上におきま
しても、一つの国、一つの民族が
他の国、他の民族を搾りとるとい
ふものではなく、東亜共栄圏の中
の各国は、ほんとに有無相通じ、
お互ひに融通し合つて、東亜が打
つて一丸となる経済をつくり、東
亜にある資源を開発し、東亜の限
りない富を東亜民族の幸福のため
に、そして広くは世界人類の幸福
のために、役立てようとするので
あります。
×
かうした大東亜共栄圏が確立さ
れて始めて東亜に真の平和がもた
らされ、東亜が東亜民族の東亜と
なることが出来るのであります。
現にアメリカは古くからモンロー
主義といふことを叫びアメリカ
大陸を北アメリカたると南アメリ
カたるとを問はず、一つの勢力範
囲とし欧州の支配からの解放を唱
へ、或ひはロシアの或ひはスペイ
ンの勢力を、アメリカ大陸から追
ひ払つたのでありまして、今もア
メリカ大陸に外の国の勢力が入つ
て来るのを防がうと努力してゐる
のでありますが、これは取りも直
さずアメリカの共栄圏の確立とも
見ることが出来ます。
欧州は昔から欧州として一つの
勢力範囲となり、その昔蒙古のジ
ンギスカンが欧州にのりこみ、こ
れをその植民地としようとしたと
き、必死に抵抗したのでありまし
て今独逸とイギリスが戦つてゐる
のも、イギリスが欧州の盟主とな
つてゐたのに対し、新に独逸が伊
太利と手を結び欧州大陸に新しい
秩序を打ち樹てようとしてゐるの
でありまして、欧州には古くから
共栄圏があつたのであります。
かくてアメリカは常にアメリカ
民族のアメリカであり欧州は欧州
民族の欧州であるのに、ひとり東
亜ばかりが、欧米列強の植民地と
なつてなり、欧米列強のための東
亜となつてゐなけれはならないと
いふ理由はどこにもないのであり
ます。
今仮りにアメリカに東亜の植民
地があり欧州に東亜の植民地があ
つたとすればどうでせう。おそら
く口をきはめてその不都合である
ことを叫び、その不正義を攻撃非
難することでありませう。
併し申すまでもなく、東亜は欧
州よりもずつと早くから、政治的
にも経済的にも発達し、東洋は東
洋として大きな勢力を占め、西洋
を圧倒してゐたのでありまして、
偶々最近四、五百年の間に西洋か
ら侵略されたにすぎないのであり
ますから、東亜共栄圏は地球上で
は一番古いのであります。
×
然るに欧米は何故に我が国のこ
の方針を誤解したり、又妨げたり
するのでありませうか。それは日
本のやり方を自分たちがこれまで
行つて来た侵略の戦ひのやり方を
以て判断し、自分の尺度を以て計
らうとするからであります。これ
は日本の真意を最も誤解してゐる
もので、これほど迷惑なことはあ
りません。この東亜共栄圏の確立
は前に申しました通り我が肇國の
精神に基づき、東亜の各国各民族
の自立と幸福を図り、東亜民族の
共存共栄を齎らさうとするもので
ありまして、断じて欧米の東亜に
対してとつた征服でもなく、併
合、合併でもなく、又搾取でも植
民地化でもありません。この趣旨
は我が国がしばしば声明して来た
ところであり、満洲国の建設、日
満支三国の共同宣言、それに泰、
仏印両国の戦ひの調停といふ事実
のはつきりと示すところでありま
す。我が近衛声明は、支那事変の
意義を明かにし日本は領土も賠償
も要求せずと言ひ、又日本の支那
に望むところは征服でなく、提携
であり、支那が新秩序の建設を分
担することであると言はれたのは
このことでありますが、このやう
な戦ひは欧米によつてはかつて一
度も戦はれたことはないため、欧
米人には仲々理解し難いのであり
ます。
もう一つの誤解は大東亜共栄圏
の建設は、東亜から欧米の権利や
利益が根こそぎなくなつてしまふ
と言ふ懸念であります。しかし、
東亜の解放といふのは東亜を植民
地としての状態、欧米の搾取の目
的となつてゐる状態から解放しよ
うとするもので、外国の正しい権
利や利益はこれをふみにじらうと
するやうな狭い考へのものでない
ことは我が国の国柄や国民性をも
つと研究すれば自らわかることで
あります。
×
それから次に疑問とされるのは
日本の叫ぶ大東亜共栄圏の範囲は
何処何処にあるかといふことであ
ります。
これも大東亜共栄圏の確立とい
ふことを征服とか併合と考へるこ
とから来る誤解であります。植民
地としての状態の開放、奴隷とし
ての民族の開放は世界を通じての
正しい道理でありまして、況んや
我が国の真意は畏くも 神武天皇
が八紘を掩ひて宇と為むと仰せら
れた肇國の精神によりよろづの国
国をして各々その所を得しめ、世
界の平和を打ち樹てようといふの
であります。
×
畏くも、明治元年三月十四日
明治天皇の下し賜つた御詔勅には
「万里の波濤を拓開し、国威を四
方に宣布し、天下を富嶽の安きに
置かむことを欲す」と仰せられて
をるのでありまして、この有難い
御詔勅に従ひ天下を富嶽の安きに
置くことが、我が国の使命であり
ますから、これを実現するための
大東亜共栄圏に範囲や限界がある
訳はありません。
併し、勿論これを実現するには
政治上も経済上も自ら順序があり
ますから、その順序を踏んで、先
づ近くより遠くに及ぼして行くの
は、当然でありまして、我が肇國
の精神は、これを世界に及ぼさな
ければ已まないものであります。
これ即ち世界の平和に寄与するは
帝国の国是なりと云ふ所以であり
ます。
×
我が国としましては困難なこと
ではありますが、この真意、この
真の平和政策を明かにして世界に
理解させなければなりません。現
に独逸、伊太利はこれを理解して
我が国と協力してゐるのでありま
す。日米交渉の中心もとこゝにあり
と云ふことが出来ませう。
私ども国民としましても、東亜
共栄圏確立の正しい意義をしつか
りとつかんで、これを行の上に移
さねばなりません。特に東亜共栄
圏の各地にあつて、日夜他の東亜
民族と接してゐる日本人は、東亜
開放の先達としての日本の輝かし
い使命をよくわきまへ、徒らな征
服感とか優越感にかられることな
く、高い徳と信頼をかち得る行ひ
とを似て、他の民族から尊敬され
親しまれ、東亜建設の礎となつて、
東亜民族が心から仲良く手をつな
いで扶け合ふやうに努めるのが、
日本人として最も大切なつとめで
あると申すべきでありませう。
勿論かうした大きな事業をなす
のには、力の助けがなくては崇高
な理想も使命も実現していくこと
は出来ないのでありますが、徳が
なくて力だけでは、人心をうるこ
とは到底出来ないのであります。
徳と力を併せ備へ、こゝに東亜建
設の先達としての日本が、よく歴
史上かつて見ない大きな事業をな
しとげることが出来るのでありま
す。
(十一月八日放送)