防国家体制の完備
    挙国一体聖業達成に邁進

 国防全態勢の確立へ

 東條総理大臣は、東條新内閣成
立の日に、政府の声明の中で「今
や[ママ]未曾有ノ重大世局ニ臨ミ政府ハ
外、イヨイヨ盟邦トノ交誼ヲ厚ク
シ、内マスマス国防国家体制ヲ完
備シ、御稜威ノ下挙国一体聖業ノ
達成ニ邁進センコトヲ期ス」と申
されました。
 即ち「内益々国防国家体制ヲ完
備」するといふことは、現内閣の
最も重きをおいてゐるところであ
り、我が国として支那事変を完遂
し、大東亜共栄圏を確立するに最
も必要なものであります。
 この国防国家体制といふことは
今回の支那事変が始りましてから
大きく浮び出た言葉でありますが
余りに大事なことでありますため
却つてその内容が或ひははつきり
とつかまへられてゐないのでもあ
りませう。
 国防国家体制といふと或ひは軍
備だけを充実することであるとか
或ひはまたこの軍備の充実に関係
のあることだけに力を入れると考
へられゐないでもありません。ま
た、国防国家体制をつくり上げる
といふことは、主として軍部や政
府のやることがらであつて、国民
は唯それについて往けばよいとい
ふやうに考へられてゐないでもあ
りません。
 一番多く誤解されてゐることは
国防国家といふことは戦争の間だ
けの一時的のもので戦争が済めば
また昔に帰つてしまふものだとい
ふ考へ方であります。
 併しこれは何れも大きな間違で
あります。国防国家体制といふの
は国が発展するため、伸びてゆく
ために国の中のあらゆる力、国民
のすべての力を国家の発展といふ
大きな目的に集め、これを最も大
きく発揮しようといふものであり
ます。従つて国防国家体制といふ
のは、軍備だけのことではなく国
全体のはたらきである政治も経済
も外交も文化も、国民の日常生活
も全部この国家の発展といふこと
に結びつけられ、そして国民全部
の力をこの線に沿つて最も強く伸
ばさうといふのであります。
 これをたとへて見ますと国防国
家体制といふのは私たちの完全な
身体のやうなものです。けはしい
山を征服する場合には手も足も身
体の全部のはたらきを十分発揮し
なければなりません。また、かう
してよく身体の全部のはたらきを
発揮することの出来るものこそ、
一番よく山に登ることが出来るの
です。
 従つて国防国家体制といふもの
は、国民全体の事柄であつて、国
民の一人々々が、進んでこのこと
を理解し、そして力をつくさなけ
れば、決して国防国家体制といふ
のは、出来上らないのであります。
 それからまた、かうした国防国
家体制は、少くとも世界の上に新
しい秩序が出来るまで、数十年数
百年間かうした意味で続かねばな
らないものであります。

 国防国家と国民の団結

 それでは何故今まではかういつ
たことが叫ばれないで、この頃に
なつて強く唱へられるやうになつ
たのでありませうか。
 それは地球の上に人間の住む数
が少く、従つてまた物資が豊かで
あり、それに今日盛んな飛行機と
か無線通信などの進んだ交通機関
や通信機関などがなかつたため、
国と国との関係は余り深くなく、
戦争といつても武力の戦ひだけで
あり、経済といつても、大体国の
中でまかなつて、足りないものは
どこの国からでも輸入出来たので
あります。
 それに今までを支配した所謂自
由主義、個人主義といふ思想は、
人間の人格や自由を尊ぶといふこ
とでは正しい考へ方でありました
が、併しその考へ方が行きすぎて、
国民の自由や人格が尊ばれるの
に、何より大切な国家といふもの
が忘れられ、自分の利益の前には
国家の利益や他人の損得といふこ
とも軽んじそれから利益を追つて
の烈しい競争は、国民の力をバラ
バラにして行づまりの状態にして
しまつたのであります。この自由
主義の誤りは、政治や経済ばかり
でなしに、国民の生活の至るとこ
ろに、流れて来たのでありまし
て、世界をあげてこの誤つた状態
から抜け出なければならなくなつ
たのであります。
 世界の国々が今現状維持と現状
打破をめぐつて争つてゐますのも
かうした行詰折りから抜け出さうと
しての努力なのであります。従つ
て国防国家体制の強化といふこと
は外国では一人独逸やイタリアば
かりでなしに、イギリスもアメリ
カも之に一生懸命になつてゐるの
でありまして、フランスがあのや
うな惨めなまけ方をしたのは、こ
の国防国家の建設を怠つたからで
あることは申し上げるまでもあり
ません。
 かういつた国防国家で一番大切
なことは、国民が全部一致団結す
ることであります。国民の一人一
人の元気が高まつてその全力をお
のために国家のために尽すこと
であります。

 国民の総力を発揚して

 このためには政府の側におきま
しても、十分国家の向ふところ国
民の進むべき道を示してその十分
な納得を得ることも必要でありま
すが、また国民の側に於ても十分
国策を認識して各々がこの国策の
線に沿つて進んでその力を集中し
て発揮することが何より大切であ
ります。
 また国民生括の隅々までこの考
へ方、この精神によつて建直すこ
とが必要であります。現在各方面
で色々機構の再編成につとめられ
てゐるのも国民の全能カが十分発
揮出来るやうに、その素地がつく
られてゐるのであります。
 従つて国防国家体制といふもの
は、決して政府が国民を抑へつけ
たり、又力を以て国民に望むのが
その本来の趣旨ではなく、国民の
自ら進んで行ふ力、国民一人々々
の長所を出来るだけ伸ばさうとす
るものであります。
 ただ長い間ににじみこんだ国家
を軽んじ所謂自由平等又は私益追
及即ち自分だけの利益を追ひかけ
るといふ思想から抜けきるまでに
はそのまゝでは仲々日がかゝり、
今日のさし迫つた国際情勢ではこ
れを待つてゐることが出来ないた
め止むを得ず色々の法律や規則、
制度を作り之を建直さうとしてゐ
るのでありまして、かうした心構
や、制度が出来上つたならば国民
の自由な働きが一番大切なものと
なるのであります。
 それですから、若し前の思想に
とらはれて国民の個人々々がバラ
バラな方向に働いたり又或は官と
か民とかいつて対立してをれば、
それだけ、今お国のためにも私ど
ものためにも一番必要な国防国家
体制の完備といふことがおくれる
のでありまして、それは伸びよう
とする国家の発展をさまたげる許
りでなしに、又国民の能力もそれ
だけ十分発揮出来ないのでありま
す。

 国防国家体制は不可欠

 従つて今日我が国民として最も
大切なことは何故今日国防国家体
制をとゝのへるといふことが必要
であるかといふことを納得し、官
といはず民といはず斉しく国家の
一員として、東條総理大臣の放送
されましたやうに御稜威の下挙国
一体となり、鉄石の意志と迅速的
確な[ママ]実行によつて一日も速かに国
防国家体制を完備することであり
ます。
 若し今申し上げたことで、考へ
方に御不詳がございましたならば
改めてくはしく説明したい存じま
す。[ママ]
    (十月二十九日放送)