ラジオ国民読本

日本の進む道
   大東亜新秩序建設へ

 肇國の精神を実現

 欧州戦争が始つてから二年経ち
ましたが、去る六月からは御承知
のやうに独逸とソヴィエトの戦争
が始りまして、ソヴィエトも欧州
戦争の真ただ中に入り、アメリカ
も今では形の上では兎も角、事実
上参戦してゐると見てよい状態に
あります。従ひまして、世界の列
強で直接欧州戦争にはいつてゐな
いのは我が国だけであり、我が国
の動き、我が国の進む路といふの
は世界各国の注目の的となつてゐ
るのであります。
 我が国の進むべき道は、畏くも
昨年三国同盟が成立しました際賜
りました御詔書に「萬邦ヲシテ各
各其ノ所ヲ得シメ兆民ヲシテ悉ク
ソノ堵ニ安ンゼシムル」と仰せら
れてをりますところの、肇國の精
神を実現することにあります。
 それは支那事変の根本的処理と
大東亜新秩序の建設といふことで
あり、これを通じて、世界の新秩
序をうち樹て、世界に正しい平和
を齎らすことであります。
 従ひまして、この肇國の理想に
基づいて、我が国のとるべき道は
常に平和と建設といふことにある
のでありまして、このことは満洲
事変や支那事変でもわかります。
我が国ほ正しい平和を害するもの
があれば、やむを得ず戦ふのであ
りますが徒らに平たいところに波
を立てるものでもありません。
 満洲国が生れ出て十年になりま
すが、今やこの満洲国は王道楽土
の軌道に乗つて、大きい発展をな
し、また支那でもこの根本方針に
基づいて、新しい支那の建設が着
着と進められてゐることは、ここ
で申し上げるまでもありません。

  平和と建設への道

 三国同盟が結ばれた所以も、こ
の肇國の精神を根本とするもので
あり、これによつて世界の平和を
保たうとすることにあつたのであ
ります。さき頃日仏印共同防衛が
結ばれましたのも、ABCD包囲
陣などといつて各国が、東亜の一
角で策動し、仏印を第二のバルカ
ンとしようとしたのに対して、我
が国はフランス本国との円満な話
合により、外国の策動を抑へ、東
亜の一角に戦ひがおこるのを未然
に防いだのであります。
 この我が国の崇高なる精神は、
物質文明に溺れ精神文化を軽んじ
て来た第三国、特にイギリスやア
メリカの誤解するところとなつて
ゐるのであります。併しこの我が
国の精神は、正しい眼で以て見ま
したならば容易に理解されるとこ
ろでありまして、我が国が独伊と
提携するに至りましたのも、独伊
が進んでこれを理解したからであ
ります。
 今回の日本とアメリカとの間に
おける話合は、その内容は発表さ
れてゐませんがこれは我が国の真
意を明かにし、太平洋に無用の波
乱を防ぐことが出来るかどうか確
めようとするものと存じます。
 最近日米関係が非常に微妙にな
つて来ました際、この処置のとら
れましたことは、とりも直さず我
が国の根本方針が平和と建設に在
るからであります。しかしこの平
和はたゞ平和のための平和でない
ことは申すまでもありません。
 建設の道は由来荊の道でありま
す。世界の歴史を見ますと困難に
打ち克たないで成功した国といふ
のは一もないのであります。
 特に我が国の目的とする大東亜
新秩序の建設といふことは、世界
の歴史が始つて以来の大事業であ
り、かやうに大きな目的を実現し
ようとした国は、世界の歴史に未
だかつてないのであります。それ
ですから、このことがたやすく行
はれる筈はないのであります。

  完璧の戦時態勢を

 しかし、この東亜新秩序の建設
に、成功するか失敗するかといふ
ことは、将来の東洋の平和、それ
から世界の歴史に重大な影響を及
ぼすものであります。そして我が
国三千年の歴史は、実に今日のこ
の大東亜新秩序建設の大業を成し
とげるために、用意されたものと
云ふべきであります。大東亜新秩
序の建設は、現在の私共が断じて
成し遂げこれを子孫に渡さなけれ
ばなりません。
 それには、この我が国の真意と
実力を世界に理解させなければな
らないのであります。
 この方向に向つて進む我が国と
してはどういふ手を打つたら良い
か。今日既に国策が決定せられて
ゐる以上、外交のやり方につきま
してはこれは政府に委せ、私共国
民としてはひたすら固い結束と決
心の下に、国内の戦時態勢を固め
ることに懸命の努力を払ふことが
何りりも大切であります。
 東亜建設の道は、その目的地は
只一つでありましても、途中に或
ひはまはり道も、まがりくねつて
ゐるところもあり、時になだらか
なところもあり、また嶮しい坂道
もありませう。またその道はかな
り長いいことも覚悟しなくてはなら
ないのであります。
 ですから私たちは道が少しなだ
らかになつたからといつて徒らに
気をゆるめたり、道が少しけはし
くなつたからといつて悲観するや
うなことがあつてはなりません。
若し国民の一部で緊張がゆるんで
ゐるやうな人があると、それは大
きな危険であります。また近い将
来に戦時の状態がなくなり、気楽
な歩みが出来ると思ふ人があれば
これは大きな誤りであります。

  道は如何に長くとも

 私達国民はこの際わかり切つた
ことでありますが、以上のことを
よく呑みこんで、十分腹をきめ、
どつしりと落着いて、余計な荷物
はおろし、本腰を入れてカ強く一
歩一歩踏みしめて行くことが必要
であります。
 私達の生活は、いまこそかけ声
ばかりでなく、あらためてほんた
うに戦時的な身軽な生活に建直し
て、この道をすすまなければなり
ません。
 また私達が職場で仕事をする場
合にも、心の上で緊張してゐるば
かりでなく、この緊張を日常の行
ひ、日常の仕事の上にも現はし、
もし未だ平時のやうなやり方が残
つてゐるとすれば、これを潔く改
めて、どんなに中途の道が長く続
いても、びくともしないやうなも
のに致さねばなりません。
 世界の情勢が如何に変化しまし
ても、ここ相当の長い間は私達の
日常生活も益々きりつめねばなら
ぬことを、覚悟しなければならな
いのであり、戦時下ではきりつめ
た簡素な生活こそ、最も身ごしら
へのよい身軽ないでたちです。
 しかし私達は大事なときに臨ん
で徒らにうろたへたり、あはてた
りすることは大の禁物でありま
す。お日さまが照つても、また嵐
がふきすきんでも、私共はガツチ
リと手をつなぎ、互ひにはげまし
あつて声たからかに輝かしい目的
地目ざして突進致さうではありま
せんか。
         (十月十一日放送)