日独伊三国条約締結一周年に際して  情報局総裁 伊藤述史

 昨年、九月二十七日、日独伊三国条約が結ばれて以来、満一箇年に
なります。
 顧みるに本条約締結以来、昨年十一月二十日にハンガリーがこれに
参加致しましたのを初めとして、同月二十三日にはルーマニア、十二月二
十四日にはスロヴァキア、越えて本年三月一日ブルガリアがこれに加
はり、さらに六月十五日にはクロアチアといふやうに、続々と新らた
なる加盟国を得て、各締約国は東西相呼応し、世界新秩序建設を目が
けて、日夜懸命の努力を続けてゐる次第である。帝国臣民としては、
誠に祝福すべき日として、明日の記念日を銘記しなければならぬと信
ずるのである。
 本条約の意義乃至精神といふ点については、既に締結当日、畏くも
渙発せられました 御詔書並びに近衛総理の告諭により明らかである。
 畏くも 御詔書中に
 「禍乱ノ戡定平和ノ克復ノ一日モ速ナランコトニ軫念極メテ切ナリ」
と仰せられてをり、近衛総理の告諭の中にも同様の趣旨が述べられて
ゐるのであるが、世界の平和を維持し、東亜の安定を確立することは
我が肇國の精神に源を発し不動の国是であることは申すまでもない。
そして日独伊三国条約はこの不動の国是を、帝国現下の対外政策の
根幹として具現したものに外ならぬと考へるのである。
 本条約締結当時の情勢を観るに、欧州戦争勃発以来既に一年余を閲
し、而も戦局は益々展開し、火の手は広く全世界に波及せんとするの
形勢を示してゐたのであつて、世界平和の維持を希念する帝国政府と
してはこの戦乱の拡大を防止することが、人類福祉の為め喫緊事なり
と認めて本条約を締結したる次第である。
 換言しますならば、本条約は昔時往々その例を見る軍事同盟の如く、
これに依り戦争遂行に利便を得んとするものには非ずして、むしろ戦
乱の世界化を防止し、以て世界の平和を確立せんとするところにその
根本方針があつたのであつて、この精神こそ実に三国条約を締結する
に至つた最も重大なる動機であつたのである。
 第二に申上げたいのは、本条約により、帝国の大東亜における新秩
序建設に関する指導的地位が明確に認められたといふ点である。抑々
帝国が東亜の永遠の安定を目的として、旧秩序諸国の防禦線の役割を
占めてゐる蒋政権打倒の為め、既に四年余に亙り戦つてゐるといふこ
とも、即ち、今日の世界に大きく流れる時代転換の奔流の一脈と見る
べきものであるが、不幸にして我が国の真意は未だ十分には世界に認
められず、或ひは旧秩序をそのまま固執することを平和なりと誤認し、
或ひはまたこれを変更することの必要性を認めつつもなほ多分に現
状に恋々として、帝国が大東亜において新秩序を建設することに反対
しようとする国のあることは、誠に残念でありますが、かかる状勢に際し
て、帝国と致しては、志を同じくする独伊と相提携することは、当然
の帰趨であつたのである。そして本条約締結以来欧州に於いては、独
伊両国は破竹の勢ひで新秩序建設に邁進致してゐるが、その間東亜に
於いて帝国が締約国の一員として、毅然たる態度を持してをつたこと
が独伊両国に如何に力強き支援であつたかは、茲に多言を要せぬとこ
ろである。一方東亜に於いては帝国は昨年十一月汪牙ハ氏を首班とす
る国民政府を承認して、茲に日満支三国を根幹とする東亜新秩序建設
の第一歩を踏み出したばかりでなく、本年初頭より泰仏印紛争調停に
乗出して、見事これを解決したほか、仏印との間には本年七月共同防
衛協定を締結して、南仏印に平和的進駐を行ふ等、大東亜に於いても
新秩序の建設に向つて、着実なる進展を続け、以て帝国の東亜に於け
る役割を果しつつあるのである。
 かやうに、日独伊三国条約は、締結以来一年を閲し、その間加盟国
も増加し、東亜に於いて将又、欧州において各締約国は着々本条約
の運用により新秩序建設の歩を進め来つたのであるが、
 畏くも御詔書中に於いて
「萬邦ヲシテ各々其ノ所ヲ得シメ兆民ヲシテ悉ク其ノ堵ニ安ンセシム
ルハ曠古ノ大業ニシテ前途甚タ遼遠ナリ」
と宣はせられてをらるるが如く、我が国の前途には幾多の難関の存す
ることは、疑ひなきところであつて、我々としては、条約の精神に則
り、あらゆる平和的手段を尽し、若しいはれ無き第三国の妨害あらば
これを断乎として排撃し、以て世界新秩序建設完遂の為め力強き一歩
一歩を進めて行く決意を固めなければならぬと信ずるのである。
 茲に条約成立一周年を迎へ、過去一箇年の業績を顧み祝意を表する
とともに、今後国際情勢が如何に変化し、また如何なる難局に遭遇す
ることあるも、三国同盟の根本精神が、我が外交の基調であることは
何等の変りなく、第三国の離間中傷により影響されることは有り得な
いのであつて、現下の微妙なる国際状勢に於いて、特にこの点を強調
したいのである。締約国は忍耐強く、益々その誼を厚くし、その共同
目的の達成に邁進せねばならぬと信ずる。
                                   (九月二十六日放送)