聖戦第四周年を迎へて 支那派遣軍総司令官陸軍大将 畑俊六
私は支那事変第一回の記念日に当り、陣中より銃後に呼びかけまし
たのは、恰も徐州会戦を終り武漢進攻作戦の準備に専念してゐた最中
であります。ここに第四回の記念日を迎へ、新中国の首都南京より再
び御挨拶申上げますことは洵に感慨深いものがあります。 御稜威の
下聖戦五年に亙り前線統後一体の努力により、東亜新秩序の建設がい
よいよ確乎不動の礎を築き上げたことは同慶に堪へざるところであり
ます。現在世界の情勢は武器を執ると否とにかかはらず、総ての国家
は大戦争の渦中にあり、然も世界新秩序を建設せんとする国家群と、
それを阻まんとする国家群とが対立抗争しつつあるのであります。支
那事変もまた必然的にこの世界戦争の一端たるやうに本事変の帰趨
は、東亜民族の興亡の分岐点となるのであります。従つて本事変処理
の指導的立場にある国民の使命は極めて大であり、私共派遣軍将兵も
亦その責務の重大性を痛感してゐるのであります。派遣軍全将兵は聖
戦の真義に徹し、戦争の長期化に伴ひ、辛労の過重にもかかはらず、
軍状益々振ひ士気愈々旺盛でありまして、私はかくの如く精強無比な
る部下将兵とともに鉄壁の如き意志をもつて、一路任務の達成に邁進
しつゝありますことは非常に光栄とするところであります。かくの如
く派遣軍将兵に一貫する不動の信念は、因より上御一人の 御稜威の
致すところであることは申すまでもないところでありますが、国民の
協力一致による賜物でありまして、銃後国民の熱意如何が前線将兵に
及ぼす影響の至大なることは多言を要せざるところであります。銃後
国民も亦その一言一行が直ちにこの支那事変に甚大なる作用をなしつ
つあることを、深く認識せられんことを切望する次第であります。今
や支那大陸に於いては皇軍の作戦行動の進展と相俟ち、国民政府又健
全なる発展を続け、今次汪主席の訪日は新国家たる中国の元首として
の公式訪問であり、これによつて両国の親善関係はますます強固を加
へ、国民政府は又今後に於て急速に発展強化せられることが予想され
るのでありまして、国民政府の強化は直接に重慶政権の弱化となるの
であります。現下重慶政権の情勢は抗戦力の非常なる低下、並に経済
力の窮乏の深酷化に伴ひ、その抗戦態勢は崩壊の域に達してをります。
今にして東亜保衛の大義を忘れ、敵性第三国にすがり尚抗戦を続ける
に於いては、我等はあらゆる方途をつくしてこれが潰滅をはかり、一
面に於いて国民政府の発展を助成しつつ不動の事変処理方策に従つ
て、毅然たる態度をもつて邁進するの一途あるのみであります。事変
解決を国際情[勢]の変転にのみ期待せんとするが如きは断じて採らざると
ころであります。即ち今次聖戦はあくまでも全国民一致の努力針をもつ
て邁進すへきであり、今事変をもつて百年の大計を確立しなければな
らぬのであります。これでこそ鋒鏑に斃れた十万余の英霊に酬ゆる所
以であると信じます。ここに第四回記念日を迎ふるに当り、さらに覚
悟を新らたにして私の御挨拶を終ります。
(七月七日放送)