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聖戦第四周年を迎ふるに当り国民に望む 文部大臣 橋田邦彦

 聖戦第四周年を迎ふるに当りまして実に感慨無量のものがありま
す。事変勃発以来、忠勇無双なる皇軍の将士は炎獅煬オ寒も事とせず
困苦欠乏によく堪へ只管皇国の為めに身命を賭して力戦奮闘して、皇
軍の進むところ、草の風に堰すが如く、赫々たる所期の效果を収めて
居りますことは、銃後国民の斉しく感謝感激措く能はざるところであ
ります。同時に銃後に於ても億兆一心の結束は愈々固く、よく堪へ、
よく忍んで、堅忍持久、職域奉公の実を挙げて居りますことは、これ
亦感激に堪へないところであります。かくて此事変を機といたしまし
て我国威が愈々宣揚されつつあるのであります。これ偏に大稜威の然
らしむるところでありまして、吾々は今更の如く大稜威の有難さをし
みじみ感じますとともに光輝ある我国に生れ、我国に於て育まれて来
た歓びを切実に感ずるのであります。然るに支那事変は因つて来ると
ころ遠く且つ深く、其関係するところ極めて広く、其処理に向つては
今日尚其前途極めて多難であることを覚悟しなければならないのであ
ります。しかも尚比四年の間に於て、世界の情勢は変転極りなく、渦
く動乱の中に、東西呼応して世界新秩序建設を目指して日独伊三国の
締盟を見るに至りまして、支那事変には重大なる世界的意義が加つて
参りました。しかも最近独ソ開戦によつて、我日本の地位と使命とは
世界秩序大転換に向つて愈々重大となつて参りました。実に我国の動
きは、世界動乱の始末を左右するのでありますが、一面から見れば我
国は実に国運隆替の巌頭に立つに到つたのであります。実に我国の当
面して居ります難局は今更言ふまでもなく古今未曾有であります。吾
々は此四年間不撓不屈の勇猛心を奮ひ起して聖業の完遂、難局突破に
邁進して来たのでありますが、今や一段の奮起と更に大なる覚悟を要
する秋となつたのであります。併し吾々がこの絶大の難局に直面して
居りますのは実に我肇國の大理想。即ち「八紘を掩ひて宇と為す」こ
との実現を期する機会に到達したのであります。昨年光輝ある紀元二
千六百年を祝して悠遠なる皇国の尊厳なる姿を如実に見ました吾々は
此難局を大なる歓びをもつて迎ふべきであります。此時に当つて吾々
は日本人として生れた感激と歓びに浸りながら日本国民として毅然と
して動きなき心境の下に自己の行くべき道をしつかり把まへなければ
ならないと考へるのであります。抑々吾々が自ら日本国民であると自
称するのは、単に日本と言ふ国に生れ又は生活して居ると言ふことか
らだけでなく、自称して恥づるところがない故に自称するのでなけれ
ばなりません。言ふまでもなく吾々は日本人としての道を踏んで行く
ところに日本人たる意義があるのであります。而して日本人の道とは
何であるかと申しますと、これ亦冒ふまでもなく
 天皇陛下に帰一し奉り國體に没入することであります。即ち只管
大御心を奉戴して國體に喜歓随順することであります。ここに私を捨
てて公に奉ずると言ふ日本人の「つとめ」があるのであります。事変
下畏くも度々 御詔勅を下し賜りまして、吾々国民の嚮ふところを昭
らかに示し給つたのでありますが、其の中に「至公無私」又「克ク私
ヲ去リ公ニ奉シ」と仰せられて居りますことは誠に恐懼に堪へないと
ころでありまして、吾々自ら省みるところがなければならないと考へ
るのであります。皇軍将士が 天皇陛下万歳と唱へて従容死につく壮
烈なる態度こそは 大御心を奉体し國體に歓喜随順するものの尊き姿
でありまして、吾々銃後にあるものも此心を心とするとき、真に日本
人としての道を踏むことが出来るのであります。つらつら観じまする
に、昨日の我は今日の我ではありません、否、今の我は直前の我では
ないのであります。即ち吾々は日々に、否、時時刻刻に、死して又生
れつつあるのであります。かく吾々は時時刻刻、日日に死しつつある
のでありますが、吾々は此の死に当りて、果してよく 天皇陛下万歳
を唱へて居るのでありませうか、潔く反省しなければならないと考へ
るのであります。この寸刻寸刻の生命を 大君の為め、み国の為めに
挿げることに於てのみ職域奉公の恂を尽すことが出来るのでありま
す。この心あつてこそ我々はよく真に挙国一致一億一心の実を挙げる
ことが出来るのであります。かくして始めて 御勅語に「至公無私唯
国家ヲ是レ念ヒ挙国一体億兆一心日ニ新ニスルノ気運ヲ振興シ日ニ進
ムノ事勢ヲ振作シ」と訓へ給へる 大御心に応へ奉ることが出来ると
考へるのであります。この重大なる時局に直面して唯一人として日本
人たるの覚悟のないものはないのでありますが、唯併し各人の自覚と
か覚悟とか言ふものの程度には夫々差等がありますから、真の日本人
として働いて居るかどうかを各自が絶えず自ら省みて自己の恂を尽さ
なければなりません。これこそが時艱を真に克服することの根本の要
諦と考へるのであります。
 又日独伊三国条約締結に当り下し賜りました 御勅語には「國體ノ
観念ヲ明徴ニシ」と仰せられて居ります。これ亦恂に恐懼の至りであ
ります。実に欧米文化の輸入によりまして我国は強兵富国の実を挙げ
ました。其結果として現に聖戦四年を経て微動だにもせざる国力を養
ひ来つたのでありますが、欧米文化に謳歌心酔するの余り、國體の観
念が甚だしくなほざりにされた時期のあつたことは周知の通りであり
まして、満洲事変以来殊に今次の事変に於て、國體に関する認識が漸
く本源に復帰しつつありますことは誠に喜ばしいのでありますが、尚
未だ充分徹底しないのではないかの懸念がないでもありません。功利
主義、個人主義、自由主義、人道主義、全体主義等の抽象的概念の為め
に、我々の随ふべき踏むべき道が歪められ又稍々もすれば歪められん
とすることは否定し難い事実であります。吾々は此の未曾有の時艱を
克服せんとするに当つて、よくよく考慮しなければならないところで
あります。吾々は日本人としての自己の行動を抽象的な何々主義と言
ふが如きものによつて律すべきものではありません。吾々には吾々の
道があるのであります。吾々は専ら実践に於て吾々の道へ随順するこ
とをつとむべきであります。而して吾々の随順すべき道とは教育に関
する 勅語に於て「斯ノ道ハ実ニ我ガ皇祖皇宗ノ遺訓ニシテ」と昭示
し給へる「斯ノ道」であります。吾々日本人は「斯ノ道」に随順して、
道の国日本を具現し、大義を世界に宣揚しなければならない使命をも
つて居るのであります。「古今ニ通シテ謬ラス之ヲ中外ニ施シテ悖ラ
ス」と昭示し給へる所以であります。実に吾々は政治に産業に経済に
学術に文化に、あらゆる吾々の活動に於て「斯ノ道」を具現しなければ
ならないのであります。之れによつて吾々は主義理論に禍さるるとこ
ろなき自律的な自主立場を得るのであります。これこそが大東亜共栄
圏の確立世界新秩序建設の根本的前提であり、難局打開の根元であり
ます。現下の難局打開に向つては、物心両面に向つて勿論当面の問題
として種々の応急方途が然るべく講ぜられなければなりませんが、そ
れと同時に邦家永遠の大計に向つても今より十分なる方策が講ぜられ
なければなりません。これは要するにあらゆる「ものごと」が日本と
言ふ建前に於て理解され把握されることでありまして、応急の方途も、
永遠の大計も、その画策実行に当つては真に日本的なる立場に於て、
私を捨ててかからなければなりません。例へば無用なる批判、批判の
ための批判、責任なき批判の如きは、断乎之を捨てなければなりませ
ん。これらは要するに我執の満足を計ること以外の何ものでもないか
らであります。前欧州大戦の敗残者であつた独逸の現在はどうであり
ますか、又其当時の勝利者であつた仏蘭西の現在はどうでありますか、
此両者を比較するとき、事態は極めて明白であります。吾々は批判に
先立つて現実を把握しなければなりません。過去を含みて未来に生き
る現実、東西を貫いて動く現実、日本の道の具現として動いて居る現
実、言ひ換へれば真の日本の現実即ち現にして実なる、歴史として時
々刻々動いて居る日本、悠遠なる伝統として生成発展しつつある日本
の真の姿を把まなければなりません。併し之には只管 大御心を
奉体
して國體に歓喜随順するの実践の外に道はないのであります。併しこ
こで考へなければならないことは己を捨てて公に奉ずるには先づ捨て
るに値する自己をもたなければなりません。國體に随順するには、其
実を挙げることの出来る自己がなければなりません。即ち我執のない
自己、謙虚なる自己、努めてやまない自己等々、の如き自己がなけれ
ば、己を捨てると言つでも意義のないことであります。故に吾々の日
々の修業を必要とするのであります。古語に「身修而家斉
、家斉而国
、国治而天下平」と言つて居ります。真に国に尽さんと思ふものは
家を斉へなければなりません。家を斉へんとするものは身を修めなけ
ればなりません。而して身を修めるには心を正しくすることが肝要で
あります。即ち身心を修め身心を正しくすることが国に尽す根本であ
ります。茲に於て吾々は建国の御詔勅にある「養正」と言ふ御言葉の
意義を窺ひ知ることが出来るのであります。外に向つて「八紘を掩ひ
て宇と為す」と言ふことを具現せんが為めには、内にあつて「正しき
を養ふ心を弘め」なければならないのであります。日々に新しく正し
きへ正しきへと我執を捨てて行くことが吾々の修業であります。そこ
に新秩序と言ふことの根本義が見出されるのであります。「日ニ新ニ
スルノ気運ヲ振興シ日ニ進ムノ事勢ヲ振作シ」と示し給つた 大御心
のほどをよくよく奉体しなければならないでのあります。

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 実に我国は今や隆替の岐路に立つて居るのでありますが、併し吾々
の行くべき道は一途であります。即ち我国の興隆の道が何処にあるか
をしつかり把んで、如何なることありとも、如何なる艱難ありとも、
この一途を死守する覚悟をきめさへすれば宜しいのであります。而し
て現下吾々は東洋平和の確立、東亜共栄圏の確立を目指して立ち上つ
て居るのでありますが、これは我国の興隆を俟つて始めて可能なこと
であります。それ故に吾々は死を賭してこれを実現せしめんとする大
勇猛心の奮起を必要とするのであります。挙国一体全力を提げて邁進
する外肇國の大理想の実現は不可能であることは言ふまでもありませ
ん。支那事変以来世界の列強は我国を如何なる眼を以て観て居るので
りませうか。国威が宣揚されればされるほど国民の総力が発揮され
ればされるほど、吾々は愈々困難なる境地に立つことのあるべきこと
を予想してゐなければなりますまい。併し如何なる困難とても堪え忍
んで全力を尽して打ち克つて行きさへすれば必ず打開の出来るもので
あることを私は固く信ずるものであります。吾々は如何なる境地に置
かれようとも、日本人としての感激と歓びと、又自己のつとめを、自
利我慾のために忘れるやうなことがあつては決してならないのであり
ます。どこまでも 大御心を奉体して國體に随順して私に克ち公に奉
ずるの決意を愈々固くし、着々如実に実践する覚悟を堅持しなければ
なりません。

       ×

 而して現に見る世界動乱の渦巻の中に於て毅然として道の国日本を
興隆せしむるには、一面熱烈燃ゆるが如き勇猛心の中に一面冷静氷の
如き心境を保つて、日本の道を正しく把み且踏まなければなりません。
徒に情熱に駆られて本末左右を顛倒する如きことは断じて避けなけれ
ばならないことでありますが、これとても結局我執に囚はれて浅薄な
る自己の満足を充たすに過ぎないことであります。未曾有の時局に直
面して怒るべきは実に我執の満足を計ることであります。又我執を我
執と知らずして我執に囚はれて居ることであります。吾々はこの記念
すべき聖戦第四周年を迎ふるに当りましてよく過去を顧みて切実に自
省すると同時に愈々覚悟を新にして日本の道を正しく進めるべく各自
のつとめを充分に果さなければならないと考へるのであります。
                        
(七月四日)