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泰仏印調停会談に就いて

 前回世界の現状を御話しました内で、大東亜特に西南太平洋に於け
る状勢が将来の英米が、我が方の態度を理解するか否かにかかること
大であると申しました。我が方の態度をよく示す実例として、今度は泰
仏印問題を御話します。昨年十一月末以来、波瀾万丈を極めてゐると
でも形容してよい泰・仏印両国国境紛争等も、ただいまのところ解決の
段階に入りました次第であります。本来この国境紛争は、その歴史を
遡りますれば、実に一八六七年に始まり、地域的に申しますれば、一
八六七年以来、五回に亙りまして仏国に割譲されました総面積実に四
十六万七千五百平方「キロメートル」に及ぶ泰国の失地が問題となる
のでありまして、この紛争に関係ある面積を考へますと、泰国現在の
全領土、五十一万三千平方「キロメートル」と略々大差がないほどの
広いものであります。随つて泰国にとりまして、問題が如何に重大で
あるかが御判りだらうと思ひます。
 右のやうな事情でありますから、新興泰国が、その国力を充実し、
民族精神に目ざめて参りますにつれまして、これらの失地を回復し、
国権を伸張しようとする運動が、遅かれ早かれ起ると云ふ運命にあつ
たのは明瞭なことであります。而して仏国が欧州戦争でドイツにやぶ
られ、休戦を乞ふやうな運命になりましたので、遂に昨年九月十三日
に至りまして、泰国現下の国運を一身に担つてゐる首相ルアン・ピブ
ン・ソンクラーム氏が、蹶然立ちまして、旧領土返還による国境変更
をフランスに要求したのであります。フランス側はこれを素気なく拒
否致しましたので、十一月二十三日、国境衝突が起り、十二月九日に
は本格的な交戦状態に入りまして、殷々たる砲声がメコン河畔を震撼
させるとともに、空中に於いても双方の空軍が相互に爆撃を応酬し合
ひ、茲に戦雲は泰・仏印の天地を蔽つてしまつたとでも形容してもよ
いやうな状態になつたのであります。
 大東亜共栄圏の確立を国策としてをります我が国と致しましては、
東亜圏内にある二国間のかかる紛争に到底無関心たることを得ないと
云ふことはいまさら申上る必要も無いわけであります。で、松岡外相
が帝国議会に於いて発言されました通り、昨年十一月以来、夙に紛争
解決に意を用ひてをりましたのであります。然るにこの泰・仏印間の
紛争に関しまして、大東亜共栄圏以外の国が調停に出でようと云ふや
うな形勢になつて参りましたので、東亜の指導者たる地位と責任とを
有しまする我方と致しましては、これを坐視するわけには参りません。
一月二十日、決然調停申入を為しましたところ、泰国もフランスも、
そこで受許の回答を寄せて参りまして、一月三十日にはサイゴン沖上
に碇泊してをりました帝国軍艦の上で、泰仏印間の停戦協定の署名調
停を見るに至りまして、これに基づきまして、泰、仏印間調停会談は、
二月七日から東京で開催されることになつたのは、御承知の通りであ
ります。
 右の如く会談が開始されました直後、例の「極東危機説」が唱道せ
られました。これは或ひは会談を牽制し、或ひは攪乱しようとする為
めでは無いかとも思はれました。そればかりでなく、泰、仏印両方面
特に泰国に対しまして、種々の威嚇強圧が行はれまするとともに、日
泰離間、日本中傷等のデマが流布されたのであります。
 之等の妨害にも拘らず、帝国政府と致しましては、大東亜圏内の秩
序維持の為めに泰・仏印間の調停に尽力し来つたのであります。而し
て泰国は、新興アヂアの独立国としての毅然たる誇りと信念とを保持
致しまして、終始、我が国に全幅の信頼を示してをります。仏国もま
た最後まで種々難色はありましたが、東亜の大局の赴く方向をよく洞
察して、譲るべきを譲ることと信じます。
 元来二国間の紛争を調停するといふことは国際慣例と致しましても
非常に重要な役割をなしたものでありまして、日露戦争亜時の、ダガ
ー・バンク事件により、英露が正に戦端を開かんとした際に仏国が調
停をなし、またポーツマス条約の出来るやうになつたルーズベルトの
調停の如き例もありますし、国際聯盟が出来まして以来理事会総会に
よる調停が数々行はれ、最後には満洲事変に際しまして聯盟の調停が
失敗したことは皆様の良く御承知のことであります。而し我が国が二
国間の紛争に関して調停を行つたと云ふことは、実に今回が初めてで
あります。これは我が国外交史上劃期的の意義を有すと申してよいか
と思ひます。且つ今回の会談によりまして大東亜共栄圏内の諸国が、
日本を中心に致しまして、その仲介によりまして釈然と仲直り致すと
云ふことは、今後東亜諸民族が日本を中心に一家の如く和合し、相共
に協力し合つて、向上繁栄の一路を辿つて行くことを表象しまする瑞
兆と申しましても過言ではないかと存じます。即ち我が肇國の聖旨を
表現したと云ふことになりまして、今回の泰・仏印の調停はこの点か
ら見まして非常に重大な意義を有するものであることを良く御諒解願
ひたいのであります。これが泰仏印間の調停問題の意義であります。

  (三月八日放送)