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国家総動員法の改正に就いて

          企画院総裁 星野直樹

 皆様御承知の如く、国家総動員
法は、昭和十三年五月に初めて施
行せられたものでありますが、そ
の後事変の進展、時局の推移に伴
ひまして、実際の必要の生ずる毎
に逐次、これを発動して参りまし
て、今日までに、本法に基づいて制
定公布になりました勅令は、既に、
五十一件の多きに達してゐるので
あります。その規定する所もまた
頗る広汎に亙り、人員、物資、資金、
設備、価格等、各般の事項に及んで
をり、臨時措置法、その他の法令
と相俟つて、時局の突破、国家総
動員の遂行上、極めて重大なる効
果を奏しつつあるのであります。
 然るに最近殊に、昨秋日独伊三
国同盟の締結を契機として、皇国
を繞る国際関係は、頓に緊張の度
を加へ、何時如何なる事態が、発生
するか、予測し難い情勢となつて
参つたのであります。即ちかくの
如き情勢に応じ、国の総力を挙げ
てこれに対処すると共に、一朝有
事の場合には、敏速機宜の措置を、
講じ得る態勢を予め整備して置く
必要を、痛切に感じられるのであ
ります。これが為めには国家総動
員の基本法規たる総動員法に対し
ても、根本的改正を加へる必要も
生じて参つたのであります。今回
本法について二十五箇条に瓦る広
汎囲の改正を行ひました趣旨も全
く茲に存してゐるのであります。
 仍ち政府は国家総動員法中改正
法律案を今七十六議会に提出致し
たのでありますが、貴衆両院共、
極めて迅速に且つ熱心にその審議演
を進め、何れも満場一致を以てこ
れを可決致しましたので、本日改
正法律の公布を了し、不日その施
行を見ることと相成つたのであり
ます。今回改正の要点を、簡単に
申上げますれば、
一、先づ第一には、労力の分配を
 適正にし、その能率の発揮を図
 る為めに、労務統制に関する条
 項を、強化致したことでありま
 す。生産力の拡充を図ることは
 今日最大の急務であることは申
 す迄もありませんが、これが為
 めには、一方企業に従事する技
 術者労務者等の配分を適正にし
 時局の推移に応じ、最も必要と
 する産業に、必要な働き手を集
 中しますると共に、傭ふ事業家
 も傭はれる従業者も、また精神
 労働者も、肉体労働者も、皆が渾
 然一体となつて、各々その職分
 に励精し、以て最高度に、作業能
 率の向上、生産の増強を、図らね
 ばなりません。蓋し事変前に於
 いては、我が国は寧ろ人口過剰
 の状態を呈し、働く意志、働く能
 力があつても、働く口がないと
 いふ場合もあつたのでありまし
 たが、大陸に於いて、大規模の
 作戦が行はれ、また国内及び満
 洲、支那に亙つて、飛躍的なる生
 産力拡充の行はれつつもる今日
 は、情勢が全く一変し企業者は
 なかなか適当な技術者、労務者
 が得られない為めに、生産能率
 を、少なからず低下してゐる現
 状であります。即ち労務の需給
 の調節は今日の生産力拡充計画
 遂行上、極めて重大なる、問題
 となつてゐるのであります。か
 かる情勢に鑑み、政府は、今般
 総動員法の労務統制に関する条
 項を改正して、傭主のみならず、
 傭はるる者の方面にも統制を及
 ぼし、また肉体労働者の給与の
 みならず、精神労働者の給与を
 も、直接統制し得るやうに致し、
 以て労務統制の徹底を期するこ
 とと致した次第であります。
二、第二には、統制物資の範囲を
 拡大して、総動員物資のみなら
 ず、必要に応じ、物資全般に及
 ぼし得る如くしたことでありま
 す。これに依つて、贅沢品等の如
 く今日の時局突破の為めに直接
 必要の少い物の為めに、国の生
 産力の用ひらるることを割愛し
 て、その力を、是非共必要な物
 資の方面に活用することを、従
 来よりも更に有効に、実行し得
 る途が、拓かれたのであります。
三、第三には、重要産業に対する
 資金供給の円滑を図り、且つ万
 一の事態に備へる為めに、金融
 統制に関する規定を、強化致し
 ました。即ち、一定の銀行に対
 して、時局に際し必要に応じて
 資金を必要とする事業の為めに
 或ひは債務の引受をなさしめ、
 或ひは債務の保証を為さしむる
 の道を拓いたのであります。こ
 れに依つて、現金を動かさずし
 て、金融を為すの目的を達し得
 ることと相成るのでありまし
 て、これは、今日最も戒心を要
 する、通貨の膨脹を、防止する
 見地からしましても、非常に重
 要と考へられるのであります。
四、次に、産業の能率を発揮せし
 め、生産を向上せしめる為めに、
 現有の技術、物資、不動産、企
 業設備等を、必要と認める方面
 に、集中的に利用せしめる途を
 拓いたことであります。
  我が国経済界の現状を見ます
 ると、軍需産業を中心とし、重
 化学関係の工業を、極めて急速
 に拡張致さなければならず、こ
 れが為めには、多数の技術者、莫
 大なる物資、設備等を、要する
 に拘らず、技術者、物資、設備
 等に限りがありまする為めに、
 総ての産業に、これを行き亙ら
 せることは出来ません。従つて
 所謂重点主義に基づいて、最も
 必要なる方面、最も生産能率の
 高いものに主力を集中して、そ
 の全納力を発揮せしむることが
 何よりも肝要であります。
  これが方途と致しまして、今
 回の改正に当つては次の如き各
 般の措置を採つたのであります
  即ち第一には所謂技術公開の
 精神に基づいて、特許発明また
 は登録実用新案等を活用するの
 途を拓き、優秀なる技術を最も
 有効に活用することに依つて相
 依り相扶けて、生産力の増強に
 寄与することと致しました。
  次に政府のみならず、総動員
 業務を行ふ者に対しても、必要
 なる総動員物資、或ひは土地ま
 たは家庭その他の工作物を使用
 または収用するの権限を与へる
 ことと致したのであります。
  第三には所謂不急遊休の設備
 等を必要なる事業に活用せしむ
 るの途を拓いたのであります

 蓋し所謂重点主義に依つて、不
 急不要の産業を後にし、時局産
 業を先にすると共に時局産業中
 でも、能率の高いものを先にす
 る、と云ふふうに致しまして、
 同じ労務、物資等から、出来る
 だけ多くの生産量を上げること
 に努めねばならのことは前に申
 し述べた通りであります。その
 結果不急不要の産業、または能
 率の低い企業に於いては、所謂
 遊休の物資、設備を生ずる場合
 もあるのでありますが、少しで
 も生産の役に立てねばならねの
 であります。
  今日の実状は、一人一物と雖
 遊ばせて置くことは出来ない。
 有らん限りの能率を、最高度に
 発揮せしめねばならないのであ
 りますから、苟しくも、遊休の設
 備、能率の上らない企業がある
 ならば、思ひ切つて、これが活用
 乃至合理化を図り、なるべく新
 らたなる物資等を費さずして、
 国全体の生産力の拡充向上に、
 資せしめねばなりません。今回
 の総動員法の改正に当りまして
 はこの点に鑑みまして、事業設
 備の処分、事業の存廃または経
 営方法.その他産業の整備に関
 し、政府が必要な命令を為し得
 る、途を拓いたのであります。
四、第四には、従来総動員業務に
 対する協力を命じ得るのは、政
 府またほ地方公共団体の行ふ業
 務に限られてをつたのでありま
 す。しかしながら各種重要産業
 の能率向上の為め、これ等に対
 しても、技術上或ひは経営上協
 力を行はしめる必要のある機会
 が認められますので、国家総動
 員上必要ある場合に於きまして
 は政府の指定する者の行ふ総動
 員業務に付ても協力を命じ得る
 如く、規定の拡張を致しました。
  次に必要に応じて特定の事業
 の開始を制限または禁止すると
 共に、生産計画並びに技術的見
 地より見て必要なりと認められ
 る場合に於いては、事業の委託
 共同経営または譲渡、廃止、ま
 たは休止を命じ得ることとし、こ
 れに依つて事業の整理統合を為
 し得るの途を設け、以て事業の
 強化及び生産力の増強を図るこ
 とと致したのであります。
五、第五には、重要産業の整備を
 図り、その能率を向上せしめる
 と共に、官民協力一致に依る、
 国防経済の計画的運営を行ふ為
 めに、産業統制に関する、基本
 的条項を、整備したことであり
 ます。
  過去の状態を顧みますると、
 統制を行ふ政府と統制を受ける
 国民とは、対立的な関係に立ち
 これが為めに、却つて充分の総
 力を発揮することが困難なる状
 態に在つたとも云へるのであり
 ます。真の国家総動員は、官も民
 も国家目的といふ最高の共通目
 標に帰一し、職分奉公の観念に
 徹して、協力一致してこそ、始め
 て実現し得る事柄であります。
 それが為めには、官界も経済界
 もこの目的に適応する規制を整
 備することが必要であります。
 国家総動員法には、従来でも、事
 業体制に関する規定があつたの
 でありますが、その適用の範囲
 は、総動員業務に限られる等、
 狭かつたのみならず、統制組織
 も当業者の利益擁護を主目的と
 する組合的のものであつて、充
 分の統制力も期待出来なかつた
 のであります。今回これに改正
 を加へ、統制の範囲を拡大する
 と共に、統制団体の組織の強化、
 機能の拡充を図り、以て産業能
 率の増進と、自主的統制の実を
 挙げしむることと致した次第で
 あります。而してこれが実行に
 当つては重要なるものより逐次
 実施して参る所存であります。
  なほ只今申述べました統制団
 体または会社の設立並びに先に
 申上げました事業の譲渡、出資、
 合併等の命令を受けたる者に対
 しては一方に於いて債務の承継
 整理等に付いて特別の方途を講
 ずると共に、必要に応じて課税
 標準の計算に関する特例または
 租税の減免等の特典を与へ、こ
 れに依つて受命者の負担を軽減
 し以て各般の措置の実施の円滑
 を図ることと致してをります。
六、次には、価格統制に関する条
 項を拡充して、現在統制の及ば
 ないもの、例へば、修繕料、請
 負賃等これを及ぼし得ることと
 し、物価政策遂行の完璧を期し
 たのであります。
七、最後に、罰則を改正して、悪
 質、大規模なる経済統制違反に
 対する罰則の強化を図り この
 種違反行為の絶滅を期すること
 と致したことも、注目すべき事
 柄であります。
 以上を以て、今回の改正の、主
なる点を申述べた次第であります
が、之等の改正規定は、今後実際
の必要に応じ、勅令に依り具体化
されて、発行せられるのでありま
す。その際、政府は、この法律の
極めて重要なることに鑑み、慎重
なる研究と、準備とを整へ、これが
運用上、万遺憾なきを期するは、
勿論でありまするが、現在内外の
情勢の、極めて緊迫してをる実状
に顧みますれば、政府は、必要な
る場合には、躊躇する所なく、本
法を活用し、以て、国家総力の発
揮に、要する所存であります。
国民各位に於かれても、この有史
以来の国難とも称すべき、重大時
局の認識に徹底し、愛国の熱情と
赤誠とを奮ひ起して挙国一体、時
艱の克服に全力を犠牲せられんこ
とを切望する次第であります。
       (三月三日放送)