政府の放送について 情報局第二部第三課長 宮本吉夫

 政府は、昨年の十二月に従来の
内閣情報部を大きく致しまして、
新に情報局を設けました。この情
報局は皆様既に御承知のことか
と存じますが、「情報並びに啓発
宣伝の統一と敏活を期する」と云
ふ趣旨の下に、外務省情報部、陸
軍省情報部、海軍省海軍軍事普及
部の仕事を集めまして、これとと
もに新聞や通信、出版物、レコー
ド、映画、演劇などの指導、監督を
行ふことに成りまして、ラジオ放
送も、番組関係は逓信省から、この
情報局に移されたのであります。
 そしていままで、政府は放送に
対しましては、取締りに重きをお
きまして、放送が過ちを犯さない
やうに、悪い放送が出ないやうに
といふ、いはば消極的なベカラズ
主義を以て、これに臨んで来たの
でありますが、この情報局におき
ましては、新聞や出版物や、映画、
演劇などに対しますると同様放送
につきましても、取締り許りでな
く、これをよりよい放送と致すこ
とにつきまして、力を協せ放送を
おききになる皆様の為めに、そし
てお国の為めに、最もお役に立て
ようとすることになつてゐるので
あります。
 我が国は、いま極めて大事なま
た極めてむづかしい立場に立つて
をりまして、この荒波を乗り切る
のに最も大切なことは乗組員であ
る、国民一人一人の愛国の熱情と
鉄のやうな団結、協力であること
は申し上げるまでもありません。
 これには、政府におきまして、
時局の真の姿を、十分に一般に明
らかに致しまするとともに、常に
日本の進む方向、政府の行はうと
すろいろいろな政策の内容や、考
へを、広く全国にお伝へ致し、国
民の皆様の十分な納得と心からの
御協力を得ますことが、なにより
も必要であると考へられるのであ
ります。
 そこで、情報局と致しましては
放送の上におきましても、この際
政府の行ふ、国策放送の回数を増
加し、今日から、これを始めるこ
とと相成つた次第であります。
 そのあらましを申し上げますと
事変下の放送と致しましては、先
づ出来るだけ戦況その他軍事につ
いての放送を行ひ、戦地に於きま
す皆様の御子様、御兄弟、御父さ
ま、御主人の御活躍をお伝へ致し
まして、銃後の我々一同の感謝の
念を深め、事変意識を一層昂めま
すると同時に、我が国の国防の状
況や、世界各国の国防力などに関
する知識、理解を深めることが、
いはゆる国防国家の建設に必要と
考へまして、毎週大体火曜日と木
曜日にそれぞれの専門家を煩はし
陸軍関係と海軍関係の放送をする
ことになりました。
 次は休日を除きまして、毎日午
後七時のニュースの次に、「政府
の時間」を設けまして、主として
その時に政府の考へてゐる方針を
申し述べますとともに、法律や、
規則が山されましたときや、政府
が声明を致しましたときには、な
るべく早く、その趣旨や内容を御
説明致すこととなりました。この
時間には、各官庁や情報局の関係
官が放送致しますが、その外に従
来情報局で作つてをりましたラヂ
オ時局読本を、ラヂオ国民読本と
名をかへましてここに移し、その
内容も、一層拡めまして、皆様の
お役に立ちさうな、日常の問題の
解説も致す予定であります。
 さらに、情報局と致しましては
国務多端の折ではありますが、総
理大臣はじめ、大臣方を煩はしま
して代る代る放送を願ひ、国策の
基や、国民の進むべき道を、明ら
かに致したいと考へてをります。
 申し上げるまでもなく、時局は
いままことに重大であります。そ
れだけに政府も国民も、ガツチリ
と一になつて進まねばなりませ
ん。どうか、皆様にはこの国策放
送を出来るだけ御聞き下さいます
と同時に、こんな事柄を放送して
ほしい、こんな事柄を明らかにし
て貰ひたい。どの大臣の何につい
ての放送を聞きたい、などといふ
御希望なり、御注意なりを御申越
し下さるやう、心からお願ひ致し
たいと存じます。
            (二月十二日放送)