小国民への映画対策
児童の教育上特に有益な映画や児童に健全な娯楽を与へる映
画とはどういふものか、文部省の映画課ではかうした児童や生
徒向の執筆を選定して、小国民に良い映画を見せる様に努力し
て来たが、今年は更にこの制度を強化することになつた。今回
はこの小国民に対する映画政策について解説を試みよう。
映画法が実施されたのは一昨年の十月であつたが、周知のや
うにこれによつて満十四歳未満の子供は一般用映画だけしか見
ることが出来なくなつた。ところがこの一般用映画と言つても
積極的に子供の教育上有益な映画といふ訳ではなく、子供が見
ても悪い影響がないといふのに止る。従つて積極的な意味から
言へば、現在の映画の大部分は認められないことになり、児童
が映画を見ることは殆んど出来ないことになる。
然し今日のやうに子供と映画は切りはなして考へることの出
来ない実情では、子供の映画観覧を事実上禁止してしまふこと
は可哀想なことである。かうした訳で一般用映画は一応消極的
な意味をもつてゐるに過ぎないが、別に又一方積極的に児童の
教育上有益な映画を見せるやうにする必要がおこつた。そこで
昨年文部省に児童映画協議会が設けられ、一般用映画の内から
児童生徒向の映画を選定して、広く学校とか各種の教育団体、
一般家庭等を対象として、発表する事になつたのである。
この協議会の委員の中には、児童心理学の専攻学者や映画教
育理論の研究家の方々もあり、あらゆる角度から調べて選定さ
れてゐる。
この児童生徒向映画は約七歳から十七八歳迄の児童や生徒を
対象としてをり、大体これを四つに分け、尋常小学校の一年か
ら三年迄を低学年、四年から高等科迄を高学年、中等学校の方
では男子の中等学校と女子の中等学校に分け、この区別に応じ
て、例へば「小学校高学年及中等学校」といふ風に指定されて
ゐる。
昨年は七月に第一回の選定が行はれて発表されたが、十二月
迄に二十八本の映画が選定された。例へば松竹の「浪花女」は
女子中等学校向として指定されたが、選定の理由としては「女
子中等学校生徒(特に高学年)はこの映画によつて日本的な藝
術の世界をよく理解すると共に又日本女牲としての心構につい
て有益な示唆を与へるものである」とされてゐる。
又ドイツのオリンピック映画の「民族の祭典」と「美の祭典」
は、小学校の低学年を除いて高学年と中等学校向に指定された
が、これは映写時間が長いため低学年の児童には向かないため
である。
かやうに昨年は三十八本の映画が児童生徒向として選定され
たが、今年度の方向としては児童映画の製作奨励といふことが
あげられてゐる。
現在我が国に於ては、純粋の児童映画といふものは殆んどな
いのであり、児童映画の出現が期待されてゐるが、これについ
ては文部省と業者の間に懇談会を開いて、脚本について指導す
るとか、その他の後援をするといふ風に、児童映画の製作を奨
励することが考へられてゐる。又教育上特に有益な映画を多く
の児童に見せるためには、選定された映画を十六ミリにして、
全国の小学校に配給するやうにするととも考へられてをり、講
堂映画の必要が唱へられてゐる。
現在全国の小学校で映写機の数は約二千に上つてゐるが、映
写機のやうな映写設備の供給は余り容易ではなく、又十六ミリ
映画の製作については業者の協力を必要とする。かうした問題
もあるが、ともかくさうした方向に向はうとしてゐる。一方又
映画を以て教へる所謂教材映画の製作も必要とされてゐる。こ
の教材映画はドイツでは盛んに行はれてゐるやうだが、我が国
は数も少く、しかも充分なものはないのであり、特に地理とか
理科の教材映画をつくることが必要とされてゐる。
かやうに我が小国民に対する映画政策は、なかなか大切な任
務を持つてゐるのであり、今年度に於けるその活動は各方面か
ら期待されてゐる。
(一月六日放送)