第七十六議会の翼賛体制を視る
事変下第五年目の七十六議会は廿一日から再開されたが、今
回の議会は新体制下初の議会であり、貴族院、衆議院共に各々
万全の対策を講じ大政輔翼の責を果さうとしてゐる、今回は貴
衆両院の翼賛態勢を展望して見よう。
昨年の夏、各政党共に新体制に順応して解消したが、衆議院
側では翼賛議会の本分を発揮するため、殆ど議員全体を含む衆
議院議員倶楽部を組織し、なるべく一致の行動をとり、翼賛の
責を果す方針をとつてゐる。この衆議院議員倶楽部の運営には
顧問、理事、院内理事等の役員が責任をもつて当るととになつ
てゐる。又院内の事務を処理するため庶務、議案、議事、委員
の四つの係りを設け、院内理事と幹事がその事務をうけもつて
ゐる。別に、議案の審議に万全を期するため政務調査会を設け
審議の責任を全うする事になつてゐる。そこで今回の議会を通
じ論議の中心題目となるべきものを挙げると、第一に外交問題
第二に経済統制に対する官民の協力、第三に経済新体例の実行
問題、第四に翼賛会の本質論の四つがある。
併し衆読院全体としては、自粛の精神を以て翼賛議会の本分
発揮に努め政府と協力する態度を明らかにしてゐる。次は貴族
院であるが、貴族院では無党無派の衆議院と異なり、従来の通
り各会派を擁し、貴族院独自の翼賛体制を確立しようとしてゐ
る。即ち研究会を始め公正、同和、交友、同成等の各会はその
まま存在してゐるが、衆議院の翼賛体制に呼応して議会局貴族
院部を設け、各会派を通じて三百十三人の絶対多数が大政翼賛
会に入会し、各部の構成や役員も決定し去る二十日には創立総
会を開いた。
政府ではさきに各派交渉委員を開いて懇談会を開き、率直に
内外の情勢を明らかにしたが、その結果十七日の各派交渉会で
は貴族院の議会に臨む態度として、政府との協力態度を明らか
にした。従つて各会派の代表質問に於いては、特に外交や国防
問題等の対外的に影響を及ぼす問題につき無用の発言は之を慎
み、多くは秘密会を活用して、政府と貴族院の一体化をはから
うといふ風潮が有力である。
然し一般の国内問題については財政経済政策、銃後の思想、
教学、科学振興の問題等につき論陣を張ることになるであらう
から、時に緊張する場面を呈することもあるものと見られる。
さてこの戦時下の翼賛議会には、各省から百廿八件を超える法
律案が提出され、その協賛を求めることとなつてゐるが、何れ
も新体制下の諸施設を実施するに必要な法律案であり、その内
訳は大体次のやうになつてゐる。即ち大蔵省所管が約四十件、
商工省所管十八件、司法省所管十三件、農林、逓信両省所管各
八件、厚生省所管八件、文部省所管五件、その他となつてをり、
合計・百二十八件を突破してゐる。
(昭和十六年一月二十一日放送)
【註】 二十二日の緊急閣議で今議会提出議案百二十八件のうち
約半数を整理することとなつた。