煙 幕 は 如 何 に
利 用 す る か

 今回は最近の科学兵器について一二解説をしよう。
 煙幕即ち煙の幕を張りめぐらして、敵の照準や観測を困難に
し、その間に味方
は色々の作戦行動
をおこすといふ煙
幕は、近代戦に於
ては大きな働きを
演じてをり、この
ため戦術の革新を
もたらした程だ。
 煙幕は歩兵の突
撃にも、敵前上陸
にも利用され、飛
行機も亦煙幕を応用する。更に防空部隊も煙幕を用ひて、都会
の重要な部分を被つて、空襲に備へるが、軍艦も亦煙を出して
自分の姿を眩まし危険を脱れる。
 その他海軍では敵味方の艦隊の間に煙幕を張つて、敵の照準
や弾着の観測を出来ないや
うにしたり、又は敵の艦隊
を煙幕で包んでおいて、そ
の間に水雷戦隊が快速力を
利用して近づき、魚雷を発
射する等、色々応用されて
ゐる。
 かやうに煙幕の使ひ途は
大変広いのであるが、これ
は第一次大戦を経て非常に
広く利用されるやうになつ
たもので 煙幕は第一次大戦が産んだ新兵器と言へる。煙幕を
張るには、砲弾とか投擲弾、発煙筒や発煙缶、戦車、飛行機等
によつて行はれてゐるが、砲弾による煙幕は外国の例によると、
砲兵一中隊で正面幅百メートル位の煙幕は、直に張ることが出
来る。
 今回のヨーロッパ戦争で、フランス軍やつた例を見ると、
正面幅二百メートルの煙幕を一時間続けて張るためには、風速
三メートル以内では、黄燐弾を五百発用ひた。
投擲弾によるのは、歩兵曲射砲や投擲器で行ふもので、敵の機
関銃が邪魔になる時とか、正面攻撃をする友軍と敵が側面から
射撃する時、一時的にその場所にだけ、煙幕を張るやうな場合
に行つてゐる。
 又発煙筒や発煙缶を用ひるのは、あらかじめ準備した位置に
煙幕を張る場合であり、発煙筒や発煙缶にはいろいろあるが、
ブリキ缶で重量十キロのもので、高さ十メートルから二十メー
トル幅三百米の煙幕を八分間保つ軽便な発煙器もある。
 尚発煙剤としては、主に燐や四塩化錫、四塩化硅素、四塩化
チタニウム等が用ひられてゐる。
 その他戦車によるものは、発煙器は高圧噴射器や加熱式が用
ひられてゐるが、更に煙幕を信号用に使ふ場合には、信号拳銃
や野砲、高射砲等も応用し、又飛行機を用ひる場合もある。
 尚今回のヨーロッパ戦争では、ドイツに普通の煙幕と違つた
新兵器が現れたが、これは物凄い人造霧であり、昼間でも松明
を使はなければならないやうな、大規模な人造霧を都会の上空
に撒きちらしたと言はれてゐる。   

 (一月十五日放送)