総動員態勢愈々強化さる
事変下四度目の新春を迎へたが、今年こそは世界の新秩序建
設に向つて邁進すべき年であり、これと共に国内に於ても、国
家総動員態勢はいよいよ強化されようとしてゐる。今回は最近
に於ける国家総動員態勢の強化について解説しよう。
事変の進展に対処して、国家総動員態勢を確立強化するため
に、国家総動員法が公布されたのは昭和十三年の四月のことで
あつたが、この国家総動員法はその後次第に強化され、国家総
動員法に基いて公布された勅令は、現在沢山の数に上つてをり、
その主なものを拾つて述べると昭和十三年度の学校卒業者使用
制限令、昭和十四年の国民職業能力申告令や従業員雇入制限令
賃金統制令、又国民徴用令や価格等統制令、地代家賃統制令、
資金臨時措置令などがあげられるが、昨年に入つてからは、青
少年雇入制限令や陸運統制令、海運統制令が施行された。更に
亦十月からは一段と強化されて、賃金統制令や価格等統制令、
地代家賃統制令、国民徴用令等も改正されたが、又公益優先の
立場から国民経済の再編成を目指す会社経理統制令が実施され
た。
そして又昨年末の十二月十四日の総動員審議会で、貿易の統
制とか、農地や森林原野の価格統制とか、生活必需品の統制、
新聞紙等の掲載制限に関する六つの勅令要綱が可決されて、こ
れらについて国家総動員法が発動されることになつた。このう
ち貿易の統制に関しては、政府は必要と認めた場合には、商工
大臣の命令で民間の貿易業者間に強制的に輸出または輸入をさ
せ、或は輸出入を制限、禁止することを定めたもので、現在の
内外の経済情勢に対処して貿易体制を確立しようとするもので
あり、輸出の振興、輸入の確保に万全を期さうといふのである。
次に生活必需品の統制については、主務大臣は生産から消費
まで全面的に命令を下すととが出来ることになり、生活にどう
しても必要な物資を円滑に供給することを目的としてゐる。
戦時下国民生活の安定といふことは、国家総動員態勢を完全
にするための根本条件の一つとも言へるが、政府でも日常生活
品の供給に努力を払ひ、配給機構の整備肝に乗り出し、従来臨時
措置法に基いて、種々の配給規則が実施された。然し今回配給
をより円滑にするため強力な国家総動員法が発動されることに
なつたのである。
次に前述のやうに耕作地や森林原野の価格にも統制が加へら
れることになり、これらの土地の値段が騰ることが抑へられる。
更に耕作地を潰して耕作以外の目的、例へば宅地とか工場の敷
地などにしようといふ場合は、地方長官の許可を受けなければ
ならないやうになる。
又地方長官は耕作を廃止してゐる休閑地の耕作を命じ、農作
物の種類を指定することが出来る様になるが、戦時下に於ける
重要問題である、農産物の生産を確保しようといふのである。
更に亦新聞や雑誌の記事についても、国家総動員法二十條が
発動されて、記事の掲載を制限、または禁止することになる。
従来新聞紙やその他の出版物は新聞紙法や出版法によつて取締
られて来たが、その取締は治安の維持といふ事に眼目を置いて
ゐたのである。ところが今日に於いては、単に治安の推持とい
ふ点からよりも思想戦といふ見地から、宣伝報道に関する政策
を一元化して取締る方が適当となつて来たので、かうした趣旨
から国家総動員法が発動されることになつた。
かくて国家総動員態勢はいよいよ強化されようとしてゐるが
大東亜共栄圏の確立、高度国防国家の建設といふ課題を完成す
るために、今年度はこの態勢はいよいよ強化されるであらう。
(一月四日放送)