最近の住宅難と
住 宅 対 策

 十一月十九日の閣議で住宅の要綱案が決定されたが、今回は
現下の住宅問題について解説しよう。最近任宅の需要と供給の
関係は、非常に均衡がとれなくなり、そのために労務者はもと
より、一般国民の生活を脅かし延いては、軍需の充足や生産力
の拡充等の重要な国策の遂行の上にも障害を及ぼすやうな状態
になり、戦時下に於ける住宅問題は、急速な解決を要する社会
問題となつて来た。
 それでは、何故此のやうに住宅難を惹き起したのであるか、
それは、住宅を求める方面では、労務者が急激に而も数多く、
都会や産業地帯に移動したため、住宅の需要が急に膨へた事と
これに対して供給の方面では建築資材の不足や値上り、或は家
賃の統制等の為住宅の供給が円滑に捗らなかつた。このため需
要と供給の甚しい不均衡 ― つまり住宅難が起つた訳である。
 この住宅難の例を東京市について見ると、東京市では、昭和
十二年から十四年の末迄に、人口は約五十万人、世帯の数は約
十万二千を増加したのに、この間に増えた住宅の数は約三万三
千戸余りに過ぎなかつた。普通に住宅の必要な数は、世帯の数
の約八割五分つまり世帯が二十なら、住宅は凡そ十七戸を必要
とする訳であるが、この標準から見ると、最近の東京市の住宅
は約三万四千戸程不足してゐる勘定になる。
 又、所謂空家率(世帯の数に対する空家の数の割合)を調べて見
ると、昭和十一年度に於る東京市の空家率は三分三厘(実数は
凡そ四万二千戸)であつたが、毎年空家は尠くなつて昨年度は僅
かに六厘の空家率、実数では空家は約八千戸になつて来た。
 大体、住宅難といふ現象が起るのは、空家率が四分から五分
を割つた時であるとされてゐる。此の点から見て空家率僅かに
六厘の東京市は甚だしい住宅難であると言へよう。
 此の様な住宅難は早に東京市許りでなく、全国の産業都会、
殊に工業や軍需産業が急に盛んになつた都会に於いて深刻な住
宅難を起してゐる。
 そこで、政府は、国民生活の確保に関する国策の一として住
宅対策を樹てる事になり、企画院で作つた住宅対策の要綱案を
去る十一月十九日の閣議で決定したのである。
 次に、この住宅対策の要綱案について述べよう。
 先づ、住宅対策の方針は、住宅対策を国土計画と密接な関係
に於いて樹立し、之を実施すること、更に、必要な住宅の数を
確保すると共にその住宅を適当に利用する様に図つて、国民生
活の安定と産業に必要な人員を確保する事を目標としてゐる。
 この方針に従つて、先づ住宅を供給する対策に於いては、住
宅営団や貸家組合、大きな会社の事業主、各官庁の作業庁(例
へば被服廠等)更に地方公共団体等の五つが夫々主体となつて住
宅を供給する。
 この内.住宅営団といふのは、政府の代行機関にして法人組
織をとり、主として、中小事業の労務者や会社銀行の事務員、
或は官公吏、軍人等一般国民の内比較的に所得のすくない者の
為に小さい住宅を急いで沢山、供給するものである。従つて政
府は、この住宅営団に対し、土地収用の顕現を与へたり、建築
資材の供給や資金の融通等について必要な援助を与へ、其の他
住宅に関する指導や世話等を行はせる。現在、何よ少も急を要
するものは、沢山の住宅を速く建てゝ、之を実際に供給する事
であるから、若しこの住宅営団が運営宜しく、能率高く、その
事業をすゝめるならば、それは我が国の住宅問題に一つの時期
を劃する事にならう。
 民間の貸家事業の改良と発達を図り、貸家の供給を増加する
為に貸家組合が設けられる。
 我国の勤労者の大部分は所謂借家に住んでゐるが、この借家
は主として小さい貸家主が持つてゐるため一般国民住宅を増加
するには、資材や資金の便宜を、此等の小貸家主に与へる事が
必要である。従つてこのために貸家業者を纏めて、統制経済機
構に適応する体制と組織する事が肝要で、ここに貸家組合が設
けられる訳である。
 更に現在ある住宅については、取毀や改造等を制限したり、
家賃その他の賃貸条件を統制して住宅の利用を適切にしようと
いふ事も考へられてをり、又、住宅様式も、保健や衛生、防空、
防火の見地からいろ/\改善の方策が講ぜられる筈である。
 さて今度の様に、劃期的な住宅封策に基づいて大量の建築が
計画されるに当つては「この住宅が、我が国民保健に最も適応
する住宅である』といふ様に、国民住宅の基準とか、標準が決
められる事が要望されてゐる。

                    (十一月二十日放送)