満洲国に於る経済建設の現状
満洲国では内外の情勢に
鑑み、いよ/\、三箇年計画
で、十億円の巨費を投じ、
北方の国境地帯の開発振興
に乗りだすことになつたと
報ぜられる。満洲国では既に一昨年、産業五箇年計画が樹てら
れ、着々と実現の途についてゐるが、その後新しい情勢に対応
するため、この計画に修正が加へられ、日、満、支三国を通ず
る日、満、支経済ブロックの一環として、生産力の拡充に邁進
してゐる。次に満洲国に於ける、経済建設の現状に就て、解説
を試みることにしよう。
満洲国は昭和十二年から、五箇年を期して、鉱業、工業、農
業、畜産、交通、通信の各方面に亘つて、尨大な経済開発と、
生産力の拡充に向つて、建設の歩みをつゞけてゐるが、この内
鉄鋼、石炭、電力、軽金属廃、液体燃料、パルプ等の各事業も、
目覚ましい発展を遂げてゐる。
先づ鉄鋼の方面では、鉄鋼増産計画の中心は、鞍山の昭和製
鋼所と、本渓湖煤鉄公司とであつて、昭和製鋼所は事変前は、僅
かに銑鉄三十万瓲の生産能力を持つてゐるに過ぎなかつたが、
昨年は既に七十五万瓲の銑鉄、五十八万瓲の鋼塊及び更に三十
万瓲の鋼材を、生産する設備を持つやうになつた。この上今回
五箇年計画の第一歩として着手された、百万噸の銑鉄を増産蕗す
る施設も、最近では全部完成を見るに至つた。
本渓湖煤鉄公
司は、毎年五
十万瓲の銑鉄
を生産する溶
鉱炉を建設し
てをり、明年
中には完成す
る見込みであ
る。かくて事
変前は、一瓲
の鋼材も生産
しなかつた満
洲国も、今や
立派な鋼材の
生産国となつてゐる。
次に石炭は事変前に於ては、年に八百五十万瓲の生産高に
すぎなかつたのであつて、その八割以上は、満鉄の撫順炭礦で
生産してゐた。しかもこの経度の生産額も、満洲国内では消化
することが出来ないで、年々二、三百万瓲を内地に輸出してゐ
た状態であつたが、満洲国に於ける経済の開発に伴つて、石炭
の需要は非常に増加した。
このため昭和九年に満洲炭礦会社が設立され、撫順以外の満
洲国全土に亘つて、各地方の炭田を積極的に開発し、増産に向
つて邁進した。その結果石炭の産額は年々飛躍的に増加し、そ
の産額も昨年は、事変前の約二倍に達した。更に今年は石炭の
増産もいよ/\本格的となり、数百万瓲の増産が期待されてゐ
る。
満洲国の電気事業は、現在まで全部火力発電によつてゐる。
事変前の発電設備は、約二十万キロであつたが、現在では五十
万キロ以上に達してゐる。五箇年計画では、尨大な水力発電計
画が増てられ、一昨年以来、松花江と鴨緑江の二箇所に、雄大
な水力発電所が建設工事をすゝめてゐる。
この大電力工事が完成すると、電力の料金は非常に安くなる
ことゝ予想されるので、電気化学工業の勃興が期待されてゐる。
既に吉林には昨年、満洲電気化学工業会社が設けられ、又安東
には満洲軽金属会社のアルミニューム工場を建設しようと、計
画がすゝめられてゐる。
次に軽金属の事業としては、上述の満洲軽金属会社が、アル
ミニュームの製造に当り、又マグネシウムについては、昨年の
六月、満洲マグネシウム工業会社が、満洲重工業会社の下に設
けられ目下営口に工場を作つてゐる。尚この会社は大石橋とか
海城等の地方に、世界的の大鉱床を有つてゐる菱苦土鉱を原料
としてゐる。
液体燃料の方面は、満鉄が油母頁岩の乾溜によつて、頁岩
油の製造を行ひ、現在年産十五万瓲の粗油を生産する設備をも
ち、その大部分は重油に精製してゐる。石油液化事業は、満洲
の方がむしろ内地に先鞭をつけた形で、満鉄、満洲合成燃料会
社、満洲油化工業会社等で盛んに行つてゐる。
次にパルプ製造事業は、東北部の広大な森林を利用して、東
邦パルプとか、満洲パルプ等の四つの会社が、昨年の春以来、
相次いで工事を完成し、操業を開始してゐる。四つの会社とも
現在の生産能力は各々二万五千瓲の年産高を持つてゐる。
この外各方面に亘つて、色々の事業が非常に盛んに行はれて
ゐるが、之等の事業は、悉く相当の利潤を収めてゐる。大連の
商工会議所が、昭和十二年度の満洲国に於ける、主要な百六十の
会社について調査したところによると、百六十社の払込株金額
十二億八千万円余に対し、純益金は約一億四千三百万円に達し、
一割一分二厘の利益率を示してゐる。
最後に東辺道の開発計画に就て記さう。東辺道と言ふのは満
洲国の東南の隅にある通化を中心とする一帯で、山嶽が重畳と
して聳え、人烟は極めて稀で、治安の確保も最も遅れてゐた地
方である。然しこの東辺道が、各種の鉱物を豊富に埋蔵してゐ
ることは、かねて予想されてゐた所である。
果して近年治安が確保され、交通が発展し、之に伴つて、大
規模な調査が行はれると共に、鉄、石炭その他の鉱物が、予想
以上に埋蔵されてゐることが判つたのである。かくて昨年八月
東辺道関発会社が設けられ、更に満洲国では、安東省から通化
省を独立させる等、東辺道の開発は着々と行はれてゐる。
(五月十六日放送)