アメリカ新聞界の現状

 国際問題とか、其他いろ
いろの問題に関する外国の
新聞の論調がよくニュース
で紹介される。世界各国の
輿論の動きを知り、又一方
その輿論を作るものは、其国の新聞が最も大きな役目をしてゐ
る事は今更言ふ迄も無い所である。然し之等の新聞には色々な
歴史や、政党関係とか資本関係とか、或は伝統とか個有の主義
色彩といふ様なものがあるのが常で、単に一つの国の一つの新
聞の論調だけを見てその国の輿論が皆さうであると見ることは
特殊な新聞を除いても、非常な危険が件ふと称すべきである。
かた/"\先には世界の報道戦線に活躍する、各国の代表的通信
社に就て述べた事もあるので、今回はラヂオのニュースや溝演
及び我国の新聞雑誌等によく出て来る外国の主な新聞に就てあ
らましの説明を述べることにしよう。先づアメリカの新聞から
述べることにする。
 アメリカの新聞に就て注意すべき事は先づ第一にアメリカは
新聞が非常によく普及されてゐること、つまり読者が非常に多
いことである。アメリカの人口は一億一千万人と言はれるが、之
だけの人口を持つアメリカに日刊新聞社は二千五百余りある。
そして、その発行部数は一日に三千三百万部内外であるから、
人口四万五千五百に対して一つの新聞社があり、三人半に対し
て一つの新聞を取つてゐることになつてゐるのである。
 第二に注意すべきことは、総ての重要な運動が新聞を通じて
行はれることである。例へば大統領演説、議員選挙、海軍軍縮
会議といつたやうな国家的な運動迄皆新聞社と聯絡をとつて行
はれてゐるのである。
 第三は新聞の独立性である。アメリカの大新聞は大抵が極め
て自由な立場に立ち、而も独立性に富んでゐるのであつて、共
和党系の新聞であり乍ら、共和党の政策を非難したり、又は民
主流の新聞と言はれてゐるものが、民主党の主張を攻撃すると
とも少くない。
 又大抵の新聞はその全頁の五割位は広告であるが、それでも
併し広告の申込みに応ずるだけの紙面の余地がないのが普通
で、新聞社側の方が広告主よりも強く出てゐるといふのが、普
通のやうに見受けられる。
 第四に新聞の記事はニュースと論説が相当重要視されてゐる
ことは当然であるが既に解説を加へたやうなエーピーとかユー
ピーとか、インターナショナル・ニュース・サーヴィスとか其他
凡ゆる通信社から供給されるニュースの外に、自社の特派員か
らの通信等を合せて、莫大なニュースが集るのであるが、その
中で新聞にのせられるのは、国内ニュースが七の割合に対して
外国のニュースは三の割合になつてゐるのである。そして之等
の海外ニュースの中で重要視されるのは、矢張りヨーロッパの
ニュースで次にメキシコ、中南米、東洋といつた順序になつて
ゐる様である。又社説も各新聞社とも相当有能な人に、高い原
稿料を払つて毎日その論文を掲げてゐる
          ×       ×
  最後にアメリカの新聞の一大特徴とも言ふべきものは、各新聞が
 連鎖的に経営されてゐつことであつて、之は欧州大戦後頓に発達し
 たものである。その原因は各新聞社が相互に極端な競争の弊に陥つ
 た為め、遂に合同、買収等によつて有力な新聞社の統制の下に立つ
 やうになつたのであつて、恰度アメリカのデパートが連鎖店(チェ
 インストア)を形づくつてゐる事情によく似てゐる。次にその大体
 を記せば一九ニ○年(大正九年)にその連鎖の数は三十一出来たので
 あつたが、その後十年経たぬ中に五十いくつに達したのである。そ
 の連鎖は只経営上の問題であるから、同じ連鎖の中の新聞でも主義
 や主張が全く違つたものもあるのである。この連鎖の中で一番大き
 いのはハースト系とスクリップス・ハワード系で、この二系統とも
 全国的に大組織の団体となつて民衆本位の記事を掲げ、白熱的競争
 をつゞけてゐる。この外にそれ程大きくはないが、有力な連鎖とし
 て、ギャネット、ブロック等の夫々主宰する新聞団、パターソン・
 マッコーミック、カーチス、マクファーデン等の連鎖がある。次に
 之等の各連鎖系統についてあらましを記して見よう。
  ハースト系といふのは彼の有名なウィリアム・ヲソドルフ・ハース
 トが独力で建設したもので、全米に二十九社の連鎖を持つてをり、
 全国に九千万の読者を持つと言はれ、之等の新聞社の発行部数を合
 計すると一日に平均して四百五十一万部に達するといふ事である。
 ハースト系の新聞は民主主義を主張してゐるが、この系統の各新聞
 の主筆はハーストの標榜する編輯方針を遵守させられる結果として
 執筆上自由を制限されてゐると言はれてゐる。之に属する主な新聞
 としては
  サンフランシスコ・クロニクル、ロサンゼルス・エキザミナー、シ
  カゴ・ヘラルドアンドエキザミナー、ニューヨーク・アメリカン等
 が挙げられる。
  次にスクリップス釆であるが、アメリカ近代の新聞連鎖の嚆矢は
 十九世紀の末スクリップス一家の活動によつたもので、三十七の日
 刊新聞を経営し、ハースト系が各地で大体優越した地位を占めてゐ 
 るのに比し、スクリップス系の新聞は概して第二流に属すると共に
 アメリカ新聞界に於て独自の勢力を持つてゐる。この連鎖の創立者
 であるイー・エム・スクリップスが一九二〇年に死んだ後は、その二
 人の子供によつて持株が分けられ、アール・ビー・スクリップスはロ
 イ・ハワードと結び、又ダブリュー・スクリップスはビー・エッチ・キ
 ャンフィールドと結んで、スクリップス・ハワード系とスタリップ
 ス・キャンフィールド系の二つとなつたのである。この内スクリップ
 ス・ハワード系は全米各地に二十五社を持ち、その方針は自由主義
 平和主義である。又スクリップス・キャンフィールド系は、アメリカ
 の西部地方に十二の新聞を経営してをり、前者と同様に極端な自由
 主義をとつてゐるが、前者がやゝ保守的であるのにくらべて、之は
 過激的、扇動的で、従来排日的な毒筆を持つたこともあつた。
  次にギャネット系は専ら紐育、ニュージャージー州に限られてゐ
 るが、その所属社数の多いことでは全米第三位にある。社の数は十
 七でその特色は所属の各社に何れも編輯上の個性を持たせてゐるこ
 とである。ブロック系はポール・ブロックの傘下に集中してゐるも
 ので、所属する社は五社、何れも東部、中部に散在してゐる。この外
 リッダーブラザース、パターソン・マッコーミック、カーチスその他
 小さい団体があるのである。

                             (十二月十九日放送)