恐るべき焼夷弾



 血迷つた支那軍飛行機は
人道をも無視して十七日夜
上海赤十字病院等に焼夷弾
を投下し火災を起させた。
支那軍が人道違反の野蛮行
為に使つた焼夷弾とはどういふものか説明して見よう。
 弾丸といふものは元来人馬を殺傷することを主な目的とした
ものであるが、築城の発達するに従ひ之を破壊する目的をも持
つに至つたもので、之等の弾丸は所謂普通弾と称せられるもの
で、弾丸の中に入れてある炸薬の爆発によりその爆発の際の圧
力又は破裂した破片によつて人馬を殺傷し又は築城建築物等を
破壊するのである。此の普通弾でも之を建築物等に打ち込めば
破裂する際の火焔によつて火災を起すのであるが、もつと確実
に又必然的に火災を起させようといふ目的の下に企図されたも
のが焼夷弾である。焼夷弾について説明する前に是非一言した
いのは焼夷弾の効力を過信しないといふ事である。

  即ち然えるものでなければ如何に焼夷弾でも役には立たないとい
 ふ事である。燃えるものであれば普通弾でも充分役に立つのであつ
 て、明治初年上野の戦争は梅雨のさ中であつたが、凌雲院は官軍の砲
 弾によつて炎上してゐるのであつてその他にも普通弾によつて建築
 物石油タンク等か火災を起したといふ例も少くない。之に反してい
 くら焼夷弾であつても燃えるものがなければ役には立たないのであ
 つて、禿山や岩石地などにいくら焼夷弾を落した所で役に立たないこ
 とは明瞭である。


 先づ小銃弾に用ひる焼夷弾から述べることにするが之は飛行
船の水素ガスとか飛行機のガソリン等に火をつけようといふ弾(たま)
で普通の小銃弾の鉛の入つてゐる所に燃料として黄燐やテルミ
ットを入れたもので、之等を弾の頭部に入れたものは其側面に
穴を明け此所から発射の際熱を受けて発火し又尾部に入れたも
のは火薬ガスで火がついて燃え乍ら飛んで行くのである。此の
弾は通つた所がよく見えるので一名を曳煙弾とか曳光輝等とも
言はれてゐる。弾道を見る事が出来るので普通の弾にまぜて打
つこともあるし又とても綺麗なものであるからページェント等
に用ひられることもある。テルミットは酸化鉄とアルミニュー
ムの混合物で之に点火すると酸化アルミニュームを生じ鉄は還
元される、この反能には三千度といふ高い熱を出すのである。
 次に砲弾の焼夷弾は砲弾の中にテルミットを詰めたもので目
標に命中したならば、目標の中に進入しないで成るべくその表
面で燃焼し、焼夷剤の発する熱によつて周囲のものを燃やして
了はうといふのである。従つて瞬発信管を用ひ目標の表面で破
裂させなければならないのである。目標の中に余り進入しない
やうにするため爆薬を沢山入れるとその破裂によつて焼夷剤を
飛散させて了つて効力が無くなる、又さうかといつて焼夷剤を
飛散させないために爆薬を少くすると目標に進入して了つて之
亦効力を減ずることになるから、鮎火破裂山ため用ひる火弊の
量は賓に難しいのである.叉曳火付管を位つて地而近くで椛裂
させることもあるが之は射撃の仕方が非常に難しくなる..
 次は投下爆弾の焼夷弾であるが普通の蛇夷爆弾は砲弾と全く
同一で地上に落ちると同時に、信管によつて爆弾の中のチルミ
ットに鮎火するのである。験洲大戦中に鰯夷爆弾の郡市政挙が
有数なことが真澄せられたのであるが、猫逸はロンドγ事典に
約二千七官費を以つて二宮四十四ケ朗に火災を起させ、叉.ハヮ
察製に際して性的入十何の焼夷輝を以つて教ケ朗に火災を起し
たが大事には至らなかつたのである.此の経験によつて欺洲大
戦末に完成されたものが所謂エレクトロン焼夷坪である.エレ
クトーンはマ〆ネシユームとアルミllユームとの合金で之で弾
憤を造り、その中にテルミットを詰めたもので、触感に際して
はニ、三千度の高熱を出すのである.而してエレクトロン自身
も叉焼夷剤であるから、弾の内容も坤頒も共に有数成分であり
而もエレクトロンは非常に目方が軽いものであるから飛行槻の
搭職最も増加し頗る有利である.以上で焼夷弾についての詮明
を終るが倫特に嬢夷弾に対する虐澄並に心得等について述べれ
                  や
ば、療夷弾に対する虎饉としては焼夷弾共もの1燃蟻を渦すよ
りも熱演によつて他の朗へ延焼するのを防止する事が防火の第
巾蛮である.而もこの燃焼を防ぐには「火事は最初の五分問」
といふ事を忘れてはならない.普はエレクトPンは水をかける
と却て火勢を増し且つ燥懲を煮き起す等と桝せられてゐたが、
                       //
(4)
耳鞄の結果は水をかけても火勢が銭くなるやうな現象が時には
起るけれ共爆現して危険を生するやうな事は組封にないのであ
つて、寧ろ乾燥した砂よりも水の方が火勢を窮め燃焼を防止す
る上に故力があるのである.従つて焼夷畔が落ちたならば附紀
の可秋物にどんく水をかけるのが混もい1のである.叉屋根
に落ちたものでちニ.階に焼け落ち、次に一階に磨け落ち、途に一
階に虚け落ちて来ることを汲め注意せねばならない.我南のや
うな木潰家屋にあつて最も恐るべきものは此の壊夷弾である.
煉炎時に対する虚紀は前述の通りであるが之に対する心得とし
    lき
ては逃げ惑ふことは絶対にいけないことで各人が進んで滑すと
いふ泉持を持つてゐるといふことが一番大切なことであつてこ
の菊拝さへ持つて準備さへしてをれば焼夷弾叉決して恐る1に
足らないのである.ハ十月十八日故遊)