天然の陣地
クリークとは


 上海辺は一帯に平地で大
部分は水田であるが、その
所々に、麦、棉、桑、野菜
等をつくる畑が点在しその
中に町や村がありこの平野
を縫つて所謂クリークと呼ばれる所の大小無数の川の流れが縦
横無画網の目のやうに流れてゐる。クリークとは小川とか、入
江とかいふ意味の英語で自然に出来た川の流れの外に人工によ
つて作られたものもあつて、大小いろいろあり深さも相当深い
ものがある、大きいクリークは幅が百米以上に及び大きな帆船
が通ることの出来るやうなものもあり、呉淞(うーすん)クリークとか虹口(ほんきゆう)
クリーク、砂経港(さけいかう)クリークといふのは何れもかうした大きいも
のである。次に、荷物等の運搬用に使はれるクリークは大概、
その幅が五十米以下のものであるが、○○宅といふ宅(我国の
村に当る)の周りには大抵の場合かうした小さなクリークが流
れてゐるのである。又之等のほかに、水田に水を引きこむため
灌漑用に作られたクリークもある。クリークには冬の間は水は
ないが、その他の時季はいつも水があり、殊に今は水の多い時
である。一体にクリークは土地よりも低くなつてゐるため、こ
の辺を歩いてゐると水田の中に突然船の帆が見えると言つたや
うな我国では見ることの出来ない風景も見られるのであるが、
一方之を軍事的に見れば、このクリークは天然の防禦物とも言
ふべきものである。かういふ厄介なものが網の目のやうに縦横
無画にひろがつてゐるため、大きな部隊が広い正面に亘つて同
時に一再に攻撃、前進するといふことは不可能なのであつて、
之は北支戦線の地形とは非常に異つてゐる点である。殊に敵は
クリークに架けられた橋をはづして皇軍の渡河を妨げてゐるた
め、このクリークを渡るためにはどうしても橋をかけたり、又
は歩いて渡るよりほかない訳であるから、皇軍の労苦の程は想
像以上のものがあるのである。そしてかうした自然の地形を利
用して敵は塹壕、鉄条網、トーチカ等を以つて堅固な陣地を築
いて皇軍に抵抗してゐるのであるが、勇敢無比の我が皇軍は奮
戦又力戦、攻撃に次ぐに攻撃を以つてし、着々と敵陣を抜いて
前進しつつあるのである。

(十月一日放送)