臨時議会の
意義に就て


 九月三日官報号外でいよ
いよ「九月四日ヲ以テ帝国
議会ノ開会ヲ命ズ」る旨の
詔書が渙発された。四日午
前十一時畏くも 天皇陛下
親臨の下に厳かな開院式が行はせられ、第七十二回帝国議会が
開かれる事となつたのである。
 第七十一回帝国議会は俗に特別議会といはれて居る。それは
憲法第四十五条に依つて衆議院解散後五箇月以内に召集されね
ばならぬ議会である。処が今度の議会は憲法四十三条に依つ
て「臨時緊急ノ必要アル場合ニ於テ」特に召集されるいはゆる
臨時議会なのである。特別議会の場合には召集の詔書は少くも
四十日前に公布されなければならぬが、臨時議会の場合は性質
上その様な制限がない。それで今度の議会の召集の詔書は八月
二十四日に発布された。その詔書を拝すると「時局ノ急務ニ関
シ議会ノ協賛ヲ望ムモノアリ」と仰せられて居る。そして、「九
月三日ヲ以テ臨時帝国議会ヲ東京ニ召集シ五日ヲ以テ会期ト為
スヘキコトヲ命」ぜられたのである。三日は即ちこの臨時議会
の召集日であり、貴衆両院何れも即日成立し、そこでいよいよ
四日を以て開会する事を命ぜられたわけである。召集の詔書に
「東京ニ召集シ」と仰せられた。かつて日清戦争の時に、臨時
議会が廣島に召集された事もあるが今までに臨時議会の召集さ
たことは十二回で、何れも臨時緊急の必要があつたためであ
る。
 今度の臨時議会は言ふ迄もなく今回の支那事変のために、特
に議会の協賛を経ねばならぬものがあるためである。前回の特
別議会に於ても今度の事変のための経費が相当に予算として提
出され協賛された。然るに事態は更に進んで、前回の議会閉会
後、まだ一箇月も経たぬ中に、臨時緊急の必要ありとしてこの
議会が召集されねばならぬ程になつたのである。
        ×         ×
 今まで「北支事変」と呼んで居つた今回の事変も、二日の臨
時閣議で「支那事変」と呼ぶやうに決定された。即ち事変は北
支のみに止まらず遂に中南支に及んだためである。北支に事変
勃発以来、我国ではあく迄も不拡大の方針をもつて、局面を限
定し、時局を速かに収拾するやうに努めてきた。然るに支那側
はどうであらうか。現地にある我が軍隊は幾度となく支那側か
ら不法の射撃を受け盛んに挑発されても忍ぶべからざるを忍ん
で之に応戦するのを差し控へて居た。処が支那側はますます増
長して挑戦的態度はただに北支に止まらず進んで中南支に及ん
だのである。之れでもなほ隠忍しろといつてもそれは無理であ
らう。もはや今までのやうに消極的な手段で事態の解決を図ら
うとしてもそれは不可能事になつた。遂に全面的に支那の軍隊
に膺懲を加へねばならめことになつたのである。支那が反省し
て今までのやうな排日、抗日の政策を放棄するまで、そして日
本と提携して、真の東洋平和を確立する心持ちになるまで、徹
底的にやつつけなければならぬことになつたのである。それ以
来北支に中南支に陸に海に空に、我が出動部隊の働らきはどう
であらう。毎日のニュースで次々にその日ざましい活躍振りが
報道されて国民の血を湧かせて居る。我が皇軍の威力は完全に
発揚されてゐるのである。処が支那は敗けてくるといろいろの
奥の手を出して対抗して居る。この事変もさう早く収まらない
かも知れない。我国としては挙国一致大きな決意を以て東洋平
和確立の大使命のために勇往邁進しようとして居るのである
が、それがためには相当の軍事費も必要であらう、銃後の後援
も堅くして出動の軍人達に後顧の憂ひのないやうにしなければ
ならない。事変が長くつづかうとも所期の目的を達成するやう
諸般の準備対策を講じなければならない。それには法律を以て
定めねばならぬものもある。そこで予算案や種々の法律案につ
いて、帝国議会の協賛を求めるために臨時議会が召集されるこ
とになつたのである。召集の詔書に「時局ノ急務ニ関シ議会ノ
協賛ヲ望ムモノアリ」と仰せられたのはこの故であると拝察し
奉るのである。かやうなわけで今度の臨時議会は実に重大な意
義をもつて居る。会期は五日と定められて居るが、会期は開院
式の日から始まるから、実質審議に当る日は四日間であらう。
この四日の間に大切な予算案や法律案が審議決定されるのであ
る。そしてそれは今回の事変の適切な解決に向つて必須のもの
である。今回の事変の意義の重大な事を考へると、更に今回の
臨時議会にも又重要な意義のある事を感ずるのである。

                          (九月三日放送)