アメリカの中立法とは

 アメリカの中立法とは一
体どんなものか。之につい
て簡単に説明して見よう。
 アメリカ中立法の沿革は
極めて古く、已に一七九三
年英仏戦争の時からしばしば制定されたが、現在の中立法は先
頃のイタリアとエチオピアとの紛争に際して、一九三五年即ち
昭和十年の八月三十日に制定され、次いで翌年二月に修正され
更に本年五月一日に増補修正されたものである。
 大体本法の目的はアメリカが戦時禁制品を輸送する事によつ
て、他国の戦争に引き入れられるのを防止しようとするにあつ
て、交戦国の一方に制裁を加へようとしたり、或は交戦国同志
の戦争の遂行を抑圧しようとするものではないのである。
 次に本法の主な内容を記せば、まづアメリカ大統領が或国と
或国との間に戦争状態が存在してゐると認定した布告を発する
と、その後に於ては交戦国に対する兵器、弾薬及び軍用器材の
輸出は一切禁止されるのである。之は直接の輸送たると又間接
の輸送たるとを問はず禁止されるのであるが、しかし原料品は
その輸出禁止の中には含まれて居ない。即ち戦争遂行上の主要
原料品である処の石油銅〔 〕綿等の輸出については禁止されてゐ
ないのである。この場合の大統領の布告を一般的布告と称し、
之に対してもう一段進展した場合の対策として特別布告といふ
ものがある。それは一般的布告が発せられた後更に大統領が兵
器、弾薬及び軍用器材以外の物件又は材料を交戦国に送らない
やうにした方が却つてアメリカの安全を保つ道であり、又アメ
リカ国民の生命を保護するためにも、必要なる手段であると認
めた場合に発せられるのであつて、この特別布告が出れば一切
の原料品の輸出も禁止される事になるのである。
 なは前の一般的布告が発せられた彼には当然交戦国に対する
金融上の取引は禁止される。この外に、アメリカの港を供給根
拠地として使用する事を禁止することがある。それはアメリカ
が中立国たる戦争中、大統領がアメリカと外国との平和を維持
し、アメリカ及びアメリカ人の通商上の利益を擁護し、又はア
メリカの安全若くは中立を進捗することに役立つと判断した時
には、大統領はアメリカ船舶若くは航空機又は外国船舶、若く
は外国の航空機が燃料、人員、兵器、弾薬、軍用器材又は他の
軍需品をアメリカの港から出帆させる事を禁止するものであ
る。その他更に潜水艦及び武装商船が、アメリカの領水を使用
する事を制限する条項や、アメリカの国民が交戦国の船舶によ
つて旅行する事を制限する条項等もある。

八月二十八日放送)