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 皇道維新の雄叫び 第壱巻

      序

 我国の状勢は外に国際聯盟脱退を敢行し北満に漲る妖雲と、太平洋に渦巻く怒涛は軈(やが)て砲音と共に我に襲ひかゝらんとしてゐる。内には思想の動乱その極に達し殊に国務の重責に任ずる為政者は政商財閥と結托策謀し私利私慾に耽り胸中に国家国民なく国運を維持する能力を喪失し、光輝ある三千年金甌無欠の我国体を冒涜するに至るは実に未曾有の国難と称す可きにして、此の現状に痛憤し捨身報国以て新日本建設を期す可く陸海軍青年士官は、急先鋒となり憂国慨世の士亦敢然起つて皇道維新断行を絶叫し、横暴大逆の徒に天誅を加へたる即ち五・一五事件以来、陸海軍青年士官並に憂国慨世の士は当局の峻厳なる監視と飽くなき弾圧を一蹴し潜行的に而も活発に撒布したる檄は多種多様に亘れり。
 我等は茲にその至誠熱血の雄叫びを蒐集して座右に備へ、将に皇道維新実現に直面せる非常時日本の真動向観察の資に供すると共に、輝ける戦闘的憂国志士の勇躍に対し永遠に満腔の敬意を表する所以である。
  皇紀二五九三年初夏
                       蒐 集 者


  皇道維新の雄叫び 第壱巻目次

一  日本国民に檄す

所謂五・一五事件に際し陸海軍士官が牧野内府、犬養首相、警視庁、政友会本部等襲撃途上に於て自動車上より市内に撒布し国民に一行の決意を声明せるものなり。

二  歎 願 書

五・一五事件にて犬養首相斃れるや斎藤挙国一致内閣出現に対し憂国青年が国民青年同盟の名を以て斎藤首相に強力態度を歎願せるものなり。

三  国難に直面して国民の奮起を望む

斎藤内閣の召集せる臨時議会開院式に際し国民に奮起を促す為め独立青年社が、憂国団体方面に撒布せるものなり。

四 「特」士官特に中少尉諸君の御内覧を乞う

宇垣総督の三月事件の策略を曝露し同時に宇垣系と目され〔た〕大川博士の十月事件及五・一五事件に対する偽瞞方策を掲げ宇垣総督の人格を攻撃し政界進出防止の一策とせるものなり。

五 青年日本の歌

五・一五事件の中心人物三上海軍中尉が獄中に於て祖国の憂慮すべき現状と之れが変革を要すべき理由を率直に歌作せるものにして某海軍将校の手を通し軍部及憂国団体方面に頒布せられたり。

六 失業国民団結せよ

関西方面の急進青年将校が日本国民の失業者が共産党に奪取せらるゝ現状を遺憾とし失業国民の自衛総同盟を組盟し錦旗下に国民を動員せんとしたものなり。

七 宇垣総督の下に於ける朝鮮統治

政友会系代議士が宇垣総督の政治的勢力を粉砕せんとする計画より宇垣大将の朝鮮統治の現状を誇大に非難せるものなり。

八 満天下の人士に檄す

時局急迫に鑑み東京市内在郷軍人有志に於て皇族内閣出現こそ非常時日本を匡救するものなりとし之が空気を醸成せんとし軍部及憂国団体方面に郵送せるものなり。

九 血盟団及五・一五事件に於ける攻撃目標の再確認

五・一五事件の反嚮に鑑みて其の攻撃目標を再び研究議題として全日本在郷軍人団時局研究会有志に於て検討し特権階級の亡国的人物を明確にせるものなり。

一〇 建国祭行進歌

神武会外三団体が中心となり国難打開の為め大同団結をなし協議会を組織し皇道宣揚の為め二月十一日示威行進する際に高唱せんとし作成せるものにして全国憂国団体に頒布せられたり。

一一 時局問題に対する研究対策案

在京陸海軍青年将校が「日露開戦を断行する前に昭和維新を断行せよ」と絶叫し一方国内改造の為め武藤元帥及荒木中将首班の内閣を樹立せよと迫れるものにして軍部及浪人方面に撒布せるものなり。

一二 現下青年将校の行くぺき道

陸海軍青年将校にして梢もすれば各派に意見が分烈し横断的連繋が不統一なる現状に痛感し真に、陛下の皇軍将校の進むべき道を指示し之が急進将校の統一を図らんとする目的を以て青年将校間に頒布されたるものなり。

一三 第二大戦の切迫と国家改造の急

陸軍戸山学校所属中少尉が必然的に露西亜との衝突を避く可からざるものとなし、此の開戦が端緒となり世界を敵となし正邪勝敗を決する覚悟を決する重大時局に当面して居り乍ら国民思想は七花八裂の現状なるを遺憾となし国民に自覚を促すと同時に無覚醒なる将校を覚醒せしめ更に国家組織の変革の急を檄したるものなり。

一四 ヒットラーリズムと吾人の進路

在満青年将校がヒットラーリズムと日本の国内的状勢を比較しその相違する点を明確にすると共に我国に於ては 天皇中心の独裁政治を断行するの外道なき所以を解き皇道維新を叫び東京地方青年将校を檄せるものなり。

一五 戦争を前にして日本は如何に為す可きか

日露、日米開戦は不可避的のものにして之れ即ち世界第二の大戦を誘発する導火線であることを自覚せねばならぬ、此の時に際し皇軍将校は一致団結以て難局打開に当り、国民又国家興亡の重大時局に覚醒し速かに昭和維新を断行し国内的一切の充実を必要とする所以を解き軍部及愛国諸団体方面に頒布せるものなり。

一六 思想善導法案

我国内外の状勢を検討し軍部内青年将校の不統一なる思想を善導し陛下を中心として建軍の本義を速に実現するにありとなし昭和維新の急迫を叫びたるものなり。

一七 我等が敬愛する第四十四期諸兄の胸底に訴ふ

従来より軍部内に於ては第四十四期生中熱血児を多数包含せるが先輩将校より維新断行は独り四十四期生の憤起に俟つ可しと為し先輩将校の決意を表明したるものにして全国四十四期青年将校に密送せられたるものなり。

一八 檄

関西方面の字垣系財閥の支援を受けたる某浪人は荒木陸相、真崎元参謀次長「現軍事参議官」、秦憲兵司令官即ち反宇垣系有力分子の行動を非難攻撃し、宇垣総督の政界進出を有利に展開せしめんと策せるものにして関西及東京地方の軍部及政界方面に頒布せられたるものなり。

一九 先輩各位に青年将校の衷情を訴ふ

五・一五事件関係陸海軍青年士官の後輩たる将校は先輩将校の態度に敬意を表し同期将校に対し先輩将校の意を継ぐ又我等の任務なりと為し憤起を促したる檄文なり。

二〇 五・一五事件に対する我等の覚悟

五・一五事件一週年記念に際し同事件関係将校の憤起せる所以を明確にし我等は同志の崇高なる意志を継承し皇道維新断行の為め蹶起せよと絶叫し軍部青年将校及愛国団体方面に密送せられたるものなり。

二一 五・一五事件

在満の某将軍が五・一五事件関係者の崇高なる態度と日本古来の武士道精神を対照し、五・一五事件勃発の必然性を解き事件の関係者は潔く科刑を受け又軍法会議当局者は事件関係者の熱烈なる憂国の精神を尊重す可きなりと為し之れが輿論〔を〕喚起すぺく主として軍部方面〔に〕全国的に頒布密送せるものなり。

200

 て内閣延命の策動をなし或は政友閣僚の辞職説に対し威圧を加へて
 居るのは斎藤内閣の瓦解は直ちに自派一味の地位を失ふの結果を招
 致するなりとの臆測からであって、彼等をして云はしむれば、非常
 時未解消なるが故に非常時内閣たる現内閣は居据る必要ありと。
  然れ共今日の非常時は五・一五事件直後の非常時と全然異なり、
 斎藤寄合内閣の如き弱々なる政府のカを持ってしては、絶対に担当
 し得ざる帝国の重大時局である、試みに世界の列強を一瞥するに、
 米国は今後七ケ年は現大統領によりて統治せられ、内閣の寿命も之
 れに準じ、英のマクドナルド強力内閣は益々その基礎強固を加へ当
 分瓦解の憂ひなく、独のヒットラー、伊の黒シャツ党、露のスター
 ワン、その何れも向後数年或は十数年も約束された内閣であり、何
 れも自国の更生に一路進みつゝある。
  然るに日本は如何、一蔵相・一法相の進退問題に幾度か桂冠が伝
 へられ、一荒木、一美崎の威嚇に再び上げかけた腰を据直し、或は
 堀切如き一属吏、柴田如き一策士の言に左右され、失言又は失言の
 老首相を首堆する現内閣に対し、荒木一派が非常時未解消を名とし
 て自己の手中にその生死の鍵を握り、依然延命を策する如きは、一
 に彼等が現地位に恋々とし口に正義を称へ、然もその行く処は曾て
 の長閥、薩閥、華かなりし時代を、佐賀閥によりて再現し、更に遡
 って封建時代の武家専制政治を夢み、中心武藤閥ありて他は国家無
 きの奇怪千万なる行動でなければならぬ。
  斯くて彼等はその唯一の武器たる「非常時」に物言はせんが為め
 に殊更に日蘇国交を紛糾に導き物議をかもさしめ、或は内閣進出に
 就き必変以上のカを注ぎ、然も新聞の報道は一切を彼等に有利なる
 方面のみに止め、其他は掲載を禁じて国民大衆の耳目を覆ひ、その
                            〔応〕
 真相を知らしめず、或は外務省の一部と策座して一切の臭い物に蓋
 の主義を徹底せしむる等、国民がその実相を究知する事を極度に警
 戒し事更に彼等の似而非愛国思想を真の愛国思想なりと誤信せしめ
 彼等のみが愛国者たり、非常時日本の救世主なりと巧みに宣伝之れ
 に努めて居るのである。
              〔†マ】
  然も隠すょり現はる1は無己の真理は彼等が直系の乾分なりと信
 じつ1ある直属の本部本省の課長、局長級に早くも彼等の隈劣なる
 心事に気附きたる者多数あ打て、之等が言論界の心ある士、政党方
 面の正義を愛する一部の人々に伝へ彼等の醜態を外部に漏らし居る
 の状態なり。
  日露戦争以来軍人に非らざれば人に非らず式に軍部の羽振の好か
 つた軍人万能時代は閥族打破の国民運動を契機として国民大衆から
 漸次疎んぜられ、欧洲大戦当時は日本も参戦したにも拘らず軍人の
 時代は来なかった。
  之は永い平和の時代と直訳的外国思想の流行が全国的に蔓りたる
 結果軍縮を以て唯一の平和手段なりと速断し之を口々に称うる事を
 文化人の誇りなりと考へ、果ては軍人蔑視の恐るぺき風潮さへも見
 え初めたのである。
  当時の日刊新聞の論説−或は政治家が議会その他に於て為したる
 演貌の内容等を検するに今日の時世ょり見れば、むしろ驚異に価す
 るものがある。かうした時代、軍政の局にあった歴代の陸軍当局者
 は之を頗る憂慮し、軍部と民衆の接近、握手のために払った努力は
 実に涙ぐましきものがあった。
  軍政当局の不拐の努力は烈し遂に功を秦し、軍部に対する理解が
 地方青年学生、教育家に行渡り軍部に対する親しみと信満とが年と
 共に濃くなって行ったのであるが、例の五・一五事件以来軍部に対
 する恐怖と誤解が再び撞頭し、更に荒木中将一派の執れる威嚇一点
 張りの政策は一層之れに拍車をかけ各階級の識者は心租かに攣盛す
 る所となり大衆の心が軍隊より遠ざからんとし、只僅かに満蒙の地
 にありて帝国の生命線を守り、笑つて死につく我等の将士の忠勇に
 ょり軍に対する大衆の感謝と信穎はつながれてゐるのである。
  此の点に着目せる荒木一派は清洲問題を必要以上に拡大し貴重な
 る生命と国幣を無益に費消して、頻りに宣伝に努め、そのドサクサ
 に紛れ火事ドロ式に自派の勢力を扶植しっ1ある。
  然しながら彼等が今日以上に、この横車式態度を継続したならば
 購て軍縮全盛時代より更に恐るぺき反軍熟の高まる時代が現出して
 国家の重大岐路に立ち至るであらうことは火を見るよりも明かであ
  る0
  日本が今国際聯盟を脱退し孤立の立場より完全なる国防を至さん
 には、国民大衆が男女老若の別なく何れも 陛下の赤子として死線
 の上に立ちて祖国を守る覚悟を持たねばならぬ秋である。
  此の国家の重大危機に直面して、両も国防の第一線に立つぺき軍
γ 隊と国民の間に間隙を生ぜしむることは、帝国の重大危機を意味す
仰 る最も恐るぺきものである0

叩 今日斯くの如き事態を予想し得る空気の因を作るに至った、荒本
川川
加 美崎、秦の蒜は自ら三省し軍人らしく屠腹以て陛下に謝し奉る
 ぺきである。然るにも関らず、彼等は俵然として自派の勢力扶植に−
 或は武断政治の実現に汲々とし軍隊の一部より種々なる不穏のデマ
 を飛ばし、認識不足の政治家財界人を脅迫し国民大衆の誤解を益々
 深からしめん止するに至っては、その罪私兵を擁して国を乱さんと
 する徒、民衆を赤化せしめて国体を改変せんとする共産党一味より
 更に重きものありと断言して慣らぬ。
  顧みれば明治以来軍部の首脳者が営々として築き上げたる軍人精
 神、軍の生命と皇一口ふぺき規律は、荒木、真崎、秦等の専悉横暴、
 軍人等にあるまじき権謀術策によりて根底より覆され、尉官の団体
 は上官たる佐官を左右し、佐官級の結束は長官たる将官を束縛する
 の無統制振りを曝露して居るではないか、聯隊長以上の人の内心あ
 る者は此の悪傾向を衷心より憂えその掃滅を行はんとするも、之等
 の恐るぺき無統制の拠って来る所を究知すれば、そは現に陸軍中央
 部に級庖する、荒木一派が曾つて彼等の今日の地位を獲得に利用し
 たる流れの未が此の濁流となり居るものであり、その根漁たる荒木
 系を潰滅するに非ざれば永久に皇軍の清軍成り難く、然もその根源
 が一切の人事行政の鍵を握るの衝にあり、若し彼等に刃向ふ者あれ
 ば直に左遷崗首の幾多の実例を直視し居る為め自己保身と更に軍人
 本来の精神より沈黙し居るものなるも、然も尚ほ憂国の至誠は以心
 伝心的に全軍を横断し「皇国の為め荒木、真崎、秦の所謂武藤閥を
 葬れ」の気は嵐の前の静けさに似て無気味なる風を苧みて全国に蔓
 延しっゝある。
 倭貯なる秦憲兵司令官はその職務上早くも此の空気を探り之に圧
 迫を加ふると共に反面より自己の転身の準備を始め、二股武士の正
 体を遺憾なく発揮し、真崎次長も亦最近荒木の穎み少なきを知り、

201

 転身の意ありの武藤に頼り自ら陸相たらんと粗かにその探りを各方
 面に入れ、並に彼等の迷ひ小才も最後の日に近づきつゝあるを思は
  しむるものがある。
  彼等が自ら全陸軍を代表せる如き態度をとり、国民大衆の絶対的
 支持あるが如く誇赦し居るも、かつて彼等が、組みし易しと見くび
 り来れる言論界の心ある者は此の実情を察知し、荒木一流に最後を
  促す九寸五分ならぬ硬論の筆は氏に用意されて居る。
  更に我等は皇軍を弄び皇軍に対する国民の誤解と尿惑を益々大な
  らしめつつある国賊荒木、真崎、秦、小畑等の所謂武藤閥中の重鏡
  と見るぺき一味を一人々々裸とする。
    ヽ ヽ ヽ ヽ  ヽ ヽ ヽ ヽ
  陸軍大臣 荒木貞夫=は理想家と言ふよりは一種の夢想家であるハ
  由来陸軍は実相を尚び実相を目標とすぺきに、彼は彼一流の夢想よ
  り一つのイデオロギーを持ち之を陸軍部内に強ひんとするのみなら
  ず国政に対しても之を強行せんとしてゐる。
  彼の持つ社会観、政治観、人物観は凡て此のイデオロギーなるプ
  リズムを通しての観測なるが故に不正を生じ色彩を誤り乱視的とな
  ってゐる、彼に接する新聞記者、青年将校その他の者は、彼の造ら
  れたる世界的名声テウ台の上にかの歪められたる荒木を見て珍らし
  さの余り買ひ被る。
  彼は理想家の通弊とも称すぺき意志薄弱と四囲の進言巧言に惑ひ
  デマに溺れ軍政の実務に当つては何等自身の主義を持たず常に右顧
  左ぺん、且つ断行カに乏しく、今日の非常時日本の陸相としては最
  不適任のものと言はねばならぬ。彼が昭和七年一月の桜田門事件、
  五二五事件の両度の時に亘り一旦辞任し更に留任したる理由とし
 て今後斯の如きことを根絶する為めに留任すると林し世間態を糊塗
 し居るも、事実は武藤、真崎、秦、小畑等の威嚇に屈し完全にその
 ロボット振りを発揮せるものに過ぎず。
  彼が未だ今日の地位に上らざりし当時理想家の建前より青年将校
 在郷軍人等に国本主義を鼓吹し、彼の抱く夢を全国的に講演し廻り、
 夢の現実を約束して来たのであるが、犬養内閣の成立当時策士森烙
 の書き下した脚木に躍らされて一度軍政の局に立ち初めて夢想と実
 相は遠く別の世界に対するものなることを認識した。
  けれ共彼の振り出した約束手形を受取り、我等の荒木将軍と心よ
 り崇拝したる純真なる青年将校は今や彼に対し手形の清算を迫るに
 切なるものがあり、此の未清算が遂に今日の軍部の乱脈となったも
 のである。
  彼等若き将校は或は国家社会主義、国本主義、日本主義等の一部
 軍部に取入りて、利を得んとする、思想家、学者、浪人等と結んで
 不穏の言動に出る者あり、宛然秘密結社式に徒党を組み、政党財閥
 を威嚇し虎の威を背景に言論界を威圧する等の軍人にあるまじき徒
 が輩出し之が統制の局にある荒木は武藤を元帥に祭り込みそのカを
 利用せんとし、或は秦をして陰険なる手段に依りて弾圧せしめんと
 して尚果す能はず彼の前途既に決定的のものであると言ふぺきであ
 る。平常には日本主義を称へ常に日本刀を帯び世評は之を以て、彼
        〔精神〕
 の真の日本主義であると伝ふるも、そは彼がかつて親戚某より贈ら
 れたる故に帯びるに過ぎず、彼の言も之を証明してゐる勺然るに之
 を荒木の軍人精碑の現れなりと伝ふる巷間の風評はけだし彼の買被
 られたる真価と共に痘痕も笑懸に見ゆるの類である。
 卦身可勧骨身身紆=に至つては届々たる一才子かつて陸軍省
 に居りし当時「陸軍の三好」と題したる田中義一山梨半造 松木
 直売の三氏を読喪中傷せる出版物を新聞記者に示し軍の櫻密を洩ら
 したることありて当時の陸相手壇一成? に地方へ出されたること
 あり、然るに三ツ子の魂官までの例にもれず一度軍事警察の長たる
 に及び、即ち岩田愛之助なる右傾暴力団愛国社長をして数万金を与
 へ昭和七年八月以降十数封に亘り牧野内府、一木前宮相、字壇大将、
 西園寺公或は薩沢等各方面を中傷する事実無根の怪文書を出さしめ、
 然も内務省、警視庁等が此の怪文書出版者を捜査せんとすれば部下
 の某憲兵曹長を流して之が中止方を交渉し憲兵隊が捜査すぺきとな
    〔保護〕
 し暗に之を××し或は、大阪の暴力団長笹出札むお抱へ壮士として
 その売名行為により鬼灯は勿論官界、政党方面を威圧し、或は二
 重橋々畔に断食の不敬行為を為さしめ民心の不安を大ならしむるあ
 り然も笹川其の上京の都度莫大の運動費を手交、警察方面の捕縛を
 防止する為め常に私服憲兵をして保護せしめつ1あり。彼の常套手
 段は怪文書、流言費語、暴力団の使吸等あらゆる悪辣なる手段に依
 り更にお抱への御用記者数名を置き常にその流言を裏書きする如く
 報道するを為さしめ、時々は自己の部下たる憲兵本部の課長をすら
 欺かんとすることあり。
 彼は元来徹底せる忘恩の徒にして、曾ての恩人先輩にして、彼の
 為めに失脚し迷惑を受け或は世の誤解を受けたる者数知れず、即ち
 そのよき例として「陸軍の三好」事件当時、彼の罪証明となり、今
 を時めく田中、山梨両大将の激怒を買ひ論旨免官の憂目を見んとし
 て時の字垣陸相が彼の才にも又用うぺきものあるを見、持ち前の寛
 仁さにより、秦の反省を求めんが為め地方に出して、辛じて械首を
 免れたるにも係らず、彼が今時かく憲兵司令官の地位を利用し、字
 垣朝鮮総督の政界進出を熱望する関西其々実業家に対し、鈴木貞一▼
 中佐を況して難波大阪憲兵隊長と共に威嚇し、或は阿部信行、二軍
 治重、寺内寿一等の各中将が宇垣系なりとの名の下に土地の憲兵隊
 に腹心の者を配して一切の行動を報告せしむる等彼の行ふ所は即ち
 赤霹のゲーべ−ウー我が往時の目明し制度以上のものあり。
  彼が軍事警察の長たるの地位を利用し、昨年五月の五・一五事件
 直後の政変に東上中の西園寺公を車中に訪問し、軍部の実状報告を
 名とし半ば脅迫的に政党政治反対を力説したるが如き明らか灯憲政
 の敵として世が世ならば第一に国民の護憲運動の血祭りとなるぺき
 に依然憲兵隊本部の一室に陰険なる術策の思を練り、時々は自己の
 部下を新聞社に況してその記事論説に対して重大なる抗議を皇せし
 め而もその社の幹部が彼に了解を求め来れば役得意の美辞を連ね、
 相手に好印象を与へて以て自己の評判を良からしめんとす。
  荒木、真崎、武藤等も度に彼の為めには幾つかの弱点を握られ居
 り、彼の野望たる陸相の椅子に就かんとする日、何れはこの弱点に
 物言はせ、貯倭平滑盛の如き態度に出るであらうことは今より予想
 し得る。
 参静肘掛卦掛彗一肘=は佐賀関中心の人物にして本年度の陸軍
 定期異動を各日刊紙が「先づ佐賀関全盛」と皮肉られた程度であつ
 たが、之即ち彼に対する言論界の遠慮と怖れを裏書きせるものにし
 て平常なれば相当手痛き批評を試みたであつたらうに、彼の威嚇と
 買収の魔手が新聞方面に行き渡れる証拠であり、彼が佐賀閥の為め

202

  に人事行政に専横であつた証拠でもある。「長閥に非ざれば」の時
  は、将に佐賀閥に更えられた。
  彼自身は何等の経給抱負あるに非ず、部下に永田鉄山、小畑敏四
  郎、山岡重厚、西尾寿造等の腹心を据ゑ、而も適所適材なりと自ら
  宣伝し居るも此の人事こそは多年の陸軍の慣例を破りたるものにし
  て、適材は他に数あるに拘らず、岡沢擁護の露骨なる現れである。
  丙もこの腹心が、畏くも総長宮の御名に於て命令一下手足の如く
  働き全軍亦令を奉じ居るを宛も自己に卓軍統制の手腕ある如く自己
  腹心の御用記者を宣伝せしめ居るは武士の風上にも置けぬ輩と言は
  ねばならぬ。
   世俗に言ふ腹黒き人間とは彼如き人物を云ふものにして、その良
  き例は五・一五事件当時麻布三聯隊の中少尉等六名が武装して陸相
  官邸に押し寄せ陸相に面会を強要したるを、折柄来合せたる、彼が
  声を大にして叱り返したるが如く伝へ、例の御用記者は之を彼の臆
  カの賜なりと魔々しく宣伝せるも、事実は之等の六名は共々彼の腹
  心にして彼が裏面より使験せりとの風評さへあり、而も当時の三聯
  隊長磯只大佐は今彼の部下として本部隊附として政治的なる特殊行
  動を執りつ1あるは周知の事実なり。
   彼は大将昇進と共に陸相たらんとし既に某軍人を介し鈴木喜三郎
  とは直接取引を開始したるが、彼の人柱となり、踏み台となりたる
  青年将校の問に政党内閣反対の声大なるを知り、急に態度を更へ飴
  木との取引を中止したる由なり。一時政友会が軍部と了解なれりと
  伝へられたのはこの問の消息が外部に洩れたのであつて、政友会の
  鈴木の周囲は今日でも黄崎の不信を深く怨んでゐると伝へられてゐ

 る0
  彼が大将進級を辞して中将の次長に止まれることを例の御用記者
 は宛ら非常時なるが故に一身のことを犠牲にして軍の為めに努力し
 て居る如く伝へ、彼の大衆的人気を弥が上にも昂めようとしてゐる
 が、事実は彼が今の地位に恋々たるものがあつて去られず、前例な
 き昇進辞任をしたものであり、為めに阿部信行、本庄繁の両将軍の
 昇進も延期され陸軍部内に於ては「三宅坂の煙突男」と嘲笑の種と
 されて居る。
  以上彼等の正体暴露は抽象的事実多きも彼等にして何等反省の色
 見えざるに於ては机上山をなす、具体的材料に依りて更に吾等は進
 まんとする。


      一九 先輩各位に青年将校の衷情を訴ふ


  五・一五事件起りて此に早や一年吾人の後輩たる彼等の行動は近
 く国民の前に公示せられんとす、彼等に科せらるぺき罪科の軽重は
 情に於ては忍びざるもそは吾人の問ふ所に非ず彼等も亦然るを確信
 するものなり。然れ共好臣蔓りて天日を暗くし亡国階級跳梁践属し
 て私利私慾を遣うし国利民福を害ふこと甚だしく国本為めに危ふか
 らんとするを見て発したる彼等の烈々たる尽忠愛国の精神を殺すが
 如きことあらんか、吾人は彼等の先輩として何の顔ありてか彼等に
 見え何の言を以てか彼等の霊に答ふるを得んや。
  彼等をして冥せしむる這他なし、彼等の精神を活かすにあり躍動
 せしむるにある。両して其実証は何にょりてか之を知るべき、即ち
 国民の彼等に対する減刑請願の形粥たる声之なり。道義如何に衰へ
 たりと維彼等の至誠を知りては誰か之に感慣興起せざるものあらん
 や。
 知らざるものには教へ誤解は之を解くぺきなり。然れども彼等の
 純真のみを見て一片の同情にのみ駆られ兵精神を明徽ならしむるこ
 となくんば減刑は却て彼等を泣かしむべく、死者亦地下に冥せざる
 ぺし。青年将校亦断じて黙すること能はず、司直の裁き必ずしも公
 正ならず国論必ずしも未だ真剣ならず、国士佐郷星、赤賊三田村の
 例に之を見るも明かなり。斯くては皇道地を払ひて空しく皇基は為
 に動揺し憂国の士は空しく獄舎に泣き人心拠るぺき所を失ひ、又向
 ふ所を誤り国を挙げて赤蕗の後塵を拝するに至らん。速に国民に猛
 省を求め其真剣公正なる判断を待たざるぺからず。
 吾人の先輩各位は青年将校を失望せしめざることを確信す。既に
 見る所あり行ふ所あるを知る。然れ共尚更彼等の為に又皇国の為に
 日常接する所広く導く所大なる先輩各位に訴へて英治動を期待する
 青年将校の衷情を賢察せられんことを切願するものなり。
 青年将校亦既に決する所あり為す所あり。
                           謹 言
  五 月一日
                     皇軍青年将校有志


      二〇 五・一五事件に対する我等の覚悟


  五・一五事件!
  それは一世を駕倒せしめた。そして又混屯たる時勢に一脈の曙光
 を与へた重大事件である。今や此の記念すべき一週年を迎へるに当
 つて之が世に公表せられ且つ裁かれんとしてゐる。顧みて我等の進一
 むぺき遁に一層の覚悟を加へるのは意義があることではなからうかJ
  五・一五事件!
  それは劃期的事実である。三・一五、四・一六と全然趣を異にす
 る純真なる、愛国運動の魁である。然るに世は今に至るも彼等に対
 して暴挙とそしり或は市井の事件として葬り去らんとするは彼等の
 戦友として、又同じ国民として到底坐視するに忍び得ないのである。
  此に研か彼等の胸中に存する至誠の血潮を世に、ほとばしめて、
 彼等をして安んじて犠牲たらしめたいと思ひ、罪才をも顧みず一文
 を革して世の識者諾友に分つ次第である。
 一、非常時! 非常時は何〔時〕迫続く?
  五・一五事件を契機として叫ばれる非常時!、それは何であらう
 か? 世人は只非常時を叫び非常時に甘んじて居ながら之が根本的
 解決を一向に考へない。或者は之を考へながらも余りにその深く広
 きに驚いて右顧左跨、徒らに人の気配を伺つて手を懐にしてゐる。
  然らば非常時とは一体どんなものか? 満洲問題でもない、太平
 洋問題でもない。現在までの政治組織が、社会組織が作り来つた悪
 の華の集りであり、之等の相兜である。之が外に向つては対支米蘇
 の諸問題となり対聯盟の悪化となり、内に於ては農村の窮迫となり
 失業者の奔流となり共産党の活動となつたのである。かかる故に非
 常時の解決には之等に対する直接の救急設備も必要であるがそれは
 一時の手当に過ぎない。もつと其の根を手術して根本的解決を試み

203

 なければならないのである。彼等五・一五の志士達の考もそこにあ
  つたのである。非常時は五・一五事件突発後の問題でなく、数年、
 十数年以前からあつた。唯それが先覚の士によつてのみ叫ばれ世人
 は悪の華に中毒され、太平の夢に酔つてゐたに過ぎない。この迷夢
 ょり覚醒せられ兎に角にも非常時を成しむる事が出来たのは】に
 五・一五志士達の功績ではなからうか。
 二、私は彼等の採つた手段に対して云々はしない、手段の暴なりし
  は認める。彼等も彼等が採つた手段に対して貴をひいて相当の刑
   を覚悟してゐることゝ思はれる。
  世人多くは此の処迄は考へる、彼等の精神はょいが、やつた事が
 悪いと、然りである、されどこれ迄はどんな馬鹿でも考へる、異国
 人でも考へる、本当に国を愛し憂ふる覚悟があるならば、何故に彼
 等がかゝる非合法的手段に訴へねばならなかつたかを推察しその原
 因を排除するに努めなければならぬ、彼等は私憤から立つたのでは
 ない。常に服鷹し且つ教へつゝある己れが忠節の本分を尽さんが為
 めに世論に惑はず政治に拘らず、決然として断行したのである。彼
 等は身を捨てゝ警鐘を乱打したのである。
  余りに無恥な、無自覚な、無思慮な行動によつて大衆を誤り国家
 を誤り、両も大君をあやまらせ奉りある現代の指導者流に対し身を
 捨て1響鐘を乱打せるものである。一犬養に対する私憤ではない。
 一政党に対する反抗ではない。売名的行為では勿論ない、彼等の望
 むところは太平に酔ひ私利の外之なき特権階級の指導が今日の日本
  に導き来れるを慨し、彼等に自覚を求むると共に世の識者の立つて
 以つて新日本の建設に努力せんとする一大国民運動の導火線となる
 にあつたのである。彼等の純真を称ふる者は直に彼等の遺図を紘く
 ぺきである。彼等の血を以て指示した道に世を挙つて進み、彼等の
      〔]具カ〕
 望んだ新正なる日本に建直すこそ彼等に対する真の同情であり、真
 の友情である。徒らに涙を流すは婦女の情でしかあり得ない。
 三、五・一五事件突発するや合法的詐偽に栄えた政党者流は狼狽見
  るに堪へず、或は農民救済を叫び或は一部の財を投じて非常時に
  あたらんことを唱へた。されど至誠のない非常時救済論は鬼の念
  仏である。
  然れ共大衆に何が正しきかを示したは労とすべきである。只残る
 は此の非常時に国民が如何に処すべきかである。鳴呼一発の銃声よ
 く天下を済ふ、その行為は暴といへば暴なるもその結果より論ずれ
 ば身を殺し仁を為した者といひ得る。後世の史家が果して何と論ず
 るか興味ある問題である。
 四、我等は唯興味を以て臨んだのでは済まない問題である。我等国
  民は進んで彼等の意図を継いでこそ彼等以て瞑すぺきではないか、
  我等はかゝる正義の士を空しく死せしめたくない、彼等も一の傑
  士である。数十の傑士をか1る罪に空しく葬り去るは世道人心に
  影響するところ幾許であらうか、我等は神聖なる司法官に信穎す
  る、法の精神を専門家に対し云々する者でない。
  事件を担当せられる司法官は必ずや大岡越前に勝る名判官たるを
 信じて止まないが、然し司法部内より共産党員を出した今日である、
 尚赤化の手の伸びてゐることは考へる必要がある。
  国家を根本より覆し国体を変改せんとしたる大痴漢に対し大不敬
 漠に対し三年五年、重きも十年の軽刑を科せられた判官は国家の為
 めに身を捨てんとした佐郷屋に対しその殺人未遂に対して死刑なる
 新判例を開いた。
 我等は判官の恵那辺にあるかを尿ふ。佐郷屋に対する極刑は血盟
 団(之は五・一五と同一系統である)五・一五志士に対する準備で
 ぁると見て差支ないと思ふ。一部には司法官は度に赤化せり、との
 声を聞く日のあたりか、る判例を示されて我等は迷はざるを得ない0
 国民! 大いに監視せられたい。
 五、最後に申述べたいのは、共産党に関する問題である、
 世上共産党は惑いと云ふ、唯悪いと云ふに過ぎないで、何故かと
 云ふ事是らない人が多い、軋郎舵共産主義が何故具にとつて悪
 いか、と云ふ事に付てはとくと御承知の事と存ずるが故にその点を
 省略して私の所見をのみ申上げたい。
 私は先づ共産党は何故あの様にあとから〈と増加するだらうか
 を考えて見たい。三・「五に始まつて四・一六、一〇・三二と大き
 な検挙があり、その間もその後も、而も最近に於ける毎日の様に検
 挙せられる、捕へても捕へても之を繊滅したと思ふ後から出て来る、
 共産党員!
 何故だらうかと反問しない人はないと思ふ0曹て対共産陣営の親
 玉である毛利特高課長が斯く言つたことがある、「彼等党員はポー
 フラと同じである、腐水に湧くボーフラは取つてもiつきない0
 腐水を挽へねばならない」、と、然りである0我等は全然同意である0
 現在の社会なる培養基に養はれた徽菌である0彼等の母胎は社会
 そのものである。明磐を投じて清水しその沈滞物を去る如く培養基
 を換ふるを要するが如く社会を彼等が生ずる隙なきが如く改革する
 は刻下の急務であらねばならぬ。
 三兵士を生んだ社会は彼らを生んだ、満洲に毎日倒れて行く勇+
 達を生んだ国土が、母が、また同時に彼等を生んだのである0同じ
 母胎に出でゝ同じ社会に育まれたものが一は護国の神となり一は短
 を倒さんとして居り、又一は彼等に抗して国を正さんとしてゐる0
 前者は別として中なるものと後者とは国を思ひ民を思ふは同一であ
 る。只国を先にし国ととに民を済はんとするか、個人を主とし人身
 救はんとするかの差にある。然りと疎も我が日本に於ては他国と扱
 きを異にする。日本人は国家あつての民である。国と共に世界に現
 れた日本人である。
 国の亡ぶる時は日本人の亡ぶる時である。国民のみ救はれて国が
 亡ぷとは我国に於て不可能なるに考へ及ぶ必要がある。日本の国良
 性を思ひ世界の動きに、世界の歴史に鑑みるとき我等は痛切に感じ
 得るのである。真に勇気あり腹ある人なれば国家の改新に志すべき
 であらう。彼等共産党員は眼前の社会を見て他国の事例に徹して他
 人の足跡を迫はんとするもの人を救ふにその個性を認めず、唯貧し
 さに金を与へて怠惰の民を作るにひとしい。即ち眼前の利により人
 を集め事をなさんとするもので真に勇ある人に抗ふも正しきに進む
 ぺきである。
 六、今の世はかゝる勇者の出現を待つこと切である。而してこの
 勇者たるや、私心なきを要す、至誠至公の人たるを要す0何時のせ
 に於ても朝に立つて人を導くもの私心なきを要することは千古不磨
 の鉄則であつて現世局を坦当するもの亦斯くあらねばならぬ0顧み
 て現代の為政家運を見よ! 唯一人として私心なしと叫び得るもの

204

  があらうか。
   香彼等が国を忘れ個人に走つたればこそ今の世態が現れたのであ
  る。金権専制政治をなす現為政者達と無産者独裁を目論む共産党員
  とその差いくばくなりや。大権を私せんとするに於ては同一である。
  天下の患は小人を? 宰相とするより大なるはない。
  小人に国家む鮎がしむるれば災害並び至ると大学にも説いてゐる0
  彼等を改革すると共産党員を矯正するとは同一である。即ち春秋の
  筆法を以てすれば共産党貞を養ひ我国を赤化せんとするは彼等現今
  支配階級なりと言ひ得る。その支配階級が自己に具合悪き国家の改
  造を見適すことはない。何故なれば国家を正しいものにかへすこと
  は彼等の滅亡を意味するからである。
   彼等はあらん限りの努力を以て五・一五志士達の真意を曲げてか
  かる運動の抑圧につとむるであらう。
   かくては遂に我等大衆は国家と共に救はれざるばかりか共産党貞
  に誤られて日本並に日本人は此の世から姿を消すに至るであらう。
  ユダヤ人が二千年の長き放浪生活にも明日をも知れぬ迫害に会つて
  ゐるよい範例を我等は見なければならぬ。況やユダヤ人は白人で、
  我等は黄色人種であるに想到せょ。我等の子孫の悲惨なる状態を黙
  想して慄然たるものがあるではないか。
  七、諸子は今や私が績々と述ぺ来つた事が何であるか推察せられた
  と思ふ。私は国民の中堅として孜々家業に、公務に勉励せらるゝ諸
  子にこの機会を利用して私の抱懐する意見の一端を吐露し、我等は
  如何に進むべきかについての参考として戴く、辛に我らの微意を汲
  んで国家の急務に一層のカを添へられたならば幸甚の至りである。
 非常時! 五・一五事件の公判!
 我等は五・一五の公表に如上の看点を以て接し彼等の誤られた悔
を千載に残すと共に至誠至公純真そのものなる幾多の青年達を空し
く犠牲ならしめざるやう努めねばならない。
 塀一重の外より彼等を偲びながら我らの墜Pが彼等の耳菜を幾何
にうつかを思ひつゝ稿をまとめる。
  昭和八年五月朔
                    一青年将校


     二一五・一五事件

○赤穂義士の虞刑
 法を主とせる政道の上より見れば悉に党を組み曳を取りて高家を
襲ひし狼藷者、情を主とする風教の上より見れば節を守り義を守り
て亡君の遺恨を晴らせし忠義の烈臣、法を主とするや、情を主とす
るや幕府の評議決し難く時の有司十三人連署を以て意見書を奉り天
下の諸侯いずれも嗟款の声を放ちて斉しく其節義に感じあわれ武士
 の道を踏み外つさす美事なる者共よ上の情に宿らせたいと異〔ロ〕
同音、林大学頭信篤また将軍家に意見を上りて日くかゝる者ども打
捕ふて出しは全く忠孝励まされし上の思召その下に行届きし証拠
若し此の者どもを情なき一朝の厳科に処せられなば御条目も空文と
相成り今後の天下に忠義御奨励の支障あるぺしと悍りなく論議しけ
 る0
 荻生租裸は一切之を法規より論じて日く
 義は己を潔くする遣にして法は柾ぐ可からず、天下の規矩なり事
 は即ち義なりと錐も法の許さゞる所士礼を賜うて自滅せしむるに如
 かず己を潔くする私論を以て天下の公論を害せば政道は立つ可らず
 と0
 0高札の書易へ。
 江戸の中央群集穎踏の日本橋から四方の四宿に掲げられた天下の
 高札は風教の基として東照公以来の御制文若し一字一点これを汚す
 ものは大罪人として三族を訣せらるぺき其第一条に「可励忠孝事」
 とある文字を何物とも知れず四十六人「寺坂を除く」刃に伏せし当
 夜真宗に墨を塗りしものがある、幕府有志の驚愕町奉行の狼狽する、
 高札を立替へ市中に飛耳長目を張り之を捉へょうとしたが猫一匹も
 捉へぬ中に又々其の夜中に泥にて塗り潰したものがある、鼻毛を抜
 かれた役人当分は昼夜番人を附けたが最早大丈夫と其番人を廃めて
 二日目今度は馬糞で汚したものがある。
 武断の一喝、無上の権威、白昼飛ぶ鳥を落す勢も暗夜民衆の心は
 奪へない真に持余して高札の第一条「可励忠孝事」を改めて「親子
 兄弟可陸致事」と書き易へた。
 五・一五事件烈士の面々を以て直に四十七士のそれに此するは中
 らずと雄も凡そ元禄の普民心感奮の極義士を惜しむの切情察すべく
減刑の希望は白熱の与論たりしに対し今日五・二且の烈士に対する
世論何んぞ微弱にして区々たる宣悲しまざる可けんや是実に世の烈
 士を知らざるによるか
 ○軍人は先づ殉国の死を修練す。
 軍に入りて先づ修むるは忠義の道なり余輩士官学校第一時間の訓
 講は「死」の修養なりき君国のために喜んで死し得るや凡そ一生を
 献げて君国に報じ死処に立ちつゝ従容無擬たるぺしとの修練は吾等
 軍人の修業の眼目にして又終始なり。
 ○彼等の客観。
  民生を侮視揉摘して省みる所なく国策も国家も営利の前に彼等の
 関心する所とならず、甚しきは之を売る内は腐敗の既成政党を寄生
 せしめて訣求欽利の爪牙となし百万の鉄人を浪々せしめて尚憐懲の
 情なく農村を搾取して完膚なからしめ私権増長して公権の実あるな
 き現実資本主義経済の爛熟過程の実相に対し一度彼等が純性の触発
 するや邦家の前途現前末法の世を打ち棄て難しと感ずるもの此々皆
 然らざるなし、此間政党の横議私論天下を圧し名を立憲常道に籍り
 て私を営み君側の好臣巧に之と結び軍権の神聖を冒漬して当然とな
 し民庶又之を以て怪しまず
  病正に曹青に入る。即ち一決して穀身為仁の道を選ぺるもの何ん
 ぞその壮烈なる。君国のため死の修養に徹するの時一片坦々の赤心
 凝つて鉄火となり回天救国の端たらしむことを期す。正に必至の終
 着にして軍人教育の真義諦此に至りて又至らざるなし一点懲心なき
 客観誤れりとなす可きか、
 ○烈士の国家的偉勲と態度。
  鳴呼国家の百年士を養ふは正に今日の為なり烈士なくんば国家と
 民生とは並び亡びん、皇国の興廃は日本のみにあらず身中の虫以て
 最もおそるべし、烈士捨身の大勇あり奉公の大義心肝に徹す、即ち
 自ら抗毒の素となり駆虫の先駆となる。皇国を衰亡の端に救ひ珂天
 興隆の転機を為せる偉勲は現前見る所の如く政党財閥の権勢を以て

205

  少くとも表面私党の営利を慎ましむ、宣に犬養犠牲の死を悼みて而
  して且つ烈士の義勲を称せざるぺけんや。而して救国捨身の義烈化
  して徒党となり発して帝都の騒擾となる、何ぞ軍律国法を犯さむが
  為めならむや、至誠貫流普遍する所全員直に党を成す故に一人の裏
  切るものなし信じて疑はざればなり。
  発して帝都の一挙となるや自ら直に縛につき違法の罪を関下に謝
  し謹慎比類燕し忠誠に非ずんば能はず
  ○彼等を知るもの幾人ぞ。
   義士元禄の快挙なるや上は諸侯より土人民衆に至るまで感歎発せ
  ざるなく或は直言の書となり或は高札の糞泥と化し芝居となり絵と
  なり文書となり忠烈の鑑として義士伝を講ず。然るに何事ぞ昭和の
  烈士に対するや、彼の詔侯伯に此すぺき一人の大臣一人の師団長一
  人の知事能く烈士の為めに無双の忠烈を嗟歎するものあるか或は巧
  に僅僅一弱信漢の悔悟の文を以て天下の新聞を飾りて悍からず絶忠
  義烈を以て一律昭和の暴漢となす民間陰語して志士となし稗となす
  もの絶無に非ずと維も直言を悍りて発せず指導階初の粉飾に欺調せ
  られて暴徒と信ずるもの滑々世表にあり何んぞ憤激に堪へむ。鳴呼
  彼等を知るもの幾人ぞ、吾等皇国無窮の洪恩を受け自ら任じて金臨
  の国礎を堅くすぺきの大義あり。
   今日共産党の激匪皇国の弱所を窺ひ私利専権の財賎民生を惨憺た
  らしめ外列強と東亜に角する非常時に方り一日の安危宣他人を以て
  委するを得ん各々自ら任じ自ら挺身して以て皇国維新の大事を完う
  すぺく、烈士の心を以て心とし其の義を以て義とし誓つて其大勇に
  学び我秀靂の天地と共に彼の正大の義気を吸ふぺし。烈士を無漸に
 斬らば即ち斬れ第二第三の義挙踵を接して至り聖代の惨劫有司自ら
 其責を取るぺきのみ、
  鳴呼盲目の民衆遠からず自ら其塗炭の惨苦を刈るぺきを知らざる
 か、
 ○非常時は非常手段を原則とす。
  惟ふに非常の世に処する自ら非常の手段ありて断ずぺく、又他技
 の施す所なき所は賢者を倹たずして知るぺきのみ苛も非常の世と観
 じ非常の手段を悪となさば此れ為さゞるに等し、良医執力するや概
 を計り断乎として重患の生命を堵し而して能く医療の目的を達す吾
 人は現下を目して以て非常の世と断ず是れ宣独断ならずや。
  故に非常の手段は今や断じて暴に非ず激に非ず実に忠恕にして且
 つ唯一賢明の方途と確信す、烈士又恐らくは吾人と同断ならむ、其
 心事研かも暴を思はず又固より願はず良医の重患に処するが如く従
 容として現下の客観に適応するあるのみ、今非常の時に方り徒らに
 優柔不断末法姑息の形骸を以て之に臨む其の愚度す可からず、彼の
 非常手段なく安ぞ一世を驚党し珂天の櫻端をなすを得るか。
 ○英男子の本懐と極右の観念。
  それ君国を以て終始するの士は宜しく正に天下の広居に立つの心
 を以て心とすぺし、故に中正に信あるぺし侶ずれば必ず之を行ひ行
 へば必ず正に碇烈鬼神の如くなるぺし、是れ大勢を一概に決すれば
 なり、心底忠恕言行壮烈是れ英男子の本懐なり、又実に列聖奉勅の
 忠良たり、今之を烈士に見るに即ち其志操は中正を根底とす、其の
 行蹟は正に鬼神を避けしむ美男子と言ふぺし。彼の共産の匪頬民性
 を知らず空理を以て極左に蜂り皇国を乱離の淵に陥れんとし彼の財
 戦の暴徒利己私利を以て極右に居り悉に中正を号し表に国家を倦赦
 す。浄化の偏一進して極右となり再転して極左を生む、皇道仝から
 ず明治維新の宏諜今や根底より再維新の秋に会せり、皇道は実に永
 遠の中正這なり、此の中正遺に立ち君国を以て捨身す、烈士の壮挙
 乗れ宣又極右となすぺけんや
 ○天下有志に告ぐ
 鼓に於て吾人烈士のために計らず烈士は自ら義によりて潔し、其
 刑の重軽固より論求せずと雄も邦家の有志賢徳に告げむ、又皇民の
 至誠に問はむ、彼烈士の大義と大患と而して彼の非常の手段の恵む
 可からず遅く可らざるのみならず実に唯一適切の手段たるを。而し
 て今日我国は死生の修練を経たる純潔の烈士多々愈々健在なるを要
 するを。願くは天下の有志其衷を以て閏国の真運に応へ烈士の裁刑
 をして宜しきを刺せしむること。
 昭和八年五月
                     満洲国一将軍
   君か代を思ふ心乃一すぢに
      吾身ありとは思はざりけり


 皇道維新の雄叫び 第壱巻           (終り)

 




一  日本国民に檄す


 日本国民よ!

 刻下の祖国日本を直視せよ、政治、外交、経済、教育、思想、軍事、何処に皇国日本の姿ありや。
 政権党利に盲ひたる政党と之に結托して民衆の膏血を搾る財閥と更に之を擁護して圧制日に長ずる官憲と軟弱外交と堕落せる教育と腐敗せる軍部と悪化せる思想と塗炭に苦しむ農民、労働者階放と而して群拠する口舌の徒と……
 日本は今や斯くの如き錯騒〔綜〕せる堕落の淵に既に死なんとしてゐる。革新の時機! 今にして立たずんば日本は亡滅せんのみ。
 国民よ! 武器を執つて立て〔、〕今や邦家救済の道は唯一つ「直接行動」以外に何物もない、国民諸君よ!
 天皇の御名に於て君側の奸を屠れ!
 国民の敵たる既成政党と財閥を殺せ!
 横暴極まる官憲を膺懲せよ!
 奸賊、特権階級を抹殺せよ!
 農民よ、労働者よ、全国民よ祖国日本を守れ!
 而して、
 陛下聖明の下、建国の精神に皈り国民自治の大精神に徹して人材を登用し朗らかな維新日本を建設せよ。
 民衆よ!
 この建設を念願しつゝ先づ破壊だ!
 凡ての現存する醜悪なる制度をぷち壊せ!
 偉大なる建設の前には徹底的な破壊を要す。
 吾等は日本の現状を哭して赤手世に魁けて諸君と共に昭和維新の炬火を点ぜんとするもの。
 素より現存する左傾、右傾何れの団体にも属せぬ、日本の興亡は吾等「国民前衛隊」決行の成否に非ずして吾等の精神を持して続〔蹶?〕起する国民諸君の実行力如何に懸る起て! 起つて真の日本を建設せよ!

   昭和七年五月
                     海軍青年将校

 

 

二   歎 願 書

 斎藤実閣下組閣の大命は遂に閣下の身上に降〔ママ〕す未曾有の国難に直面せる祖国日本救極〔ママ〕の重責は懸つて閣下の双肩にあり、蓋し其の任や重にして且大なりと言はざるぺからず、ここに於て当面の組閣に臨みての閣下の処断は、即ち日本存亡の岐路を劃するものなりと言ふも敢て過言に非ず。
 今や日本の主観的・客観的状勢は強力なる挙国一致内閣出現要望の最後的モーメント迄到達せるは言を待たず。閣下への大命降下の所以も這辺に在〔ママ〕なり、蓋し今日の急迫せる事態に直面せるは内外の諸情勢と相俟ちて実に醜悪なる政党政治の積弊の致せる結果なるを思へば国民大衆の要望すぺき内閣こそは斯る政党政治の余流たる情実威武権門等々総ての不純を排除しての真に国難日本の国政を託するに足る人材本位特に小壮〔ママ〕有為の士を羅列せる内閣たるぺきは絶対的必要事なり。
 要は亡国の危機に瀕する日本を救極し塗炭の困憊に喘ぐ国民大衆を甦生せしめ、真に皇恩の普からん事を期する内閣出現こそ初めて大命拝受の責を全うしむると言ふへきなり。生等微々たる青年同志たるも尽忠の熟、報国の情押へて己むぺからず、於是乎 生等の赤誠を吐露し以て閣下への進言とするものなり乞ふ生等の熱誠を掬せられ組閣の大任をして欠如なからん事を
   昭和七年五月二十二日
                      国民青年同盟
  子爵 斎 藤  実 閣下


 

三   国難に直面して国民の奮起を望む

                          〔唐〕
  臨時議会今や再び開かる、国難打開の実頂に於て果して如何なる
                                        〔歌〕
 程度を彼等に期待し得べきぞ、見よ我同胞の窮乏その極に達し蛾葎
 累々として野に横るの現状 聖上には深く、御珍念あらせられ之が
 救他に多額の御下賜金ありたるやに拝聞する、国内の情勢既に斯の
 如し而も対外関係日に悪化し娩に米、慮の我に対する虎視耽々乾坤
一鄭の自衛戦或は回避し得ざるやの危機に当面す、真に空前の大国
 難と謂ふぺきである。
  此時我等の頼みとすぺきは、線に伝統の日本精神である〔。〕首
 難に当つて不境、不屈の大和魂の換発である。我等は素より非合法
 的軽挙盲動を供しむ、されど此際苛くも日本国民たる者は敢然とし
 て愛国の至誠を披渥し正々の歩武、堂々の陣を張つて一死君国に報
 ずるの忠順を必要とす〔。〕彼の徒らに紅燈線酒の問に陶酔し若く
 は破綻百出の亡国理論に常軌を過するが如きは何れも我等の歯し得
 ざる腐腸漠である〔。〕喋古の国難既に我等に直面す、起て!
  全日本の愛国者、我等は諸君の奮起と努力を衷心巽ふものである。
 国難打開の笑顔は一に忠誠なる同胞の護国の意義に倹つ
   昭和七年八月 臨時議会開院式の日
                      独立青年社

03

      四 特「士官特に中少尉諸君の御内覧を乞ふ」

                           〔託カ〕
 大逆宇壇一成は君側の大姦牧野伸顕等と結構策謀して将に後継内
閣の総理たらんとして居る、〔琴肪は水も洩ら〔さ〕ざる租密であり、
 中心が宮廷の姦党であり、策詔が薩泥海軍の醜顆と陸軍の巨頭等と
 斎藤内閣の組閣本部の策士等であるが故に己に成立したものと見て
 ょろしい。
 大逆字垣は将に朝鮮海峡を渡りて帝都に君臨する旬日の後である。
  青々は皇軍の間に党を結び派を立て1宇垣党と云ひ荒木派と云ふ
         〔私〕
 が如き私言身語を聞くとき 陛下の軍隊帝国の軍隊として有り得ぺ
 からざる腐敗墜落と考ふる者である。
 故田中義一、山梨半造及手塩一成の三代に渡りて 陛下の軍隊を
 自家累代私兵家臣の如く見傲し来れることは国体観念の根本を破壊
 する者である。何の日か天誅降下せんとは宇壇を知る者の斉しく待
 望する所ではないか。
 陛下の軍隊を盗みて三代恩威の私兵家臣と考ふる、君臣逆倒の心
 事あらば、是れを行動に現はして大逆不軌を企つることは必然の次
 第である、吾々皇軍将校は大元帥陛下の将校たる光栄と義務に於て
 断乎大逆不軌の字壇一成に対して決意する者である。
 租密を暴露することは為すべきことではない。雨も君国の為めに
一日と錐も秘し障す能はざる重大事あらば何とする。書々皇軍将校
 は固より世事一般につきて見開する所は紗い。
  ▲而も書々鼻寧将校にのみ最も深き交渉を有する五・一五事件につ
 きては義務と必要とより、最も正確真実なる真相を知悉する者であ
 る〔。〕海軍及陸軍々法会議の取調要点、検察当局の取調要点につ
 きては他の多くの社会人よりも最も迫速且つ正当なる見聞を有する
 のである。『多くの吾々同志の中の父兄親戚先輩等に文武の要路に
 在る者砂なからざるが故に機密漏洩の清廉を彼等に向くること勿
 れ』、事実は最も雄弁である。
  三者三方面の調書に於て宇壇一戌の大逆不軌は天日を指す如く歴
 歴として示されて居るでほないか。
 吾々は国家首脳部の腐敗罪悪を一掃し大帝国の再建運動を為さん
 が為めに進んで犠牲となつた海軍将校諸君及び、士官候補生諸君の
 心事行動に対して挙手敬礼を敢てするものであることを断言する。
 而もあれだけの大多数の犠牲を払ひて得たる所の者は、一犬養老
 爺の天誅と斎藤内閣の不可解なる出現とだけではないか、斎藤内閣
 とは則ち牧野内閣である、海軍々法会議の調書に基きて指示する。
 五月十四日造は、則ち十五日決行の前日迄は牧野内府を討取るぺき
 任務は村山少尉であつた。
  村山君は、あの広き不案内な、且つ警戒厳重な総理官邸に於て天
 誅を遂行した程の人物であるが故に君側の大姦を自己の任務に委任
 された日から周到綿密なる準備を完うして居たのである。
  然るに十五日朝に至つて主謀古賀中尉が総指揮者として「牧野に
 は俺が行く君は犬養に行け」と突如任務変更を命令した。激発の後
 憲兵隊に自首した時、古賀を見たる山村の問ふ所は「牧野はやつた
 か」 の質問であつた。
 彼は犬養を倒して来たのである。古賀は失敗したと答へた。
 これを開いた時の村山が只一昔口「残念」と云つたきりで流沸切歯
 した有様は見るに堪へなかつたと云ふことである。「海軍調書の公
開を待つや切である」古賀の所謂「失敗」とは同志を自動車偶に留
置して己れ只一人牧野内府邸門前に下車し塀内に向つて爆弾を投げ
込んだまゝ♯鞋と走り去つたことを云ふのである0内大臣が邸門に
出迎へて古賀の一群を待たざる限り牧野内府が古賀によりて殺され
 ざる
 ことは保証付ではないか。
 古賀はインチキをして於て同志に、失敗したと欺き告げたのであ
る。天網恢々終に古賀自身の醜態を自白するに至りて大川周明の捕
縛となるや、大川の旨を受け大川と謀りて牧野の天訣を外に転ぜし
めた事情が明白となつたのである〔、〕悲憤何ぞ村山少尉に限らん。
 大川の背後には十年一日の如く牧野伸顕あり。字垣の私兵家臣が
 あるのだ−・大川の捕縛而して其の妾宅から押収された唾棄すぺき
彼等の所謂「維新史料」によりて大川は一切の関係を自白陳述した。
 彼は彼自身の恐怖より免かれんが為めに牧野党及び宇垣党による
 交渉を陳述展開せしめて自ら救はるるに彼等権力者の救護を計画し
 たのである。彼は十月事件から三月事件にまでも暴露戦術を取つた。
 大事を為す者の不義不徳は別問題として彼に引き摺られて手塩党
 の大危機を来さば字垣党自ら救はれんが為めに彼を救ふぺしと考へ
たもののやうである。字垣党に対立する、陸相荒木も参謀次長兵崎
 も周章狼狽して事件の拡大防止に努めた。
 大姦牧野内府は君側に侍するの特権を用ひて終に大権発動により
て検察当局の取調を五・一五事件に限定するに至つたのである。費

 任の地位に在る荒木、兵崎等が仇響字垣党の救護に狂奔せざるを得
 なかつたことは悲惨なるヂレンマであつた。
  十月事件は宮廷への内通者が大川周明であつたが故に而して宮廷
 の姦党自身が腰を抜かしたが故に、宮廷姦党と声息想通の関係に在
 った当時の宇垣党首脳部が直ちに中止弾圧に出た事情は明瞭になつ
 て居る。
  只三月事件に至つては当時の陸軍大臣である、宇垣一成が其の腹
 心を用ひて想像し、得ぺからざる惨虐悲惨事を計画したことであり
 丙も其の目的が此の計画せられたる事変をきつかけに純然たる政権
 奪取の陰謀であつたからである。
  戌程、反手塩党の彼等さへ陸軍創設以来の醜恥であり、内外に対
 して皇軍の威信を失墜すとなして該事件の真相取調を防止したのは
 或る程度まで諒とし得るのである。
  軍人にして軍人に非らず、政治家にして政治家に非らずとは正に
 手塩一戌の事である、字垣は浜口内閣の陸相として浜口が天子兵馬
 の大権を干犯するをも傍観しロンドン条約に於て八十有余歳の老天
                        〔ママ〕
 師が憂心故に昼夜死闘し終へる涙をも冷眼視した丈士である。
  然も浜口の天訣降下によりて民政党の党首争奪の醜事始まるや、
 幣原、安達、宇垣の三巴となりて腐肉を争うたのである。政権の餓
 鬼終に政治屋達の間に於て志を成す能はざるや乃〔ち〕終に大川周
 明の門に走りて一大悲惨事なる策謀し軍隊出動の口実を稔出せんと
 したのである。
  謂ふ所の如く陸軍創設以来の醜恥であり内に対して皇軍の威信を
 失墜するものであらう。而も事実は大権の発動によつて司法権を拘

04

 凍せずんば明かに朝憲素乱罪内乱予備罪等の重刑の下に市ヶ谷刑務
 所内に留置せらるぺきものである。大川一人を見殺しにして鼻如朝
 鮮の統治を監するが如き何たる沙汰であるぞ、開きし昔、大浦兼武
 なる者内務大臣として政府党を作らんが為めに総選挙に際して黄白
 〔を〕散じたる廉を以て検察当局の取調ぺを受けんとした時、天恩
 の優渥を蒙りて終生隠居謹慎の生涯を送つた。
 然るに字垣一成ほ大川の縛せらる1や急遽上京して新聞記者団を
 集め、秘書官をして代弁せしめて日く
   「三月事件のことは余と大川との問に於て云々と云々のことに
  すぎず、それ以後のことは凡て某中将と某少将の為す所のもの
   である。」と
  聞く者当時の陸相が其の首脳部下に罪を嫁して倍然恥ぢざりし無
 反省を指摘すると共に云々と云々とが実に驚愕すぺき自白自証であ
 つたことに呆然としたのである。
 優渥なる天恩に俵つて僅かに重罪極刑の札弾を免れた上は朝鮮総
 督に止まりて動かざる如きは実に至専を怖れざる態度である。
 如何に況んや更に野望を達しうして首相の印綬を親ふとは何だ。
  君側に大姦牧野伸威ありて此の大逆不達の宇壇と結託せるからで
 ある、牢・一五事件の其の日は日曜日であり、牧野は常例にあつて
 必ず別荘行の筈であるに係らず恰も大川一党の爆発を待てるものの
 如く内府邸に安住して居たのである。
  門前は約束せられたるが如く只一発の声を大にして走り去つた、
 十五日以前に於て早く己に字壇一成の私兵家臣等は大事決行を予知
 して居たのだ。海軍の音質専一、二を徐きては、犬川其の人の在る
 をすら知らざりし海軍将校の大多数と士官候補生とは牧野の予定し
 たる斎藤内閣出現の具に逆用せられ九死の深淵に欺き落されたので
 ある0
            〔山本権兵衝〕
  牧野と相結ぺる山権、財部の侯児岡田が海軍を握るや当日廠起に
 反対せる海軍将校をも捕へて獄窓に投じて居る。而して斎藤内閣は
 天人の憎悪に抗する能はずして死んだ、腐屍を蔽ひ喪を秘して千代
 田大奥租かに陰謀する所のものは後継将軍宇垣の筋立であるのだ。
  山川−.
  P
  天道是〔と〕雄も世道悉く非、宮廷と軍部とより先づ君臣の分を
 明かにし、皇国々体の根本義を明かにせずんば国民精神の作興も自
 力更生も何をか為せん。
  大姦牧野と大逆宇壇と〔は〕肉を喰ひ骨を噛むも足らずとは彼等
 のことである。
  事実の真相を述ぺて決する所を告ぐ。
   昭和七年十月
                      皇 軍 将 枚


      五 青年日本の歌


              海軍中尉 三 上.阜 作歌
   べ †’
 一、氾羅の淵に波騒ぎ
   巫山の裏は乱れ飛ぶ
   潤濁のせに我立ては
   義憤に燃えて血潮湧く
         〔持〕
ニ、権門上に傲れども
  国を憂ふる誠なし
   財閥官を誇れども
 社稜れぷふ心なし

   【ああ】
 三、噴呼人栄え国亡ぶ
  嘗ひたる民世に滴る
  治乱興亡夢に似て
  せは一局の碁なりけり

四、昭和維新絶鍔空
  正義に結ぶ丈夫が
  胸裡百万〔兵〕足りて
  散るや万乗の桜花

   〔ひじ〕 〔むくろ〕
五、舌娘死骸乗越えて
  雲親揚の身は一つ
  国を憂へて起つときに
      〔ますらお〕   〔な】
  大丈夫の歌無からめや


 六、神の怒りか地の声か
   そも只ならぬ血響あり
   〔民〕永劫の眠りより
    醒めよ日本の朝ぼらけ


  七、見よ九天の雲は垂れ
    四海の水は鹿叫びて
  革新の機粥らぬと
    吹くや日本の夕嵐

 入、熟うらぷかし天地の
         【れ〕

    迷の道を人は行く
    栄華を誇る塵の世に
    誰か高楼の眺めぞや

         〔何〕
  九、功名なにか夢の跡
    消えざるものはただ誠
   人生意気に感じては
                〔論ふ〕
    戌香を誰かあげつらん


  十、やめよ離騒の一悲曲
   悲歌憤慨の日は去りぬ
     【が〕
    吾等の剣今こそは
           【かな〕
   廓清の血に踊るなり


    昭和七年十月発表

05

      六 失業国民団結せょ


 一、国民よ時勢に真剣なされ
  満洲国の建設は掃匪と共に其形式及机上のプランは着々として進
 みつつあるも、丙も最も大切なる内容の充足建設遂行の為の国民の
 努力は何となく其力弱さを感ずるものあり。
  而して之と併行して関連包括して実現せらる可き国内革正の声も
 亦巷間に旺となり益々之を要望せられ今や天下の公論となれるも政
 党腐敗の只中に、寵生せる挙国内閣は其真撃なる努力にも不拘、拳
 固の公論は之に依りて国家百年の大計根基を筆固ならしむ可き強力
 なる実行力を期待するを過望なるも信ずるに至れり。
  而も革新の中堅勢力は微〔々〕として奮はず、吾人は一日も速か
 に革新意識の勢力を充実拡張するの急務を思ひ、而も此の一途に依
 りてのみ光栄ある皇国の再建設の可能を信ずるなり。
  しかるに見よ一部国民は眼中私利ありて国家なく国民なく、或は
      〔辞〕
 眼前浮遊の好景気を喜び、
  或は無識を以て時勢を傍観し或は好んで小党を樹て小異を難じ或
 は漠然半辟を以て時勢の窮運を知らず或は姑息固陪の思弁を以て中
 正穏健を倦称し、或は唯利を以て集る等未だ真に時勢の趨運と時局
 の重大とに覚醒せりと思はしむるもの少なし。
  かくて国家百年の大計根基を筆固に樹立するが如きは思ひ半に過
 ぐるものあり、吾等は国民の真正深大なる反省を期待し、特に国運
 の前途に真剣熱烈に関心せる国民の奮起を望むものなり。

 二、国家革新と失業国民の使命
 民として一人の餓ゆるもの無からしむるは皇道社稜の理想にして
 〔山列〕
 烈聖の遺訓と拝し奉る民其堵に安んじて以て、国は平かなり。
 惟ふに民にして其堵に、安んじ得るもの或は其職に糊口するもの
 は自ら小成を以て現状に満足し、或は自衛し大過を憂ひて眼前の安
 堵を是事とし敢て他を顧みるが如きは愚となし姑息退嬰に陥り易き
 は誠に天下古今の必定なり是を以て失業の痛苦赤貧の窮厄を通し所
 謂渡世の悲運を深刻痛烈に体験せざるものは動もすれば側隠同情の
 念切実を欠く、或は単に一時的に止まり、或は日するに唯物の徒を
 購祝し或は専ら個人の着任に吸して顧みず中には運命の災厄生存競
 争の劣敗者と超観し真剣以て事理を弁へ時勢〔を〕観し或は共著を
 和らけ或〔は〕其心を慰め或は悲運の挽痢を助成し天下の為公共存
 の至仁を以て君民一家の国風遺沢を蹟彰せしめんとするものは実に
 甚だ多からず、固より理想実現の至難なるは口舌の及ぷ所に非ず。
 而も現状は果して理想に対する誠実真剣なる邁進をなしありとな
 す可きか萱痛恨に堪へんや。
   〔来〕
 舌代時代の不平不満の徒を結成して乱世の導を為せるもの甚だ多
 し私心私情を以〔て〕するを乱と云ふ、是最も慎しむ可き事なり。
 著し未満身全霊唯公心大義に依りて公憤の徒を集め事を計り宜し
 きを刺するや天下有心必す此拳を壮とし正となし志士仁人となし靡
 然として一世革新の風を為さずんば非らず。
 三、時勢は実に重大に非らずや
 思へ百万を超ゆる忠良なる 陛下の赤子は失業国民として固定的
 生存となり益々増加の趨勢にありて停止する所を知らざらむとす、
 葵に兵員国の国境を危からしむる可き深憂事彼の唯物社会主義者の
皇国無視の誤謬若しくは不達の如き固より仮借すぺからざるは論な
 しと雄も誰か彼等の中に真剣に庶民大衆の福利につき一片の仁心を
以て努力しあるものあるを廃ふものぞ、若し此民を捨て〜顧みずと
 せば果して如何か、万一此民にして大義を滅し私心を以て乱を思は
 ば国民の前途測り知る可からざらん。
 実に国基の無窮は失業国民の国民的健全にあり、而して現状打開
 の真撃なる要望も彼等の間に起り其力も亦彼等の中に内包充実す。
 鳴呼、貧苦傑士を生すと其痛烈なる運命の体験を通し私心を排し
 て大義公心に寂し敢然結束して公憤以て天下の憂ひを憂ふるに至る
 は国運の打開革新の如きは一投足の問題のみ。
 四、ムッソツーニの偉業は失業軍人の結束のみ〔、〕見よイタリー
 ファッショの費目すぺき赫々たる国家改造の偉業は実に戦線より
 阪来失職せる失業軍人の国民的団結に非らずや。
 ヒットヲーの徒亦数拾万の失業者を結束して立てり。
 明治の維新は大義公債の志士浪人に依りて達成せられぬ。百万の書
 等が忠良なる失業日本国民にして、大義に依り公心以て結集せんか
 安んぞ革新勢力の微弱を憂ふるを要せんや、実に失業国民の国家革
 新に於ける緊切重大なる関係は古今東西を通して一貫不動の原則的
 事実たるは識者を倹たざるぺきなり。
 五、我国失業国民の現状は如何
 然るに我失業国民は何等痛切に此重大意義を知らざるに非ざるか
 国運回天の非常時に臨み英国民的、歴史的重大使命を自覚せりと言
 ふぺきか。我等は乏しきを似て同志相計り此事の甚だ重大なるを思


 ひ我忠良なる失業国民の奮起結束に依り皇国の前途に貢献せん事を
 期す。
 六、皇道の先駆失業国民よ奮起結束せょ
  吾人は皇道大義に立脚する失業国民周結の威力こそ国基革成の中
 核的圧力たり興国輿民の要諦たるを確信す。
  而して怒涛の如き赤化より失業国民を守り彼等をして益々国民的
 資質の向上をなさしめ其素養心性の錬磨に依り愈々有為なる国民の
 芙を発揮せしむるは唯に現状打解の鉄槌たるに止まらず次代国民の
   〔††〕
 真正雄冠なる発達の為め堅実なる基礎を附与するものにして実に貞
 道布施の先駆たるの実を挙ぐぺき所以たるを信ず.
 七、失業国民の自衛権を獲得しっ1一致使命に邁進せょ
  吾人は失業国民の互助に依り窮難相救ひ、困厄相扶けて先づ吾等
                  〔マ†】
 当面の生存を維持する組織を取り、膨然たる一大失業国民群の生存
 を常に為政者に鮮明痛切に反省せしめ、社会をして不断深刻に印象
 せしむ。
  而して団体的統制と訓練と施設とを通ずる優先的、就職に依り、
 火急なる国民的生存自衛の権利を獲得しっ1、吾等が皇道に負へる
 崇高なる歴史的使命を遂行し以て昭和維新の聖業に貫献奉仕せん事
 を期す。
  百万の失業国民総結束の秋ぞ1
  失業の国士直ちに吾等の下に集れ1
  団結は自衛なり
   昭和七年十二月

06

      六 失業国民団結せょ


 一、国民よ時勢に真剣なされ
  清洲国の建設は掃匪と共に其形式及机上のプランは着々として進
 みつつあるも、而も最も大切なる内容の充足建設遂行の為の国民の
 努力は何となく其力弱さを感ずるものあり。
  而して之と併行して関連包括して実現せらる可き国内革正の声も
 亦巷間に旺となり益々之を要望せられ今や天下の公論となれるも政
 党腐敗の只中に、託生せる挙国内閣は其真撃なる努力にも不拘、挙
 国の公論は之に依りて国家百年の大計根基を筆固ならしむ可き強力
 なる実行力を期待するを過望なるも信ずるに至れり。
  而も革新の中堅勢力は徽〔々〕として奮はず、吾人は一日も速か
 に革新意識の勢力を充実拡張するの急務を思ひ、而も此の一途に依
 りてのみ光栄ある皇国の再建設の可能を信ずるなり。
  しかるに見よ一部国民は眼中私利ありて国家なく国民なく、或は
      〔辞〕
 眼前浮遊の好景気を喜び、
  或は無識を以て時勢を傍観し或は好んで小党を樹て小異を難じ或
 は漠然半解を以て時勢の窮運を知らず或は姑息固陪の思弁を以て中
 正穏健を潜称し、或は唯利を以て集る等未だ真に時勢の趨運と時局
 の重大とに覚醒せりと思はしむるもの少なし。
  かくて国家百年の大計根基を筆固に樹立するが如きは思ひ半に過
 ぐるものあり、吾等は国民の真正深大なる反省を期待し、特に国運
 の前途に真剣熱烈に関心せる国民の奮起を望むものなり。


 二、国家革新と失業国民の使命
  民として一人の餓ゆるもの無からしむるは皇這社稜の理想にして
 〔列〕
 烈聖の遺訓と拝し奉る民其堵に安んじて以て、国は平かなり。
  惟ふに民にして其堵に、安んじ得るもの或は其職に糊口するもの
 は自ら小成を以て現状に満足し、或は自衛し大過を憂ひて眼前の安
 堵を是事とし敢て他を顧みるが如きは愚となし姑息退嬰に陥り易き
 は誠に天下古今の必定なり是を以て失業の痛苦赤貧の窮厄を通し所
 謂渡世の悲運を深刻痛烈に体験せざるものは動もすれば側隠同情の
 念切実を欠く、或は単に一時的に止まり、或は目するに唯物の徒を
 購視し或は専ら個人の貴任に阪して顧みず中には運命の災厄生存競
 争の劣敗者と超観し真剣以て事理を弁へ時勢〔を〕観し或は其苦を
 和らけ或〔は〕其心を慰め或は悲運の挽回を助成し天下の為公共存
 の至仁を以て君民一家の国風遺沢を顕彰せしめんとするものは実に
 甚だ多からず、固より理想実現の至難なるは口舌の及ぷ所に非ず。
  而も現状は果して理想に対する誠実真剣なる邁進をなしありとな
 三紹か萱痛恨に堪へんや。
  舌代時代の不平不満の徒を結成して乱世の導を為せるもの甚だ多
 し私心私情を以〔て〕するを乱と云ふ、是最も慎しむ可き事なり。
  若し未満身全霊唯公心大義に依りて公債の徒を集め事を計り宜し
 きを刺するや天下有心必す此拳を壮とし正となし志士仁人となし靡
 然として一世革新の風を為さずんば非らず。
 三、時勢は実に重大に非らずや
  思へ百万を超ゆる忠良なる 陛下の赤子は失業国民として厨定的
 生存となり益々増加の趨勢にありて停止する所を知らざらむとす、
 芙に是重囲の国境を危からしむる可き深憂事後の唯物社会主義者の
皇国無視の誤謬若しくは不達の如き固より仮借すぺからざるは論な
 しと雄も誰か彼等の中に真剣に庶民大衆の福利につき一片の仁心を
以て努力しあるものあるを廃ふものぞ、若し此民を捨て1顧みずと
 せば果して如何か、万一此民にして大義を滅し私心を以て乱を思は
 ば国民の前途測り知る可からざらん。
 突に国基の無窮は失業国民の国民的健全にあり、而して現状打開
 の真撃なる要望も彼等の問に起り其力も亦彼等の中に内包充実す。
 鳴呼、貧苦傑士を生すと其痛烈なる運命の体験を通し私心を排し
 て大義公心に坂し敢然結束して公憤以て天下の憂ひを憂ふるに至る
 は国運の打開革新の如きは一投足の問題のみ。
 四、ムッソリーニの偉業は失業軍人の結束のみ〔、〕見よイタリー
 フアッシヲの饗目すぺき赤々たる国家改造の偉業は実に戦線より
 版来失職せる失業軍人の国民的団結に非らずや。
 ヒットヲーの徒亦数拾万の失業者を結束して立てり。
 明治の維新は大義公憤の志士浪人に依りて達成せられぬ。百万の吾
 等が忠良なる失業日本国民にして、大義に依り公心以て結集せんか
 安んぞ革新勢力の微弱を憂ふるを要せんや、実に失業国民の国家革
 新に於ける緊切重大なる関係は古今東西を通して一貫不動の原則的
 事実たるは識者を倹たざるぺきなり。
 五、我国失業国民の現状は如何
 然るに我失業国民は何等痛切に此重大意義を知らざるに非ざるか
 国運回天の非常時に臨み英国民的、歴史的重大使命を自覚せりと言
 ふぺきか。我等は乏しきを以て同志相計り此事の甚だ重大なるを点
 ひ我忠良なる失業国民の奮起結束に依り皇国の前途に貢献せん事を
 期す。
 六、皇道の先駆失業国民よ奮起結束せょ
  吾人は皇道大義に立脚する失業国民田結の威力こそ国基革成の中
 核的圧力たり興国輿艮の要諦たるを確信す。
  而して怒涛の如き赤化より失業国民を守り彼等をして益々国民的
 資質の向上をなさしめ其素養心性の錬磨に依り愈々有為なる国民の
 実を発揮せしむるは唯に現状打解の鉄槌たるに止まらず次代国民の
   【ママ〕
 真正雄冠なる発達の為め堅実なる基礎を附与するものにして実に皇
 遣布施の先顧たるの実を挙ぐぺき所以たるを信ず.
 七、失業国民の自衛権を獲得しっ1一致使命に邁進せょ
  吾人は失業国民の互助に依り窮難相救ひ、困厄相扶けて先づ吾等
                  【††】
 当面の生存を維持する組織を取り、膨然たる一大失業国民群の生存
 を常に為政者に鮮明痛切に反省せしめ、社会をして不断深刻に印象
 せしむ。
  而して団体的統制と訓練と施設とを通ずる優先的、就職に依り、
 火急なる国民的生存自衛の権利を獲得しっ1、吾等が皇道に負へる
 崇高なる歴史的使命を遂行し以て昭和維新の聖業に貫献奉仕せん事
 を期す。
  百万の失業国民総結束の秋ぞ!
  失業の国士直ちに吾等の下に集れ1
  団結は自衛なり
   昭和七年十二月
                 失業日本周艮自衛糸同盟

07

      七 字垣総督の下に於ける朝鮮統治


        一、序   言
  宇壇大将が一昨年七月、朝鮮総督の印綬を偲びて日本海を渡つた
 時、その胸中には偉大なる抱負があつたのであらう。それは着鮮直
 後釜山の埠頭に於て発表された所謂総督の声明なるものの中に「巌
 上に足跡を印するの覚悟を以て事に当る」と喝破し。
  その後公にされた訓示中に「一大勇濃心を奮ひ以て局面を打開し
 更姶一新の実を挙ぐるの覚悟」を表明されたことからでも想像され
 るのである、単に宇垣総督その人ばかりでない。
  字垣大将がかつて陸相として紡々たる声望があり、又臨時総督と
 して朝鮮に臨んだ際、朝鮮の一般民衆から多大の期待をかけられた
 ことを知つてゐる。内地並に朝鮮の人々とりわけ朝鮮在住の二千万
 民凌は必ずや、朝鮮統治の上に劃期的な事蹟を残すであらうことを
 待望したのは当然すぎる程当然であつたのである。
          ◎             ◎
  然るに其後一年有半の歳月を閲した後の朝鮮の実状を見ると甚だ
 意外にも、内鮮人の手塩に対する期待は完全に裏切られた観がある。
 朝鮮を旅行し泉る人々で総督政治の悪評をしないものはないと云ふ
 のは只に関門の記者達の常套語だけには止まらない。
  最も甚だしいものになると、宇垣大将の朝鮮統治は山梨大将のそ
 れょりも、悪政治だと云ふのである。
  これを寺内、斎藤の総督と此較せず最も下劣だと林せらるゝ山梨
 大将の統治に比して実にそれ以下だと云ふことになれば、如何に字
 壇大将の朝鮮統治が低劣であるかと想像するに難くないのである。
 然らば何が斯くあらしめたのであるか↑
 字壇総督がその抱負として声明論告訓示などに力説したことが殆
 ど尽く空手形となりその諭告中にある、「民意を暢達し情理をつく
 して思想の融合と生活の安定を図り力めて空論虚飾を避け邁往実行
 を期す」といはれたことに対する民衆は勿論官僚の華かな期待が完
 全に裏切られるに至つたからである。
 そのこ1に至れるには種々の事情が、あるやうである。砂くとも
 次の諾原因の如きはその重なるものといふぺきであらう。
一、総督府並に地方官庁に於ける人員の配置其の当を失せること、
 二、監督統制其の他の宜しきを得ざること、
 三、総督、総監の私行に裁て兎角の評あること、
 四、民心の離反せること、
 五、吏員の動揺及反感の甚だしきこと、
 六、中央政界に対して野望を有すと認めらる1こと、
        二、総督府並に地方官庁に於ける人員の配
          置其の当を失せること
 宇垣総督が大命を拝するやその副総督たるの重任を担はるぺき人
 物を選任するに当つて自分の息ふま1になる人たること及同郷岡山
 の出身者たることを条件として物色したのが既に大なる誤謬であつ
 た。
 そして現大蔵次官たる黒田氏を挙用しょうとしたが、当時の浜日
 内閣に容れられず、遂に逓信次官たりし四十二年大学卒菜の今井由
 民を政務総覧に任命したのである。
  このことについては新進抜擢として当時の世評必ずしも悪くはな
 かつたが、従来の政務総監の何れものに此して其声望の足らないこ
 せは今更いふまでもないことである。
 貌に総督が陸軍出身の人である以上は各般の行政に堪能な大臣級
 の人物を挙用することが賢明な策であつた筈である0
 その点は斎藤海軍大将が内務行政の逸材水野氏を総監に挙用した
 事情を見ればすぐ解るのであるが、宇垣大将はそれと正反対に出で
 次官級の人物を政務総監に挙げた〔○〕斯くして総督府並に地方庁
 の人員の配置を行ひ、尚行政整理に薄口して、従来朝鮮に活躍した
 有為の人物を械首しその補充に内地から若干の人士を輸入したが、
 かくの如き首脳部の下では内地から有数の人材を抜擢することは素
 ょり困難であつた。
 結局岡山県の出身者並鹿児島県出身の池田警務局長及牛島内務局
 長等の縁故につながる者を若干採用して御茶を濁したに過ぎなかつ
 た。雨もその後に於ける人事に於ては事毎に岡山出身か鹿児島出身
 でなければ重用せられないといふ実情である。而して斉藤総督時代
 に於て活躍した有為な人材は、其多くは野に下つてゐるが現に官職
 に残つてゐる者でも或は左遷され又は軽視されるといふ状態である0
 斯くして総督府並に地方庁の人事は漸次明瞭を欠き、その多くが
 情実に捉はれ何等人材挙用の実がなくなつた、こんな風では到底統
 治の実蹟の挙る筈はないのである。
       三、監督統制其の宜しきを得ざること
 従来の総督政治に於ては努めて局部長以下の意見を集め其の意見
 に対して総督が公正なる判断を加へ然る後これを実施するといふ状
 態であつたから部の真面目なる研究調査に基いて適切なる意見が提
 出せられ総督の採用する所となればそれが下まで徹底するといふ次
 第であつた。
 然るに手塩大将は軍人式の独断専行に馴れてゐるものと見え如何
 なる場合に於ても自分の意見が局部長の意見に優つてゐるかの如く
 考へ自分の命令通り部下の者に強ゆる嫌がある0
 殊に部下の真面目な意見よりも、偶然新聞記者、通信員又は地方
 の有力家などより聴取した意見などで一寸気に入つたものがあると
種々調査もせず、不用意に之を外部に発表するばかりではない局部
 長の意見も纏めずして実施するといふやうな事も稀ではない0
 之が為め上下の意見が疎通せず上意は下達せず、下意は上達しな
 い、従つて折角の施設計画も其の効を奏しないといふ状態である・
 例へば字垣総督の訓示中には不穏当若〔しく〕は奇怪なる文書が
多いといふことで、既に定評があり本文に引用したものにもその例
がある。か1る奇怪なる文字は殆んど総てが、字壇の挿入に係るも
 のであることは巷間に普く喧伝せられ誰知らぬ者もない有様である0
 又自力更生の運動を起すに当つては、閲兵式でもやるやうなつも
りであらうか多数の民衆を集めて朝鮮神宮の広庭で詔書の捧読式を
する位まではまづょいとして、その後各道の郡守をわざく京城に
呼び寄せ総督、政務総監から∵片の訓示を与へ多くは山崎延士口氏の
講演を聞かせたことなども突飛非常識のそしりを免る1ことが出来
 ない。
 知事が第一次監督機関として郡守を統率してゐる以上は先づ各道

08

 に於て郡守その他の有力者を集めて自力更生の運動を起した方がょ
 い、又それで十分であるのである。これを京城に召集することにな
 れば多大の旅費を投じ遠隔の地に於ては十日間も郡庁の事務を紬挿
 せねばならないから却つて有害無益であることを道知事などが極力
 主張し総督府も一応納得したやうにあつたが宇壇総督はそれ等の妥
 当な意見に耳を借さずして昨年十月下旬これを断行した。
  其の結果は果して、かんばしくなく集つた郡守の大半は会議がつ
 まらないので緊張味を欠き居眠したものも砂くなかつたといふこと
  である。
  斯の如きは其の一例であるが其の他にもかうした顆は頗る多い.
 字垣総督は率先して鮮内に於ける産金の奨励を唱導し内鮮に於ける
 資本家の活躍を望んで居るが、その鉱区出願の事務をとる鉱務課は
 字垣総督の時代に至り著しく縮少せられ配当人員も英数を減じて居
  るのである。
  然るに総督の宣伝にょつて鉱区の出願は殺到し来りその関係者は
 一件書額の調査に忙殺されてゐるが結局力足らず未決書類が山積し
  てゐるといふ実状である。
  真に真面目に産金奨励のことを考へるならば、先づ産金地方に製
 鉱所を設置するとか或は採鉱施設に対し政府の補助を為すとか云ふ
  ことが必頻の要件であるにも拘らず、それ等の事には殆ど考慮を払
  ふことをしないのである。尚北鮮開拓の為に移民の奨励をしたのは
  い1がその措置をあやまり平地の農民を山地に移した為に殆ど悉く
  が原任地に逃げ帰つたといふ様な事実もあるのである。以ていかに
  行政の監督統刺が乱雄不徹底であるかを窺ふことが出来よう。
        四 総督総監の私行に就いて兎角の評ある
                こと
 公人の私行に就てはその個人に対する好悪の情を差引いて判断し
 なければならぬが、京城に行つてみると誰人も次の如き噂を聞かざ
 るを得ないのは、総督、政務総監のために惜しまざるを得ないこと
 である。
                〔†マ〕
 例へば緊縮を標棒し自力改造を高潮してゐる字垣総督が、其の竜
 山の官邸や倭城基の官邸のために万金を投じたとか或は東京からの
 帰任に際し朝鮮の貴族大官が京城駅に於て総督を待受けしてゐたに
                               〔た】
 も係らず無通告で竜山の官邸に入り出迎への人々を砂からず呆然な
 らしめたといふが如きまた字垣総督は土、日曜には殆んど入浴のた
 めに温泉行をなし享楽的気分に浸つてゐるといふが如き、また朝鮮
 神宮の勅使となつて居乍ら昨年十月十六日の朝十時、小松謙次郎氏
 の遺骸を京城駅頭に見送りその夕方から朝鮮神宮の斎殿に入つて潔
 斉し翌十七日の例祭に奉仕したといふが如き枚挙に逢ないが、斯の
 如きはいふまでもなく総督の不謹慎を如実に示せるものと云はねば
 ならぬ。
 貌に死稜と触れた者が神に奉仕し得ないことは我国に於ける神な
 がらの慣例であるが総督はそれを介意するところなくやられたやう
 である、また何等の官歴なき自分の女婿を総督租書官に任用して従
 来の私書官を逓信局に左遷したと云ふが如きことも非難の一つであ
 るやうである。
 尚今井田政務総監が夕方からは殆ど官邸に居らず料亭千代本に於
 て美妓を耕して痛飲淋渦の毎夜を過して揺ると云ふことも誰知らぬ
 者なき事実である.かうした事は緊張した気分を以て統治の衝に当
 り卒先自ら下に範を示した従来の総督、政務総監の態度とは全く型
 の異つたやり方であるし「凡そ職を公に奉ずる者は常に精励其の業
 に服すぺきは勿論身を持する廉潔公明其の言を慎み其の行を正しう
 し苛も官紀を弛廃せしむるが如きことなきを要し」と宇壇総督が部
 下の職員に訓示して〔ゐ〕る所を自ら揉潤してはゞからないものと
 いはざるを得ない。
        五、民心の離反せること
 政治は民の信頼を得ることが肝心である〔。〕民心既に離反すれ
 ば如何なる善政を行はうとしても其の目的を達することの出来ない
 のは自明の理である〔。〕字垣総督の朝鮮統治に就いては既に一般
 民衆の信瀬が薄らいでゐるばかりではない、寧ろ日に離反して行く
 状態であり何かの機会を得れば直ちにその不平が爆発せんとするの
 危険に滞して居るとさへ考へられる。
 それは特に朝鮮人間に一層甚だしいものがあるのである。宇垣総
 督が朝鮮人側の深刻なる不評を男ふに至つた事情としてあげらるゝ
 ことは先づ朝鮮人出身の勅任官に就いての措置を誤つたことである0
 総督府には大正九年頃には二人の勅任事務官があつたがやがてそ
 れが一人の学務局長となり何時の間にやらその勅任官もなくなつた0
 それでは総督府に一人の鮮人勅任官もなくなると云ふので参与の
 制度を設けて一等官の勅任官を置かうとしたが制度の上に於て行悩
 みとなつてゐる。朝鮮人側から見れば宇垣総督の来鮮によつて、こ
 の潤されなかつた希望が濁されんことを待望したにかゝわらず字垣
 総督は何等これに対する熱意を示さなかつたばかりでなくその反対
 に従来朝鮮人を以て当てた李王職の長官さへも内地人を挙用しその
                           〔にカ〕
 代〔り〕に鮮人を次官に当てるやうな措置を取り寧ろ朝鮮人と割当
 られた勅任官の地位を引下げることに努められたのである。
 次には従来総督、政務総監が地方巡視の際には通訳官を随行せし▼
 め地方官民の陳情を聴き又意思の疎通を図つたのであるが宇垣総督
             〔にカ】
 になつてからは如何なる出張とも通訳官を随行せしめない。
 従つて地方にある鮮民は直接総督に陳情することも出来ないしま
 た総督の意志を直接鮮民に伝へることも困難なる事情にあることで
 ぁる。しかのみならず宇垣総督は官邸に於ても殆ど朝鮮人と直接面
 接しない。
                      【せカ〕
 従つて総督と会はんとすれば前以て時間を打合した上でなければ
 ならぬので突然地方から来た者などに至つては殆んど総督に会ふ機
 会が得られない、京城に居る有力なる朝鮮人でも総督が喜んで迎へ
 て呉れないことを知つてゐるから絵督官邸には近来殆んど朝鮮人の
 姿が見えなくなつた。
 これは斎藤総督の時代とは全然正反対ポ現象であつて決してほめ
 たことではないし「官民相互間の意志の疎通と感情の融和を欠くが
 如きことなきやう」と自ら訓示した所を自ら破りつ1あるものに外
 ならない。
 また朝鮮人よりする文書の陳情はこれを邦訳して総督、総監の高
 覧に供し必要に応じては適当に回答する位の労をとることが従来の
 慣例であつたにか1はらず、字垣総督はこれを翻訳させることさへ
 も為さしめない。
              〔な〕
 従つて陳情書に目を通す様はことは殆どなく、鮮人が何か問題で

09

                                 〔阿〕
 も持つて来る湯合には通訳官に形式的折衝を為さしめる位が頓の山
  である。
  斯うした事情は此度設立された朝鮮信託会社の社長として我も人
 もゆるした韓相竜氏が満腔の不平を抑へて取締役会長に納つたこと
  〔に〕も窺れるのである、韓相竜氏は漢城銀行の頭取として深刻な
 る不況の打撃を受け不振になつた銀行業務の責任を負うて辞任した
  のであるが、朝鮮に於ける小渋沢翁ともいふぺき実業界の元老たる
 同氏をして永く不遇の地位に置くことは人物経済上遺憾なりとし斎
 藤前総督は同氏の唱導にか1る不動産信託会社を設立せしめ氏を社
 長に推し特に政府から五ケ年継続年額十万円の補助を与へてこれを
  助成すること1したのであつた。
  然るに字壇総督になるや東拓総裁、鮮銀総裁、殖銀頭取等の現に
 動かされてそれ等の会社の資本に大部分の不動産信託の株を持たせ
 ることにし鮮人には僅か一部位の株しか配当せぬことにした1め社
 長に収まるべき筈の韓相竜氏は結局取締役にもなれない状況になつ
  て来たのであつた。
  かくて韓相竜氏は自分が熱心に主張し運動した結果計画に立ち政
 府から十万円の補助まで蒜ち得ることになつた、朝鮮信託会社が予
 期に反して内地人の銀行会社側の手中に落ち、かつて同氏が朝鮮人
  の同志に言明したのと正反対の結果になつたことに憤慨して京城の
 住居を引き払つて東京に移住し余生を内地に送らんとしたのである。
  流石の宇壇総督もこのことをきいて驚きその旧知である鳥越恭平
  氏の来鮮を櫻として韓相竜氏の説得につとめしめ漸く取締役会長の
  位置を与へることにして揮相竜氏を慰撫し事は落着したのであるが


併し乍らこの事件に対して取つた総督府の朝鮮人排斥の態度に就て
は不平不満を抱いて居る朝鮮人は頗る多い。その結果韓相竜氏はそ
れ等の人々から極端に排斥されつ1ある実状である、斯くの如きは
如何に朝鮮が字垣総督の政治に対して不平不満を持つて〔ゐる〕か
の一斑を示したものであるが朝鮮人のみに止らず在鮮内地人も亦近
時非常なる反感を抱いて居るのである。
 それは昨年の夏期から検挙に着手し十二月の二十二日予審決定を
見るに至つた大規模の土木談合事件の摘発をめぐる内地人の感情の
動きに依つても明かである。
 土木の談合事件は大審院に於ては無罪の判決を受けて居り犯罪と
 ならざるものなることは殆んど法曹界の通説であるが朝鮮に於ては、
かつて大邸に於ける土木談合事件を詐欺罪として擬律し高等法院の
判決が確定して居るのである。併し内地と朝鮮と同じ、陛下の司法
権の下に服して居乍ら一方は罰せられず一方は罰せられたと云ふの
 は頗る不合理と云はねばならぬ。
 ょし仮に首歩を譲つて有罪にすぺき法理的根拠があつたと仮定し
 ても、朝鮮に於ける隆々たる実業家貌に土木関係者の重なるものは
其の人数に於ても八十七名件数に於ても三十二件それを一挙に検挙
しこれ等の民間有力者を数ケ月の長きに亘つて無稽川に坤吟せしむ
 ると云ふことに就ては刑事政策の上から見ても果又内鮮民族を包括
 してゐる朝鮮に於て内地人の有力者が拘束せられることの朝鮮人に
 及ぼす悪影響の甚大なる点から見ても、慎重な考慮を費せるぺきも
 のであつた。
 然るに字垣総督は何等此の点について真剣に考慮した形跡がない

 ばかりではなく総督の統制が可決官に加へられたかの如く考へられ
 るときから反つて事件が拡大し全通に及んだといふことに就いては
 土木談合事件関係者は勿論一般的内地人が等しく異様に感じてゐる
 ことであり朝鮮統治に対する民衆信帝の念を甚だしく薄からしめた
 ものだといはれて居るのである。
    六、吏心の動揺及反感の甚だしきこと
ま戟c…粥粥糾報謂糊伽…f鮎閑g帥a
く用ひられると云ふことや、それ薄必要でもないのに行政整理に薄
 口して有為の人物の整理が頻繁に行はれるといふ様なことで吏心の
動揺不安は免れない実情である。併し行政部に於ては、その程度に
止まつてゐるから、まだいゝやうなものの司法部に於ては、更に其
 程度が甚だしく、牢固として抜くことの出来ない反感が醸されてゐ
 る0
 其の一つの現れは昨年の暮近くに至つて、平壌地方法院部長諸留
                          〔新義州カ〕
 勇助氏が辞表を奉呈したること。並に、新王洲の検事正、中野俊助
氏が司法官会議の後の法務局長招待の宴会場に於て、朝鮮の司法刷
新の目的を以て辞職をなす旨を開明し、直ちに辞表を総督に提出し
 たることでも窺はれるのである。
 中野俊助氏は最も真面目な検事正として内外の信望の篤き人であ
 り福岡日日新聞の給仕から身を起し、検事正の要職に就くに至るま
 での歴史は実に涙ぐましいものであるのであるが、其の人が希望あ
 る将来を捨て、義憤を禁ずる能はざるものがあるのである0
 其の理由を簡単に云へば、朝鮮の司法に対する総督の態度は頗る

 冷淡であるひ今の如き状態を以て推移するならば、結局朝鮮に於け
 る司法権の充実刷新は期待することが出来ないと云ふ点にあるので
  ある0
  元来宇壇大将は司法行政に就いては全然、同情を持つてゐなかつ
 た様である〔。〕その臨時総督として朝鮮に臨んだ当時からの司法
 官との関係は円滑を欠いてゐた〔。〕その当時朝鮮の司法行政は頗
 る貧弱であつて事件の多い割合に判検事の数は妙く待遇は薄くまた
 裁判所の建造物も貧弱であり刑務所の数も不足すると云ふ状況であ
  つた。
  司法関係者は手塩大将の来任を好機とし、この問題を解決せんと
 し、総督が地方を巡視し、法院及刑務所を歴訪した機会を捉えて其
 の事情を説明し、配慮を乞ふところがあつたのであるが、総督はそ
 れを嫌忌し法院長或は検事正が熱心に陳情する際には渋面を以つて
 これに応へるといふ状況であつた。
  偶々この司法官に対する宇垣臨時総督の感情は総督の官邸に於け
 る司法官招待の宴会の席上に於ても赤裸々に表明せられ総督はその
 挨拶中に各地に於ける司法官の陳情的態度をば非常識極まるものと
 して非難されたのである、その席にあつた松寺法務局長は御無理御
 尤として総督の言葉に迎合したけれども横田高等法院長は、内心の
 憤怒を押へることが出来なかつたものと見えて立つて捻督の認識不
 足を非難したので折角の招待も変なものになつてしまつたと云ふこ
 とである。
 其後字垣大将の朝鮮に於ける司法関係者に対する態度は一層冷淡
 になつたものと見え、此の度、総督として来往するに及んでも其当

0a

 時結ばれた感情は依然氷解されなかつたものと思はれる。
 かくして整理の槍玉に横田法院長が挙げらる1や、有力な司法関
 係者から延命の請願があり、今井田総監より総督に打電して指揮を
 乞うた処、在京の総督は予定の通り横田の職を免ぜょと電命した。
 そして今日の如き司法関係者の配置を終つたのである。このことに
 就ても、司法関係の中堅幹部は決してょい感じを持つてゐない。
 また総督は赴任以来、未だ一度旦兄城の高等法院、覆審法院地方
 法院を巡視したことがない〔。〕京城の刑務所にも原を出さず、西
 大門の刑務所には楽焼の釜が新設された時に其の釜の具合を見に行
 つたといふことが一つの笑話になつてゐる。
 字垣総督が地方を巡視される場合にも、地方法院刑務所等は巡視
 の予定に入つてゐない、入つてゐてもせいぐ−五分問しか時間を与
 へないといふ有様である、しかし中野検事正の退職後は其の態度を
一変したといふことである。尚毎年一河開かるぺき司法官会議は、
一昨年は都合が惑いと言つて之を開かず、今年に入つても、いつも
 は五六月頃開かるぺき会議を総督の都合に依つて延ばすこと三回に
 及び、漸く十月中旬に之を開いた。
  かくて地方法院長、検事正、覆審院長、検事長等は久し振りで地
 方の状況を述ぺ、総督、政務総監、関係局部長其の他の同情上協力
 とをかち得んとして希望を嘱して列席した二年目の司法官会議は、
 またもや全然裏切られた形になつた。といふのは、其の期日は総督
 の都合に依つて指定したに係らずいつもは二日問位臨席して地方司
 法官首脳部の意見に耳を傾くる総督、政務総監は簡単なる訓示を済
 すや香や、他に用事ありとして会議の席をはづし、関係局部長も殆



 んどその姿を現はさなかつた。
 この総督、政務総監の冷淡なる態度に接して永い問望みを掛けて
 努力しながら、何等酬いられなかつた朝鮮司法官の不満と慣怨とは
 想像するに難くないのである。人一倍血に燃えた中野検事正は、総
 督、政務総監の態度に慣激し、会議の席上に於〔て〕辞表をたゝき
 つけんとしたが同僚の慰留によつて思止まり五日間の会議が終つて
 後、前述の如く堂々と其所信を断行したのである。
 朝鮮に於ける判検事の配置を、その受持件数を比較すると内地の
 判検事の分担する件数の約二倍半である、従つて朝鮮に於ける判検
事は殆ど寧日出勤してゐるばかりではなく土曜も日曜も殆ん」絶事
 を休むことが出来ないのである。而も毎日十二時過ぎて調書を調ま
 なければならぬといふ実情であつて、某覆審法院長の如きは、朝鮮
 の少壮司法官に対して、非常なる健康の所有者でない限り朝鮮司法
 官を思ひ止まつた方がょろしいと告げた位で、朝鮮に於ては内地の
 如く隔日勤務など1云ふことは到底夢想だもすることが出来ない状
                       〔荷〕
 態である。それを以てしても、其の苛重なる勤務の一斑を窺知する
 ことが出来るであらう〔。〕蓋し朝鮮に於ける司法制度は、大正九l
 十、十一の三ケ年度に亘り若干の地方法院が増設されたがいまだ、
 各道毎に一地方法院の設置を見る程度に至つて居ないばかりか其の
 後に於ける数度の行政整理によつて縮少せられ、今日に於ては判検
 事の数の如きは殆んど其の拡張前に逆戻りした観がある。
 最近朝鮮に於ても共産党事件が頻発し、貌に間島に於ける共産党
 事件の関係者の如き七百人にも及んでゐるといふ状況であつてこれ
 等の者は判検事の手が足りないために調査がこ年あまりに亘り、本
 年→月に至つて漸く予審の決吏を見ることが出来た位である。
 斯の如く、其の勤務が苛重であるに拘らず、待遇はといへば内地
 の判検事よりも数等低く俸給の如きは十年問に二級位も差等を生ず
 るといふ有様であり、内地に於ては僅かに京城其他一二の地方法院
 検事正が勅任官たるに止まつてゐる。しかしのみならず、検事に就
 いては、内地の如く終身官たる身分上の保障がない。
 其他朝鮮に於ける司法事情として特貌なものは、通訳を介在せし
 めて審理を進めなければならぬことである。このために如何に判検
 事の努力が徒労されるか知れない。か1る事情からして、朝鮮の司
 法関係者が其の苦衷を訴へ内地司法官と同様の身分保障と待遇とを
 求め、その苛重なる負担を軽減せらる1の道を講ぜらる1様、総督
 に要求してゐることは、合理的であるし、誠に同情すぺきものと思
 はれる。
                       【▼†〕
 従来の総督はその事情を諒とし、之を中央政府に設へて適当の時
 期に鰐決せんとする誠意だけを示したが、字壇総督に室つては全く
                       〔††〕
 之を無視してゐる。むしろ司法官があるから犯罪が殖えるのである
 等と失言したとさへいはれてゐるのである。
 斯うした事情からして、字垣総督と、朝鮮の司法官の中堅幹部と
 の問には重大なる感情の離隔があり、猛烈なる反感が存在してゐる
 ことが明かなる事実である。
 最近土木談合事件を初め、官公吏の贈収賄事件、銀行の重役各種
 実業会社の幹部等の詐欺背任横領事件等頻々として官公吏実業家等
 の犯罪が摘発せらる1のは、総督府司法官の感情の疎隔が、その遠
 因をなしてゐると思はれる節がないでもない。此の優に放任して置
 くならば或は朝鮮に放ても司法官のテロ時代が来ないとも限らない
 ことを誰れか保障し得るであらう。
        七、中央政界に対して野望を有すと認めら
                るゝこと
 字壇総督は中央政界に対して野望を持つてゐるといはれてゐる、
 昨年二月の総選挙後、民政党の動揺のあつた時には、民政党の総裁
 になるやうな評判が立つたことがあり、民政党の代議士の主なるも
                    〔官〕
 の、若くは民政党関係の元の高等などが、わざJr−京城に手塩総督
 を訪ねて会見した事実もあり、また字垣総督が上京する際には浜名
 湖畔の一料亭に密かに同志を集めて、相談したといふことは世間周
 知の事実である。
 民政党の総裁が岩槻氏に落付いて問題は一段落を告げたが、斎藤
 内閣瓦解後に政党内閣の成立を尚早なりとする一派は、暗中飛躍し
 て字垣総督を後継総理とし、財部氏が岡田氏を以て後任総督となし、
 薩沢と連衡して、時局の収拾に当らんとしてゐるといふやうな誠し
 やかな噂もある、然しそれ等のことが、単純な噂ばかりと思はれな
 いのは、字垣総督が研究会の重立〔つ〕者、例へば青木子爵、小池
                  〔ざ】
 謙次郎氏などを昨秋金剛山の見物に誘はない、そのうち、小枚氏は
 京城日報の社長に推戴する腹であつたやうな事実からしても矢張り
 宇垣総督は、将来の総理を夢みて、貴族院の有力団体を操縦しっ1
 あるといふ評判がたつてゐる。
 また朝鮮人を遠ざけ、官公吏の意見も用ひない総督が、勤めて実
 業家に接近し、またその待遇が、懇切丁寧を極めてゐる、といふこ
 とに就ても、世間では兎角の非難をしてゐる。

0b

 即ち地方巡視の際に於ても、有力なる実業家だけは特に面会し甚
だしきに至つては特別列車の中に二人だけ対座して談笑するといふ
やうな事実からして総督は実業家に連路をとり総理の運動を為すぺ
き軍資金を集めてゐるのではないかと尿はれてゐるのである。
 宇垣総督が鳥越恭平氏其他内鮮各地の有力なる実業家に対して、
殆んど低頭平身するのは其の〔他の〕者に対して傲岸不屈の態度を
とるのに此ぺて理辞することの出来ない謎だとして、一般の興味あ
る噂の種になつてゐるのである。
 それかあらぬか、電灯電力の公営を止めて、私営方針を承認した
こと、私鉄買収計画を立てたこと、金鉱の奨励と整理、羅津築港其
の他の事業に就いても忌はしき利権沙汰があつたやうなことが道庁
塗現になつてゐる。
 其真偽は素よりわからないが、斯う云ふ評判が立つのは、朝鮮の
副王たる総督として誠に馨しからざることに属する、総督は大命を
奉じて、朝鮮統治に専念すぺきものであつて、頭をあげて中央政界
を望み、その野望を遂げんがため総督の公器を利用して準備を進め
るが如きは、公人として最も不都合千万なことである。
 事実はともかくさうした噂をされるといふことだけに就いても、
字壇総督は必然的にその着任を問はれなくてはならぬものと息ふ。
        八、結  論
 これを要するに、字壇総督の朝鮮統治に対する華かなる希望は悉
く水泡に帰して、二千万の民衆は空前の悪政に坤吟しっゝあるので
 ある。総督府並に地方庁に於ける人員の配置はその当を欠き指導銃
 創はその宜しきを得ず、この憂大なる時局に直面して、総督、総監

 に卒先示範の実なくむしろその行動は民衆の挙党を買つて居る、朝
 鮮人は勿論、内地人に至るまで総督府に対する信穎は地を払ひ民心
 は離反してゐる。それにかて1加へて吏員も亦動揺して安定を欠き
 娩に司法部に於ける反感は恐るぺき危険状態に達してゐる。朝鮮全
 道、何れの方面に於ても、総督政治に対する不平不満の声が聞えざ
 るなき実状にあるにかかわらず、宇垣総督はこの朝鮮の実状を察す
 る処なく、燃え上る薪火の上に坐しながら蕃然自若として、温給三
 昧境に入るのは笑止千万である。
 而も朝鮮に於ける重大失政の貴任を回避し、寧ろ中央政界に於け
 る野望を実現せんとして種々なる策動をなしつ1あるが如きは実に
 天人共にゆるさゞる罪悪である〔。〕断じて札断せねばならぬ。
 字垣総督たるものは窮らくその迷夢から醒め、本然の職責に立返
 つて従来の政治の誤謬を根本的に修正し、砂くとも過去の失政を償
 ふに足るぺき善政の確立に最書の努力を致すぺきである。
   昭和八年二月十七日


      八 満天下の人士に椒す

 祖国日本は今や未曾有の国難に直面せり、此の国難を打開し国運
 の進展を図らんには挙国一致国民総動員を以て之に当る覚悟なかる
 可からず、之を日本国民歴史に徽するに祖国の重大時局に際して常
 に、上皇族の御奮起ありて在野の俊傑を率いて祖国救難の実績を挙
 げ賜へり。
 即ち大化の革新に於ける中大兄皇子の藤原鎌足と相諮りて大事を
 決行し給ひしが如く、或は又建武の中興に際し大塔宮護良〔親王〕
 と、楠正戌等の勤王の士と相謀りて回天の事業を参画せられし如き
 は拘に萌著なる事例なりと云ふぺし。
 並に吾人は此の重大事局に際し日本歴史の教ふる所に随ひ、上皇
 族の御奮起を希ひ奉り、現代の鎌足たり正戌たるものを其傘下に集
 め給ひ一度大命降下を待ちて最強力内閣を組織せられ此の切迫せる
 当面の国難を打開し祖国救護の大任に当られん事を衷心より熱望す。
 世上次期内閣に関し種々の説を成すものあれども縦し何人が政局
 を担任するも内容に挙国一致の空気を醸成する事難かるべし0
 然るに一朝皇族内閣の出現を見るに於ては期せずして挙国一致の
 実を挙げ我が九千万の国民は一体となりて手足の如く活動するに到
 らん。世人或は皇族内閣を以て、皇室を政争の渦中に投ずるものな
 りとの迂論を為すもの無きに非ずと維も、吾人が皇族内閣の出現を
 希ふ所以は、現時の非常時に際し国難打開祖国救護を目的とする国
 民総動員の主堆者たらん事を巽ひ奉るにあり、即ち平時の内政上の
 主堆者たるとは自らその使命を異にする。現在の日本は上下一致し
 て国運を打開するか然らざれば坐視して滅亡を待つかの断崖に立て
 り、練れ吾人が皇族内閣の出現を希ひ在野の俊傑が一切の情実因縁
 を捨てその唯幌に参賛し一致国難打開の衝に当られ給はん事を切望
 する所以なり。
   昭和八年二月
                     帝国在郷軍人有志

      九 血盟団及五・一五事件に於ける攻撃
        目標の再確認

  血盟団及五・一五事件の陸軍並民間有志は、倫敦海軍条約に於け
 る売国の事実と統帥権干犯に関する亡国階級の横暴大逆に憤激の余
▼ り之等郷子身中の虫に天誅を加へんとせしものにして国民義憤の現
 れである。其の攻撃目標を左の亡国層の巨魁に撰ばれしことは今や
 全国民の明白に認識する所となりつ1ある。
 同居笈
一、輔弼の大任を私利私慾に転向し日本を亡国に導かんとする亡顔
  政府の大官代表者(犬養毅)幣原書重郎
 二、身を君側の重真に置き且つ元老として一国の尊信を受けながら
  売国的亡国を企つる大師 牧野伸窮 西園寺公望
 三、産業大権を専断し 御上の赤子九千万の血を搾取する財閥代表
 者(団琢磨) (井上準之助)木村久寿弥太 池田成形 郷誠之助
 四、政治の大権を僧断し党略に耽り財閥擁護、国民欺瞞を事とし野
 合私党の代表者 政友会総裁−鈴木喜三郎、民政党総裁−若槻礼
  次郎
 五、金融大権を襲断し財閥政党の私物化せる金融機関高利貸の総本
  山日本銀行
 六、陛下の響吏たる本務を忘れ政党財閥の擁護税関となり彼等の走
 狗と化せる国民の怨府 警視庁。( )内は天訣に伏したるも

0c

   のを示す.
  今や彼等純忠無比の志士は深く囲の中に閉されてゐる.然も其の
 攻撃目標たる、亡国層は依然として売国的亡国の暴逆を振舞ひ私利
 私慾白昼の夢を食りつゝある。これ今次の聯盟脱退問題に於ける軍
 首脳部者の足を張りたる彼等の暗中飛羅に徹するも明々白々である.
  国民は今や血盟団及五・一五事件に於ける志士の選定を通して理
 辞せる攻撃目標を再確認する必要に迫られつ、ある。
   昭和八年三月
              於 京 都
                全日本在郷軍人団時局研究金
                           有  志


      一〇 建国祭行進歌

                       国 協 作
 一、今日ぞ亜細亜の一角に
    吾等が祖国生れし日
    皇統鼓に三千年
    燦たる歴史顧みて
    男みたちたる国民の
    視ふ建国紀念祭


  ニ、貞道蛮にとざされて
     陛下の赤子飢餓に泣く


  見よ財硯の暴戻を
   見よ朋党の暴政を
   全国民いざ起ちて
   大義の旗を翻せ


 三、わが隊列は憂国の
   至誠に燃ゆる勤労者
   高なる胸にたぎる血を
   示す国民大行進
   めざすは皇道確立の
   揺ぎなき日の建設ぞ


 四、剣とる人も共に立て
   戦地に屍さらすとも
   亡国鉄鎖くだかずば
   護国〔の〕鬼も地下に泣く
   行け国民の解放戦
   昭和維新の日は迫る


 五、国難の波いや高く
   日本の岸を襲ふとき
   死すとも悔いぬ殉国の
   正義の血潮我れにあり
   仰け建国鴻業を
   砕け祖国の仇敵を


   昭和八年二月発表

     一一時局問題に対する研究対策案

 二日露問題
 霧西亜の困窮は日本以上たる事実なりと判断せらる。而して赤化
 の本尊を露西亜となし一戦するは一理ありと錐も抑々又国内其の因
 由の事情大半あり、即ち敵は内にあり、古来思想の変動は先づ外来
     【マ†〕
 思想に衝発せらるゝと錐も己に衝動を受け初動を惹起したる後は一
 に国内の思想培養度の如何による。是れ今日の敵は国内の実情に存
 する所以なり。
  況んや対露思想の問題は断じて日本一国の問題に非ず、世界皆之
 れに対す。今日聯盟脱退に依り世界の指弾下に起ちて事をなすは徒
 らに赤露に有利なる情勢下に於て為すもの亦策を得たるものに非ず。
 国命を指して世界の敵ロシアを撃つの要ありや、時節は必ず到来す
 ぺきものなり。世界共同戦線下に赤露に対するの時は来るなり。
  赤露開戦は相互に国体破壊戦なり。必勝に非ずして決戦の問題な
 り、而して不侵略協定は政略上より、其必要なきなり。
  満蒙の建設は即ち対露国防の安固にして、今こそ国家改造の絶好
 機たり。故に我等は今以て対露開戦論に組し難し、抑々又国家改造
 の一手段となさば別なり、然れ共戦後の困窮に加へて革命維新の困
 窮を追加すれば果して皇国の国運如何ぞ、見よ露西亜革命の惨状を、
 苛も戦争するの覚悟の十分の一の覚悟あらば国家の建直しは出来る
 なhソ。
 而して後大躍進を遂ぐる亦可なり、今開戦せば日本は唯好戦以て
 領土慾にかゝれりとの批難に対して断じて世界を首肯せしむる主張
 は困難なり。
 二、対支問題
 極東モンロー主義の確立是のみ、是が為め支那と攻守同盟を結ぷ
 を以て当面の目標となす。極東経済ブロックも日支親善も此の一路
 にょりてのみ可能なり。
 三、国内問題
 国民会議を開催して全国の同志を中央に招集せょ、其の際特に
 「軍部内閣」を作れのスローガンを以て一貫せょ、適当の人材なく
 強力内閣樹立困難とすれば今は「軍部内閣」の外なかる可し、而し
 て其の首筋として武藤信義大将を推す可し、武藤大将の出動不可能
 とすれば荒木を総理とする少壮強力の「軍部内閣」の一途のみ、此
 の要求を会議につきつけよ、而して一再の策動、策謀も此の要求に
 対して直往邁進す可し、更に日露開戦論によりて、国家改造を犠牲
 とし後段とするの過失を高調して改造即行論に誘等し、又厳に国家
 の名に於て無益に庶民大衆を駆使し搾取するなからしむるの自戒を
 以て邁進せられむこと緊切なり。
  日露開戦のための軍部内閣にあらずして明確に断々乎としたる昭
 和維新のためなるを高調して之が樹立に邁進せざる可からず。
 四、隆盛教訓論
 大勢の誘導、大義名分の確立は現代に於ても亦等しく指導法なり、

0d

而して今日世界政策の確立に邁進すべき日本としては、往時ただ主
として国家の勢、国内の大義名分たりしに対し実に世界の大勢、世
界の名分大義に対し真深なる配慮なかる可からず。
 此の点未だ指導階級に鮮明ならずと観察せらるゝは遺憾なり、今
や軍の一部には往時独乙の轍を踏むを以て得々たるが如し。
 国を誤るものに非ずして何ぞ、戦争に勝ちて戦争に放る、往時萄
 の譜葛孔明は伸達に勝ちたるも遂に萄国は伸達に亡ぼされたり。人
臣としての彼、固より古の遺芳勲績を称ぶぺしと雄も萄国は遂に亡
 びて無し、国家は一人臣の忠勲のために存せず、国家は永遠の生命
 を以て最となす。況や皇国をや、故に吾等は軍の一部に幸ひにして
戦に勝ちて皇国を亡ぼす無からしむることを思ふ、皇道昭々たり。
神威耕灼たりと雑も抑々亦カに限度あり、三国干渉の時と雄も神威
                         〔ママ〕
 あり正義ありしなり、然れども其屈服は断じて永遠の屈伏に非ず、
力に即応せしもの1み対支圧迫は可なり。
 然れ共赤蕗と戦ふは其の時に非らず、吾等は斯く信ず、図に乗る
 を戎むべきは今なりと謂はざる可からず。赤露に勝つは易々たり。
 赤露を亡ぼすを得るや、然らば即ち戦ふ可きの戦に非ざるなり。
 五、庶民大衆問題
 大衆本位の団体たるに於て国礎始めて筆し、国は即ち一家、国民
 大衆は即ち家族、此の実を挙げずして如何に空論し如何に理想する
    〔マニ                                 〔マニ
 も無役なり、皇道元と此の大本を誤らず、皇宗皇祖の肇国宏速、樹
 徳深厚、誠に此の皇道大本に則る、固より国家は時に大衆の犠牲を
 要す。恰も家族の犠牲ありて一家の事成るに似たり。而して国家の
 名に於て徒らに之を.要求するは誠に殆し、至誠以て此の大道に則り
 現実の可能を適切に遂行するは正に為政家の心鑑たるぺし、吾等国
 家主義者の深く省察すぺきは此の一点なり。
   皇紀二千五官九十三年
                  在京陸軍青年将校有志


     一二 現下青年将校の往くぺき道


        第一青年将校慣起の要
一、昭和日本の躍動は唯昭和青年将校「簡単に中少尉と解すぺから
  ず」の赤き血と熱とのみにて行はる。
  明治維新は明治の青年武士に依りて行はれたり、昭和の大雄新は
 昭和の青年将校に依りて行はれざるぺからず、犬れ一国の危急を救
 は必すや自己一切を犠牲にして顧みざる鉄心石腸の男児の熱と血と
 の事業一新の天地に躍動すぺき若き日本の渇望するは唯若き青年将
 校の赤き血に溌り何物をも融かさずには止まざる青年将校の勢に燃
 えあがる事のみ。
 ニ、軍服の聖衣を彊へる農民の胸奥を知る者は独り青年将校のみ。
  我等は熟と誠心の初年兵教育に彼等の魂を攫み彼等の胸奥を知る一
 困窮に喘ぐ家郷を棄て黙々として君国の為め献身する彼等の努力こ
 そ実に血と涙の結晶なり、彼等の胸奥の苦悩は我等のみが知れり。
 彼等が我等を見上る真撃の眼には何物か溢る1その至純なる農民層
 の顧むあるは唯我等青年将校のみ、我等は軍服をまとえる彼等の兄
 とし彼等の深刻なる苦悩を代表す。
 三、興嶺大江の雪に氷に埋る1幾千の生霊に代りて彼等の通志を貫
  徹するは、我等あるのみ。
 客秋満蒙の地に鉄火閃めきしより以来勇益何物をも恐れざる専き
 彼等の血潮は来だ滴れず、彼等は病床に独り苦しめる老父母を残し
 て去れり、彼等は粥を吸り芋の根を噛りて日々を送る妻子を残して
 去れり。彼等はポロをまとひ寒さに凍えて帰りをのみ待てる弟妹を
 残して去れり。彼等は断じて何人の犠牲にも非ず。彼等は唯「天皇
 陛下の為に」起てり。彼等は家郷の土と父母との身代りとなりて笑
 って死せり、彼等の笑つて死せるは彼等の在に依りて家郷の土の苦
 悩が救はるる事を確信したればなり。「忠勇烈士」の名彼等に取て
 何の価値あらん。金鶉勲章の輝き彼等に取て何の満足あらん、鳴呼
 彼等の死を以てせし祈願に応ふる何物か与へられんや。吾人は幾千
                  〔冥〕
 の生霊を空しく異郷の土に迷する事に忍びず彼等と共に戦へる我等
 は先立つる彼等の遺志を貫徹せずんは止むを能はざるなり。
 四、欧米物質文明に浸潤し尽されたる現下日本に皇道の大旗を翻し
 得る者は独り武にして文を併し得る我等青年将校のみ。
 皇国を滅亡の淵に臨ましめたるものは実に欧米物質文明なり、血
          〔と〕
 の高鳴り生生の躍動する皇国を以て一の機械組織と観察したる所に
 総ての誤謬は発生す、現下の政治現下の経済現下の教育現下の思想
 悉くが是此の認識の謬点を明証せざるはなし。吾人は形而下に現は
 るゝ制度組織のみに理論の是非を行はず吾人が今日の政党財閥其他
一切の私権階級を絶対に香認するは実に、彼等が彼の誤れる認識信
 念の下に出発するを以てなり。今日の世界文にして武を辞し得る者
 果して幾人かある市ヶ谷台六十年の精神の発揚せらる1は正に今日
 なり、武にして克く文を解する我等青年の手にこそ現下の世界及皇


 国興亡の鍵は握らる。
 五、国家を滅亡に陥るゝ政治経済を打破し得る者、政治に拘泥せず
  世論に超越せる皇軍青年将校を舎きて他なし、
 吾人の動くや悉くこれ聖勅の精神のみ、字句の未に幻惑せられて
 文字の含める偉大なる内容に透徴する能はざる愚人輩に吾人は一言
 を呉るゝを要せず、実に今日の危急に際し偉大なる活動を為さしめ
 んが為に平時の枝葉末節の政治経済技術に関与拘泥するを禁じ給へ
 る大御心を三思せ〔ょ〕。
 六、皇威を発揚し国家を保護する為に自〔ら〕を一身を陛下に捧〔げ〕
  奉れる我等は皇威を遮る宮狐社鼠の徒輩、国家崩壊に瀕せしむる
  亡国亡階級の存在を坐視するに忍びす。
 専厳なる自己を顧みよ、吾人の軍服をまとへるは実に剣を以て君
 国を護らんが為めなり。何人の傭兵にも非ず何人の奴隷にも非ず。
 吾人の一身を捧ぐるは唯々 天皇陛下の為のみ、今や皇威は姦臣の
 墾断に委せられんとし国家は私慾の徒に翻弄せられ崩壊せんとする
          【†マ〕
 時何故に軍服の国士よ奮起せざるか、唯国泰かれと祈り給ひて展襟
 を安んじ給ふ一夜とてもなき我等が大君の今日の御苦悩を思ひ奉る
 時何人か騎蕩の夢を破り確々の生を倹むることの得るものぞ、我等
 は黙視し得ざるなり、我等は傍観し得ざるなり、起て軍服の国士、
 吾人が吾人本来の使命に還りて慣起する時吾人の一切の行動を束縛
 する何物も無き筈なり。
 七、草薙の神剣を握れる者之を皇軍青年将校と謂ふ。
 宏謀宣布の前途を遮る魅魅魅庖を伐つに草薙神剣あり、皇道の敵
 を討つには豊に国外と国内とを問はんや神剣を握り得るは至誠至純

0e

 一の私慾なき聖戦敵兵線の小隊長のみ。
  八、恒産なくして恒心ある者唯士のみ之を能くす。
  恒産なくして恒心ある者は未だ之れあらざるなりとの先響の唱破
  は現時日本社会に適切なり恒情なきが故の不平恒産なきが故の夜道
  なり。「恒産なくして恒心ある者は唯士のみ之を能くす」の「士」
  なる文字を国軍将校全部なりと鰐すぺからず現下の国軍には恒産あ
  るも恒心なき輩多きに況や恒産なくして恒心ある鉄腸夫に於てをや、
  「士」とは実に「命」も要らぬ名も要らぬ、官位も金も望まざる大
  丈夫の謂なり、吾人は恒産なき徒なり身に具するは一枚の戎衣蓄ふ
  る資本は唯頑健鉄の如き体躯、命は未来の戦場に托せられ名誉は散
  兵線の消耗品に甘んず官位は一介の中少尉、金なく妻なく子なく又
  私慾なし唯抱けるは憂国の熱情唯持てるは破邪顕正の剣。
   鳴呼青年将校に非ずして、いかで一切を君国に捧げて栄え行く皇
 国の礎となるに甘んじ得餉瑞らんや、吾人の抱負唯此の一路あるの
  み、鳴呼皇軍の青年将校共に共に挙りて奮起せん、吾人を合いて三
  千年の皇道を維持し神州を保全し得る者他に一人も非ざるなり。
         第二 血と魂との団結の意義
 一、青年将校は独適量帝統帥権の奴隷となる能はず。
   皇国が物質文明の余弊に滅亡の岐路に立てる時皇軍亦腐朽せる旧
  世紀統帥権思想に崩壊の危撥に瀕す、吾人は客年のロンドン条約締
  結時に於ける統帥権揉摘の費は決して他人に非ず国軍其者に罪あり
  と断言する者なり、窄も国軍に厳然たる統帥権の確立する時何人か
  能く之を親潮し何人か能く之を侵犯し碍ぺき、国軍の統帥棒が揉摘
  せられたるは国寧に統帥樺の確立あらざりし明証なり.実に今日唱
 へらる1統帥権の鮮釈なるものは何れも誤れる外来思想の根本より
 発する封建的統帥権にして明治維新によ〔り〕宣布せられたる大日
                 〔巷間カ〕
 本帝国兵馬の大権は断じて訪問物質観的学者輩専権的独逸思恕の奴
 隷軍人輩の能く解し得る所にあらず。
 然り而して明治天皇が照柄として明示し給へる兵馬の大権を誤り
 伝へて遂に今日の紛糾を生みし者は悉く陸海軍なり、今日陸海軍を
 風靡する兵馬の大権の思想は実に旧独逸皇帝「カイゼル」の「朕の
 統帥権」の思想にして断じて我か 大元帥陛下の統帥棒に非ず。
 「プロシヤ」王室に身を興して独逸聯邦の上に専制独裁帝国を建設
 せる皇帝「カイゼル」には「朕の軍隊」「朕の統帥権」の専制必要
 なりしならん、然りと雄も三千年の国体ある皇国に持ち来るに此の
 専制統帥権とは何たる反逆思想ぞ。
  即ち独皇帝統帥棒下の軍人及軍隊は悉く皇帝「カイゼル」の専制
 に死活を委ねられたる奴隷なりしなり。我等皇国に生れ 大元帥陛
 下に一身を捧ぐる者断じて斯る専制統帥権の奴隷となること能はざ
 るな卜0而して専制独逸皇帝の「朕の国家」が西欧「デモクラシイ」
 の「民の国家」に無残にも撃砕せられたる今日旧世紀の逆倒的腐朽
 思想を奉ぜる我陸海軍の専制統帥権が「デモクラシイ」思想の伐備
 たる現政党財閥に揉梯せられたるは宜なる哉、鳴呼陸海軍は将に
 「統帥権」なる樫檜の下に崩壊せんとす、吾人青年将校は一日も早
 く真の国体に則る 天皇の兵馬の大権を奉じて腐朽崩落せんとする
 旧統帥権なるものを打破駆逐せざるぺからず。
                             〔マこ
 二、皇軍と青年将校の横断層は国家の精神的崩壊を支ふる最後の複
  郭なり。

 今日上流階級の物質的悪思想は上流より下流に及ぷものなり。彼
 等には到底皇道なるものを解し得ず従つてその誤れる国家観、国体
 観が恐るぺき意思想を国民に流布しっゝあるなり。吾人は総てが唯
 物的思想より発生せる「デモクラシイ」政治にも「ファッショ」独
 裁政治にも荷担する能はず。国家主義たも将た又日本主義にも世界
 主義にも、
                        〔ママ】
 断じて荷担する能はず、総ての主義なるものが微少なる一個人の
 独断を以て創案せられたる唯物唯心何れかの一面的表面観察に過ぎ
 ざるを知るものなり、斯くの如く吾人が現下の国家を見渡して扶手
 傍観して国家を批判し得るもの1存在を何処にも発見し得ざるもの
 なり、国民は白紙なり偉大なる凡人なり赤く染むれば赤くなり、黒
 く染むれば黒くなる、此の純真にして凡愚なる民衆なるものに一度
 此の思想の浸潤せんか恐る可き国民的崩壊は立所に至らん。軍服を
 着たる偉大なる民衆は実に吾人の部下たる兵卒なることを忘却す可
 からザノ。
  青年将校は下級武士なり、偉大にして純真なり、民衆なるもの1
 直接上層に位置する者、其の腐敗如何は直ちに直接、接する偉大な
 る軍服の民衆に及ばん。然りと雄も吾人は断言す、現下吾人皇軍青
 年将校は、決して上流亡国社会の腐朽意思想の浸潤を受け居らず皇
 国は実に卓軍青年将校の至純至誠なろ魂の横断層を以て最後の複郭
 となし以て彼等の腐朽秦悪外来思想の浸潤を防止することを絶対に
 必要とするものなり。
 三、皇道の敵を討つ聖戦に第一線小隊長の連絡結束は最大の急務な
   hソ0
  腐朽の言辞を連ねて青年将校の横断的結束を禁ずる人よ、汝等は
 縦断的連繋なるものを奉じて敵を前にして中隊長大隊長師団長の系
 統を辿れる命令文なる物質的統帥権の降るを待たざれば何事も出来
 得ざるか、汝等が突撃の団結の為に此隣各小隊長と密接なる連繋を
 取ることは汝等の言に依れば「統帥権」に反逆する横断的結束には
 非ざるか、一文の価値なき陳腐の議論を止めよ、血と魂との躍動す
 る皇軍隊の中には横と縦との区別あるなし、横断層の鉄の如き結束
 なくしていかで一体渾然融和堅牢無比なる鉄軍の形成せらるぺき。
 吾人皇軍将校の護る者は唯皇道、吾人皇軍将校の討つは唯皇道の敵、
 皇道の敵を討つに宣形体上の国境の内と外とを問はんや。
  吾等の鉄の如き横断的連繋結束は皇道の敵を討つ第一戦、小隊長
 当然の急務なり。
 四、青年将校は正に市ヶ谷台六十年の魂に結ぷぺし。血と熟と誠唯
  之を以て肝胆相照すに在り。
  皇国の上流支配層及中流知識層の徒輩悉くが物質文明の奴隷と化
 し去れる今日武士道の真精神を把捉し撫養し来れる市ヶ谷台の子が
 六十年来燃し来りし聖火を掲げて神州の邪悪を焼き尽さん時は正に
 今なり、鴫呼皇軍青年将校よ。再び魂の故郷に選れ。一の私慾なく
 一の不純なく唯燃ゆる正義の熱血と温かき友情の交融とに一切を皇
 国に捧げて顧みずと誓ひし台上四年の生活に還らん。同じ校合に学
 び同じ校庭に武を練り共に食し共に寝ね共に志を同じうする魂の友
 ょ、今や攣手以て皇道精神の大鮪を掲げ危急の皇国を救ひて神州正
 気を永遠に伝ふべき時には非ずや、紛糾の議論を捨てょ栄華の野心
 を屠れ血と熱と誠の合体是れ吾人の叫ばんとする皇軍青年将校の横

0f

  断的結束なりひ
         第三 挙軍一体の宣言
                           〔マ†〕
 一、青年将校の信念は昭和日本の信念なり。青年将校の勤行は昭和
   日本の動向なり。
   鳴呼吾人青年将校の此の血と熱と誠とに抗し得る何者ありや、吾
  人の血は清純なり一の汚濁なし、吾人の魂は至誠なり一の蔽はるゝ
  所なし。誠は天の道にして誠を行ふは人の道なり、天は物言はず然
  も健々廻りて息まず皇道悠々唯黙々神惟の道は一の言挙げを要せず。
   唯至誠至純なる吾人の魂にのみ吾皇道の精神は宿る、私慾なく私
  心なき国士の動向こそ実に我尊厳なる国体の顕現なり。一切を犠牲
  にして唯 天皇にのみ帰する吾人青年将校の信念こそ将に旧殻を打
  破して一新の天地に更生すぺき昭和日本の信念なり。
   明治の御代に生を稟けたる人は明治の日本を担へり、昭和に生を
  稟けたる吾人は正に昭和日本を担はんとす、将に脱落せんとする表
  皮の如き存在たる老人輩に若き血に躍動する昭和日本を担ひ得るも
  のに非ず。
   吾人は唯彼等の今日迄に於ける国家に対する勲業を感謝して彼等
  に隠居を勧むれば足る。
  二、青年将校は直しく溢る1叫の熱血と至誠とを以て全軍を焼き全
   国民を焼き尽すぺし。
   我等は此の熱血と至誠とを二十万の部下に及ぼすぺし。我等の熟
  もて彼等の血を湧かし我等の誠もて彼等の愛国心を呼び起すぺし。
  彼等軍服の農民が我等より受けたる愛国の熱血に奮起する時天下何
  物か此の大藩に抗し得ぺき。我等は我等の此の至誠を我等の上長に
 推倒すぺし。至誠にして動かざる者は未だ之れ有らざるなり。
  我等の上長の動かざるは我等の至誠未だ足らざるなり。我等の上
 長我等を知る能はず我等を解する能はず、我等の労未だ足らざるが
 故なり、我等は千古の理論を陳べて上長に強るに非ず、上長に従は
 しむるに非ず上長を啓蒙するに非ず。
  吾人は吾人を統率する偉大にして宏潤なる胸と腹とを有せらるゝ
 我等の上長の其胸と腹の中に熱血を注ぎ、吾人の至誠を推倒し而し
▼ て我等の此の熱血の大藩に乗り吾等のこの至誠の団結の統帥者とた
 りて此の熱血の波涛を彼岸に打たしめ此の至誠の団結をして皇国鹿
 隆の精神的核心とせしめられんことなり0我等は…欝る努力を傾け
 て我等の上長を動かさざるぺからず、我等の此の至誠にして何者か
   〔さヲとるカ〕
 動かさざるものあるぺき、我等の此の熱血にして何者か焼かれざス
 者あるぺき、上官をして動かしむるには唯々吾人の至誠による団絵
 結束を以て推し行くにあるのみ。
 三、明治大正の御代の皇国に血と魂とを附与したる皇軍の上長は骨
  しく昭和御代の皇国には昭和の青年将校の血と魂とを献ぜしめ上
  至公至平を旨とせらる1我等の上長は心を空しくして昭和皇軍書
              〔ママU
  年将校の血と魂とをその拡大なる腹中に容れらるぺし。
  青年将校はあくまで上長の部下なり、青年将校はあく迄初年兵教
 官にして第一線小隊長たり、我等は初年兵教官として軍服の農民の
 苦悩を知り軍服の農民の魂を攫み軍服の農民を握る我等は第一線小
 隊長として皇道の敵を討つて殉国の血を湧し至誠と決死との由緒を
 作り前進又前進するのみ、我等は礼儀の如何なるものなるかを知
 り我等は統帥の真諦の如何なるものなるやを知る。皇軍は武装せる
                            〔上カ〕
 「ロポγト」の集団に非ざるが故に上長が下意を解せず下意を許せ
 ずと言ひて直に上下を転倒し若しくは上長を屠りて破壊の建設を叫
 ぷものに非ず。
 皇軍が専制覇王に率いらる〜軍隊ならば反逆もあり上下転倒もあ
 るぺし。
 然りと雉も吾人の皇室は有形的階級の区別こそあれ一様に 天皇
 の股肱たり護国の大丈夫たる平等自由なる人希との団結なるを信ず
 るが故に断じて独露奴隷軍の軌を踏むものにあらず。皇軍が物質的
 概械的なる組織に運用せらる〜ならば破壊と建設とは行はれ得べし。
 然れ共血の通へる魂の通ぜる皇軍に於ては破壊もなく建設もなし。
 唯期するは皇軍の生命体に宿る憎むぺき毒悪腐朽の鼠賊を掃蕩し不
 死鳥の如く旧殻を打破焼尽して大悟更生の一途あるのみ。六十年問
 脱却し得ざりし独通式専権の旧套をば皇国の血と肉とを体得して生
 れ出たる我等青年将校の殉国決死の熱炎を以て焼き捨つぺし。
 今や青年将校の信念と実力とは厳然として総て備はれり、我等の
 意気は貞道を疾駆する駿馬の如し。乗馬本分者たる上長は宜しく此
 の駿馬に跨れ手綱を把し鞍を要せず。駿馬は在ゆる難路峻難を踏破
 して皇道の理想に養進せん、第一線全線の驚き連絡は完成せり、聯
 隊長師団長軍司令官宜しく馬首を進むぺし、聖戦場裡撥既に熟す、
 前線の将士決河怒涛の満を持せり、鳴呼斯くの如くして上下一致渾
 然団結堂々として毅然として王事に勤労すぺし。
 勅諭は上たると下たるとを問はず上下の団結を索す者を誠むるに
 「軍隊の黍毒国家の為許し難き罪人を」以てし給へり。
        第四 破邪顧正数
一、他人の悪を責むる前に先づ自己の惑を正せ、他国の不正に刃を
  向くる前に先づ自国の不正鼠賊を掃蕩すぺし。
 自己の内心妖しくして何人に向つて正義を唱へん、自国の内に皇
 遣を阻害する獅子身中の虫を抱き何処の国に向つてか皇道を、宣布
 し得ぺき、自己社会の中に資本主義の如き誤れる物質文明の大欠陥
 を包蔵し乍ら同じ物質文明の胎中より発生せる共産主義国に対して
 何の日露戦争ぞ。
 斯の如き腐爛せる国を提げて戦ふは是れ国民を駆って崩壊滅亡の
 深淵に投ずるの大罪なり、外勢の我皇国に向つて逼迫せる今日吾人
 は一日も速に皇国の真実の姿に返して真の皇道国家として廷らせし
 め九千万の民と共に正義の敵に当らんと欲す。
 皇道を蘇らすには皇道に仇なす敵を掃蕩すぺし、皇遣の敢は宮中
 に在り、元老重臣中に在り英、
 二、皇国は一日も速かに皇国本然の姿に還り而して皇道の宣布に仇
 なす赤賊の根拠に対し昭和の三韓征伐を断行すぺし。
 資本主義社会に巣喰ふ赤賊輩は資本主義社会の在在する限り絶滅
 し得るものに非ず。皇国は物質文明の生みし金銭の奴隷制度たる資
 本主義思想を根底より打破し真に本然の皇道に建直したる後は碑功
 皇后の御鴻業に則り一日も早く同じ物質文明の奴隷たる赤賊の根拠
 地ソグエート政権に聖戦の大軍を向けて赤露独裁専制王に城下の盟
 をなさしめざるぺからず。
 三、東海日出る所の皇道の聖火燃ゆれば世界の万悪悉く焼尽せられ
 二十億人類に皇化零はん、北欧一野蛮国の庸懲何物ぞ。
 吾人の行手は宣氷雪に閉さる1西伯利亜のみならんや、資本と武

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 カと鉄鎖に幾百年間縛られて死滅に瀕する我等の同胞亜細亜民族を
 救ひ更に一歩聖族を進めては物質文明の闇に沈冷して苦悩の窮極に
 喘ぐ世界全人類の上に救世の神国となつて君臨し六合を兼ねて国と
 なし八紘を蔽ひて宇となすてふ皇道の大理想を実現すぺし。
  鳴呼青年将枚は「一世の智勇を推倒し万古の心胸を開拓」せん。
  是れ吾人の人生の総てなり。
         第五 総てを天皇へ
 我等の土我等の家我等の財我等の生命総て轟く 天皇のものなり
  利慾の邪念を脱却して自己を顧みょ
  何処に自己の物ありや、何処に自己の慈にし得る物ありや、総て
 は天皇の物なり、天皇の物なり、汝は汝等が最も尊重して之のみは
 自己のものなりと信ずる汝等自身の生命さへも断じて汝等自身が能
 く左右し得るものに非ず。況んや汝等の身辺に附随する有形的物質
 に於てをや、汝等は国家の一細胞にして汝等の血には肉には国家の
 生命が脈打てり。
  汝等の父母も妻子も同胞も轟くが国家のものなればなり、汝等は
 象徴し給へる天皇の赤子に非ずや。
 国家生活の血液たる経済の大権を速に 天皇に奉還せょ。
  財は国家なる生命隊の形而下的血液なり。誤れる個人主義理論に
 立脚して国家のものなるぺき財を、個人の専断に重ねて顧みざる無
 謀の悪制度を日本国体は許容する能はず。
 今や財界は物質文明最後の終幕たる世界経済大恐慌の怒涛に壊滅せ
 られんとす、天命は明かに汝等の上に令せり、聞け「総ての土地と
 財を 天皇に奉還せょ」
一、我等青年将校の往く所何物か粉砕せざらん
 鳴呼吾人の血潮は今や揺坤の波涛となって滑々と進む、吾人の熱
 誠は焦天の炎として燃ゆ、何物か砕かざらん、何物か焼かざらん、
 吾人の行手を遮る真に何物かある、吾人は至誠を推して進む、吾人
 は熱血を吐露して進む、然りと維も吾人の此の至誠に遂に動かず、
 吾人の此の熱血を遂に腹中に入る1能はざる者あらば吾人は彼等を
 捨て〜進まん、顧みずして進まん。彼等は既に死物なり、彼等は既
 に皇道の障碍なり、吾人皇軍青年将校は如何なる威武や権力が之を
 阻止すとも遮断すとも断々乎として独り皇遣を潤歩せん、吾人は絶
 対に腐朽せる独通式統帥権力に服従せず。
 何者か此の決死の大同団結の動きに一指を染め得るもの、そは吾
 人の此の聖なる大同団結の前途を阻止するが如き、魅魅親應あるに
 は三千年の武の精神を伝へたる草薙の神剣は閃かん、宝刀鞘を脱す
 る時何の魔か降らざらん。
 吾人は抜くぺき宝刀を握れり。
  聖旋は進む
  日本国民よ挙りて行け 天皇の許へ
   昭和八年三月十日
                      青 年 将 校


     一三 第二大戦の切迫と国家改造の急

 国際聯盟脱退の秋は来た。日本は聯盟五十余国と対立衝突を注意
 せねばならぬ、支那は聯盟を語つて愈々対満抗日の大攻勢に出づぺ
 く、而も米国は国際条約を破つて早くも支那に多数の兵器弾薬と指
 導将校と巨額の軍費とを秘渡すると共に自ら太平洋制覇日本絶滅の
 空海軍備を整へ進んで長江々畔に巨大なる飛行場を設備し全艦隊を
 太平洋に集結し問諜を放つて日本各地の要点を探査せしめつ1宿年
 の仇敵日本の死命を制すぺき一閃の好機を窺ひつ1ある、更に北方
 大陸を見るに第一次五ケ年計画を終れるソビエート露国は本年早々
 第二次の実行に入るやスターリンをして「対日戦備は完了せり」と
 呼号せしめた。然も彼は攻守同盟を結んで支那を操縦し米国と共に
 四官余州を日本××の導火線とするのみならず十年来自ら極東シベ
 リアに北満に更に進んで日本その者の内部に爆日の徹底的謀略を廻
 らして来てゐる。
 国体の破壊国家其の者の潰滅を期して彼の腐心魔手が如何に強く
           〔マヱ
 深く日本を難して来てゐるか。
 然り、而してロマノフがスターワンに変れりと雄も一分の退転変
 化なき筈の我が大亜細亜政策は今次の清洲独立、日満提携を契撥と
 して愈々切実に彼との関係を尖銑化したものである。
  凡てに相異相効的なる両国の運命は遅くぺからざる衝突再戦を至
 近の将来に促進せしめた。観じ来る日本明日の運は是非の数国家数
 十国−全世界を敵として正邪勝敗を一決すぺき乾坤一都の大努力の
 秋に遭遇したのだ、或る一部の者等の如く対露又は対米若くは対支
 と云ふが如き対一国若くは対二国のみの開戦をのみ考ふることは近
 視斜視の顆、国運民命を玩弄すること卵を鉄厳に地つに似たる低脳
 無謀の沙汰である。近代特に今後に於ける戦争は対戦国に少くとも
 数国を考へねばならぬ国際関係に在る。日本の運命は現状に於て特

 に然り。
  然り、日本対世界大戦の秋は迫つた、然るに鳴呼日本が振り上げ
 んとする其拳の如何にしなびたる哀れさを見よ! 国民の生活は恰
 も革命前のフランスの如くに荒廃枯渇して全国九剖の民命は将さに
 阿鼻地獄の叫喚坤吟宛らの有様である。
  国民思想は頻る所信ずる者賀失して七花八裂し相関ひ相国ぎて一
 大混乱を来たし甚だしきに至つてほソビエート霧国を祖国として国
 家を根底より爆破し去らんとする共産党の如き、都市に農村に工場
 に学校に而して今や遂に軍隊に司法部に綺紳の家庭に迄も侵入し来
 つた。国家財政に至つては、斯かる国際関係に於て切迫せる大戦を
 前にして八年度予算が、所謂非常時の名に於てすら軍備と国民匡救
 のわづかに枝葉の一端を充たせんが為めのみに不可避の支出したる
 僅々十億の金が実に償還の当てなき公債によつて辛うじて弥縫せら
 れんとしてゐる不憫悲惨なる状態てはないか、財閥代表の或る者等
 の云ふ所を聞け、斯る公債予算の如きは正に国家の現経済組織を破
 壊せんとする危険至極のものであると。
  思ふに三十年前の対露戦にすら二十億の軍費が二年間に使はれた、
 西此利亜出兵の如き一部動員にすら六億円は消えて居る、来るぺき
 第二大戦はかつて大戦五年間に独乙が費消したる三百八十億円の軍
 費を予想しても不当ではあるまい、嗟! 是くの如き国家の実力、
 国民の状態を以て態々世界を相手の大決戦が戦はれると思ふのであ
 らうか「中略」
  日本の現状は紛れもなく幕末の再現である。直視せょ、馬上の徳
 川将軍を小した日本は再び第二の金権将軍の封建治下に置かれて居

11

 るではないか、天皇と万民との挙国的大団結は早く己に食ひ破られ
 て竜袖に隠れ国権を私せる一部少数者の跳梁専慈が今や全国に充つ
 る惨苦不穏、国境に迫れる脅威圧迫を結」果してゐる。
  更に国民の持して行ふぺきもの国家の拠つて立つ所を再び更新す
 るに非ずんば以て再現したる「世界の恐怖」を屠り列国聯邦を叩き
 潰して日本を富嶽の安きに置き東亜の妖雲を一掃することは痴人の
 夢である。
  然り国家の現組織現勢を以て次の大戦に臨むことは幕末日本の無
        〔ママ〕
 謀なる撰夷と一、然るに今日の日本の当路者、指導階級は外患大戦
 の急迫をのみ絶叫して国民を専ら外戦に指し向けつ1国内を省みざ
 らしめんとしてゐる、是れ実に古今亡国を導くもの1常にとる所の
 恐るぺき亡国政策である。
  思うても見よ! 斯かる外患なしとしてすら国内の状勢は今の日
 本に改造一日の早きを要する。窮困乱離の亡状にあるではないか。
  明かに告ぐ 日本は速に第二維新を断行し、更生の気塊、新興の
 実力を以て来るぺき世界戦に対せねばならぬ。
  魂の革命と国家組織の改造とである、国民は冷鉄の如き反省と焦
 魂の努力とを以て国家的陣容の更新整頓を急ぎ「六合を兼ねて都を
 開き八紘を掩ひて宇となす」の、神武国祖の聖詔に副ひ歴世皇宗の
 宏諜に答へ奉らねばならぬ。
  I戦雲東方の天を籠めて万里粛殺の気、転た凄壮、挙国今の時
 起つに非ずんば三千年の国魂を奈何せん       −完1
                    陸軍戸山学校
                       中少尉一同



      一四 ヒットラリズムと吾人の進路

 一月二十九日独乙では例のヒットエアーが多年の宿望たる首相の印
 綬を捷ち得た、三月二十三日此の内閣に意法上の独裁権力を附与し、
 全独乙にファシスト党を置かうとする政府信顧法は国会に於て四首
 四十一対九十四票の圧倒的多数で一気にわけもなく通過した。此の
 法律案の要旨は左の通りである。
 一、ヒットヲー内閣の在任期間中又は来る一九三七年三月三十一日
  に至る迄政府に独裁的権限を附与す。
 一、仮令憲法に抵触するとも凡ゆる方法を公布する権限を政府に附
  与す。
 一、右の如き法律の制定及各国との条約の締結に関し国会並びに聯
  邦参議員の有する権限を解除す。
  二宮億マルタの外債の重圧に喘ぐ独乙民族が彼ヒットラIにより、
                            〔マ†〕
 はたしてどれだけ救はれるか、それは今後の見物として自分はこ1
 に世界の思想史上民主々義的インターナショナリズムより、最も明
 瞭に軍国主義的ナショナリズムへの転向を表示した。
  此の独乙ファシズムに就いて少しく検討を進め以て他山の石とし
 て吾人の進路を研究して見たい。
  第一にヒットラーは六十五万の兵力を手に握り「警察隊十五万、
                           【†マ〕
 突撃隊と称する私兵四十万、正規兵十万」徹底した弾圧制策により
 独裁政治を敢行する。
  第二に彼等は独乙民族至上主義を主張し民族の純真性を強調し猶

 大人の」国外放逐をさえはかつてゐる。
 第三に大戦参加の旧兵士、革命的情熱に燃える年少気鋭の青壮年
が彼等の原動力となつてゐる。これはヒットラーその人が何物をも
焼きつくさねば己まない様な、熱意を以てする人心収撹の特持者で
あるからである。
 第四に彼等は対外的に堂々領土拡張の必要を説き他国との武力戦
の準備を怠らない、ヒットラーは親英主義によりフランスを抑へロ
シアを窺ひ日本の国際聯盟脱退を見ては櫻を失せず東洋の根拠地を
取戻さうとして居る。
 第五に国内的に其の主張する経済統制政策遂行の上に大きな難関
があり早くも資本の前に屈服し出した。この内閣を後援するナチス
即国粋社会党は重工業資本と不即不離な関係にあり、又これと協力
する独乙国権党も従来の地主貴族的色彩に更に炭鉱資本のカを加へ
 てゐる、其の上外国資本により辛うじて大戦後の余命を快復して来
 たこの国のこの政府にとってはブロツタエコノ・、、−は言ひ易くして
実に行ひ欺きを察せられるのである。
 第六に結局彼等の最大の任務は共産党に対する仮借なき弾圧であ
 る。そしてこれは前項より帰納し必然的に末期資本主義に対する番
犬の役割をなすに止まる。
 第七にヒットラーは廃帝ウイルヘルム二世を推戴し帝政を復帰し
ょうと謀つてゐる。
 先づ概ね重要なことは以上の様な次第である。
 次にこれ等各項について吾人の目指す進路と比較研究して見る。
 第一の政治的形態の問題について

 吾人は日本大衆の政治的訓練の余りにも幼稚であり国民生活極度
 の窮迫は既にこれを覚醒自覚せしむる余裕さへもないことを頗る遺
 憾に思ふ、然も独占資本の圧力とこれを背景とする度成政党の地盤
 は津々浦々に迄弛みわたつて到底尋常の手段によつてはこれを浄化
 しこれを清算し廼生日本の出現を期待することは殆んど至難であら
 うと思ふ。
 こゝに吾人は旧弊を根本的に打破する為一時方便として崇高なる
 信念を有する正義の賢者を権立して天皇中心の独裁政治を断行する
 の外方法があるまいと信ずる、而してこれが手段として国民の敵を
 柴すために或は武力の背景も必要であらう、然し此の武力はナチス
 の如く断じて為政者の御用となり国民大衆に対する弾圧に使用せら
 れてはならない、即ち吾人が企図する一君万民の政治は一部為政者
 の単なる独裁政治では本よりなく皇軍は飽くまで皇軍として独乙に
 於けるが如き私党的存在は絶対に許されないのである。
 第二の民族至上主義について
 吾が日本民族は速くはアイヌ族を抱擁し近く朝鮮民族と合し、今
 又満蒙民族と提携した。共の文化は古くは支那及印度の深遠な精神
 文化を迎へ近くは泰西の多くの形而上学を吸収した、それは決して
 他民族へ対する侵略ではなく又他国の文化に対する屈従でもない、
 ここに日本民族が人間として最も誇るぺき美点がある。そしてこ1
 に彼等の排他的民族至上主義との相違がある。
 第三の改革運動の原動力について
  ヒットラーが青年特に在郷兵士の大きな原動力を押えてゐること
 は彼にとつての唯一の強みである。凡そすぺての改革運動は此の青

12

 年の原動力を土台として成功してゐることは古今東西の歴史が明か
 に証明してゐる処である、又愛国的情熱のある点で其の団体の撃固
 な点に於て農村の青年を主体としてゐる点に於て在郷軍人を味方に
 すると云ふことは吾々の運動に於ても極めて必要である。
  第四の対外政策について
  単なる侵略政策は現在の独乙にはいさ知らず聖アジア同盟の盟主
 として威起すぺき偉大なる使命を持つ我日本外交の全く不可とする
 処である。
  第五の資本主義への屈服について
  これ吾人が最も成心を要する点である。吾人は政治的改革運動に
 資金が要らないとは思はれない。然し我々の団結が真に至誠殉国の
 血に熱える同志の集りてありそこに不純な分子を交へない時にその
 資金の額はさう莫大なものでなくてすむのである。我々はかうした
 真の同志の団結を期し少くとも所謂金融資本と結ぶことは飽くまで
 も避けなくてはならない。若し仮初にも彼等の前に屈服したとした
 ならば其結果はどう云ふことになるか独乙ファッシズムの動向は最
 も雄弁に之を物語つてゐるのである。
  而して吾人は彼れの依然たる都市中心の営利主義的イデオロギー
 より活眼を開いて東洋的な農村本位厚生経済払幣肘を置き換へるこ
 とに依り末期資本主義を清算し国家社会主義を斥け共産主義と絶縁
 して、こゝに初めて真の日本延生の進路を見出し得るのである。
  第六の共産党に対する政策について
  前項に於て明瞭な如く我々の新らしき日本に於ては最早彼等の露
 動の余地はないのである。丙してこれが堂々たる理論本体と現実上
 の実際によつて吾人は敢てナチスの如き弾圧制策に出なくとも彼等
 の多くを克服させるだけの可能性あることを確信するのである。
  第七の帝政復帰について
  ヒットラーが旧廃帝を推戴しょうとする心事は人間として最も讃
 美せらるぺき点である、然しホーエンツオレル家代々の業績から推
 論する時この結果が将来の独乙にはた又全ヨーロッパの政局に如何
 なる影響を与へるか、これは一概に言へない問題であらう。
  以上で以て各項についての一通りの研究を終つた。
  此の如く吾々はヒットラー一派の思想行動について多くの異論を
 持ち、非難の点多々あるのを知るのであるが、然し彼等の行動が此
 校的成功し将来も相当に発展の余地を認め得る唯一無二の原因は実
 に熱烈なる祖国愛の熱情と不損不屈の闘争意識に燃えると,トラー
 及其の率ゆる青年の団結これである。
  吾人の特に三省すぺき点であらう。
   昭和入牢四月
                       △  △  生


      一五 戦争を前にして日本は如何にすぺ
           きか


          H
  戦争を前にして日本は今や飛ばんか、沈まんか、運命の岐路に立
  つてゐる。避け難い勢を以て戦争は刻々に近づきつ1あるのだ、既
          〔にカ〕
 に一部の国民は暗い影を以て戦争は刻々に近づきつゝあるのだ。蛾
          〔にカ〕
 に一部の国民は暗い影を以て蔽ひか1りつ1ある.
 @ 戦争の幻影に怖えてさへゐる、だが我々は、はつきりとその姿
 を見ねばならぬ。
 @ 国民の戦争への気持は戦争への必然に関聯して戦争の恐怖そ
 して僅かに期待を含んでゐる、戦争の恐怖は生物的な生命に対す
  る恐怖よりもむしろ戦争によつて、さうでなくとも窮迫した一家
  が働き手を奪はれて生活が、どうなるかといふ案じである。
  期待は何等かの意味に於て戦争によつて窮迫した生活のバラン
  スが破れて鰐決の這が求められはせぬかといふ程度のものに過ぎ
 ぬ、「財閥者流の戦争への期待はそれにょつて不当な利得を得よ
  うとするにある。国民の自棄的な最後的な期待だ、決してそれ以
 上のものでない。こ1に我々の考へねばならぬ大きな問題があ
  る」、かうした国民の意気といふものは決してょろこぶぺきこと
  ではない。
  傍し事実なのである。この結果は戦争に伴ふ社会動揺を暗示す
  る、既に日露戦争の末期にはロシアに国内的に大きな動揺があつ
 た。世界大戦に際しては決定的なものとなつた。中欧諸国には社
 会動揺は嵐の様だつた。日本にも僅かであつたが徴兆は認められ
  た。国内的な事情が除かれぬ限り次の戦争に際して動揺がより大
  きなものになることは当然予想されるところである、我々はこの
 動揺の相を深く探究し対策を講じねばならぬ。
        ‥口
 如何にして戦争は必然的に迫りつ1あるがそして日本は如何にし
 て全力をあげて之が準備をせねばならぬか。この問題は今日の日本
 に対して投げかけられた最大の問題であり、そして我々の断乎とし
 て解決に邁進せねばならぬ問題である。
  日本が戦争しなければならないとすれば、その相手は常識で考へ
 られてゐる如くソグエート共和国か或ひはアメリカ合衆国かの何れ
 かであらう。それに
  支那の一部を相手とする場合も考へられるが、これが果して戦
 争といひ得るか香かは疑問である。
  G 支那といふ不完全国民が対日戦争をするといふことは当分ま
  ず予想もされぬことである。支部に対して日本が戦闘行為に出づ
  る場合の立場は他の国に対する如く明確に国家と国家の対立があ
  るのではなく結合の為めの戦争であつて支那自身の内部的発展と
  なる、であるから之は観念を別にせねばならぬ。
  勿論白本が米国と戦ふ場合も蘇聯邦と戦ふ場合もそれが発端とな
 つて世界戦争にまで至る可能性は充分考へられる、又他の事情によ
 つて世界戦争が起り、日本がまき込まれると云ふ場合も考へられる、
 併しかうした関係を述べることは問題を著しく複鹿化せしめる丈で
 あるから世界戦争に関することは最後に述ぺるとして日米日蘇と云
 ふ根本的な問題に関して先づ述ぺる。
  アメリカ合衆国の対日戦争は同国内部の経済界の必要より起つて
 くる、而して人種観念や対立国意識がこれに関聯して問題を更に複
 碓化する、衆知の如く「永遠の繁栄」を誇つてゐたアメリカ合衆国
 も世界不況の進展に伴ひウォール街の株式恐慌を出発点とし、農業
 恐慌の強化普遍化により遂に一般経済の大破綻を示すに至つた。
 世界不況の原因は、こ1に詳述を許さぬが要は欧洲戦争といふ社

13

 会的に経済的に世界的、大爆発の為に
 H 対内的には在来よりあつた各種の階級及産業部門問の需要供給
 関係の不均衡を更に悪化すると共に対外的には国家間の需要供給の
 関係を一朝にして不自然なるものとしたと云ふことに起因する。こ
 れに各国の特祝事情が加はつて不況は各国様々の状態となる。アメ
 リカ合衆国も結局この範疇を越えられなかつたのである。
  世界大戦前アメリカは借金国であつた。だが生産国であつたので
                                    ヽ ヽ
 貸主たる、欧洲諸国との問は物資の輸出を以て心たをつけてゐた。
 しかるに欧洲大戦はこの借金を棒引きにする丈けに止らず、アメリ
 カに更に莫大なる「貸し」を持たすまでになつた。
  その一方ますく生産力は増大し、ます〈買手を必要とするに
 至つた、かくて必然国際的にアメリカは豊富な供給を、欧洲諸国は
 貧弱なる需要「購買力の欠乏」を生ずるに至り需給関係が破綻を生
 ずる様になつたい又国際産業部門より見るも二人農業国家たりし、
 アメリカの工業国化=戦争に依る欧洲諸国の工業生産力減退と反対
 に増大する戦闘及生活物資の需要の必然的結果=は元来の工業国家
 たりし欧洲諸国と必然対立してその問の関係をも悪化せしめたので
  ある0
  B 国内的な意味に於ける需要供給関係の不均衡は元来現在の経
  済組織の下に於ては、必然的に増大すぺき性質をもつのである。
  乃ち大資本がその豊富な金融カや優秀なる設備や合理化された産
  業組織を以て小資本を圧迫粉砕する結果資本は近代に至るほど恭
  益集中化せられ巨大化される傾向にあり、中間階級は没落し貧富
   のル菱は益々甚だしくなる。

   富は少数者の手に集り大多数の国民が、貧乏になるから国民全
  般からいへば購買力は低下する。しかも資本の巨大化の結果ます
  ます生産力は増大するから、これに応じて海外にこれを吸収すぺ
  き市場が存在しない限り国家には売れない生産物が沢山たまると
  言ふことになり不景気となる。その結果生産組織が萎縮するから
  失業者を増大せしめ、又国民の所得を減ぜしめ、更に購買力は低
  下する、国民は絶望して何等かの方法1戦争か革命化か1に
  ょつてこの傾向を破壊しょうとする。
   だが戦争も決して国民に満足を与へてくれないのだ。欧洲戦争
  はあらゆる国家の統制の努力にもかゝわらず暴富をつむもの続出
  し、戦線で将士が困苦欠乏を極めてゐる時、秘密の部屋で一部人
  士は歓楽をつくすと云ふことになる、不均衡は更に甚だしくなる
  かうしたアメリカ合衆国が現在望んでゐるのは、その旺盛なる生
 産力の結果を吸収せしむるに足る豊富な需要の力を有する市場の獲
 得である。かくすることに依つてアメリカはその大なるストツタと
 需要の伴はぬ生産といふ矛盾に依つて潰滅に瀕してゐる生産機構を
 救ひ国家的不安を一掃することが出来るのである、このアメリカ政
 府の意図は国内の社会動揺と共に戦争に訴へるも尚解決を求めよう
 と言ふ処まで悪化する。               /
  アメリカのこの慾望は必然世界の宝庫ともいはれるぺきしかもま
 だ完全には所属の定まつて居らぬ支部をめぐつて、その防波埠の位
 置にある日本との決戦を余儀なくせしめる。かうした関係が人種的
 な観念に依り更に強化されることは勿論である。
  清洲事変により日本に先手を打たれた以上、この鞠係は更に悪化
 してゐると見ねばならぬ、只現在アメリカ国民の多数が尚どうして
 も戦争をしなければならぬと云ふまでの気持になつてゐないことは
 左の如き種々なる理由の伏在と共に直ちに日米戦争と云ふまでには
 至つてゐない。
一、今日の状態でアメリカは自国経済の最大破綻の危険まて冒して
 戦争する必要あ袖や、尚疑問である。
 二、海軍力が日本に対tて尚絶対的優勢ではない.
 三、ソグエート共和国は日米戦争に依つてその立場は非常に有利な
  ものとなるであらう。
 四、英仏の向背も疑∴間である。
 五、貿易破壊戦となる場合東洋貿易が皆無となる。
 併しアメリカの国民生活が尚より以上に窮乏し、生産機構が尚危
 機に滞するに至れば戦争への危険性は著しく大なることは言ふまで
 もない。そしてかうした傾向は日々深まりつ1あるから早晩アメリ
 カにとつても日本にとつても決心しなければならぬ時期が当然来る
 であらう。
        ‥日
  ソグエート共和国との戦争は第三インターナショナルの世界政策
 の発展に従ひ同国との地理的関係よりして必然的に憲起される。第
 三インターナショナルの世界政策はいふ迄もなく世界のすぺてを共
 産主義化するにある。これはマルクスの共産主義者同盟以来の伝統
 的精禅で第一インターナショナル亡び、
 第二インターナショナル没落に瀕し、第三インターナショナルが正
 統なる後継者と号して現れるに至る長い苦悶の歴史をもち欧洲戦争
         b−
 迄失敗を繰りかへしてゐたのである。
 欧洲戦末期に於けるソグエート共和国の建設は、第三インタ⊥
 ショナルのせ界政策最初の成功である。この時期に於て第三イン々
 −ナショナルの全力はこの新に得た一大国家の維持に注がれたこL
 はいふまでもあるまい。
 だが之は非常に困難な事であつて国家の基礎は絶え間なく脅か宅
 れてゐた。従つて之に引続く時代にあつてもソグエートの国力はL
 ぅてい第三インターの直接手段となり得ず僅に財力の一部を提供−
 たに過ぎぬ。欧洲戦争直後の第三インターの目標は欧洲諸国に向け
 られてゐた。
 乃ち戦時及戦後に続く政治及経済的不安に基くその社会動揺に−
 て更に環乱状態を拡大し、あらゆる手段を用ひて各国に共産主義政
 府を建設しょうとするにあつた。そして一部の国に於ては成功しわ
 けれども、やがて各国共に漸次経済及政治の状態も安定し社会秩度
 が回復されるに従つて却つて反動的に圧迫せられるに至りその勢力
 は潰滅に瀕しもはやこの方面に於て当分の聞かうした非常手段に詑
 へる方法は不可能〔と〕なるに室つた。
 だがソヴエート共和国も亦反対勢力を撃破して漸く国家の基礎を
 固くしこ、に各国ともその色彩を明かにした。ソグエート共和国の
 基礎は又その内証を清算しスターリン独裁を完成することに依つで
 更にまた強化された。而して「一国社会主義」の実施が是認され、
 C 第三インターナショナルの政策は唯一のプロレタリア独裁囲わ
 るソグエート共和国の発展化によつて実現化され成功すると認めふ
 れたのである。

14

  C 今日のソヴエート共和国の国策は当然第三インターナシ守ナ
  ルのせ界政策の実現の一階程として見なければならぬし、第三イ
  ンターナシ召ナルの意志は何れソグエート共和国を通じてその国
  策として現れるのである。
   第三インターナシ。ナルとソグエート共和国とは別個の存在で
  あることはしば〈ソグエート共和国当事者の言明するところで
  ある。ソグエート共和国も国家として形態を整へた存在である以
  上一般国家として行はざるを得ざる一般事情があり従つてその存
  在がその必要のないインターナショナルと異なるのは当然である。
   但しその指導精神が全然別個であるといふ意味があるのは国家
  として不利なことを蔽ふソヴエートの詭弁に過ぎぬ。
  欧洲諸国の状態に当分見切をつけた第三インターナショナルはそ
 の主力をあげて東洋、特に動乱支部の共産主義化に全力を尽すこと
 となつた、而して国民党と握手することに依つて著しい進捗を示し
 たが国共分裂以来この方法も一頃座を来すに至つた。
  其後共産党は独立を以て国内に中国ソヴエートを建設し屡次の挫
 折はあつたが次第にその勢力を増大してゐる、凡そ現在の支那が絶
 え間なく動乱をくりかへしてゐ乍ら尚その形態を保存してゐるのは、
 日本の存在と、英米等各国勢力関係の平衡にある。
  ソヴエート共和国と雄も支那を共産主義化せんが為めにはその強
 力なる国力に依る侵略が最も有利なことは万々承知である。たゞ他
 の諸国、特に日本との衝突を恐れて実行し得なかつたのであるが、
 かうした支那の共産勢力の運命を決すぺき状態の下に於ては何れ支
 那に於けるソグエートの勢力を決定的ならしめその影響の下に之を
 共産主義化する必要上必ずや戦争を煮起せずにはおかぬであらう。
  満洲事件の勃発は日本の支那に対する立場は勢力を決定的ならし
 め徒つて、ソヴエートとの衝突の危険性を著るしく増した、たゞ左
 の如き理由の伏在が今日迄戦争に至らしめてゐない。
一、今すぐ戦争を行へば自己統制経済の破綻を来し経済を混乱状態
  に陥らしむると共に一国社会主義の実証的基礎を崩壊せしめ共産
  党主義の危楼が生ずる。
 ニ、陸軍力が日本に対して尚絶対的優勢でない。
 三、波蘭等の対立関係にある反共産国家の国力も今のところ馬鹿に
  出来ぬ。
 四、英米仏等の反共産国家の向背は疑問である。
 五、国民特に農民薮乱の虞がある。
 併しこれ等の条件もその一部を除き何れも統制経済の確立によつ
 て排除されるものである。
  従つてかうした原因が除かれるときは日本との戦争の危険性は甚
 だしく大になると見ねばならぬ。
  以上に於て明かなる如く、日本とアメリカ或ほソヴエートの関係
 は日を経るに従つて危険性を増大してくるものであり、何れ衝突は
 免れぬものである。況んや戦争はこ〜に予測を許さぬ、突発事件に
 ょつても起るものである。我々は充分に覚悟せねばならぬ。
  次にアメリカ合衆国或はソグエート共和国と戦争を憲起した場合
 のことを考へて見る、だがこの予想はいふまでもなく現在の日本、
 北米、蘇聯邦の状態を基礎とし、現状を以て想像され得る限りの将
 来の状態を考慮して述ぺるのであつて将来戦争を左右し得るやうな
 国家構成の変化を来した場合には妥当しないものである。一体に近
 代戦争に於ては単に直接的な戦闘カの優勢のみを以てしては、最後
 の勝利を収められないものである。これに相応する統制された国内
 組織「従つて旺盛なる国民精神と戦争遂行の為めにあらゆる国家機
 関が完全なる協同をすること」豊富なる財源に依つて始めて目的を
 達し得ることである。勿論古代に於てもこの関係は認め得るが近代
 に於て戦争の複雅化と長期化の現象は政治経済教育等すぺての国家
 機能をその渦中にまき込む。従つて戦争は、
 D 背後の関係に依存するところが益々大となる0
 D 欧洲戦争に於ける独逸の敗因は決して戦争の失敗ではなかつ
 たことを考へてみなければならぬ。又古代に於ても百戦百勝した
  カルタゴの滅亡の因は確にその一つをこ1にみる。
 かく戦争をその勝利を支配する戦闘力と国内組織と財力の三つの
 要素に分つて考へるとき日米、日蘇両戦争の全貌は相当明かになつ
 てくる。戦争に勝たんとするものはその如何なる点に努力を傾注す
 ればよいかも明瞭となつて来るであらう。
 先づ日本と米国との戦争について考へて見る。この場合誰しも気
 がつくことは両国の間に太平洋と云ふ大きな地理的障害を控へてゐ
 ると云ふことよりして戦争はソグエートとの場合に此してょり持久
 性を帯び且つ戦闘力に訴へる部分が緩徐となつて来るといふことで
 ある。戦争は直捜的な意味に於て「生ぬるく」なるかも知れない0
 戦争は海軍の争覇戦を以てその運命を決定的にするであらう0
 E だが一方が決定的な海戦を辟躇した場合は、他の側に非常に巧
 妙な作戦と天祐とを有しなり限り決戦を希望した方が多少有利にな

 るか或は敵の罠にか1つて負けてしまふかになる。そして戦争は経
 済破壊戦になる。乃ち内には次第に高潮して来る経済的破綻を救は
 んとする努力、外には相手国に対する貿易破壊戦が行はれる、若しん
 何等かの突発的事情がない限り戦争は全くの持久戦に入てしまふ0▲
 E 両国の海軍力は公表されてゐる限りに於てはどちらも攻勢を
 とつて勝を制するには充分でない、乃ち質的に優れてゐる日本海
 軍は量的には米国に現在の保有高も戦時非常生産に於ては及ばな
  い。「之は両国財力の相違である。」
 貿易破壊戦は単なる量的な関係のみでは米国の方が損害が大きい▲
 日本が対米貿易に於て失ふところのものょり米国が東洋貿易に於て
 失ふところのものゝ方が多いからである。
 併し貿易に対する脅威といふものが国家経済組織に与へる影響と
 いふものは比較にならぬ凝日本が大である。乃ち米国に此して日本
 はその全産業が貿易に依存すること著るしい。
 工業の三−四剖までは貿易によつて成立してゐるからである。
 日本の東洋貿易まで脅威されるとなるとこの関係は益々ひどくなつ
 て来る。かうした不利を救ふには、日本の経済組線「外国に依存す
 る」を改善するより外に方法がない。満洲問題はかうした意味に於
 ても日本の将来にある示唆を与へる、自立経済の樹立が難しい場合
 勿論日本の貿易は海軍が主力をつくして守ることになる、併し脅威
 はとうてい免れない。
 戦争に依る内部的な経済破綻は戦争期間を支へるべき諸種の物資
 の欠乏と之に伴ふ国内組織の矛盾の爆発たる社会動揺より生ずる。
 戦争に要する「直接戦闘の為めにも」物資は現在のところ日本は

15

  米国に比して比較にならないほど乏しい、満洲国の資源が充分に利
  用されるとしたらこの関係は大いに緩和される。併し現在のまゝ
  「現在の社会及経済組織では」では之も望みが薄い。その詳細は後
 ・述する。
   然らば国内組織の状態はといふに之も日本は必ずしも米国より有
  利とはいへぬ、むしろ物質的には米国は豊富な財を国内一般にばら
  まくことに依つて国内矛盾を或時期迄「それが不可解になるまで」
  蔽ふことが出来ること1、貿易破壊戦による影響が少いのが日本に
  此して有利であるとも考へられるのだ。たゞ精神的な威力は今のと
  ころ日本の方が勝つてゐるであらう。
   戦争に於てときにあらゆる物質威力に匹敵し、又之を駆使する上
    〔此カ〕
  に人なきカをもつてゐるものに精神威力がある。
   この計量は数学的に現はすことを得ず従つて自然科学的な方法を
  以てしてはその研究極めて困難なるを以て今まで極めて抽象的なこ
  としか述べられなかつたことである。
  F 歴史的な方法によれば充分判明することである。
  吾人の信ずる限りに於ては日本の国体は戦時の国民的精神の結合の
  本源として他に匹敵し得ぬカを以つてゐるものだ。
   F 宗教戦に於てその軍隊が相手に此して物資の欠乏やあらゆる
   戦闘条件の不利をもしのいで強かつたと云ふことは歴史の度々示
   すところである。又民族戦争が常に秀れた結果を以て戦はれてゐ
   たと云ふことは戦争するものに如何に軍国なる共同的中心観念が
   必要であるといふことを示してゐる、この関係は日本に於ては常
   に見られる、日露、日清ほいふ迄もなく思想が悪化したと林せら
 れる現代日本人も満洲事変に際しては、やつぱり国民的昂奮にま
  き込まれてゐたのである。
 併しかうした精神上の優秀が物質の不足に対する安慰として用ひ
 られることは充分注意しなければならぬ。
 G 又形式上には冠絶してゐる筈であつてもその問内容の変化によ
 つて強くもなり弱くもなるのである。
  →極端な場合を言へば形式だけのこして内容が空虚になることも
 考へられる」乃ち国内状態が国体と一致する様になつて来るに従つ
 て強くなつて来るのである、かうした関係に於ても近時の日本には
 憂ふぺき多くのものをもつてゐる。
 G 国家の弱くなるのは国家の内容たる国内組織及状態が団体と
 一致せぬものを多くもつて来る結果、国民精神が薄弱になり思想
  的に一致せぬ様になるのである、であるから之れにそなへるには
  「精神の緊張」を高唱するのもよいがもつと必要なのは、悪い状
  態を改善することである。
  国内の矛盾状態が国家観念を超えて決定的爆発的になり内乱が現
 有秩序を停止せしめた場合戦争は一方側の没落に依り急速に鰐決す
 る0戦争に勝たんとするものはかうした場合の予想を充分にし自国
 を守ると共に相手国にさうした状態を起さすぺく努力せねばならな
     ヽ O
  tV
  以上に於て漸次明かにしてきた如く日本とアメリカとの戦争は畢
 克するに、膨大なる財力を有し、大海軍を有するアメリカに対し貧
 弱なる財力と劣勢海軍を有する日本が如何に戦ふかといふ点に関係
  してくる。
 就中アメリカ側がその豊富なる資瀕と優秀なる生産設備を以て続
 鹿生産する戦闘資料に対し日本軍が如何に苦戦するか、又戦争が永
 びくに従つて国民の生活必需品の欠乏が如何に戦争当事者を苦しめ
 るか思ひ半ばにすぎるものがあるであらう。戦争に先立ち我々のな
 さねばならぬ点はこゝにあるのだ。このことはソヴエートに対する
 場合も全然同様にいひ得る。
         ]四
 ソグエート共和国と戦ふ場合はアメリカの場合と異り直ちに陸軍
 の衝突が起つて来る、乃ち両国とも満洲及北部支部に兵力を集中し
 て武力による最後的解決を求めるであらう。併し、
 H 両国共相手を直ちに最後的な鰐地に陥れることは困難で従つて
 戦争は消耗戦の形をとり持久的となる。時期が長びくに従つて直接
 的な戦闘力以外の要素が戦争を左右するやうになつて来る0
 H 勿論武力による解決といつても、必ずしも日本がモスコIを
 攻略し、又ソグエートが東京を攻略せねばならないといふ意味で
 はない、それ以前に形勢は決定的になるであらう。併しさうした
 形勢に立至らしむるには長年月を要する、むしろ他の要素が決定
 する場合の方が多い。日本とソグエートとの陸軍力の比較は外面
 的にいへば日米海軍の比較に於て述べた如く日本は質的に優れ量
 的に劣つてゐるのだ、併し将来について云へばソヴエートはアメ
  リカに此し質的には良くなるであらう。
 「ソグエートに於て非常なる努力を以てなされてゐる国民文化増
 進運動と軍隊内に於ける政治作業の二つは赤軍を漸次良質ならしめ
 てゐるのだ。」
  又他との関聯についていへばソグエートの経済組織はアメリカと
 は異り経済組織そのものが直ちに全力をあげて戦争に参加し得る組
 織を平常よりもつてゐると云ふ点に非常なる有利を認められる0
  統制経済の芙旛は合理的な計画的な経済の実施により一般に生革
 を増加し国富を豊かならしめる結果経済的な目的を達すると共に全
 産業を自由に一つの目的のもとに動かし得るといふ点より、営利よ
 り生ずる不合理を除き社会的な目的を達し得ることも出来る0そし
  て同時に、
 R全産業が戦時に当り尽く軍需工業に化し得るといふことも出来
 て軍事上も有利である。ソグエートに於ては就中工業の重工業化・
 鉱業の著大なる発展は将来戦に於ける同国の物質的威力を驚威的な
  らしめるであらう。
                                        〔くカ〕
  R 日本産業の主力が依然瞳工業にあるといふことは著るしい、
  日本の工業的軍事能力を減じてゐる。
                          〔恐妬カ〕
  このことは又日本巨大財閥の利己心及怖布心と共に、満洲に対す
  る工業政策の実施を阻害してゐる。
  併しこゝに考へなければならないことは統制経済実施の途上に於
 て、その必要上と、現在戦争への危横を充分包含してゐると云ふ事
 情に於てソグエート政府として止むを得ず富国貧民策をとつてゐる
 といふことである。
  乃ちょり大なる財力を次の計画経済に使用すると云ふために、又
 戦争に当りてはその全能カを軍需工業に使用するために富は国民に
 分配されずに納収し得る最大限を国家が得有してゐることである0
 こゝに無理がありソヴエートとして一の危険を有してゐる0

16

  戦争が長野にわたるとき、さうでなくとも粛乏しでゐる国民生活
 は益々窮乏する、戦争の為めには豊富に物資が使用されるが国民生
 活は極度の節約を強ひられるからである。
  かくて理解なき国民は少しでも隙があれば生活の安きを食らうと
 し、内乱にまで至る。だから戦争が圧倒的に優勢な状態を以て進ん
 でゐる場合ほ良いが一度踵扶を来すと恐るぺき状態が現れないとは
 云はれぬ。
  特にその政策に国民の相当部分を占むるべきものに対して無理が
 あるときはその関係は著るしくなることは云ふまでもあるまい。ソ
 グエート聯邦はかうした危険に対して必死となり国民政治教育を行
  つてゐる。
  軍隊内にあつては特にその努力は顧著である。併しソグエート経
 済の基礎が労働者偏重に過ぎ今尚
  農民経済と一致しない点ある関係上国民大多数を占めて居る農
 民の問に之が充分奏功して居るとはいへない。
   近来コミンテルンの屡々決議し、又ソヴエート当局として大
  努力を払つてゐる農民の社会主義化はこの点にある。リフホース■
  コルホーズの発達は結局農民をして労働者と一致した経済にせし
  めんとの意に外ならぬ。
  統制経済の実施に伴ふかうした根本的な苦悶は将来日本にとつて
 同様以上に問題となつてくるであらう。
  乃ちソヴエート聯邦にあつては一定した方針のもとに統制経済を
 行ふが日本が戦時実施すぺき統制経済は自由主義的な資本主義経済
 と拘束的な国家統制経済の矛盾せる二つの内在により、すこぶる雑
 多な内容を含むであらうひ
 従つてそれが強力的に統制され1ぱされるだけ甚だしい不公平を
 来し、又僅かの隙にも著しい混乱が起るに至るであらう。かく日太
 とソグエート共和国との戦争は、ソヴエートの有する豊富な財力と
 優勢な陸軍に対して共に劣れる日本が如何に戦ふかと云ふ点に存し
 て来る。
 両してソヴエート計画経済の実施は年月と共に漸次成功し来り加
 速度的に一般財力に戦闘資材上に優勢を来してくるが故に何年かの
 後には驚くぺく強大化するであらう。
  かうした予想に対して我々は慄然とせざるを得ないのである。
  以上の日本の戦ふぺきソヴエート及アメリカ合衆国との関係につ
 いてその形相を漸次明かにして来た如く日本の立場は決して有利♪
 はいひ得ないものを多分に含んでゐる。呑恐るぺき不利なる場合す
 ら考へられるのだ。之に対して、執るぺき手段は明かである。
 戦争に先立つて日本は之等両国に打克つぺき国家内容「国内組劫
 の整正とその支配下に戦争に堪へ得る丈の物資の保有」を有すぺく
 準備をすると共に日本人の国民的結合を撃固にし国家的苦難に、蟻
 へ得べく努力せねばならない。
 或は戦争以上に大決心が要るだらう。だがそれに依つて戦争は睦
 ち得るのだ。
        ‥国
 次に日米あるひは日蘇戦争によつて蕎起される世界戦争の形につ
 いて述べる。だがこの際の国際関係は甚だ微妙な予測を許さぬ関係
 を有し又将来の諸種の原掬に依つて変化する予想し得ぬ点を有して
 ゐる。であるからこゝにはたゞさうした際の一般的な形についての
 み述べること1する。
  そして先づ日本にとつて最も大なる関係を有する青郷よりはじめ
 る。支部との関係について考へるには先づ支那と云ふ存在の分析に
 ょり始めねばならぬ。我々の考へる限りに於ては、
 Q 今日の支那とは諸種の民族の居住してゐる一定地域の綜合的名
 殊に過ぎぬ。勿論かつては清、漢等の民族が他を統一して一国を形
 成した時代もあつた。併し今ではたゞ混然たる名称が残つてゐる丈
 けである。
 Q 此の地域が各国に分割されずに残つてゐたものは前述せる如
 く日本の存在と列国勢力の平衡にある、併し将来戦争が東洋を中
  心として行ほれた場合これが分割されることは明かである。
 支那が統一を失つてかく単なる地理的存在となつた原因は、今こ
 こに詳述するいとまないが要するに先づ帝国として存在すべく日本
 の如く歴史的に一貫した地域一般の共同観念の中心がなかつたこと
 に始まる。
 従つて国体の中心たる君民の関係分明ならず放伐相継ぎ、君主は
 征服者として国民を搾取し国民は自己の保存の必要上より益々
 O 個人的に消極的になつた。このことは帝政が亡び共和国となる
 についても近代欧米諸国の如く地域民一般の共同利益といふ観念を
 有せざらしむるに至つた。国家として最も必要なる中心のない地域
 は畢克、単なる地域に止るのは当然のことである。
 I 欧米諸国も個人主義は大いに発達したがその方向は次第に消
 極的に個人の利益を守らんとする考へになり、国家の基礎は却つ
  てそれょり生れ出たものである。今日の英国の如きも形式上は君
 主を有するもその精神よりすれば一つの共和国と考へるぺきであ
   る0
  かゝる地域の住民が国家観念の欠除せるは当然であつて国家の一
 員として他国の侵略を防がうといふ意志は極めて薄弱なるぺき等で
 ある。
  しかるに最近、支部内地に排日の声大なるは一つには一般的に蒙
 昧なる地域民のもつ排外思想によるところも多いが一つにはある種
 の政治的策謀を試みんとする支部一部の人間が他の諸国「英、米」
 の利益的策謀と呼応してこの声を起させたことに依る、而して之を
 日本側より云へば畢克するに日本為政者の失敗と云ふことが出来る
 のである。
 乃ち日本為政者が識見低劣認識不足にして一貫した対外方針を欠
 いてゐたといふこと、日本の外交官が外国化した人物を以て最も適
 当なりと認めるの甚だしい愚をなしてゐたからである。
  かうした外交官も明治初年頃で我掲が他と肩をならぺんとするに
 汲々たる時代にあつては外見上は必ずしも不都合を見せなかつた。
 「勿論首脳者は常に自主的外交を行ふぺく努力しなければならない
 のであつて、却つてさうした人士を有してゐた」、併し日本の立場の
 向上に従つて日本外交は国家に害をなす迄に至つたのである。
 支那問題についていへば英米諸国が自己の利益の必要上この地域
 をあいまいな存在としておかんとする政策に意味なく附和雷同し一
 の確たる政策も取り得なかつたが為め排日の声の起るに際しても消
 極的な防止篤の外とり様なく遂に根本までつき込むを碍なかつたの

17

  である0
  将来日米、日蘇の何れの戦争が起るとも日本は支那大陸の一部或
 ひは大部に行動しなければならないであらう。世界大戦ともならば
 尚更のことである、徒つて支那住民の向背は日本として相当大なる
 影響をもつ、この意味に於て支那内地に排日の声大なるは憂慮すぺ
  き事象といはねばならぬ。
  併しこの問題は他のあらゆる国際的事象と共に日本政府の勇気に
 より将来は漸次軽減し消滅すぺき性質をもつ。「問題は政府に勇気
  をもたしむぺき国内的基礎を作るにあるのだ!」乃ち日本が這般の
 満洲国成立に於て行動せる如く支那は内地に於て次第に国家的観念
  をもつ区域を増大して行くやうに指導すれば支部自身が更生すると
  共に
 M 英米の使吸にょる排日の如きは当然漸次消滅してゆくぺきもの
  である。
  M もつとも上海事件の際の排日の如く自己の住んでゐる地域内
   へ異民族が来り、たとへ悪者にもせょ自己軍隊を揉摘すると言ふ
   やうな時に排外的な意味に於て起る群集的昂奮は認めねばならぬ。
  しかしかうした民族的昂奮はやがて決定的な日本政府の意志に俵
   つて対西洋の感情に変化せしめ得るのだ。
   であるからこの意味に於ても日本はもつと〈国内組織を清算し
  内部改造を断行しょり強き意志の下に行動し得る政府を必要とする
  であらう、そのもう少し詳しいことについて最後に述べる欧洲諸国
  の向背も日本の立場に一つの大きな影響を持つ、就中経済上と海軍
  力の脅威は相当大きい「特に英海軍が決定的に敵国にまはつた場合

 の脅威は重大なものである。」
 併し欧洲諸国は日本の当面してゐる問題に対してソグエート及び
 アメリカに此して甚だしく関心が少い、それと諸国は欧洲に自国の
 問題をもつてゐない。と云ふ点とを日本外交官が巧みに利用すれば
 日本の態勢は決して不利ではなからしめ得るだらう。
 その詳細については他の機会にゆずることにして、こゝには利用
 し得べき問題の一端を羅列するに止めょう。
一、ソグエート経済と他の諸国との対立
 二、ドイツ戦債問題
 ≡、印度の民族運動
 四、極東問題
 五、伊太利とユーゴスラグイヤの地中海をめぐる関係
 六、小国の不満
 七、国内のファッショと共産勢力の対立等々
 かうした際に日本が東洋の盟主として東洋詔民族を指導すぺき立
 場をとり民族運動を援助することは直接効果を別としても必要であ
 る0
 乃ちこれは日本将来のせ界政策の一端に着手し得るといふことに
 なる。これも何れ他の機会に於て鮮明にせねばならぬことであるが
 我々の信ずる限りに於ては今日の欧洲文明はもうすでに頂点に達し
 その最初より胚胎せる個別主義の故に今や解体期に入りつゝあるの
 である。
 悠久なる歴史の目より見れば世界戦争を経て、東洋のもつ高揚せ
 る精神文化が世界を征服し融合すぺき時代の一端に立つてゐるので
 ある。今日の切迫した時代にかうしたことを云ふのは過ちであるが、
 我々の眼は常に速くに向けられてゐなければならぬのだ。
 現在の東洋諸民族は現在に於ける一部の汎東洋主義者の言ふが如
 き信用し得べきものではない。が又一部人士の言ふが如き軽蔑すぺ
 きものでもない。非常時に望んで最少限の期待はし得るし、又歴史
 的必然性は遠い将来に於て必ず大きな動きとなさしむるだらう0
        ‥閃
   0 0 0 0 0 0                 0 0 0 0 0 0
 最後に我々は日本が戦争を前にして如何なる手段を講じたならば、
 0 0 0 0 0
 戦争に勝利を占めると共に国家将来の大発展を望み得るかと云ふこ
 とにまで論を進める。既に廣々述べた如く将来日本が戦争する場合
 最も不利なのは第一資源が著るしく不足してゐるといふことである0
 次に我国の経済組織が貿易に依存するところ多き結果自立性を欠
 き自給経済に甚だ困難を感じると共に低度工業が多い結果、戦時軍
 需工業の如き相当高度化する工業に転向すること著しく困難で従つ
 て戦闘的資材の欠乏を来すに至るといふことである。
 そして最後に他の列強と同じく経済制度の内部に矛盾不合理を合
       Lマ†〕
 むが故に一旦虚隙をしたならば戦争を不可能ならしむるほどの社会
 動揺が来はせぬかとの虞である。
 そして有利とするところは幸ひに未だ国民一般に相当茸固なる国
 家観念を有する結果精神的旺盛を有してゐること1、直接戦闘威力
 が質的に優秀であるといふことである。以下その各々について日本
 は如何にすぺきかといふことを述べる。
       〔変〕
 満洲事件の解決は極度に窮乏せる我国資源に対して一道の光明を
与へた、そこには広い土地と豊かな鉱産物がある。広い土地は極度
 に土地に餓ゑてゐる、我農民を充分収容し農村問題の辟決に資すス
と共に戦時食粗問題をも解決するであらう、又豊かな鉱産物は滅t
 に瀕せる我国工業に多大の生気を与へると共に軍需工業にも大なる
恩恵を与へるぺき可能性を充分有してゐるのである0しかるに事尊
 はどうであつたか、その解決は我国経済組織をつらぬく
O 営利的経済主義の為に遅々として進んでゐないのである0乃ち
農民移民の為には相当な物資を必要とするのであるが営利をもとゝ
せる我国経済組織は殆んど利潤の生ぜざる、「のみかは最初の数年
 の如きは全然喰い込みであつて社会奉仕的精神にあらずんば出来ぬ
相談だ」満蒙農業の如きには一顧もしない、又鉱業にしても直ちに
利潤の生ずるものでなければ手を付けない為に数年乃至十数年でな
ければ利潤の生じない奥地にある鉱山の如きは何時までも開拓され
 ない。
O 況んや如何に全産業繁栄の原因とならうとも自己直接の利益に
ならざる事業の如きはとうてい行ひ得ざるところのものである0か
ぅした現象は世界営利経済主義を通じてのことであるが、
 我国に於ては特に著るしい、
 O 営利主義経済に於ては人間的なる道徳も社会的な必要もすぺ
 て「営利」の前に無視せられるといふ現象を量する0これは今日
 に於ては最早や個人の意志を超越して組織存在の根本条件になつ
  てゐるのだ。
  ぁる重役が若し道徳観念の故に「営利」に反する行為をしたな
 ら彼は直ちに「無能者」として失職の止むなきに至るだらう0だ
 から個人の倫理化によつてこの間題は決して解決のつくことでは

18

  ない。
  今次の事変の後で三井が三百万円出したり、三井三菱が千万円
  づ1出したと云ふ様なことも畢克デパートが客寄せに「奉仕的廉
  売」をやるが如きエキストラ的行為であつて結局三井三菱の営利
  組織には宅も変化を与へてゐないではないか、
  O 台湾が日本の宝庫となるには二十年の長年月の投資の結果で
  ある。満蒙が日本の為に開かれたからといつて直ちに明日より実
  収的大利益を得んとする如き夢想も甚だしい。
   又一般に産業勃興のことを考へて見ても今日の日本の重工業の
  発展の為に八幡製鉄所による国家の移しい失費があつたことを考
  へねばならぬ。
   欧洲諸国の海外市場開拓は常に民間資本が先に立ち国家資本
  が後になつてゐた。例へば印度経営にしても東印度会社の業績の
  結果が英領印度を生んだのである。しかるに我国に於ては常に政
  府が資本を投じて後民間が甘い汁を吸つてゐる。このことは事変
  以前に於ける満洲経営失敗の最大原因の一つである。又国家が今
  日の多大の国債に悩んでゐるのもその原因の一つと数へ得る。
  更に一歩を進めて考へなければならないことは今日の世界不況の
 原因が現在の経済制度に内在する需要供給の不均衡にある以上(3
 に於て既述)その根本的特徴の除かれぬ限りよし満蒙の開拓が行は
 れても結局一時的なものに止まり永続性を有せぬといふことである
 乃ち
 Q 滞蒙開拓成功しその豊富なる物資を擁して英米資本に対抗して
 その生産物を海外市瘍に供給することを得た場合たしかに一時的に
 は日本産業は清澄となり国民一般にその利益の一部の分配に与るこ
 とを得る。
  併し世界市場の購買力が一般に低下してゐる以上、日本の生産品
 もさう吸収される道理なく必ず行詰つてくる。そして
 O 高関税と生産過大によつて日本経済は今日以上の破綻を示すで
 あらう。かうした結果の生ずるのを未然に防ぐには
 S 世界営利経済主義が訂正されて世界的に需要の平衡を来すぺき
 方法の考へられぬ限り日本として生産の主要消費を日本及満洲の経
 済ブロックに求めこの中丈けで平衡を得しむるより方法がない。そ
 れには統制経済の実施が絶対必要となつて来るのである。
   今日我国工業「前述せる如く貿易を目的とするものが主力で
  ある」が衰退した原因は畢克資源の欠乏に帰することが出来る。
  元来我国工業は多少豊富だつた資源と低廉なる賃銀を利用して比
  較的初歩的な粗工業「綿糸の如き」を行つてゐたのであつて支部
  貿易に依つて利益を収めてゐたのである。が近来に於て支那工業
  の勃興と共にその豊富なる資源と低廉なる貸銀に圧迫せられて
  「一時的な原因としては、銀の値下りによる点もあらう」経営困
  難に陥つたので支那工業の達し得ぬ精工業、重工業に方向転換し
  ようとしたのであるがこ1には英米の先進工業国が控へて居り後
  進国として技術的に不利を来してゐる上、その有する資瀬上より
  も競争にならない為めに之も行詰つてしまつたといふ結果を生じ
  たのである。
   我国工業が依然貿易に依存するとすれば之を解決するには豊富
  なる資源を獲得して原料を低廉ならしめ以て英米に対抗するより
 方法がないのである「勿論有利なる消費地を政治的に占領して関
  税壁で囲むのもい1がこれは現在として困難なことである。」
 O 世界各国と旦商率の保護関税に依つて他国生産物の自国侵入
  を防止し国内に得たる利潤を投じて海外に安い商品を売らうとし
  てゐる「極端なのはダンピングである」で、結局国民は高いもの
  を男はされることになり少しぐらゐの利益分配が増加しても割に
  合はぬことになる。
  それが極端になれば社会的危機にも至る。かうした関税政策も
  併し結局購買力の伴はぬ限りある一国々々にとき′ぐエキストラ
  の利益を与へるに止り世界不況の解決は宅も関係ないのみか害を
  なすに至るのである。
 S 今日の世界の悩みはそこにある。英米の政治家は戦債の棒引
  きを以てある程度迄解決する如く考へてゐるが根本原因は組織自
  体にあるのであつてこれを改革する勇気がなければとうてい如何
  ともすぺからざるものなのである。
  尚之に関聯して満洲問題行悩みの原因の一つは満洲国当事者の
  「統制経済実施による楽土の建設」と云ふ理想と現実の一致せ
 ぬところょり生ずる。
  乃ち完全なる意味に於ける統制経済の実施は国家の手に全産業を
 把捉することが必要条件であるが今日の清洲開拓に於て最も必要と
       0 0
 する資本は今日、日本に於て資本家の有するところであり、その助
 力なくしては不可能である関係上どうしても産業組織内に資本家の
 侵入を拒香することは出来ないのである。従つて若しその理想を完
 全に行はんとすれば日本産業組織改造が先決問題なのである。
  この点の解決が行はれぬ限り清洲国当事者の煩悶は依然として続
 き解決の根本的なことは到底望まれぬであらう。
   清洲国はその成立に当り多くの我兵を殺傷した。多くの人士
  は国家の利益の為めに奮闘したのだ。しかもその得るところ尽く.
 何等の努力も払はなかつた一部利権屋の占むるところとすれば満
  洲に貴き鮮血を捧げた幾多の将士の霊は果して浮ばれるであらう
  か。
        ‥肘
 満洲問題の根本的解決は営利経済主義を排し国家統制経済による
 の外はないのであるがこの関係は日本国家それ自体としても早晩実
 施しなければならない独自の理由を存するのである。
  既に塵々述ぺた如く我国経済の軍事上最も不利とするところは自
 立性を欠くと云ふ点である。このことは軍事上はもとより経済上に
 於ても不利を来してくる、日満経済ブロックの目的とするところも
 結局自立経済の樹立に帰し得るのである。而してこの自立性を欠く
 といふ点を改革せんが為には
   豊富なる資源がなかつたら資源は他に求めるより他に方法な
  く、従つて貿易に依存することになる。我経済が自立性を欠いた
  のは実にその最大原因をこ1に有するのである。併し今や満蒙の
  天地が開かれこの点は充分解決し得る見込がついてきたのである。
 残るところは勇気である。尚自立性を欠く経済は常に他国の需要
  に左右される弱点を持つてゐることに気をつける必要がある。我
  生糸の不自然な暴落は実にこの点にある。
 統制経済の実は経済が計画的に行はれる結果産業一般に合理化せ

19

 られ又息ひ切つた財力の重点使用に依つて生産を著るしく増大する。
 区々の破綻はあるとしても亦一時的には国民の日常生活への経済的
 圧迫はあるとしても国家社会全体としては非常な驚異的な財の増加
 を示すに至る。その結果はやがて国民一般の幸福になることは勿論
 であるが戦争に対してはその途中に於ても財的に著るしい保証を与
 へる。
  若し日本が統制経済を行はぬとするならば数年の後には統制経済
 たるソグエート聯邦との間には非常な国力の開きを生ずるだらう
 「併しソヴエートの社会主義的統制経済は産業組織を一時全然破壊
 してしまつた為め全然新らしき建設となり戦争が起つた場合破壊せ
 られる虞がある。
  日本は之を、模倣してはいけない」
  更に重大なのは、統制経済の実施により現有経済制度の有する社
 会的矛盾を除き以て国民生活の安定を得るといふことである。この
 為めには勿論実施の方針が社会的に正しくならなければならないの
 であつて概括的にいへば経済組織の中心に「営利」の観念が存在し
 ないほど完全となる。
  従つてその最高形態は全産業の国家管理であるがそれに至る道程
 としては数次の現実に適応する形能を必要とする。要するに終局目
 的は、
 堰@国民生活の保証であつて之によつて経済が社会生活の必要と一
 致する様になり国家は精神的に物質的に堅実なる基礎の下に発展し
 得る様になる。
  堰@国民生活の保証とは遊んでゐても食へるといふことでは絶対
  にない。従つて失業手当の如きは予想せらるぺきでなく組織が遊
  んでゐる「失業」ものを作らぬといふことに依つて生活を保証す
  るのである。
  かうした一切の整理は平時に於ては非常に困難であるから戦時に
 当つて非常意識の下に強力なる統制を実施してその俵、その状態を
 国家経済の基本形態にしようとの論があるが危険を伴ふと共に、又
 不可能に属すぺき事項と考へねばならぬ。乃ち戦争目的の遂行とい
 ふこと丈でも非常な大事なるに更に同時に国内改造の如き大事業を
 併行して行ふが如きは共に完全なるを得ないであらうと思はれる。
 のみならず経済組織といふが如きものは改造して直ちに運用し得ぺ
 きものでほないのである。
  ある期間の経過に依つてはじめて不合理なる点が陶汰され、又国
 民はその組織の下に訓練されて、はじめて運用は妙を得るのである、
 又況んやかうした整理は、
                                                   【▼†〕
 堰@戦時に於ける矛盾の爆発を失くさんが為めである。に於てはど
 うしても平時に於て行つておかねばならぬ。
  堰@戦時に当りて国内に矛盾状態を包蔵してゐるのは恰も爆弾を
  抱へてゐる様なものであつてその恐るぺきはいふまでもない。戦
  争が長びくに従ひ又戦争の影響があらゆる国内機関に影響してく
  るに従ひ危険は加速的に大となる。さうなつた暁に於てあわてゝ
  これを防がうとするも、もう追ひつくものでない。ロシア革命の
  初期の有様は之を実に明かに示してゐる。
  然らば平時に於て如何なる方法に俵つて実行され得るか、その詳
 細は別論に於て述べるとし、こゝにはその大要を述べるに止める。

 乃ちまず
 堰@実力を背景とせる強力なる政治のカに依り現日本経済の悪弊の
 中心根幹たる財閥の産業支配樺を至上に奉還せしむることが必要で
 ある、次いで
  産業によりその経営の方法を決定して漸次的に国家のカに上つ
 て統制せられ得る如く改めるぺきである。又経済の自立性に反する
 産業の如きは自然に衰滅に帰せしむべく努力せねばならぬ、この際
 多少の犠牲を生ずることは当然予想されるところであるが到し方な
 いことである。
  政治改革、教育改革も勿論之に伴つて行はれねばならぬ。
 堰@実力と至誠至純なる思想と比類なき意志と実行力を有する軍
 隊に外ならぬ、雨して又この実力はあくまで背景であつて政治の
 前衛であつてはならぬ、国家的大事業に対して一個の利己心より
 妨害を加へんとする徒あるひはその組織に対して監視鷹懲を加ふ
 るに止らねばならぬ。勿論机上的な純理論としてはか1る背景も
 なくして行ひ得るのが理想であるが、不可能であることは今日具
 眼の士の誰も認めるところである。行ひ得ぬ理想にすぎない。
 堰@要は改革に不自然なからしむる為め現実状態に於て最も適当
 した無理のない方法をとらんとする為である。
  例へば技術的について言へば重工業の如きは最も国家管理を適
 当とするが内地産業の如きは家族経営を可とする。又経済上より
 いへば大工業を直接国家の手に移すやうにするのは容易であるが
 中小工業は管理に骨が折れて第一段の改革は当然産業別になさる
  べきである。
  併し統制のカといふものは重工業乃至金融の如き根本的なもの
  の国家管理によつて全産業に影響を及ぼすことが出来るから完全
  ではないが大体に於て目的を達し得るのである。
  この際株式会社の株を如何にすぺきか、とか利子寄食者を如何
  にすぺきかとか種々の問題があるが別論にゆずる。
 堰@日満ブロックに阻害を与へ我国経済の自立性を妨げるが如き
 種類の産業に対しては第一段の改革の初期、自由競争的な要素を
 残存せしめて自然に競争に負けて自然に衰滅せしむる如くすれば
 良いであらう。その方法については繁を避けて述ぺぬが例へば満
 安物資のダンピング、満安産業の特別保護等々満蒙に関係した部
  分丈けについて方法を考へて見ても、貿易に依存する内地産業は
 大打撃をうけ滅亡に至る可能性を十分もつてゐる。この際相当数
  の失業者を出し又諸種の形式に於て反対の起ることは予想される
  が止むを得ない犠牲として匡救の道は講ずるが、姶息的な考へょ
  り産業自体を救ふことは止めねばならぬ。
 堰@改革はまづ政治改革、次いで経済改革、最後に教育改革とい
  ふ順序をとるだらうと申しても勿論幾分の達ひで、大体は併行し
  て行はるべきである。こ1には繁を避けていはぬが、之も極めて
  重大なものである。
 何れにせょ改革に際して全般的にいへば国力が一時低下すること
 は覚悟せねばならぬ。併し我国の現在の如く戦争の危櫻を控へてゐ
 る状態に於て、又内国資源が貧弱で過激なる改革に堪へ得られぬ状
 態に於て非常なる改革を直ちに行ふと云ふことは明かに不利である。
 一時的であるとしても非常なる国力低下はあくまで避け最少限度

1a

 に止めねばならぬ、従つて現有秩序を極端に破壊せぬ様に改革は巧
 みに調和せねばならぬが併しそれを以て改革の根本を失することな
 きを必要とする。困難なことではあるが不可能ではない。
  十分考へ得られる方法がある。改革の途次に戦争を蕎起した揚合
 はどうであり又その
  形態が直ちに最も不完全なる戦時統制経済と一致する如き内容を
 もつてゐるのであるからこの予想に於ても猶改革を行はぬ場合より
 も日本にとつて有利である。たゞさし迫つた計画経済の必要と戦争
 に対して準備するといふ必要より国家の産業の多くを管理し財力を
 豊富にもつことにより、ソグエート聯邦の際に於て述べた如く一時
 的ではあるが国民生活に対する圧迫が起つて来ることは止むを得な
  いことである。
  このことの戦時に対する顧慮は相当大きいものであるが、併し日
 本の国体の有する強みは此際に於てもソヴエートに於けるが如く問
 題を困難にはせぬであらう。
  戦時統制経済は国内の全産業を戦争目的の為に動員し又戦争現
 象によつて撹乱される国内経済の混乱を防止しょうといふ目的のも
 とに強力によつて之を統制するのであるが、その中に支配的な営利
 主義的機構の存在を許すときは完全なる統制は不可能になつて来る
  のである。
   例へば金融と重工業は今日の全産業を支配する力をもつもので
   あるがそれが営利的に動く場合は国家の統制力はすこぶる薄弱と
   なる。しかるに前述の統制経済はその弊をあくまで除去せんとす
   るのであつて、完全な戦時統制経済に近いのである。
  又改革は根本的なものより現有併序を索せぬ如く「経済混乱を
 遅くる為め」歩を進めるのであつて常に何時にても戦時統制経済
 に移り得る如く準備されてあるのであるからこの意味だけでも戦
 時統制経済実施に有利であらう。
 日本の国体の有する強味について既に述ぺたところであるがこの
点についても我々は現日本に考ふるぺき多くのものを発見する、現
在の政治経済の機構が国体精神と漸次背反しっゝあるとの憂慮がな
いとは決していへないのである。申すまでもなく我日本が、数十年
 の長い月日
R 少しの消長はあつたとしても狂ひのない軍国なる国家的基礎の
下に堅実な発展を遂げて来た根本のものは我国体の絶対性にあつたハ
至上の
 絶対性を信じて疑はぬところに確固不抜の国民的結合の中心が
あつたのだ、而して国家の組織内容がこの中心観念の下に冠絶の妙
をつくすぺく整備され、
 中心観念は国家の大と共にょり大なるものへと発展し日本は比
類なき栄誉の歴史をもつたのであつた。日本の有する精神的優秀は
 こゝにつきるのである。
 S 日本の消長は国家の組織内容と国体との関係のょり通し、或
 は通さない所より起つて来る。国家の組織内容が国体として、沿
 はなくなつたときは国家は、最もその運用の妙を失つた時であり
 内的に危概に面した。而してこれが最も一致した時は国家運用の
 妙が最も現れたときで国威隆々たる時であつた。活眼を以て歴史
 を見れはこの関係は明かだ。
  我桓にあつては至上の存在は絶対観念そのものであつて、其
 行はせられる処は常に日本を如何にしてょり望に、より正しく、
 ょり剛く、より大きなものにせんかとの大御心に外ならぬ。
  国体の基礎がそこにあるのが日本の長い歴史と発展の所以であ
  る○
 堰@国体の中心をなす絶対観念は最初からして絶対的大を包容し
 てゐたのであつたが、国民の問の具現としては国家発展に従ひ民
 族より部族、部族より民族、民族より人種、人種より超人種とそ
 れぞれに於て最も適当した観念として現れて来るのである。
 しかるに今日の日本はその機構の腐敗堕落により次第に国体と相
反する打至り精神的危概と共に物質的矛盾現象を包蔵してくるに至
 つた。乃ち
 欧米風の観念の下に、至上の絶対性を侵犯せんとしつゝある事
がそれである。又中間組織が利益を墾断し政治が国民の実際と背反
 しっゝあることがそれである。
  英国にありては王は絶対碑聖ではない。議会がすぺての権力
 をもつ、王はたゞその運用を円滑ならしむる為の機関にすぎぬ、
 かうした観念を、我国にも通用しょうとするもの今日の政治家、
 学者に少くない。
  こうした凰の外国流の観念はこの問題のみに止らずあらゆる点
 に於て悲しむぺき事ではあるが今日の日本の上流社会に滑々とし
 て侵入してゐる。外国人の容姿に眩惑されて日本人に生れて来た
 事を悲しむ華族の娘を見て唖然とするものは我々丈けであらうか、
  万一の用意の為めに外国銀行に多額の頚金をしてゐる実業家を
  見て慣るのは、我々丈であらうか.
  議会が独裁政治を行ふといふ事は我国家にあつて許さるぺき事で
 は決してない、況んやそれが一部財閥者流と結んで国民の利益聾断
 せんとするに至りては論を要せぬところである。しかも
 堰@そうした傾向が今日の日本の現政治概構に鞋りつ1あることは
 如何にしても香定し得られぬことではないか、又しても
 堰@軍の統帥権は、至上のみの有せられるものである。これに依つ
 て軍は皇軍の本質を発揮してくる。しかるに近来開ゆる統帥権侵犯
 の声は何を意味するか明かである。
  かくて 至上がその大御心にも拘はらず中間者流の誤つた利己精
 碑により国民政治の実際と離れさせられ国民は塗炭の苦しみをなめ
 るといふときを考へれば皇国として之以上恐るぺきはないのだ。
   その一々については今日知識人の常識となつてゐることであ
  るからこゝに詳述しない。考ふるぺきことはさうした一々の現象
  が元来中間者流が利己心により事を誤つてゐるにも拘らず国民を
  して国体まで香足せしむると云ふ様な甚だしい錯覚に陥らせるこ
  とだ、このことはょく国民に徹底せしめねばならぬ。
   統帥権が至上の御手をはなれた時の不都合は、軍人勅諭に明
  かである。
  戦時精神的結合を失つた軍はどうなるか、こ1に冗述を要せぬで
 あらう。よしんばそこまで至らないとしても戦争することに俵つて
 国家が隆昌し大多数がよろこびを受けるといふことを信ぜられずに
 「事実がさうであるとしたならば」戦争する将兵の心は如何に暗澹
 たるものであらうか、将又、将兵が戦線で泥土に塗れて死闘すると

1b

  き国内では、特権者流が淫酒に溺れてゐるとしたら将兵は如何に血
  涙をのむであらうか、しかもその憂ひ決してなしといひ切り得るで
   あらうか、こゝにこれからの戦争の危機はある、士気を振興し精禅
  的結合をはかるぺく、我々は努力せねばならぬ。
   しかし同時にかくならしむる現象を排除せねばならぬのである。
   かくて結論に達する。戦争を前にして日本は之に打ち克ち更に大な
   る発展を遂げる為戦争に先だち国内組織を改革して正しき国家的基
   礎を持たねばならぬ。
                            −終−


       一六 思想善導法案


           目 次
     第一思想善導の定義
      第二 思想善導計画の期間
     第三 思想善導者の要件
     第四 軍隊に於ける思想善導
      第五 思想善導の阻害者
     第六 思想善導の結論
          第一思想善導の定義
  一思想は思想に依りて生せず
    思想は断じて思想に依り発生せず。従つて国体観念の欠如が直も
   に今日の悪思想を、ふ曹したるものに非ず。思想は拠て来るべき針
   金環境の母胎より生ず。個人の思想は個人の先天的素質、後天的鵡

 境より生ずぺく社会の歴史的情熱経済的環境より生ず。
 二 今日の悪思想は労農露国が我国民に附与したるものに非ず
  今日所謂意思想と称せらるる諾思想も断じて彼の労農露国の思想
 が突如来りて我国思想界を混濁汚染したるものに非ず。実に今日の
 悪思想は黍く是我国社会状態其ものょり発生したる所のものなり。
 悪く是我国民思想其者の中に養育せられたるものなり。儒教の忠孝
 主義が我国民に忠孝思想を発生せしめたるものに非ざる如く仏教の
 平等が我国に君民一体の国体を招来せしめたるものに非ざる如く今
 日の意思想と称せらる1思想は断じて「マルクス」が我国民社会に
 寄贈したるものには非ざるなり、江南の橘は江北に実らず、江北の
 析は江南に移し得ざる如く日本国家社会の地盤にして健全ならば前
     【ママ〕
 世紀の北欧の一学者が播ける悪思想の種子は決して実らざるぺし。
 三 意思想を生める大罪人は日本国民自身なり。
  然るに今日我国民思想の悪化を嘆ずる者は轟く「マルクス」を以
 て其の元兇なりと思惟し憎悪蹟斥至らざるなく又今日所謂悪思想と
 云ふを奉ずるの徒は悪く「マルクス」を以て其発明の大恩人なりと
 して讃美渇仰至らざるなし。何ぞ知らん今日の悪思想は之を撲斥す
 る人之を渇仰する人其自身の中に発生したる思想なるを彼等は共に
 自己が其思想を生める大罪人「若くは大恩人」なるを知らずして反
 て何の罪もなき北欧の一学者に毀誉の嵐を殺到して止まざるなり、
 矛盾も何ぞ甚しき。
 四 マルクスの思想はマルクスを生める社会の発生せしものなり
  マルクス何者ぞ、彼は十八世紀の蒙昧時代の西欧暗黒社会が生め
 る憐むぺき反逆児なりしなり、其憐むべき一学者の幼稚論が偶々北
 欧の氷雪に閉されて幾百年の永き専制の軽枯下に眠れる露人の長夜
 の夢醒めて起き上りし革命の余波に乗じ愚蒙なる彼等の脳髄を巧に
 惑乱して作り出したるソヴエート聯邦を「我等の祖国」と崇め「皇
 国の一大脅威」と長るゝ薄志弱行の東洋野蛮部落にこそ真に恐るぺ
 き悪思想は発生したるなれ。
 互 恵思想なるものは思想善導を叫ぶ人夫自身の中に発生す。
  即ち今日の在ゆる悪思想なるものは黍く是我国家の数十年来数百
 年来養ひ来りしものにして、此病毒の根源と称すぺきものは実に不
 断に我国家社会の体内に発生し我国民思想を蚕食しっ1あるなり、
 小官は信ず此の悪思想と称する思想は此の悪思想を書導せょと叫び
 狂ふ人々其自身の思想と全く同一母体より発生せるものなりと。
 六 資本主義と共産主義とは同一物なり。
  忠君業者と大不敬漢は同一子孫なり、真に然るなり、彼の黄金よ
 り他に何物もなき財閥考の心理は全く物質より他に何物も解せざる
                           〔ママ〕
 「マルクス」学者の心理と同一にして政党を以て国家を独尊せんと
 する為政者の思想は無産者を以て国家を独尊せんとする共産党の思
 想と全く同一なり。資本万能にして資本の下には同胞を奴隷の鉄鎖
 に繋ぎて顧みざる経済無政府主義の反動は私有財産を絶対に香認し
 て国民の自由を残賎して止むなき国家独裁主義となり「国家は個人
 の利益の為に作られたるものにして個人の利益の他に国家なし」と
 する民主々義思想の反動は「人間は社会的動物にして唯経済関係の
 みにより生活す」と言ふ社会主義思想と化す、動あれば反動あり動
 と反動とへ、極端と極端なり。
  鳴呼、彼のロンドン条約締結時の醜態の如く世界平和の美名の下
 に一国の存立を空しうして顧みざる政治家の国に「インターナショ
 ナル」=非国民主義=の看板に陶酔して「万国の労働者団結せょ」
 と絶狂する国民あり。「日本は神国なり外国〔人〕は轟く猿の進化
 せるものなり」と断言する親類に「我等の祖国ソヴエートを守れ、
 帝国主義日本の打倒」と宣言する国賊は生ずる。
  「我国体は万国無比にして世界を統一するものなり」との信仰は
 「労農露国こそは人類文明の始祖にして世界はやがて共産主義の傘
 下に置かるべし」との妄言と同一物なり。
  「忠君忠君」と恰も天理教が其始祖を宣伝するが如く現に尊く国
 民の上に仰ぎ見る我皇室を強ひて迷信的信仰の神輿の中に押込め奉
 らんとする忠君業者の子孫に尊厳なる我国体を冒漬せんとする反逆
 児は生ず。
 七 同胞相殺骨肉相喰む我国の現状
  鳴呼、今日の日本は実に骨肉同胞柏喰む一大思想混戦時代なり、
 右眼は左眼を邪魔者なりと罵り、左眼は右眼を異端者なりと誇る、
 右腕は左腕を親の仇と狙ひ、左腕は右腕を怨敵なりと打つ、共に身
 の破滅なるを知らざるなり、実に共に身の破滅なるを知らぎるなり、
 彼等思想悪化に熱狂する者も、思想善導に奔命する者も轟く同一の
 遺伝病毒に侵されたる醜き自己の姿を悟る能はずして互に他の醜を
 罵り他の傷捧を突き相共に瀕死の淵に臨みつ1あり悲惨何ぞ之に加
  へん。
 入 思想善導とは意思想の母体の根本的大手術なり
  鳴呼、如何なる名医名薬を以てするも此の既に死に滞せる病人の
 群を蘇生せしむることは至難中の至難事なるぺし、況んや自ら同一

1c

 病毒に侵されて瀕死の病床に在る者が同じ瀕死の同病者を蘇生せし
 めんとするに於てをや、彼の思想善導者と称する在ゆる階級の布教
 師は今日の意思想を絶対に善導し得るものに非ず。
  彼等も亦善導せらるぺき憐むべき瀕死の重病人なり、思想善導其
 は生死を懸けたる一大切開手術ならざるべからず。
  即ち真の思想善導とは此の意思想を生める社会の根本的原因を徽
 底的に切開空除して其の禍根を絶つぺき度死回生の大手術ならざる
 ぺからす。
 九 思想善導とは新たに生れ出づる国民をして此の病毒の侵犯する
  能はざる健康体に養育することなり。
  生るぺき校閲にして備れば健康なる母体にも病毒に侵されたる母
 胎にも等しく胎児は生る。彼等幼児は既に体内に在りて両親の遺伝
 を受けて出生すると雄も遺伝は人間発生の総てに非ず、出生後の環
 境将た教育が人間を完成するは学理の証する所なり。悪思想を発生
 せる日本社会の母体よりは、尚続々と幼児を発生しっ1あり。
 彼等は悪思想に感染すべき素質を有すると共に又健康体となるぺ
 き素質をも有す、思想善導そは此の病毒に感染せる瀕死者の子孫を
 して再び此の病毒の侵犯する所とならざる如く篤き手当を加ふるこ
 とならざるぺからず、瀕死の病者は余命拙くして死するも止むを得
 ず、香彼等は既に不治の病床に在り、然れ共未来を有する幼児のみ
 には巽くは健全なる身体を養成し健全なる思想を発育せしめ此の病
 寿に感染すること勿らしめたきものなり。
 而して健康なる身体は他人より与へ得ざるものなるが如く健全な
 る思想も亦何人の能く与へ得る所に非ず。変はその健康を保つぺき
 清潔なる環境と身体的養素とを附与し、国民思想を健全に保つぺき
 社会的状態と純正真撃なる教育とを施すに在り。
  健康なる者に病毒の感染なかるぺく、健全なる国民に悪思想の汚
 澤なし。
 一〇 軍隊に於ける思想善導は厳粛なる軍紀の確立と純正なる軍人
  精神の充溢とを招来することなり
  軍隊も何ぞ社会と異ならん、熱誠なる教育と厳粛なる軍紀とに養
 成せらるゝ軍隊には健全なる軍人精碑充溢す。何ぞ悪思想の混入あ
 らん。而して軍紀は人に依つて確立す、若し軍隊にして教育其人を
 \得ずんば百の条文一の価値なかるぺし、軍隊にして腐敗せば悪思想
 は姐の如く発生せん、軍隊と雄も悪思想の混入すぺき隙は無数に在
 り起るぺき状態に置かれたる軍隊には必ず意思想発生す。
  健全なる軍隊には如何なる危険思想家の混入すとも如何なる危激
 なる宣伝文の舞込むとも宅も悪思想に感染することなし。
  故に軍隊に於ける思想善導とは厳粛なる意味の軍紀の確立と純正
 なる軍人精神の充溢とを以て健全なる軍隊を結成することなり。
         第二 思想善導計画の期間
 一悪思想の発生は悪社会の存漬する限り無限なり
  前述せる如く思恕は社会生より発生するものなるを以て社会生活
 の腐敗せる限り意思想の発生は跡を絶たず。年々統計に依るも如何
 に思想犯が逐年数を増しっゝあるかを伺ふに足るぺし。
  彼の数度の共産党大検挙に依り全く根絶せられたりと見えたる主
 義者が検挙忽ちにして再び結党し然も其の勢力たるや年と共に増大
 し行くは何を物語るぞ、世界第一を誇る日本警察税関が在ゆる努力
 と在ゆる苦心とを以て掃蕩に努むるもばい菌の如く発生する共産党
 に対しては徒らに奔命に疲る1のみなり、而して遂に膝下の司法省
 判事に共産党員を発見するに及んで共産党たるもの凱歌を挙げて可
 なりと云ふぺし。
  さきに論述せるが如く政界財界教育界すぺての国家機関が腐敗の
 絶頂に達せる今日の現状に於て思想界又悪化の絶頂に在るは理論の
 当然の帰結なり、而して此の腐敗の永久に続く限り悪思想の発生も
 亦永久に続く.
  断じて減少せず.
 二 国家滅して軍隊のみありや
  腐敗に次で来るものは国家の滅亡なり。三千年の国体の破壊なり.
 然も今や日本帝国は国家をあげて滅亡の岐路に立てり、瀕死の病床
 に在りとは此の謂なり。我等は深夜窃かに内外の状勢と帝国の前途
 を思ひを及ぼす時慄然として襲ひ来る予感に長夜の眠れざることし
 ばしばなり。何ぞ、草芥匹夫の身の付度し得んや、唯国泰かれと日
 夜祈り給へる我大君の今日此頃は如何なる、御惧悩に展襟を悩まし
 給へるを。
 鳴呼、日本国民よ漸死せょ、汝等が唯「尊敬々々」の一語のみに
 祭壇の中に押込め奉る汝等の天皇は寸時も展襟を安め給へる日とて
 はなきぞ。鳴呼、唯か国家滅びて軍隊のみありと謂はんや、軍隊健
                               〔陽〕
 全なれば、国家亡びずと言ふか、伯夷叔斉、首揚山に蕨を採るも般
 は亡びず、侶夷叔斉、百万人ありと雄も亡ぶぺき殿は亡ぶ、旗本八
 万騎の精鋭なる近衛軍ありしも徳川幕府は亡びず0旗本八万騎如何
 に無二の精鋭を誇るとも亡ぶぺき幕府は亡ぶ。軍隊如何に練兵場に
 武を練るも亡ぶぺき日本は亡びん、外戦如何に敵を尽すとも国内崩
 壊して軍隊は如何にすぺき、思想悪化の国民に向つて銃を放たんと
 するか。
 陛下の下し給へる兵器を以て、陛下の赤子を討たんとするか、香一
 香、銃を持つぺき兵卒は軍隊の生めるものにあらず、銃を持つぺき
 兵卒は銃を向けらるぺき悪化思想の国民の子弟なり。子を以て其親
 を討たしめんとするか、弟を以て其兄を討つの人倫冒溝を敢てなさ
 しめんとするか、更に香其の銃を持つぺき兵卒は果して其銃を把る
 ぺきや、然も何人か其を命ずるや。統帥権のみに依つて動くぺき軍
 隊に何人か何時其の命を降すぺき、更に香、国家崩壊せんとする時
 果して軍隊は健全なりや、国家が崩壊すると言ふ事は即ち軍隊が崩
 壊すると言ふことなり、然も国民の思想悪化にして国民に依りて編
 成せらる1軍隊の、悪化せざることなし。
  国家崩壊して軍隊健全なりとは、人体死して尚手足健全なりと云
 ふと同じ。国民思想悪化して軍隊健全なりとは、細胞腐敗して手足
 尚健全なりと云ふと同じく理論上の矛盾なり、即ち知る、国家が崩
 壊せんとすることは、即ち軍隊が崩壊せんとすることにして、国民
 思想悪化すと云ふことは、軍隊思想悪化すると云ふことなり、細胞
 腐敗して何ぞよく手足の健全なるを得んや、国民悪化して何人か能
 く軍隊の健全を保つぺき、故に鼓に断言せんとす。国民社会の腐敗
           [ママ〕
 を無視して軍隊のみ滅成せんとするも其れ遂に百年河清を待つのみ.
 三 思想善導して国家は滅ぶ
  更に悪社会の存在と共に意思想は無限なり、思想とは社会の生活
 状態と云ふことなり、されば悪社会の存在を容認して如何に思想善

1d

 導に狂奔するとも其は瀕死の病人に釈迦の説法を為すと同じ、さき
 に思想善導とは社会の根本的大手術でありと述ぺし所以故に在り、
 思想善導の声今や全国を風靡し、思想善導の訓令今や全軍に飛ぶ、
 然も国民思想は日に悪化し月に狂化し、日々の新聞は戦慄すぺき狂
 民の犯行を報ぜり、幾多の密令、訓示、「パンフレット」は軍隊の事
 務所にウヅ高きも反軍思想は隠然として深き根底を張れるを見る
  「統計に依るに清洲事変以後此種の宣伝及犯行は一段の増加を来た
 したるものの如し」、如何に周到細密なる思想善導永年計画も実に
 何等の効果なき▲は予め知るを得ぺきことなるぺし.
  即ち日本帝国は思想善導永年計画を懐きて滅亡の岐路に立てり、
 計画に依りて思想が善導し得るならば思想善導ほど容易なるものは
 なし、計画は実行せざれば一つの価値なし、然も実行とは根本的大
 手術なり、それを他にして思想善導を語るぺからず。今や国内経済
 は破綻の危概に瀕して国外の状勢亦破滅の危撥に臨む。
  鼓に於て思想善導は刻下即時の急務、其計画は今日現在の実行を
  指示するものならざるぺからず。
         第三 思想善導者の要件
 一思想は思想に依って善導せられず
  世上謂あり「思想は唯思想に依って善導せょ」と大なる誤謬なり、
 思想は思想に依つて善導し得るものに非ず、南洋島の土人に如何な
  る文明教を説くも彼等は決して之を解せず。支那の国民に如何なる
  忠君愛国を説くも彼等は決して之を解せず、南洋島の土人が首切を
  以て唯一の善事となすは南洋島に生ぜる思想にして支那の国民が
  「帝徳書に何ぞあらん」と腹鼓を打つは支那民族社会の思想なり、
 南洋土人が首切の思想を有することは南洋島社会必然の要求にして、
 支那国民が帝徳の存在を無視するは支那民族社会の当然の帰結な
 り「欧米資本主義社会を代表する国際聯盟委員が日本人の懐ける日
 本思想を遂に解し得ざる実例を見ば思ひ半に過ぎん」、国体の存在
 を無視する者に如何に皇室の有難きを説くも所詮之を解せざるは、
 南洋土人に文明を説明するも之を解せざるが如し。彼等は国体の存
 在を解すぺき素質に生れず国体の存在を辞すぺき環境に育てられざ
 ればなり、彼等は求めて国体を香認するに非ず実に国体を香認すぺ
 き素質と環境に生れたるが故に国体を香認するなり、=理論の遊戯
 に翻弄せられて愚昧なる頭脳に理論的錨党を生ぜるモーロー学者、
 変態文士は此の限りにあらず=而して南洋島土人が文明社会となら
 ざれば能はざる如く、国体を辞し得ざる国民には之を国体を辞し得
 ぺき環境に置かざれば不可能なり。
  即ち今日の意思想を懐ける国民を善導するには悪思想を生ぜる社
 会を青息想を生ずる社会に進化せしめざれば不可能なり。要するに
 思想は単に思想を以て善導し得るものに非ず唯善導し得ぺき環境を
 建設する事に依つてのみ能く善導し得。
 二 思想善導の第一要件は思想を善導し得ぺき人に在り
  思想を善導し得ぺき環境には、思想を善導し得ぺき人を要す、凡
 そ思想善導の何物なるかを併せずして思想善導を為さんとする程無
 意味なるはなく、国体の何物なるかを解せずして国体を説く程無価
 値なるはなし。
  仏教を説く人は仏の人ならざるぺからず、剣道を説く人は剣の人
 ならざるぺからず、国体を説く人は国体に即せる人ならざるべから
ず、凡そ人の患は好んで人の師となるに在り、自ら其境域に入る能
 はずして之を人に説くは単に毒するのみにして一の効果なし、今日
 宗教界の腐敗せるは自ら宗教の何たるかを倍道せずして之が人に及
 ぼすに起因す。
 今日の国体観念の紛糾せるは自ら国体の何たるかを解せずして余
 りに国体を論ずる者の多きに起因す。現今の思想混乱は実に出版物
 の乱発が重要なる貴任を有す。国体を論じ国体を説く出版物は英数
 幾何なるかを知らず、国体を主張する愛国団体は英数幾何なるかを
 知らず。然らば日本には数万数十万の国体ありや、大学教授の国体、
 神官僧侶の国体或は陸軍大臣の国体、憲兵司令官の国体と云ふもの
 ありや、実に言論界の混乱が思想界の波瀾を生ぜしこと其罪幾何な
                                〔息〕
 るかを知らず、或は図体の一面のみを管見したる半想の徒が好んで
 自己の現論を行ふに起因するなり、黙々として流れ来り黙々として
 進み行く我日本に何ぞ首千の理論あらんや、神ながらの道は言挙げ
 ぬ道なり、何ぞ国体論業者の喋々を要せんや、要は唯実行なり、自
 ら国体を知り国体の中に入り而して国体を実行すれば其にて足る、
 自ら図体を実行すると言ふことは、
 即ち他人又国体を実行すと言ふことなり。自ら国体を実行せずし
 て何ぞ他人に国体を説き得ん、自己が国体を研究することは即ち他
 人に国体を祝明すと云ふことなり、自己が国体を知ると云ふことは
 即ち他人を国体に善導すと云ふことなり、思想書導とは他人に国体
 を祝く事に非ずして他人を国体の中に導入すと云ふことなり。
 然らば他人を国体の中に導入するには何を措ても自己が先づ国体
 の中に入らぎるぺからず、自ら国体の中に入るとは自ら国体を体得
 サることなり、国体は畢克自己の国体なり 天皇の国体にも非ず何
 人の国体にも非ず、体得は信念を生ず、国体を研究せば信念の域に
 達せざるぺからず。
  他人の訓令、他人の著書、他人の「パンフレット」は自己の国体
 に非ず。之を以てせざれは教育出来ざるは即ち未だ自己が国体を知
 らざるなり、未だ国体の信念を有せざるなり。未だ国体の中に入ら
 ざるなり、国体の中に入るとは国体を実行することなり、実行を伴
 はざる国体に一文の価値なし、実行を伴はざる教育に一文の価値な
 し、即ち知る、思想を善導することは国体を実現するに在るけ言を
 而して国体を実現するには自ら国体の人となり、思想を善導するに
 は自ら思想を善導し得るの思想となすを第一要件とす。
 三 思想善導の第二要件は自己を指導せらるぺき人の境地に入るに
   あhソ
  屡述せる如く思想善導せらるぺき人は善導を要する社会に養育せ
 られたる人なるが故に之を善導せんとせば必ずその人の思想を生め
 る社会の中に入らざるぺからず。
  我等は先づ此の社会状態を真剣に体得するを要す。現今の社会状
 態を真に体得することは畢克之より発生する思想の何物なるかを理
 解することなり。此の社会状態を体得する能はずして思想を論ずる
 もそは遂に机上の空論、架空の想像に過ぎずして真の思想善導は出
 来ず、然るに此の社会状態に目を蔽ひ若くは之を無視して偏へに軍
 隊教育に専念せんと称する者絹実に真剣に軍隊教育を理解し実行す
 るの人に非ず、社会を知らずして何ぞ軍隊教育を施し得ぺき、両し
 て又此の社会状態を真に体得せんとするものを軍隊の異端者、軍隊

1e

 教育の不熱心なるが如く排斥圧迫する人あるが如きは是又真に軍隊
 教育を理解し軍隊教育に忠実なる人に非ず。
  吾人が今日の社会状態を知ると云ふことは取りも直さず現在の兵
 卒を知ると言ふことにして又この社会が生める現在の兵卒の思想状
 態を知ると云ふことなり、吾人が兵卒の思想状態を理解すると云ふ
 ことは、即ち吾人が兵卒の精神共著の中に入ると云ふことにして吾
 人の精神と兵卒の精神とは全く一致せるなり。同情とは即ち此の事
 にして、善導とは同情を以て自ら兵の精神内に入りて中より之を推
 し進めて善思想に導くことなり、即ち教育命綱領にあるが如く精神
 教育は唯精碑を以て之を教育するを得ぺく首の言動は一の実行に若
 かずとある其精神教育とは実に此の意味の教育にして精神とは又此
  の意味の清神なり。
  単に自己の独断論、或は他の人の著せる「パンフレ,ト」のみに
 依りて、思想善導なし得ると思惟するは重大なる誤謬なり、今日の
 社会を知ることは又取りも直さず今日の自己を知ることにして、吾
 人が兵卒の思想を知ることは自己の思想を知ることなり、日本と云
 ふ同一社会に育まれた吾人と兵卒とは結局するところ同一思想の持
  主にてはあるなり。何れか善導し何れか善導せられんや、此の欠陥
 多き自己の思想を以て争って他人を導き得ん、自己の修養を無視し
  て思想善導を叫ぶ者の世に何ぞ多き、思恕善導は畢克自己の修養自
 己の修養は畢克他人の思想善導なり、自己を知り他を知るは畢克偉
  大なる国体を体得することなり。
         第四 軍隊に於ける思想善導
  て将校自ら率先善導の模範を示す
 将枚は軍隊の頼幹にして軍人精神及軍紀の本汲なり、故に居常に
 之れが修養に努め英一言一行は部下をして仰いで以て之に則らしむ
 ること、恰も形影相伴ひ響音相応ずるか如くならざるぺからず。「軍
 隊教育命綱領第二」
 凡幼稚者が成人に進むには唯模倣なり、彼の何事をも併せざる赤
 子が漸く物心附きて後は総て環境の模倣に依りて人となる。
  人類も亦未開の者は文明の者を模倣することに依りて文明の域に
 達す、日本民族が物質文明に進める欧米を模倣して今日の文明を築
 きたる如く、印度、波斯、土耳盲、等が日本の維新精碑を模倣して
 各々革命に進めるが如く総て後れたる民族個人も進める民族個人を
 模倣して其域に達す、軍隊教育も其大部分は模倣教育なり、進める
 者に対する模倣が総ぺての人間進化律の原則なり。
 然れ共模倣は必ずしも書き物高き物のみならず、寧ろ悪き物低き
 物に対する模倣に赴き易し、況や厳粛なる階叔秩序の下に在る軍隊
 に在りては兵卒の将校の言動を模倣することは更に形影相伴ひ響音
 相応ずるが如し、然も決して兵卒は将校の香事のみを模倣せざるな
 り、善も模倣し恵も模倣す、特に悪の模倣は甚し。
 兵卒のなす動作を見れば実に其の大半は将校の模倣なり。将校の
 敬礼不確実なれば兵卒の敬礼又不確実なり。将校の腕に金時計あれ
 ば、兵卒の腕にも金時計あり、将枚の不平は直ちに兵卒の不平とな
 り、将校の怠慢は直ちに兵卒の怠慢となる。二年兵が初年兵の前に
 傲然と足を投げ出して靴の紐を結ばしむるは将校が伝令に靴の紐を
 結ばしむるの模倣なり。兵卒の日曜外出の行く先が「カフェI」遊
 廓なるは将校宴会の行く先が料理屋待合なるの模倣なり、簸ては填
 倣なり、将校の言動と兵卒の言動に区別あるの可香は何れにせょ将
 校の言動の総ては兵卒の模倣となる。将校は善しと思って為さずと
 も兵卒は模倣す.
 将校は悪事を為さんと思って為さず然も兵卒も亦悪事を為さんと
 は思はずとも模倣のみはなす。悪事斯くの如し、善事も亦斯くの如
 し、模範とは兵卒をして善事を模倣せしめんが為の将校の薯事なり∧
 故に将校にして思想善導の模倣を示さば兵卒は言はずとも其の模倣
 を為すぺし、是百の言辞は一の実行に若かざる所以なり。
 思想善導の模範とは何ぞ、将校自ら真に薯導すぺき思想の実現者
 となることなり。善導すべき思憩の実現とは何ぞ、今日悪思想を生
 める悪社会を徹底的に切開手術して其の過根を摘出費除し以て倍測
 健全なる日本帝国を建設することなり。将校に兵の思想善導が必窮
 の義務あらば将校は国家の大手術は必然の義務なり。将校が国家の
 大手術者となることは兵卒が善思想の具有者となることなり。
 二、教練、演習、兵営の起居、総て思想を善導し得べき環境を作る
 1 国軍の真価を如実に表現すぺき軍隊の行動を取る
 一切の虚偽を排す、一切の胡魔化しを排す、一切の不正達令を排
 す、一切の猫庚を排す。
 彼の思想要注意兵なる者に対し恐怖と嫉視との余り徒らに之を異
 端視し、危険視して別動の取扱をなし彼等をして軍隊なるものを曲
 解せしめ卑屈心と反抗心とを挑発せしめ、更には軍隊に対する呪誼
 をなし軽霹をなすに至らむ。而して如何に之を改化せしめんとする
 も能はざるなり。彼等を別種の取扱をなさゞれば他の兵卒に悪思想
 を伝播するが如きにては軍隊教育も抑々未なり、彼等に宣伝の虚隙
 を与ふることは即ち軍隊の欠陥を物語るものなり。彼等を他の兵卒
 ょり離隔せしめざれば教育出来ざる様にては抑々軍隊教育者の怠慢
 なり。「諾規定の実践厳格公平なるを要する所以なり」
  2 隊長以下将校士官は苛も隊内に在り、又兵と行動を共にする.
  時は兵と飢寒苦楽を倶にす.
 隊内に於ては階級に相応ずる威容と其の表識の他には一切の物質
 的不平等を排す、卒に後れて食し卒に後れて眠る。之古来我武将の
 掛けし統帥の要訣にして国軍団結の礎故に在り、戦時然り、堂平時
 に然らざらんや
  3 待遇取扱は総て公平を真とす。
 一君の下国民は皆同胞なり、隊長の下兵卒は皆兄弟なり。
 4 軍隊に於ける階級存立の意義を明徽にし、然らざる不平等的
  観念を一掃す。
 服従と敬礼の厳格なるを要する処なり、当番特に私宅伝令等の取
 扱の厳重なる制限あるを要する所以なり。
 平等即差別の国体観点に養成せらる。
  S 諸規定の実践を確実にす。
 軍隊は重大なる国家機関にして事行動は総て規矩に則り絵ぺて之
 を挙げて軍の錬成に在るの主旨を徹底せしむ、正純の環境に正純の
 思想養はれ国軍在立精神を表現したる諸規定の厳行に国軍在立の意
 義は体得せらる、環境を正すことは所謂要注意兵なる者に乗ずぺき
 隙を与へんが為には非ずして純化薫陶せんが為の積極的意義を有す。
 防禦には非ずして攻撃なり。
 三、軍紀と教育とが揮然一致せる軍隊を作る。

1f

  1 幹部は熱誠と理鰐を以で兵に臨む
  思想善導の定義に於て述べたるが如く兵卒は将来の帝国を双肩に
 担ふぺき第二の国民にして然も其素質や純なり、故に之をして再び
 今迄の悪思想に感染せしめざる如く其胸中に健全堅確なる思想を養
  はしむるは単に軍隊の思想を正純ならしむるのみならず実に国家の
  為め緊喫の頻事なり。
   2 勅諭勅語を亀鑑として之を理解服膚せしめ国体及軍人清神の
   兵諦に悟らせしむ。
   勅諭勅語を単に暗詞字句の解釈に流れしめず、又乗りに長れ多か
  らしめず。国民の父、軍人の頭首の懇切なる御訓諭なるぺき旨を徹
  底せしむ。
   3 折に触れ、時に触れ凡ゆる社会事象を捕へて之を材料として
  講話を行ひ兵の心理の機微なる動向を指導す。
   国体も軍人構神も唯其の課目のみに在るものに、非ず。総てが国
  体なり、総てが軍人精神なり。
   4 兵の生活を共に楽しみ兵と親しみて其の苦みを知り喜を分ち
   真に中隊家庭の実績を挙ぐ。
   故に理鮮は生れ、同情は生じ薫陶は行はれ、如何なる悪思想兵も
  蕩然たる温暖の家庭の人となりて心の氷を融かさぬと言ふことなし、
   S 兵の言動に周到なる注意を払ひ其佳きを嘉し、其悪きを匡し
   其苦しめるを祝き其悩めるを慰む。
   兵営は一個の修養道場
   6 兵の心に確乎にる人碑を自覚せしめ費むるや英人格に問ひ、
   教ふるや英人椅を敲く丙して兵の胸中に崇高なる理想を懐かしむ、
 兵は一人の武士なりひ武士に魂あり、武士に信義あり給持あり.
人生理想なきが故に右に迷ひ、左に迷ふ。
 7 軍紀を確立し違反者は断乎として之を罰す。
 所謂要注意兵なる者が一度入隊するや幹部以下恰も腫物にふるl
が如く之を畏怖し或は外部の反動を恐れて其当然の違反事をも敢イ
処断することなく事忽れ主義にて送り出さんとする、此の姑息手飢
 の下に彼等の自負心は昂じ彼等の術奇心は助長せらる。訓化指導−
て然も尚自己の良心を偽り悔慢的行動に出たる時は、軍紀は断々破
として重き処罰を課すぺし。軍紀の威力故に在り、軍隊を以てし′
一二の異端者に対し姶息なる手段に出る等のことは断じてあるぺ上
 らず、
 然りと雄も其処断の中に尚愛情の訓示を怠るぺからず、彼等も♯
日本国民なり、日本国体の何物たるかを解するに至るぺき素質は★
分に具有す。唯之を解するを得ざるぺき悪環境に置かれたるが故−
之を解する能はずして迷へるなり。彼等こそは現時日本の生める且
も不幸なる憐むぺき国民の一人にして彼等も共に我等の血を分ち止
 る同胞なり。彼等と雄も真に同情と至誠とを以て指導訓化せられユ
ば必ずや正純なる日本国民とならん、世に悪人なる者はなし。彼J
亦救はるぺき神の子なればなり。
 五 軍隊は皇軍の使命にのみ邁進し他事あるなからしむる。
 上は皇軍首脳者より下は一小隊長に至るまで皇軍の使命があくユ
 でも国家国民の保護と皇威の宣揚とに在るの真諦を実現すること一
 期す。
 此の口には言ひ易く丙も実行は往々然らざることあるを思はざワ
 ベからず.吾人は我海軍過去の出兵に放て国軍出兵の目的が往々此
 の使命を脱退したる「勿論軍隊其物の罪にはあらずして之を動かす
 ぺき大権を奏話するの局にある人自身の罪にてはあるも」事例を屡
 屡知る既往然り何後益々然るを注意せざるぺからず、凡そ大藩を蹴
 って北を指す船に乗る人は如何に北せざらんを欲すとも遂に北せぎ
 るぺからず。
 皇軍が挙国一体皇軍の兵使命に邁進する時は如何に之に反逆せん
 とする軍人も遂に其の使命に行かざるを得ず。「之建軍の本義たる
国家国民の軍隊たるの使命を即時実現するの急なるを要する所以な
 hソ」
 以上掲げたる如き諸項目の実践に俵て軍隊の練成を行ひ以て健全
 なる寧塚を建設せば誓ひ百人の共産主義者来りて宣伝撹乱悪化を図
 るとも一人の悪思想の出づぺき筈はなし0故に此の軍隊の練成に邁
進する者は要注意兵に対する百万手段も姑息因盾の糊塗計画も宅も
其の必要を見ざろなり、単なる一変注意兵の宣伝にて軍隊の教育が
破壊せらる1が如きにて如何で百万の敵軍を粉砕するを得ぺき、一
人の共産主義者の煽動簸a得ざる如き思想と教育法との持主にし
 て如何に兵を水火の中に投ずぺき軍隊教育は為し得るものぞ、要注
意兵の如き者に軍隊が挙げてその応待に狂奔するが如きは抑々軍隊
 教育の腐敗を物語る。
 健全なる軍隊教育の中に豪昧思想の混入の如きは焼岩↓一滴の
水ならざるべからず。
       第五 思想善導の阻碍者
一此国情を打開し此の軍隊を刷新するに非ざれば思想善導遂に不

  可なり、
  前章に於て提示せる軍隊思想善導家は実に今日以後の指針を示せ
 るものにして決して今日の軍隊の状態を表はせるものに非ず。軍隊
 に思想善導を要するは即ち軍隊が腐敗に傾ける所以なり魚韓の中に
 在る者は其臭を知らず。井中の蛙は井外の世界を知らず。実に軍隊
 内に在りて自己の王国を作れる者には自己の軍隊が如何に腐敗の道
 程を辿りつゝあるかを知らず。変転止むなき社会状勢に目を蔽ひて
 軍隊なる小城郭に立籠れる籠城者には国家が如何に滅亡の危機に瀕
 せるかを知らず「神国は不滅なり」「皇軍は必ず勝つ」の慰安的言
 辞に万事を托して三千年の国体が今や崩壊の岐路に直面せるを知ら
 ざるなり。
  何れの国、何れの国民も自ら亡びんとして亡びたる国はあらざる
 なり。
  国民轟くが「滅亡」を感ずるに至りたる時は国家は既に滅亡せる
、時なり。町民は太平を謳歌し士分は徳川幕府万歳を謳歌せる中に徳
 川幕府は亡びず。更に明治維新が国民轟く徳川を呪ひ国民轟く尊皇
 扶夷に燃えて然る後成りたる者と思ふは大なる誤謬なり。今日国民
 は一九三〇年の文化を謳歌して止まず、為政者、国家首脳部は国家
 安全国軍健全を弁明して止まずと錐も国家は是等頑迷迂愚の国民を
 載せて一路崩壊の深淵に蕎進しっ1あり、彼等が国家危急を認識す
 るの日は度に日本帝国に三千年の国史終幕の扉が閑さる1日なり、
 彼等が国家危急に驚愕するは実に百戦必勝の伝統を有する日本軍隊
 に反逆の爆弾が轟然と爆裂する声に依てのみ、鳴呼此の日此の時に
 至って彼は何を為さんとするか。

20

  今日国民が文化を謳歌し国軍首脳者が国軍健全を確信するは、未
 だ日本に幾分かの躍動する生命を余しある天祐に依るのみ。此の時
 に於て速かに一大刷新を加へざれば何物も尽きて後之に手を下さん
 とするも時虎に遅からん、手術は病人の尚快復の余力ある時に於て
 のみ実施し得、既に病革りて息絶えんとする時に至りての手術は反
 って死を早からしむるのみ、此の国家国軍に健全なる余力の存する
 時に於て一日も早く大手術を完了するを要す。我等は兵と共に起居
 し直接其の指導に当りて痛感するは、彼等が惑思想に浸潤せらるぺ
 き多分の素乳Hが有することなり、而して我等が目前に見せつけら
 る1諸種の事象は黍く是国寧の腐敗を物語る惨憺たる状態なり。
  鳴呼、思想善導の如何なる訓令も密報も「パンフレット」も而し
 て又思想善導の理想的計画も此の状態此の国軍の現状にては何等の
 効果なかるぺし、即ち思想善導の第一歩は先づ此の腐敗せる国家を
 革新し此の堕落せる国軍を刷新することを以て始まる。
 二 青年将校を弾圧するは既ち思想善導を弾圧する所以なり。
  さきに日本国民今日の思想悪化は意思想宣伝者も彼此同罪なるこ
 とを述べたり、誠に然り、国民思想悪化の淵源は実に国民の模範た
 るぺき上流階級に立てる人々なり、即ち政界、財界、教育界、宗教畢
 軍人界の上流に立つぺき人が先づ第一に腐敗したるに起因するなり∧
  源濁りて未清からず。今日国民下層階級の思想悪化せるは一二唯
 是上流階級の腐敗堕落の結果なり。
  総べては模倣して思想は上流階級より下層階級に及ぶ。上流階級
 にして健全なる思想を有すれば下層階級又健全なり。上流階級に詐
  欺贈賄の夙盛なる時下層階級に強縞盗盛なり、上流階級著移浬靡に
 流れて下層階級金鉱色慾の奴隷となる、国家の上流社会に統治の大
 権を専断する為政者あれば国家の下層階級に国体を破壊する逆徒あ
 hソ0
 国軍の上流階級に統帥棒を私する陸軍大将あれば国軍の下層階級
 に服従を峻拒するの二等兵あり、総て思想は上より下に移る。今日
 国民に意思想の弥漫しある所以の者は実に国民の模範たるぺき上流
 階級の思想腐敗堕落したるの結果なり、此の腐敗堕落思想の発散者
 にして国民に何の思想善導ぞ、此の恐るぺき統帥樺専断の陸軍大将
 にして兵卒に何の思想善導ぞ。
  鳴呼三千年伝統の神国日本は今や嘉然として上下挙って悪思想の
 深淵に沈冷せり、此の危急を救ふは何人ぞ、此の将に亡びんとする神
 国日本を九天の奈落に引き返すは真に何物ぞ、家貧にして孝子現る
 国亡びんとして忠臣現る、日本帝国にして若し滅亡すぺからざる天
 命に置かる1ならば必ずや国家を救出すぺき国士生ぜざるぺからず
  日本国民にして若し天壌無窮の皇運を扶翼すぺき使命を有するな
 らば必ず将に地に堕ちんとする日本新国体の扶持者は現れざるぺか
 らず。古今東西国家の一大改革をなしたるの徒は必ずや血気湧別た
 るの青年なり、青年に依りて成されざる革命は真の革命に非ず。明
 治維新回天の偉業を成したるは実に京師の窮迫浪人と各藩の下級武
 士なり。
  長れ多くも維新の卒先指導者にして在はせし明治天皇始め奉り元
 勲たる西郷以下其の第一線活力たりし志士は轟く是少壮血気の青年
 なりしなり、国家改革は是国士の事業、明治維新の大業は之れ下級
 武士の事業にては在りき、今日国軍の中流階級たる青年将校に形済
 たる国家革新の気運は溢れり、青年将校問に革新の気運離れるは是
 れ国軍上流階級の腐敗堕落を物語る者、然り而して思想悪化は常に
 上より下に及ぶ、感じ易き青年心理を多分に有する青年将校層に上
 流階級の腐敗堕落思想の波及浸潤せんか、鳴呼、恐れん、次で来る
 ものは何ぞ、次いで来る者は下士兵卒の革新気運なり、上素るれば
 下は之に対する抵抗思想を生ず。
 両して抵抗思想はやがて腐敗思想に腐敗化せらる、今日国革上層
 階級の腐敗は是今日中層階級たる青年将校腐敗せるは故に下層階級
           〔ママ〕
 たる下士兵卒の革新気運動を生ず。恒産なくして恒心ある者は未だ
 之あらざるなり。恒産なくして恒心あるものは唯士のみ之を能くす、
 と実に革新運動が国軍の士たるぺき青年将校層に旺溢せる間は国軍
 は健在なり。恒産なくして恒心あればなり、然りと雄も此の革新気
 運の一度下士兵卒の恒産なき下層階級に移らんか、そは遂に反逆思
 想となり服従峻拒となり粛旗竹槍の暴民革命となる、今日形済とし
 て地下より起れる農民の議会請願運動は何を物語るぞ。
 鳴呼、霜を踏みて堅‰b封る0吾人は農民請願運動の蔭に常旗竹
 槍の片鱗を見る、恐るべし革新の気運は今や反逆思想となりて日本
 国民下層階級社会に欝積しっゝあるを。総ては天則なり人が能く拒
 ぎ得る所に在らず、日に明に多きを加へ行く共産党始め種々の反逆
 思想は実に此の国民下層階級に此の革新気運の発生したるが故なり。
 反逆思想欝積して発火点に到達する時は遂に暴民革命となるなり、
 暴民革命とは国民全部が黍く腐敗し激化し仇敵視し同胞相殺教し遂
 に国家が崩壊滅亡することなり。
 国民の暴民革命は士卒の暴兵反逆なり、暴兵暴民は同一にして同
 時なり、此時に至って何の国学ぞ、其時に至って如何に痢を噛むと
 も既に遅し、天則は宣に霹独にのみ不幸にして日本にのみ幸を与へ
 んや、日本帝国が露西亜帝国、独逸帝国崩壊の轍を踏むは即ち此の
 時なり。
  鳴呼、恐るぺき天は難波大助と北原黍作とを日本に与へて日本の
 国家国軍に天罰の長るべきを示しっ1ある。国民の下層階級に国軍
 の下士卒に革新気運の離るに至ることは虎に国家が崩壊に瀕するこ
 となり。彼等は恒産なく従って恒心なければなり、彼等は自己の生
 活上に安定を与へらる1時は定安せる思想を有し、自己の生活上に
 脅威を与へらるる時は従って脅威せらる1不安定の思想に脅威一層
 加はれば遂に餓狼狂激して反逆す。恒産なければ恒心なき凡夫なれ
 ばなり。
  如何に道徳の強制あるも恒心なきは人間性の必然にして如何とも
 する能はざるなり。実に恒産なくして恒心あるぺき士其者が恒心を
 失ふことなり、今日の日本を見よ、実に恒心あるぺき筈の士が如何
 に産の為めに其心を奪はれあるを、自己の地位と名誉とを維持せん
 が為には敢て上官の前に平身低頭をなし自己の財産と利益とを保持
 せんが為には敢て上官の瞑使の下に精神的奴隷となるを辞せず、上
 官の一撃一笑、上官の傲慢なる一句一言に面上三斗の冷汗を流す。
  鳴呼、斯くの如き徒にして争って共に能く国事を談ずるを得んや、
 彼等は既に士にして士に非ず、恒産の為に恒心を動かす所の憫むぺ
 き凡夫なり、実に国士とは命も要らぬ名も要らぬ官位も金も望まざ
 る御し難きの人物なり、此の御し難きの人物に非ずして何そ国家の
 息難を其双肩に塘ひ天下の危急をその讐手に救ふことを得んや。

21

  青年将校は恒産なきの徒なり。彼等は地位や一介の貧乏中少尉に
 して財や唯其の頑牢石の如き一姫あるのみ。名誉は散兵線の消耗品
 の名に甘んじ生命は明日の戦場に托せらる。彼等こそは全く御し難
 貴舶がヵeの武骨にして何物の為に卑何人にも其膝を属せず、彼等
 は唯一つの野心を有す、そは一世の智勇を推倒して万古の心胸を開
 拓せんこと是なり、彼等は恒産を有せざる代り実に無限の大抱負と
 大野心とを有す、彼等の慾望は実に渇する計りの求道心にして彼等
  の恒心は芙に烈々火と燃える正義のみ、彼等は明治の御代に生れて
 昭和の御代に人となり、昭和の御代の国体こそは彼等青年将校のみ
 ぞ知る。彼等は既に生命も名誉も捨つ、又何をか望まん、彼等は今
 日の腐敗せる日本帝国の現状と国を誤らんとする国軍上流階級の横
 暴とを目前に視たり、彼等の正義感は故に烈々として猛炎を挙げた
 り、彼等は上流階級の腐敗を眺めて奮激すると共に革新の意気は形
 押として雲の如く起れり、然れ共能く国体の何物かを知る、彼等は
 其の祖国を愛し、祖国の行くぺき前途を知る。彼等はょくその手を
 取りて自ら教育する下士卒の心を通じて日本国民下層階級の誠に憐
  むぺき困苦と窮乏の状態を知る。
  彼等は暴民革命の真に恐るぺきを知り此祖国に之を招来するも、
 せざるも唯自己の行動如何に懸れるを知る。青年将校こそは実にこ
  の危急に瀕せる日本帝国を救ふものなり。
  然るに何ぞ、此至誠にして至純なる青年将校の神聖なる救国運動
  を些の拘りもなき統帥樺の侵犯者を以て糾弾制圧せんとするとは実
  に恐るぺきの限りなり、今にして青年将校の救国運動を阻止するこ
  とは取りも直さず下士兵卒をして愈々革進的運動を起さんことなり、
 下士兵卒をして青年将校顆むに足らずの絶望観念と国家国体の何物
 なるかを解せざる反逆思想の徒たらしむるところなり、之をして尚
 国軍首脳部は忍ぶと言ふや、鳴呼又何をか言はん、如何なる思想善
 導も下士兵卒の直接の薫陶者たる青年将校の行動を束縛して絶対に
 成し得ず。
  国軍上流階叔の思想乃至社会観にして不幸青年将校のそれと粁希
 を来せし場合一般論としては盲きは新に徒ふぺき努力するを要す、
 特に中隊長以下の幹部は戦闘単位の核心を形成するものにして其の
 実行力は前者と零壌の差あるに於てをや。
         第六 思想善導の結論
 一思想善導の結論は悪思想の本拠たる三韓征討に在り
  以上論述せる所に依り思想善導とは国民に対し善導せらるぺき正
 純にして健全なる社会的環境を与ふるに在ることを開明せり、而し
 て之が第一歩の実行手段は速に此の日本帝国と日本国軍との現状を
 打破し一新して真に健全なる国家国軍となすにあることを述ぺたり▲
  故に最後の結論をなさゞるべからず、それは此の悪思想の種を伝
 播し之を刺戟して止まざる悪思想の「祖国」と称する赤露に対し速
 に一決意をして之を粉砕し世界に向って正義の志向を指示すぺきこ
 と是なり、彼の我上古の西に於ける熊襲の薮乱の後援者に三韓ある
 を看破し給へる碑功皇后が親ら水師を率いて玄海の荒波を踏破せら
 れたる大精神に則り、我大日本帝国は滋に悪思想の三韓に対し征討
 の正師を向くるを要す。
  愚蒙なる専制者に依って支配せらるゝ北欧の未開囲は恐らく皇軍
 の旗鼓を望みて驚愕傍手粉砕せられ専制国王をして城下の盟をなさ
しむるに至らん、然り、而して三韓の後方には尚巨大なる物質文明
の幻影を誇る、高鹿国あり、世界の土地と自由との掠奪者たる老大
晋国あり露を討てる後は一転して英米物質文明の粉砕に向けられざ
 るぺからず。
 彼等は世界人類の血液たる富の分配を独占し世界人類の安住の地
たるぺき膨大なる土地を掠奪して領土となす。斯くの如き不倫不正
義を黙認して何の東洋君子国ぞ、シーザーの物はシーザーに返し神
 の物は神に返せ、大政奉還、藩籍奉還は何ぞ独り日本国内のみの事
ならんや、脱穀一新して正義を確立せる大日本帝国は進んで世界人
類の国士となりて世界に正義の救世主となるぺし、露を撃破して北
満、西伯利亜を奪ひ、英を粉砕して大濠洲を奪ひ印度を独立せしめ
米を庸懲して強奪山積せる巨富を奪還し彼のヒマラヤ山を以て高千
 穂の峯となし、太平洋を以て埴安の池となし、名実共に大日本を立
に創立して世界平和の善導者となり、遂に青雲の謝b嘲a日雲の向
 伏す限り六合を兼ねて国となし、八紘を蔽ひて家となすてふ日本建
 国の大理恕を実現すべし
 斯くて吾人の思想善導は其窮極に達す
 宣に区々たる東海の一小島の思想善導のみならんや、
 二 宮の理論は一の実行に若かず、
 然るに帝国の現状如何ぞや、内には悪社会悪制度の国民思想を悪
化粉砕せしめて其の収拾する所を知らず、人屡々右と呼び左と呼び
 て其帰する所なし、外には過去数千年に亘る物質文明の遂に陥るべ
 き大矛盾に遭遇し救ふぺからざる煩悩に噴ぐ欧米、亜細亜諸国あり
 国内軟腸の徒輩は上下文武を問はず何れも此の内外の急薯に戦慄し
 て其の行くぺき所を知らず「非常時々々々」の声は夢遊病者の「ク
 ワ言」の如く充満し八十才の老婆の如くに唯々事勿れ主義に惜して
 施すに策なし、或は僅かに張家の障病児を脅し得て猫額大の満蒙に
 堕胎国を作り得たるに熱狂するの愚人あり、或は北辺無智蒙昧野蛮
 専制国赤露の薫動に対して戦々 〔兢々〕長怖の眼を張り之が対応策
 に神経衰弱となる意志薄弱児あり、噴、斯くの如き国民にして如何
 で天下の大事を成し得るや、三韓征討を宣せんには斯くして此の腐
 敗繊弱の悪社会を破殻一新し、此の恐怖思想を根絶するを急務とす▲
 吾人が自己の精神成れば他人の精神自ら感化せられ自己の思想善導
 なれば他人の思想従って善導せらると述ぺし如く、之を大にすれば
 此の日本帝国にして破殻一新生命を一朝にして躍動せしめば他国の
 悪社会悪思想は一戦を交へずして自ら革正せらるべし、自己成りて
他人自ら成る、此の大真理を軋酢r得ざる愚人に吾人の田遺書導は
 語るぺからず、総て実現し得ざる理想は空想にして実現し得ざる国
 体は空中楼閣のみ、思想善導計画も実現せざれば一の価値なく古の
 言辞は一の実行に若かず、総べては実行が明かに解決せん。
  吾人の故に理論あるは故に其の実行ある所以なり
  思想善導の結論
  日本国体と日本国軍建設の本義とを速かに実現するに在り。
                      青 年 将 校


     一七 我等が敬愛する第四十四期諸兄の
         胸底に訴ふ

22

   五月十五日そは兄等の同期生が愛国の熱血を皇国に殉じたる厳粛
  なる記念日なり、兄等の同期生は此の日英に刻苦数年正に業成り、
 卒業を眼前に控へ前途の光明赫々たるものありしなり。而も決然と
  して愛国の赤誠に殉じたるなり。今や正にその一週年を迎へ又近く
 司直の手に依り公表せられんとす。全軍の将校斉しく彼等の純情に
  血涙の新たなるものあらん。
  余は東部に勤務せるため、代々木原頭に立ちてその一角に陸軍刑
  務所を望み暗涙に咽びしこと幾度ぞ、
  噴々! 我等が純情の後輩彼等は今や其の中に何をか思ひ、何を
  か求めあらん、同輩は今や新品少尉として、又初年兵教官として志
  を遂げあるを思はば、憂国熱血の彼等感慨果して如何。
  身は獄窓にありて原頭の銃声、喚声を聞いて彼等の日常は実に断
  腸の思ひなるぺし。彼等の志は未だ遂げざるなり。
  而も彼等は日常身を持すること極めて、謹厳なり、裁きに対して
  は率直に事実を述ぺて潔く死刑を要請しありと聴く、
  噴、誰か此の憂国の純情に泣かざるぺきや、然れ共徒に泣くこと
  を止めょ、進んで彼等の純愛国の至誠をして生命あらしむぺし。遷
  して以て全国民の心底に蘇らしめ、皇国日本建国の専き礎石たらし
  めょ。只単に彼等の純情を讃美するに止まり、何が故に彼等が斯く
  せざるぺからざるに至りしかを明徴することなく、単に一片の同情
  論に終らんか彼等の赤誠を泥土に委するものなりと思はざるぺから
  ず。
  即ち彼等が発したるは、大権を専断し私利私慾を達しくし皇国百
  年の大計を誤り、又国民を暗黒の深淵に坤吟せしめつ1ある亡国階
 叔を破壊して真の皇通日本の姿を具現せしめんが為なり.
 即ち信じて皇国大飛犀の礎石に甘じたるなり、吾人高らかに全軍
 全国民に宣言して之を明瞭にし之を徹底せしめざるぺからず、行は
 ざるべからず、重罪固より彼等の既に覚悟せる所我等も亦次を問ふ
 ぺきに非ず。然れ共私情に於ては傷心転〔た〕切なるものあり、此
 処に倦越を顧みず愚見を開陳して吾人の微衷を表明し彼等同期生の
 為めに兄弟の血涙を以て彼等の為め全国民に宣布せられんことを切
 望して止まざるものなり。
  兄等の奮起を待つや切なり、我等既に決する処あり。
   昭和八年五月三日
                       先輩将校有志
 第四十四期諸兄


     一入 櫻


 非常時に名を潜り、陛下の陸軍を私兵の如く振り舞はさんとする
 陸軍大臣荒木貞夫及其の一党たる、真崎参謀次長、秦憲兵司令官の
 陰謀は沈黙将軍と称せらる、彼等の事実上のロボット武藤信義を元
 帥府に送り込む事により、彼等の目的の半は達せられたのである。
  元来荒木陸相には軍事上の政策と称すぺき何ものも無く、僅かに
 先任詔先輩たる各陸軍大臣が計画し、或は調査し置きたる諸事項を
 非常時なるが故に何等の反対も受けずに踏襲し威圧と脅喝によりて
 沈黙せる財閥政党を尻目にかけ、買収と爆弾の声におびえて曲筆す
 る言論界、軍部なる虎の威を潜りて食物にありつかんとする御用暴
 カ研、僅少の旅費日当に目をくれ地方講演に彼等の代弁として飛げ
 歩く一部退役将官等の支持により、今日まで帝国の軍政を司って釆
 たのであるが、今や日本は国際聯盟脱退後の国防皇軍の実質的充実
 に国家の財政状態と平行して全世界に孤立無援の立場より之が対策
 樹立の必要に迫られ新興陸軍の建設計画に当り完全にその無能振り
 を曝露するに至った。
 然も彼等は数年に亘り軍部内に培養し、租かに自派の踏台とし人
 梯子として利用し来った、所謂青年将校中の不穏分子の為めに事毎
 に悩まされ之れ.の掃蕩手段として五、一五事件連座に名を薄りて、
 或は都落ちの左遷に或は人柱たらしむぺく満洲の野に送る等あらゆ
 る術策を用ひても、尚目的を達する能はず、彼等は所属隊内にあり
 て時を得顔に大言壮語し、或は秘密結社式の金合を行ひ有為の少壮
 将校すら漸次之れに参加の傾向あり。
                  〔中大〕
 ために皇軍の統制乱れ、××将官は荒木の無能と真崎の陰険と秦
 の策動に愛想つかし全陸軍部内に偉大なる統制能力者を待望するの
 声が揚らんとしてゐる。然るにも拘らず荒木一派は極力之等の実状
 を陰蔽せんとし、種々なる術策を用ひ、此の空気の片鱗に触れたる
 新聞社がある時は直ちに副官参謀将校を況して非常時に際し国軍の
 士気に関する、を名として威嚇し或は御用右傾暴力団を利用して側
 面より脅喝暴行を為さしめてその沈黙を策し、
 又政党にして軍部内の不統一を曝露せんとするものある時は政権
 を好飼として之を沈黙せしむるか、御用記者を利用して売国奴の汚
 名を放ち等至らざる無き有様である。
 1彼等が斯くの如き階劣なる手段を弄して、飽迄現地位に止めしめ
 んとするのは要するに彼等が今日まで部内に於ける権力を私し自派
  〔勢〕
 の×カの扶植に力み努力したる結果若し彼等一味が失脚すれば、そ
 の反動で反比例して来り彼等一沢の潰滅が立所に至るものと推量し
    〔卑怯な〕
 ての×××る態度に他ならぬ。
 彼等は己れの心事を持って他を計り、若し現在の立場を他派に奪
 はれたる場合、他流も亦彼等と同様の人事行政を行ひ彼等と同様に
 反対沢の潰滅に陰々なる術策を用ひるものとのみ邪推し執拗にして
 大胆不敵なる噛り附き主義を発揮してゐるものである。
 一例を挙ぐれば武藤閥、即ち荒木一派と軍部内に対立する手塩大
 将が最近各方面よりの強力なる支持と期待を持たれてゐる為め、之
 が阻止の為め或は怪文書に或は、流言輩語に或は空砲的威圧により
 宇垣大将の中傷とその周囲への威圧に狂奔する有様は見るも憐れな
 醜態と云ふょり他はない。
  次期首相の噂に上る宇垣、鈴木、平治の三名の内鈴木、平沼の二
 人は、尚彼等の威嚇と操縦に躍らせ得ても宇垣に至っては全く彼等
 にとって手も足も出ぬ強敵であり、大先輩でもある。
 彼等が今日迄多大の努力と費用と犠牲を払ひ、専心宇垣中傷にな
 らざる策動をなす真意は並にあるのである。
 然るに幾んぞ知らん宇垣の眼中は唯 天皇陛下の大日本帝国ある
 のみであって、その大度は例へ武藤、荒木、真崎の陸相、秦、植田
 の参謀長であっても、適材適所の人事である限り、非常時日本匡救
 のために共に伴に行かんとするものであって現在の彼の此の心事を
 知らざる荒木系は驚くぺき認識不足と云はねばならぬ。
 彼等一味が斎藤内閣延命を事毎に強調し或は一部の策士と連絡し