「美濃部達吉博士、末弘厳太郎博士の国憲紊乱思想に就いて」
左 記
美濃部達吉博士、末弘厳太郎博士等の国憲紊乱思想に就て天皇輔弼の各国務大臣に問ふ
大日本帝国憲法発布の上諭に曰く『国家統治ノ大権ハ朕力之力祖宗二承ケテ之ヲ子孫二伝フル所ナリ』
『朕力子孫及臣民ハ敢テ之力紛更ヲ試ミルコトヲ得サルヘシ』と。
陸海軍軍人二下シ給へル勅諭二曰ク『夫兵馬の大権は朕か統ふる所なれば其司々をこそ臣下には任すなれ其大綱は朕親之を攬り肯て臣下に委ぬへきものにあらす子子孫孫に至るまで篤く斯旨を伝へ天子は文武の大権を掌握するの義を存して再中世以降の如き失体なからむ事を望むなり』と。
かゝる畏き『天皇親政』の聖詔の前に美濃部博士は『天皇は親ら責に任じたまふものでないから国務大臣の進言に基かずしては、単独に大権を行はせらるゝことは、憲法上不可能である』(有斐閣発行、『逐条憲法精義』、五一二頁)『国務大臣ニ特別ナル責任ハ唯議会ニ対スル政治上ノ責任アルノミ』(同上、『憲法撮要』、三〇一頁)といふ。天皇『輔弼』の国務大臣の責任とは果してかくの如きものなりや?
枢密院議長以下顧問官に問ふ
美濃部博士は云ふ、『要するに、わが憲法に於けるが如き枢密院制度が世界の何れの国に於いてもその類を見ないものであることは、此の如き制度の必要ならざることを証明するもので、わが憲政の将来の発達は恐らくはその廃止に向ふべきものであらう』(岩波書店発行、『現代憲政評論』、一二八頁)と。かくの如き言論の内容を妥当なりと思考せらるゝや? 殊にこの論理をそのまゝ『世界の何れの国に於いてもその類を見ない』現人神天皇統治せさせ給ふ日本国体に適用せるものが美濃部博士の本状に一端を指摘せる大権干犯国憲紊乱なることを銘記せられよ!
貴衆両院議長以下議員に問ふ
美濃部博士はいふ、『帝国議会は国民の代表として国の統治に参与するもので、天皇の機関として天皇からその権能を与へられて居るものではなく、随つて原則としては議会は天皇に対して完全なる独立の地位を有し、天皇の命令に服するものではない。』(有斐閣発行、『逐条憲法精義』、一七九頁)『而も議会の主たる勢力は衆議院にあり』(東京朝日新聞昭和十年一月三日所載、現代政局の展望)と。
かくの如きが 天皇の『立法権』に『協賛』し奉る帝国議会の憲法上の地位に対する正しき解釈なりや?
司法裁判所検事局に問ふ
美濃部博士はいふ『裁判所は其の権限を行ふに就て全く独立であつて、勅命にも服しない者であるから特に「天皇ノ名ニ於テ」と曰ひ云々』(有斐閣発行、『逐条憲法精義』、五七一頁)と。司法権を行使する裁判所の権能なるものは果して斯くの如きものなりや?
猶美濃部博士は『治安維持法は世にも稀なる悪法で』『憲法の精神に戻ることの甚しいもの云々』(岩波書店発行、『現代憲政評論』二〇八頁二一〇頁)といひ末弘博士は『法律は如何にそれが法治主義的に公平に適用されようとも、被支配階級にとつては永遠に常に不正義であらねばならぬ』ものにして『法律』と『暴力』との関係は『カと力との闘争であつて正と不正との闘争ではない』(日本評論社発行、『法窓漫筆』、一〇三頁一〇六頁)といひ、『小作人が何等かの手段により全く無償で土地の所有権を取得出来るならば、彼等をしてこれを取得せしめんとする主張運動は正しい』(改造社発行、『法窓閑話』、一五四−五頁)『小作人が唯一最後の武器として暴力に赴かむとするは蓋し自然の趨勢なり』(日本評論社発行、『法窓雑話』、九八頁)といへり。かくの如き言論と其著者等を放置しつゝあることは
『司法権威信』の根本的破壊にあらずや?
陸海軍現役在郷軍人に問ふ
美濃部博士はいふ『統帥大権の独立といふことは、日本の憲法の明文上には何等直接の根拠が無い』『立憲政治の一般的条理から言へば統帥権の独立といふ様な原則は全く認むべきものではない』(日本評論社発行、『議会政治の検討』、一〇六頁一二七頁)と。末弘博士はいふ、『軍隊は要するに……一の厄介物、謂はゞ「己むを得ざる悪」の一に外ならない』(改造社発行、『法窓閑話』、三九九頁)と。
かくの如きは陸海軍軍人に給へる勅諭に『其大綱は朕親ら之を攬り肯て臣下に委ぬへきものにあらす』と詔らせ給ひたる統帥大権の憲法上の規定第十一条第十二条及軍令を原則的に無視否認し『天地の公道人倫の常経』詔らせ給ひたると皇国軍隊精神に対する無比の冒涜として之を放任するは軍紀の紊乱にあらずや?
学者教育家教化運動者に問ふ
美濃部博士はいふ『いはゆる思想善導策の如きは、何等の効果をも期待し得ないもので、もしそのいはゆる思想善導が革命思想を絶滅しようとするにあるならば、それは総ての教育を禁止して国民をして、全く無学文盲ならしむる外に全く道は無い』(岩波書店発行、『現代憲政評論』、四三一頁)。
かくの如き言論を放置することはそれ自身学術と教育との権威を蹂躙するものにあらずや?
神職神道家に問ふ
美濃部博士はいふ、『宗教的神主国家の思想を注入して、これをもつて国民の思想を善導し得たりとなすが如きは、全然時代の要求に反するもので、それは却つて徒らにその禍を大ならしむるに過ぎぬ』(岩波書店発行、『現代憲政評論』、四三三頁)
かくの如き言論を放置する事はそれ自身皇国国体の本源惟神道の冒涜にあらずや?
岡田首相、松田文部大臣、小原司法大臣、後藤内務大臣、林陸軍大臣、大角海軍大臣、外全閣僚に問ふ
東京帝国大学名誉教授、国家高等試験委員、貴族院勅選議員たる美濃部博士、又東京帝国大学法学部長たる末弘博士の思想に就いては既に指摘したが同じく東京帝国大学教授、国家高等試験委員たる宮沢俊義氏は日本臣民として『終局的民主政=人臣主権主義』を信奉宣伝し(外交時報、昭和九年十月十五日号参照)横田喜三郎氏は『国際法上位説』を唱へて『国家固有の統治権、独立権、自衛権』を否認(有斐開発行、『国際法』上巻四六−五〇頁参照)しつゝあり。此等幾多の国憲国法紊乱思想家等を筆穀下の帝国大学法学部教授及国家高等試験委員の地位に放置してその凶逆思想文献を官許公認しつゝあるといふことは国務大臣竝に各省大臣としての『輔弼』『監督』の責に戻る所なきや?
元老重臣に問ふ
前記の如き大権干犯国憲紊乱思想家たる美濃部博士、末弘博士等を現地位に放置することによつて人臣至重の輔弼の責任を果し得らるゝや?
全国日本主義愛国団体同志に訴ふ
本聯会全加盟団体は美濃部博士、末弘博士等は日本国体に反逆し天皇の統治=立法・行法・司法・統帥大権を無視否認せる不忠凶逆『国憲紊乱』思想の抱懐宣伝者として、末弘博士は先に告発提起を受け時効関係にて不起訴となりたる実質上の刑余者なるが、斯るものらが恬然として帝国大学教授の国家的重大地位にあり何等の処置をも受けざる所にこそ現日本の万悪の禍源ありと信じ、屡次共産党事件は勿論、華府倫敦条約締結、満洲事件、五・一五事件激発の思想的根本的責任者たる彼等に対する国法的社会的処置を訴願し其の急速実現を期するものなり。希くは本運動の対外国威宣揚不可避の先決予件たる国内反国体拝外奴隷思想撃滅−国際聯盟離脱、華府条約廃棄の思想的徹底の内政改革に対して持つ綜合的重大性を確認せられ、この目的貫徹の為めに挙つて参加協力せられんことを!
昭和十年一月
東京市芝区田村町二丁目内田ビル
国体擁護聯合会
(蓑田胸喜識)