政治的時期



 本年度の物動計画も決定して、政府は国民の協力を求めてゐる。国民は一人残らずこれに協力しなければならぬ。唯一人の油断から全体の不幸の生ずることがあり得るのを考へて、すべての国民は互に他の模範となるやうに心掛けねばならない。
 国民に対して指導的地位にある者にはもちろん確信がなければならぬ。指導者自身に確信が欠けてゐるならは、国民は一体となつて動くものでなく、協力をためらつたり、なまけたりする者が生じ易いものである。指導者自身、その計画に対して絶対に確信を有するのでなければならぬ。
 今日統制経済は経済に対する政治の優位のもとに立つてゐる。統制経済を規定するものは政治である。だから政治的目標がはつきりしてゐなければ、経済的目標もはつきりしない。先づ政治的目標を明確にすることが経済的目標を明確にする所以である。
 そこでまた国民の経済的協力を強固にするためには国民に政治的目標が何処にあるのかを理解させねばならぬ。これまで国民のうちに経済的協力をサボつたり、躊躇したりするやうな者がなほ存在したとすれば、政治的目標が「百億貯蓄」といふやうに具体的に示されてゐなかつたことに依るのではないかと思はれるのである。
 国民を経済的に協力させるためには、国民を政治的に協力させねばならない。政府の対欧洲政策が決定したと云はれても、国民には何のことだかサッパリ分らないやうな有様では、国民動員は真に徹底することができない。外交を先づ国民的外交とならしめねばならぬ。国民の政治的協力への道を塞いではならないのである。
 協力は政治的協力と経済的協力と二重のものであつて一つのものである。政治的協力の道を考へないで経済的協力を求めても完全であることができぬ。国民精神総動員と国民再組織の問題とは元来不可分のものであると我々が云つたのも、その意味である。具体的な政治的目標を示して国民の政治的協力を求めることは、あらゆる協力の前提であるといふ重要性を今日有してゐる。
 時局はまさに政治的時期に入つてゐる。経済統制が強化されるやうになればなるほど、我々はそのことを種々の意味においていよいよ強く感じるのである。


(六月十四日)