内鮮一体の強化
朝鮮総督府では半島統治の根柢をなす内鮮一体の大方針を在満在支その他在外の半島人百卅万の上にも具現せしめるやう今春来外務省と協議を重ねてゐたが、有田外相は南総督の施政方針を支持し、これを在外使臣に宣明して全半島人の人的地位の向上をはかることになつたといはれる。
満洲事変以後、とりわけ今次の事変以来、半島人の間に帝国臣民としての自覚が高まつてきたことは新聞紙上に現はれた種々の事実によつても明かであるが、この際鮮内に止まらないで外地においても半島人の人的地位の向上をはかり、内鮮一体の趣旨を徹底させようといふのは適切なことである。
半島人の地位の向上は内鮮一体の基礎である。差別待遇が存在するやうではその理想は実現されない。この点について在鮮内地人の指導は第一の必要であるが、更に満洲や支那、その他の外地においても内地人の半島人に対する認識が新たにせられねばならぬ。まづ内地人の側から半島人を差別待遇してゐるやうでは、彼等が他の外国人はもとより、満洲国人、支那人などからも、内地人と同様に待遇される筈はなからう。帝国臣民としての半島人の自覚を強化するには彼等を内地人と同様に待遇することが大切である。人を道徳的にしようとする者はその人をまづ尊重することを忘れてはならぬ。
過日南総督の談話にもあつたやうに、日本が長期戦に対して持久力を有するのは何といつても食糧が十分にあるからであり、そしてそれは朝鮮における米の生産に負ふところが尠くないのである。この一つの点だけから考へても、この機会に我々は朝鮮に対する認識を新たにする必要がある。
半島人の人的地位の向上は人道主義的な倫理の普及に俟たねばならぬであらう。しかし特に考ふべきことは、すべて人的地位の向上は経済的並びに政治的地位の向上に関係するのであつて、半島人の人的地位の向上をはからうとする者は同時にその経済的並びに政治的地位の向上に就いても考慮することを怠つてはならないであらう。
支那事変このかた東亜の一体性が次第に強調せられるやうになつた。もとより日満支一体といふことと内鮮一体といふこととはその一体性の意味において同じでない。けれども日満支一体とか東亜協同体とかといつても、内鮮一体の実現が先決の前提であることは明かである。すべてのことは手近なところから始めなければならぬ。
(十一月八日)